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『幻影の構成』 眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓著 カバー/木村光佑(昭和年52年初版)
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[カバー裏のあらすじ]
時は未来のある時代。
人々は美しい町“第八都市”で、
イミジェックスと呼ばれる銀色の小箱からあらゆる情報を得て平和に暮していた。
その小箱は人類の万能の家庭教師であり、娯楽施設であり、マスコミ機関であり、人々は絶対的信頼を置いていた。
“―――が、これは本当の平和だろうか? どうしようもない人間の頽廃ではないだろうか・・・?”
そう思った一人のアウトサイダーがいた。
しかし、それに気付いた時にはもはや、イミジェックスを利用した宇宙人の侵略が始まっていたのだ!
現代の情報化社会に、そして人類の未来に、鋭く刃をつきつける眉村卓衝撃の長編SF!
***
以前読んだ解説かどこかで、眉村さんが初めての長編に、
これまでのサラリーマン生活などの鬱屈などを叩きつけるように書いたというような記述があった覚えがある これがそうか
覚悟して読み始めてすぐ、現代とあまりに相似していること、
これからの「未来」について考えさせられ
1ページ、1行読むごとに頭を抱えて、背筋がゾッとした
イミジェックスは、今のスマホなどの機器に簡単に置き換えられる
地雷区域
に気づかずに入るほど我を忘れて没頭する娯楽ゲームや、スピーディに消費される音楽etc...
都市に溢れるポスター、音、煌びやかな動画の看板の情報の渦
1人ひとりの閲覧記録を分析して、その人の嗜好に添った大量の広告を垂れ流す
AI技術
政府ではなく、大企業のトップが一般市民を操る世界構造
あらゆる問題、真相が見えていながら、無関心にさせる意識下へのコントロール
“宇宙人の侵略”部分がなくても、これだけで充分な警告だ
しかも書かれたのは昭和52年で、舞台は2000年
やっぱり、眉村さんは、ヴェルヌ同様、未来を垣間見てきた1人ではないだろうか?
一見すると、地方から大都市に上京したてのカルチャーショックと片付けることも出来る
でも、
「なにかがおかしい・・・」と勘付き始めてから、なにもかもがウソに見えてくる
知らなかったほうが“幸せ”だった虚構の現実世界
途中、何度も頭を整理しながら、1度では理解できないことも多く
先を読みたいが、真っ黒な闇に引きずり込まれる薄気味悪さと戦いながら読んだ
▼
あらすじ(ネタバレ注意
<はじめに>
よくある喫茶店にビジネスマンが数人入ってくる
一人が思いつめたように
「宇宙人の話、させてくれ」と何度も訴えるが
無視して、店の印象や異動の話を続ける同僚たち
この時、あなたは笑うだろうか この小男を追いかけて問いただすだろうか?
あなたは決してそんなことはしない 「映画でも見ない?
」
それでいい それが常識なのだ
宇宙人などは幻影だとよくご存知なのだ
(幕、ひらく)
第一部
ラグ・サートは必死に逃げている 気付いた時は、水溜りに倒れていたのだ
周りの荒廃した町の様子を見て(ここは俺の2020年の都市ではないぞ!)
彼は、一般市民を統制する
「中央登録市民」の制服を着ているのを誇りにしていた
(こんな訳の分からない世界で終わってたまるか)
そこに
パトロール・ロボットが近づく音が聞こえてきた
彼らはいったん対象を追うと、決して獲物を逃がさない機能を持つ
(俺は今ではパトロール・ロボットを駆り立てる身分だ こんな馬鹿なことがあるものか)
走り続けたが、すぐ目の前にパトロール・ロボットが映り、麻痺カプセルが胸に刺さった
(やっとの思いで「第八都市」の「中央登録市民」になったばかりなんだ・・・)
*
その美しい町は
「第八都市」と呼ばれていた
「ご覧 これがお前のイミジェックスだ」
幼いラグに1辺が10cm弱の銀色の小箱を渡す母
中にはイヤホンが入っていて、耳にあてると楽しい歌声が聴こえてきた
母:
これからずっと、お前もそれを使って、ちゃんとした人になるんだよ
「イミジェックス」は、市民の家庭教師、情報伝達者、感受性育成器
聴く人間の年齢、立場に合わせて情報が送られ、同じ内容は2台とない
その人間に合った娯楽を提供し、その放送なしには市民はどう生活を送ればいいのか分からない
集合住宅にあるラグの家には、食料供給栓にはじまり欲しいものはぎっしり揃っている
だが、イミジェックスはあとからあとからいろいろな製品を知らせる
家には1日の労働に見合った計数値と、消費が記録されたメーターがついている
消費した分だけ減り、大きな買い物の後は必ず、必死に働きつづけなければならない
ラグが12歳の時、隣りに可愛い女の子がいたが、ある日突然引っ越した
母:欲しがりすぎたのさ 計数値がマイナスになって、取り返すためにもっと小さな家に移ったの
ラグ:
イミジェックスが買えって言ったんだろう? その通りにしてなぜいけないんだ?
母:うるさいわね 私の番組を聞かせて
ラグは二度と質問しなくなった
自分の住む
「第八居住区」から、初めて他に出かけた日
ラグ:
奉仕マンだよ!
白い制服を着た奉仕マンと呼ばれる
「中央登録市民」は、市民の生活を守る専門職で
一般市民とは別種とさえ思われている
ラグが興奮して駆け寄ると「なんだこいつ!」とためらうことなく銃の引き金を引いた
父:奉仕マンの仕事の邪魔をしたから、神経麻痺銃で撃たれたんだ あんな真似をするんじゃないよ
ラグ
(奉仕マンは市民の生活を守る偉い人たちだなんてウソだったのか? イミジェックスはウソを教えたのか?
*
強い日差しの下で半裸で働くのは辛い仕事だった
ラグ:なぜ奉仕マンが監督するんだ?
父:奉仕マンの悪口なんて言うもんじゃない イミジェックスは奉仕マンが我々のために働いていると言っているじゃないか
ラグ:
僕はあんなもの信じてやしないよ 登格テストを受けて、白い制服を着るんだ
中央登録市民になれば、奴らに監督されることもないからね
イミジェックスはラグの不信に気付き、女性への関心を植え付けはじめ
仕組まれたかのように口をきくチャンスが増えたことに気付いた
だが、ラグは必死に抵抗した
(誰かがプログラムを組んでいるんだ
俺たちをコントロールしようとしている連中と肩を並べ、踏みつけてやる
*
25歳になったラグは、6回目の
「登格テスト」を受けに来た
委員:なぜ一般市民で終わろうとしない? お前の心は歪んでいる 一番幸福なのは一般市民なんだ
ラグ:義務も権利もない
委員:
君は今度はパスするだろう 8時間の気違いじみたテストを乗り切り、成り上がりの1人になる
それが君の地獄の始まりで、死ぬまでそれは続くんだ
恐怖テストでは、心理制御学の域を尽くしたイメージをスクリーンで見せた 悲鳴をあげる者、嘔吐する者
「君らの行動は、呼吸ひとつまで完全に記録されている 逃げるか、耐えるかのどちらかだ」
*
「明日から1週間
“圧縮学習”を行う」
20名の登格者はラグを除いて、中央登録委員の子として小さい頃から訓練を受けている
本年唯一の“成り上がり”のラグは、
最下級の「第四級中央登録市民」の制服を着た
*
パトロール・ロボットに捕まったラグは、四肢を縛られ、ベッドの上にいる
(手足の1、2本折れても逃げてみせるぞ)
強靭的な力で手足の金属を切って逃げる 再び捕えられたらすべては終わりだ
前に広がる森を見て、体が震えた 恐怖の中でも最高のものの1つだ
都市と都市の間には森があり、連絡ハイウェイが通じている
森へ近づくな 危険だ とイミジェックスは繰り返していた
森に入ってもパトロール・ロボットは追ってくる
不意に石質の建造物に当たった
塀が崩れて穴になったとこに体を押し込む
第八都市だ! だが、どこか違っている
(あの建物はあんなに汚れていただろうか
奉仕マンの制服はズタズタに裂け、市民たちも妖怪のように疲れて濁った目をした痴呆に見える
第八居住区まで来た時には、ほとんど精神錯乱状態だった
母:ラグじゃないか! この2日間どこに行っていたんだい?
(たった2日だと? これは母に似ているが母じゃない はるかに老いている)
*
主管委員のハクソン・Dは主管委員室にイラついて入って来た
(なぜ私があの愚鈍な第八都市の60万の豚どもの面倒をみなきゃならないんだ?)
D:
我々が月に1回、ハイウェイを通って本社に行くのを遊びだと思っているのさ
地方都市など、眠っていても統治できると考えているらしい
マエダ:統治じゃない 奉仕だ
D:
一般市民の購買欲求はまだ不足だと言う
近頃の本社提供情報はどこか狂ってる
マエダ:
4日前に行方不明が1人出た れっきとした四級市民だ
ラグ・サートという今年唯一の成り上がりだ
クルマを飛ばして、東端の境界にぶつかり、現場に駆けつけたらどこに行ったか分からなかったが、彼は帰ってきた
D:まさか!
マエダ:
第三カモフラージュ地帯から徒歩で自宅に帰った その後「圧縮学習」を受けた 幸運だったよ
D:
(ただの幸運であっちへ行った人間が戻れるわけがない
他の委員に気付かれないうちにそいつを自分の手足にしよう
つい昨日まで実行不可能と思った“ある計画”に着手できるかもしれない
Dの担当部門は「運輸・配給管理室」
間接制御系統は
「イミジェックス・センター」内の人工頭脳の「直接制御系統」にすべて管理されている
人工頭脳は奉仕者たちを隷従させようとしているように思える
【中央登録市民の合同打ち合わせ@カガ・ホール】
打ち合わせといっても、いつしかパーティにかわり、ストレスの多い中央登録市民の憩いの場となっているが
収容人数300人ほどのカガ・ホールに、1000人以上の中央登録市民は入りきらない
だが、新入りのラグはきっと来るだろう
マエダは妹のユリを、一番若い主管のDと結びつけようとしていることに気付きながら
Dは年長の同僚に対して、保身のために適当にかわしながら、ラグを探す
ラグのDをも恐れぬ不敵な態度を見て
「こいつを僕のアシスタントに回してもらうよ」
*
食品工場の運転が停止したと緊急報告が入る
D:このままじゃ明朝の食事ラッシュにしみんなを満足させることは出来ない
マエダ:
要員を急行させた 邪魔するロボットも射てと命令した 不足すればいくらでも中央市から回してくれる
奴らはロボットを売りたくてウズウズしてる こんな事例は初めてじゃない
発電所からの動力線が、なにか鋭利な刃物で切断されていたと報告がきて、現場近くにラグがいたと連れて来る
ラグ:
妙な生き物が見えました 気付いた時には町中に走っていきました
他のアシスタントは何も見なかったと報告し、錯視現象と認定される
D:
(都市というものは精密な機械のようなもので、どこかわずかでも狂うと、たちまち致命的な影響を受けるんだ)
中央市の本社へ、第八都市のイミジェックスを告発する
マエダ:気が変になったのか? もし告発に失敗したら・・・
D:
設置されたのは1980年で、あれは古くなりました 劣化の可能性も大いにあります
アシスタントとしてラグを明日連れて行きます
*
第八都市に帰還してまだ4日目だが、どう考えても何か狂ってるとしか思えない
惨めに老けた父母、剥落だらけの居住区
鮮やかだったはずの図書館なども傷みきって、中には存在してない建物もある
イミジェックスは、第二街区の6階で開かれた奉仕会議について放送しているが、ビルは4階建てだ
「圧縮学習」では、強制的に催眠状態にされ、膨大な知識を詰め込まれたが
すでに不信感を抱いているラグには、缶詰教育を鵜呑みにはできなかった
(記憶は幻影だったというのか? ではイミジェックスはなぜ・・・?)
イミジェックスを耳にあてると楽しかった
だが、イヤホンをとるとすべては塵塚だ
今では中央登録市民の高収入で広い家に移り、イミジェックスのけしかけにより父母は毎日買い漁っている
買っても使うわけでもなく、
娯楽施設の集まった第三街区へ通い続けるほか時間を潰すことがない
イミジェックスがあるかぎり、もはや家庭的団欒などは存在しない
あるのは、
経済共同体としての購買小集団だけなのだ
*
中央市に向かうハイウェイに乗る
D:
君はイミジェックスが好きか?
私が第八都市のイミジェックスを掌握すれば、君も一般市民あがりには許されない役職につくことが可能だ
手伝う気はないかね? 君は適格者だ 経歴、荒々しさ、その狂気が欲しいんだよ
私は君の上司だ 任免権を握っている
昔、存在した教育機関、マスコミなどは、今じゃイミジェックス1本に置き換えられている
イミジェックスは、中央市の本社からレーザー回線で各都市に送られ、小型の人工頭脳にかけて有線で放送される
私は最近、その内容が少しおかしいと思いはじめた あまりにヒステリックだ
都市が自主性を持つにはどうする?
回線は都市南端にあるアンテナから、地下ケーブルでイミジェックス・センターに送られる
センターには、非常時に備えて1個人の思考を伝える装置がある それを使えばいい
中央市にはそうした“本社”がいくつもある
「1業種1メーカー」と呼ぶが、各
コンツェルンは、自給自足できるよう全産業を持っている
我々はカガ・コンツェルンだけだ
だが、コンツェルンとまったく関係ない
「自由民」と呼ばれる連中も住んでいる
ラグ:(中央市についてもイミジェックスはウソをついていたのだ!)
だが、まだ得体の知れないものに賭けたくはなかった
【中央市】
ビルの壁いっぱいの発光板が明滅し中央市には夜がない
「虹のアーチ」と呼ばれるものが象徴的にそびえ、どう見ても資材やエネルギーの恐るべき浪費だった
通りの人々の半数以上は制服ではなく、まったく自由な服装だ
服がこれほど千変万化になり得るとは想像だにしなかった
ムービング・ロードからさらに高速で時速150キロのベルトウェイに移る
料金は身分証明書から引かれるのではなく、
「エン」という貨幣を使う
D:
信用経済はここでは成立しない 我々の本社の中央市での比重はゼロだ
そのゼロに我々は命令され、余剰生産物を吸い取られているんだ バカな!
ラグは自分が這い上がった分、それ以上のスピードで、彼自身の世界が小さくなるのを感じた
【カガ・コンツェルンの宿泊所】
窓から外を見ると、ビルの群列 全く同じビルが間隔をおいて幾何学的に並んでいる
だが目をこらすと、その向こうにはでたらめな風景があった
これが中央市なのか? ただもう広大で、入り組み、そこに“在る”だけなのだ
D:
君が見ているのは中央市の全貌ではない
中央市はかつてメガロポリスと呼ばれていた都市連合体だ
我々は西部から入り、今は中部地域にいる
あのビル集団は、各コンツェルンの本社だ
君はなぜ驚かない? もっとショックを受けるのが本当じゃないか
君はイミジェックスか、目の前の風景のどちらかを信じなければならないはずだ
どんな方法で潜在意識にわたる支配から逃げ出したんだ? 君は何か僕に隠している
ロボットが入ってきて、「食事をされますか?」などの質問に答えるまで繰り返す
最後は型番を言って「詳しくはカタログをご覧ください」
D:中央市のピントはずれのほんの一例だ
【中央市会議@第15号館】
D:本社独得の晦渋趣味だ
ラグ:(ここの連中はよほど偏執的で歪みきっているのではないか・・・)
丸い室の中央に円形のテーブルがあり、4人の制服の人間がいた
壁の真下には・・・あの異形の生物がいる!!
ラグはDに小声で指摘するが、Dにも、他の4人にも身長1mもある怪物は見えない
生物の動作は知能のあるものだった
青年らはDの報告に唇を歪めた
「生産配分がおかしいのは分かったが、君が思っているだけかもしれない
他にどんな証明の方法がある? 原子保存は、人間じゃチェック出来ない
プログラムの歪みをどうして見つける?
これを却下したら、君が主管の地位をほうりだされることも知っている
イミジェックスは、いったん反逆を企てた者を許しはしない」
ラグ(この少年じみた本社員らは、はじめからDの説など聞く気はなかったのだ)
D:うちのパトロール員が、回線中継所が破壊されているのを発見した
彼らはおかしくてたまらないというように笑った
青年:
第八都市の人工頭脳は狂っていたのさ 今日の会議はそれを通告するためだが、面白い趣向だったろ?
ラグは青年たちとともにあの生物がついて出て行くのを見た
あの奇妙な現象はここでも起きている
見えないものを見たと感じ、現存するものを認めない
内部でなにか崩壊しようとしていた
巨大な都市機構のすべてが今や幻影のように見えはじめた
第二部
勤務を始めて10日もしないうちに幻滅を感じていた
同僚はラグの粗野な態度や、真面目さを怖れながら軽蔑している
ラグは中央市行き以来、在室中はイミジェックスのイヤホンを外していた
それは麻薬の禁断症状に似て、おそろしい苦痛をともなうが
驚くほどの克己心で誘惑に耐え抜き、1週間にもなると苦痛は遠のいてきた
夜、奉仕ビルを出ると外は雪だった
メインストリートに突然、燃えたクルマが突っ込んできた
あの昆虫に似た怪物も見た 奴らが襲ったのか?!
中の2人の男は息絶え、倒れている1人を抱え上げると女だ!
彼の闘争心を鈍らせ、生活に安住させようとする女と親しくなることをラグは避けてきた
だが、この女が第八都市に属していないのは服から明らかだ
あの化け物が何か知ることができるかもしれない 保身欲と、好奇心が揺さぶった
3人の中央登録市民がクルマを発見し報告に行ったのを見て、家に連れていく決心をしたが
それには遊技場で賑わう第三街区を抜けなければならない
女:
私の姿は、あの連中には見えやしないわ 先入パターンの比率が大きいから・・・
私、死にそうなのよ 私は後についていくわ
自室でひととおりの手当をし、ラグは女を質問攻めにした
ラグ:
どうしてオレには見えるんだ 教えてくれ!
パトロール・ロボットに追われて森に入った経緯を話した
女は中央市の自由民の娼婦で
マギといった
マギ:
パトロール・ロボットは侵入者を捕えて、
頭脳クリヤーをして、上級市民に引き渡す
白痴処分して追放するの 各コンツェルンはそれぞれの都合のいい先入観を植え付けなきゃならないから
あんたたちは、何ひとつ本物の現実を知らない
イミジェックスで思考形態まで作られるから
そのイヤホンを耳につけている間は、イミジェックス・センターに記録されてるのよ
市民がどんな傾向を好み、どんな話を避けるかも判る
さっきクルマが見えたのは、雪で既成パターンが変わったから 異物とバックの比率よ
いくらイミジェックスが働いても、わずかなバックだと透明人間は姿を現すってわけ
人間はものごとの形や意味を先入観にあてはめる
よほどの変化でない限り、気付くには絶えざる注意が必要なの
建物や人間は万古不変のはずがないのに、人々は自分の都市が文明の極致みたいに考えている
飼育された人間は物体を潜在意識では認めながら、表層意識では拒否する 無意識に目をそらすの
虫どもは、地球外から来た宇宙人よ
イミジェックスに安住している人間を思い通り支配して奴隷にしようとしてる
中央市には昔ながらの生活をしている自由民がいて
イミジェックスで滅亡に向かってるのを止めようとして革命団を作っている
私に教えてくれたのは“先生”というあだなの
フナダと、
ジャンクというタフなリーダー
私にはある人間に会って、イミジェックス機構を内部から破壊するよう働きかける目的がある
話を聞き終わり、ラグは今までの半生を思った
すべてを賭けた空しい努力、白い服への憧れ、長い屈従・・・
復讐だ 俺は今こそすべての人々の解放という自分の真の目的を発見した
それには、迅速、徹底的に実行しなければならなかった
*
ラグはマギの言うとおりすぐ都市から脱出するか、Dに加担するか選ばなければならない
簡単に切り捨てるのは難しい Dの先手を打てば、主管委員の肩書きももらえる可能性がある
侵入者事件の調査は順調に進み、居住区がしらみつぶしに調べられている
父:お前のイミジェックスが壊れていると通達書がきた なぜ早く届けなかったんだ!
組織はなかなか迅速に反応しないが、一歩一歩、確実に対象を追い詰める
誰が指揮せずとも、何百もの手続きによって、結局は正確に検出し、命令し、処断するのだ
D:どこへ逃げよう
マギ:
中央市に決まってる
ジャンクの仲間になって闘うのよ
イミジェックス機構と宇宙人を切り離さないと、みんな本社や都市の命令だと思って服従しているうちに
思惑通りの生産構造や、奴隷制度がいつの間にかできあがる
マギの接触した一般市民はDだった
荷物をまとめ、夜、外に出ると、もう緊急時に出動する保安部のクルマが自宅を目指している
マギは青酸銃で撃たれて死ぬ 現れたのはDだった
やはりDはラグが捕らわれて、自らの陰謀が公になるのが怖かったのだ
D:君はもう中央登録市民じゃない
ラグ:この女は、マギなんだぞ!
Dは白い顔で侵入者を見たがすぐに笑った 「あり得ないことだ」
ラグはDの首を締め、要員たちは一級市民を殺してしまう危険性から手が出せない
その隙にラグは森に走った
*
ハイウェイ沿いを果てしなく歩き、疲労がどっと襲いかかる
そこにあの昆虫が迫って来た 反射的に点火具を押しつけると可燃性の肉体なのか燃え上がった
笛の音が聞こえ、クルマがヘッドライトを向けた
多様なボロをまとった集団が火炎放射器のようなもので虫と森を焼いた
彼らの様子は痩せこけ、おかっぱのような髪型だが、不思議な感動にうたれた
1人1人にハッキリした個性があるのだ
男:いっしょに来るのか来ないのか?
ラグ:行こう 君たちはジャンクの仲間か?
男:その通りだ
トラックの荷台に乗ると
男:
俺たちは仲間を捜索に行った イミジェックスの秘密を探りに出て、もう2週間も帰らない
ラグは事情を話した
*
着いた場所は、傾いた木造の家々だったが、名状しがたい懐かしさを感じた
たしかに人間が暮している感じだ
奥には2人の男が座り、先ほどの男はクリタと呼ばれた
ジャンクにいきなり重いストレート、強烈なアッパーを食らい
ラグは初めて生命の危険を覚え、無我夢中で相手を旋回させ、首を締め上げた
次の瞬間、盛んな拍手が2人を包んだ
ジャンクは座り直したが明らかに結核かなにかの病気だ
「今日はもう休む 先生、こいつに入団の儀式をやってくれ」
古い巻紙は、一種の連判状のようなもので、ラグも署名した
老人:これから慣例により長い物語を聞かねばならん 今の世がなぜこうなったか 私たちが何をなすべきか
ラグ:聞かせてください 先生
フナダ:
20C後半は、いろんな連中が未来像を作り上げようとした
その頃すでに社会は、それ自体有機体の能力を得て、未来予測は困難になっていた
当時の人間は大別して3つに分けられる
伝統的古典的教養で人間生活のあり方を考えようとする文化人
分化する科学・産業の中で、自己に埋没した専門人
3つ目は“大衆”と呼ばれた一般人
この構図が狂いはじめた 社会で生き抜くには専門的な仕事につかなければならなくなった
大衆社会が「専門家集団」に変質した
企業は吸収合併を繰り返し、巨大に成長した
アダム・スミスの“神の見えざる手”(
)は、再び復活したかに見えた
(
「欲望の資本主義~ルールが変わる時~」とリンクした/驚
放任経済が統制経済にかわり、社会は多数を代表する少数の社会人に握られた
文化人は無力化した 未来に何がやってくるかちっとも判らなかった
まずはじまりは
「都市集中」という現象だ
人数が増えると、コミュニケーションの機会は幾何級数的に増えていく
はじめは立体テレビ電話網だったが、そのせいで人口の都市流入は減少しはじめた
慌てたのは企業だ 1960年にはもう傾向は見えていたが、
大企業にとって、複合寡占状態のもとでは、消費地は密集しているほうが有り難い
それが
「消費都市の造成」につながった
自分たちの商品しか買わない住居群を作れば、販売は安定する
都市の周りは工場群を並べ、従業員に社宅街を与える
採算割れを防ぐために採用されたのが
「イミジェックス」だ
マスコミュニケーションからパーソナルコミュニケーションになればいい
“自分の目”を持たない人々は有り余る情報の中で溺れていた
こうして企業群は、自分の系列の消費地を持ち
総合産業として
コンツェルン・システムを作った
我々「極東経済圏」は、いくつかのコンツェルンに分かれ、上層部だけが結びついた協力体に操られる
形だけの政府を通じて、最低限の貿易はするが、分厚いカーテンをおろし合っている
1999年頃から総人口が減り始めた(少子高齢化まで予測してる もうずっと前から判っていたのか?
コンツェルンは、イミジェックスに
「意識下統制」を強制した
今では「視覚転換」の力さえ持っている
これは
「修正資本主義」の最後の形かもしれない
やがて大企業のトップに私物化されれば、景気変動も経済成長もない
あるのはただ慢性化した不況だけ イミジェックスでその観念さえなくなる
2000年以降、大部分はイミジェックスの虜になった
なぜ人々は従ったか? 世界は「平和待望ムード」にあった
ショックを受けること、考えること、不安な情報には目を閉じ
子どもの教育、野菜の値段、昇給、娯楽に浸っていれば満足な人々にとってこれ以上の社会機構はない
それでもまだ約2000万人が自分なりの生き方をとろうとした
「自由民」には生産物の余剰を高く売りつけ、従業員として地方都市に送った
「中央登録市民」と「一般市民」ができた理由はそこにある
「中央登録市民」は最初から企業に属していた連中で、
「一般市民」はイミジェックスで安楽に生きている
地方都市で合成食品などをつくり、コンツェルン本社に収容する
生産配分の図式を保っているのがイミジェックス
かつて情報を管理するものは人間を支配したが、今は情報管理の体系を所有するものが支配する
この一番悪い時に来たのが虫どもだ
地球の社会体制がこうなるのを予測して待っていたのかもしれん
昆虫の進化したものらしいが、気付いたらあちこちに存在していた
彼らは自由民地域にはこない イミジェックスに支配されている人々のところに来る
コンツェルンは、自己の都市にアイキャッチャーや、レタの統一などでパターンを作り安心感を与える
宇宙人は、イミジェックスを使えばそれでいい
地球の産業形態を好みに仕立て、奴隷人間を作るのは簡単だ
わしらの団体は結成されて9年になる
わしらの工作が連絡網を壊したりするたび、宇宙人はコンツェルンも気付かぬうちに修復する
最近、わしらの存在に気付き、攻撃してくるようになった
奴らは人工照明の下でないと行動しない
多くの犠牲が出た
誰もイミジェックスがどう運営されているか知らない
第二は武器の不足 クリタが乏しい材料で作り出そうとしているが全然足りない
第三にして最大な問題は、現リーダーのジャンクの病気が悪化している
指導者は生まれつきの素質だけでなく、特殊な環境があって生み出される
一種の負い目を持ちつつ、仲間より一歩進んだ意識がいるのだ
世の中を要領よくわたる連中が100人いるより、
世に軽蔑されるぐらい気違いじみたひたむきさを持つ数人の男が役に立つ
たとえば、あんたのような男だ
*
ラグの仕事はある時もない時もあった
多くはコンツェルンの下請けか、富裕な自由民が経営する店の手伝い
大通りをうろつき、求人情報をたよりに出かけるほかない
時々、専従者の誘いも受けたが断った(正社員みたいなものか?
ジャンク一味の集会所は学校も兼ねていた
フナダはイミジェックス以前の流れを汲む社会学者で団員に哲学、歴史、科学などを教えている
クリタはフナダから小さい頃から教育を受け、乏しい材料から武器を作る特技を持っている
中央市では20C後半以来、何ひとつ変わらず、昔の農村のように頑固で、閉塞的で、すさまじい消化力をもっていた
ラグはイミジェックスをうまく使ったほうが“あるべき社会”を作り出しやすいのではと考えていた
ここでは放火
、殺人、強姦などが次々起こり衝撃を受けたが
おそらく第八都市でも起きていて、事件はすべて消されていたのだろう
夜になると護身用の
パラライザー(神経麻酔銃)を持った本社員がロボットを護衛につけて
バーや娼婦館にやって来る
ラグのいる中部ではまだ少ないほうで、東端は住民の大半がコンツェルンに頼っている
イミジェックス・センターを破壊するには、コンツェルンの防衛線を突破しなければならない
自由民100人ほどで一体何ができよう
クリタが宇宙人について調べると、昆虫は蝶以外赤色は見えないが、
彼らは赤外線のほうが見えていて、夜にしか飛ばないと分かった
クリタ:
わずか30年前は、水爆、中性子弾、細菌兵器、すごい武器がたくさんあったんだぜ
その中でレーザーが有効だ 何でもたちまち溶かしてしまう
ラグ:
それには少なくとも地方都市の1つは押さえないと不可能だ 何千、何万という作業員、工場がいる
2人が長屋に戻ると火事
で燃え盛り、死傷者があふれていた
ジャンクは全身火傷を負い、焦げたボロのように生涯を終えた 負傷者にはフナダもいた
ラグは今や70名近い団員をリードしていた
ラグ:
コンツェルンと宇宙人の両方を敵に回すのは不利だ 我々はまず宇宙人を攻める
中央本社の干渉をはねのけて地方都市の独立性を持とうとしている一級市民を知っている
第三部
ハクソンは人事主管のマエダが自分に反感を持っていることに気付いていた
マエダ:
あのラグという男が消えた時、君は自ら出動した 明らかなマイナスだったんだぞ
今夜の当直は僕だ よく考えたほうがいい
D:(私自身がイミジェックスを支配するほかに救われる方法はない)
夜になると、Dは一般市民を招集して森に入り、根ごと掘り起こせと指示し、すぐにバスに戻り、奉仕ビルに戻れと指示
(奴らは地下ケーブルまで切断してしまうだろう 一刻も早くセンターに到着しなければ)
センターの番人がDを止めた
マエダ:
何か、イミジェックスに用件でもあるのか?
何を考えているか分からんが、僕と仲間になるほかはないよ
マエダがDよりはるかに陰険な権力主義者だと今初めて悟った
そこに工事にかかった一般市民がみんな燃え上がった
と報告が入った
マエダ:
関係者の記憶を消去すれば表面上はおさまるだろう 2人で相談しないか?
絶望しているDの前にラグが現れた
D:よく帰ってきたな まだ追われているはずだ 私がかくまってやろう
ラグは相変わらずのDの態度に怒りを覚えたが、仲間によってDは地面に倒れ伏した
ラグ:
この1週間ずっとお前の動きを追っていた
俺たちはお前の計画を手伝いに来たんだ
第一街区に入ると、朽ち果て、歪み切った虚像の廃墟だった
主管委員室の廊下で虫が現れ、火炎放射器で焼くと、仲間は委員を締め上げた
D:
お前たちの統治はもう終わりだ すぐに本社との連絡を絶て
パトロール・ロボットが受信アンテナを壊せば、この都市は単独で統治することになる
*
Dとラグは
イミジェックス・センターに向かい、ダイヤル錠でドアを開けた
そこでは機械そのものが生きているのだ
D:
ここは人工頭脳の世界だ あとは非常事態用のヘルメットをつければいい
たったこれだけで、第八都市60万人の思考を支配していたことにショックを受けつつ
ラグはDの首を締め付け、ヘルメットをかぶり思考で呼びかけた
“
これは重要な情報だ!
都市に宇宙人がいる そいつらを殺すのだ 奴らを全滅させるまでやめてはならない!
武器を大量生産しろ! すべての部門は、この戦闘のための研究、作業を始めよ
都市には一級市民の上に“指揮委員”が置かれた すべての権限は彼らにある!”
娯楽施設だった第三街区には突貫工事で工場が建った
クリタの白い制服にも
“指揮委員”のマークが描かれている
クリタ:レーザー搭載の装甲車は明日出来る
ラグ:奴らの攻撃隊は中央市で集結しはじめている 今夜中に仕上げろ
クリタ:
イミジェックスっていいものだな やはり組織だてて仕事をするほうが有り難いってことだ
イミジェックスを聞いた一般市民たちは、即刻戸外へ飛び出し、宇宙人を叩き殺そうと彷徨した
これまで中央登録市民らしか携行できなかった武器も供与され、第八都市内の宇宙人は駆逐された
わずか半月で、強制移転、研究所建設が行われ、見事に
戦闘都市に変貌した
ラグはカガ・ホールに向かった
中央登録市民は、一般市民ほど指揮委員に心服しなかった
ラグ:
今夜いよいよ宇宙人との戦闘が始まる 諸君は奉仕マンだ!
真正面からぶつかる実力を持っているはず 参加してくれ
手をあげたのは十数名の四級市民ばかりで、彼らを即時、昇格させ配属させることにした
主管委員:
我々には適性というものがある 我々に出来る仕事が欲しいんだ
ラグ:一般市民がそう言った時、諸君は“仕事に自分を合わせろ”と言った
反対する委員をラグはためらいなく青酸銃で撃ち殺したことに衝撃が走った
D:長続きしやしないぞ 支配者は支配者 下司は結局は下司に過ぎんのだ
ラグは宇宙人の絶対数が少ないのではないかと思ったが
「ハイウェイを奴らがやってくる」と報告が入った
青白い円盤が現れ、あっという間にいくつかのビルが爆発された
それなりに連絡網を作ってはいたが、いざ戦闘が始まるとほとんど役に立たなかった
ラグもクリタも組織を使う訓練は受けていなかった
大部隊の指揮官能力、参謀の適性がなかったのだ
クリタのレーザーが1台の円盤にようやく当たって落ちた後、なぜかほかの3台はそのまま去って行った
形勢が逆転するや、追撃の動員令を出した
奴らの逃げる道はハイウェイしかない 両側の森は片っ端から火をつけた
ライトを照らすと手に棒や石をつかんだ人間がぎっしり並んでいた
ラグ:
カガと違う系列の都市の住民だ 押し通れ!
(イミジェックスで駆り立てられているだけの彼らを、まるで虫を踏み潰すように殺さなければ、俺たちの目的は達せられないのか?
俺は、結局ハクソンやマエダと違わないではないか?
突然、あたりが白昼のごとく輝き、やわらかな声が流れた
“地球の諸君 どうして我々の真意が分かってくれないのだ?
我々の厚意を受け取ろうとしないのだ?
諸君は、ようやく文明に有機性を与えた
それを望ましい方向に導こうとする我々になぜ反抗するのだ”
空には無数の円盤が不気味に光っていたが、やがて消えて行った
ラグ:
円盤は、もう来ないよ
奴らは諦めたんだ イミジェックスを利用して人間を高みに引上げようという試みを
クリタ:
俺たちはついに宇宙人とイミジェックスの両方を追い払うことに成功したんだ!
ラグ:
(ちっとも嬉しくないのはなぜだ・・・?)
俺には判る 不意にイミジェックスから切り離された連中が何をするか・・・
人間の欲求を、個体の集合体である社会がすべて満足させるわけにはいかない
社会はいかにそれらを有効に利用し、秩序を保つか
いかに公正に不公平を作るかという矛盾した命題を解決しようとして、歴史は実験を繰り返してきた
社会秩序を支えるのは「法」「慣習」「道徳」だった
だからイミジェックスに価値があったのではなかろうか?
人間が不可能と知りながら実現させようとした社会的規制と、個人の欲求の表裏一体化が可能になったのではないのか?
今や、何がものさしか、誰にも分からないのだ
一般市民は奉仕マンに「イミジェックスを!」と不満をぶつけた
次は奉仕マンが焦りだした 彼らは中央市の本社から送られる情報を待ち、本社に行った使者は消息が知れなくなった
狂気が伝染病に広がっていった
自由民は群れをなしてコンツェルン本社に向かった
完全な無政府状態 群衆同士が理由なき敵意のもとに至る所で激しい衝突を繰り返した
クリタ:
今まで散々ふんだくってきた報復を受けているんだ!
エン、医薬品、合成食品などをすべて奪い取ろうというんだろう
俺は先生を探しに行く
ラグ
(1個の人間が自分の信条に従ってやることのなんと独善的なことだろう なんと空しいことだろう
俺はもう心身ともに疲れ果てている 休むのだ)
パニックが長引くと深刻な食糧問題が起きた
中央市からどっと難民が押し寄せ、地上は相変わらずの地獄絵
長屋に着くと影も形もなく、女に聞くとフナダらはずっと前に第八都市に行ったという
女:
ラグさん、あんた私らを助けてくれないか みんなで力を合わせても、指揮する人がいないんだよ
ラグ(俺はここで1人の自由民として生活を一から始めよう)
*
ラグがバラックが寄り集まったに住みついてから2年余りになる
天然食品の生育は比較的順調に進んでいた
イミジェックスの解放は、慢性的な飢餓、病気への不安となっていたがラグらは幸運だった
そこにフナダが訪れてきた カガ・コンツェルンの指揮委員の制服を着ている
クリタも第八都市にいるという
フナダ:
宇宙人が地球のためと思ってやったことは、所詮奴らの望む文明を地球に生み出す度が過ぎた干渉だった
だが、あんたは今の暮らしが最上とは思っているまい
第八都市は今、復興の中心地になろうとしている まだあの時の体制は生きているんだ
だがそれではとても間に合わない あらゆる設備が朽ちて、技術は失われる
てんでばらばらに試行錯誤をしているうちに、人間は数百年後退したところから始めねばならないだろう
我々の結論は、イミジェックスを復活させることなんだ
現存している文明レヴェルまで人間を誘導する
わしらと似たような組織は世界各地に存在していたことが判った
クリタが世界に呼びかけたら至る所から返信があった
中央市で今、国際会議が開かれている
会議で、世界の復興は歴史の折り返し以外はないと結論に達した
住民たちにはここで歴史が歪んだことを忘れさせる
それからあとは人間全体に任せればいい
Dやマエダは、昔、白痴化された人々や、ショックで変調をきたした人々の治癒にあたっている
頭脳クリヤーの原理で可能だ 彼らは専門家の力を持っている
これは大きな仕事だ 一人でも協力者が多いほうがいい ラグ、やってくれないか
イミジェックスが同じ形状をとることはもうないだろう
初期のラジオのようになるかもしれない
現状を復元後、イミジェックスを自動的に捨て去るやり方をラグは気に入った
(所詮、俺は俺以外の何物でもないのだ
どうしても満足のできない男 そいつを認めるほかはない)
月光を浴びて、静かな微笑が浮かんだ
生まれて初めての静かな表情だった
<ふたたび>
日曜の百貨店
子どもたちが走っている 笑っている 跳ねている
このきらびやかで雑駁な小型世界に初老の紳士がやって来た
彼が手に持つロボットを見た商人は「宇宙人ですか なるほど」と言い、馬鹿げていると言いたげだ
ラグ
(もはやあるのはただ、戦後からの輝かしい復興の記憶だけだ 誰もそれには気がつかない
毎日が平凡で1年、また1年と生きる人々は、それぞれの日常で忙しいのだ
そんな人々の全集積が人間社会を推し進めてゆく どこへ―――
もう誰にもコントロールされてはいない 自分の責任で進むほかはない
あなたがた1人1人の集計に委ねるほかないのだ
今日から明日へ生きつづけることで未来へ到達しようとしているのだ
どこへ―――。)
【中田耕治 解説内容抜粋メモ】
眉村卓は、私にとって懐かしい作家の一人だ
もともと私には、SFに関してほとんど語る機会はなかったため
SFフォービア(嫌悪症)の批評家に見られていたが事実ではない
私はSFの翻訳もした
ベスターの『虎よ、虎よ!』、デイックの『宇宙の眼』など
福島正実の回想『未踏の時代』には私の名が1ヶ所だけ出てくる
「みんな、SFがいかに翻訳家の仕事として価値あるかの長広舌を聞かされてうんざりしたはずだ
そしてそんな大演説をぶった僕は、いつもどうにもならない空しさと疲れを背負っていることに気づいた」
「人はそれぞれ自身の道を選ぶべきだから、他人に僕の行き方を強制するつもりはなかった
ただ、道が分かれたら、その人間に対する積極的な関心を失うだけだ」
福島と私は絶交状態だったが、今、一時期に親しい交遊をもち得たことに深く感謝している
そんな時、福島の口から眉村の名前を聞いた
当時、私は翻訳劇の演出を続けていたので、いい創作劇を探して、その中に眉村の作品があった
彼のSFは、ホワイトカラーの世界を含めて、現実の転位を用いた、ある破滅の解明に他ならない
『なぞの転校生』から『猛烈教師』までの変化はかなり大きい
短いセンテンスで改行がつづく文体で、スピーディな展開が特徴
だが『幻影の構成』に頻出する名詞止めなどに鋭敏な感性を認める
ラグは、タイムラグ、“大騒ぎ”“下層民”の意味
眉村の小説は、逆ユートピアもの、タイムトラベルもの、インヴェーダーもの、複数宇宙ものといった
SF的な批評上のジャーゴンで片付けるのは簡単だが、私は
「崩壊」「幻影」がかなり多いことに注意する
これは作家の内面に潜む何かを暗示していると思われる
まず世界に何らかの不確定性があり、内部に何かが「崩壊」する状況が大きなモティーフになっている
眉村が明るい表情を見せながら、かなりペシミスティックな思惟を持っている例証に思われることに興味がある
何ひとつラグが起こらない世界
このパラドックスを、私たちはいくらでも現在の私たちに重ね合わせることができる
コンピュータによる国民総背番号制(マイナンバーか?)、歌手のマリファナ喫煙とマスコミの報道など
私たちはまさにイミジェックスの世界に生きているだろう
福島が亡くなる3ヶ月ばかり前に偶然再会した時、互いにかつての確執はなかった
懐かしい福島正実
彼は、ある日、彼のイミジェックスの世界を全力で疾走して行ったに違いない
***
“宇宙人侵略”なんて古い考えだと思っていたら、やっぱり助けようとしていたのか
途中で帰ってしまったのは、干渉を止めてヒトに未来を託したからか?
でも、大きな過ちを犯していた歴史を人々に忘れさせるのはどうかな
歴史には大きな意味がある もう二度と繰り返さないと思い出すために
何気ない日常生活に戻った彼らにはもう悲惨な記憶は消されている
それもまた今の私たちの生産活動と似ているのに不気味な後味が残る
最後の最後まで、頭を抱えさせる逸品だった