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メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

羽生結弦がNHK杯欠場

2017-11-10 15:49:54 | フィギュアスケート
羽生結弦がNHK杯欠場 GPファイナル5連覇幻に コーチ明かす「結弦は泣いていた」

“9日の公式練習中に右足首と右ひざを負傷したソチ五輪金メダリストで、世界王者の羽生結弦の欠場が決まった。
 帯同しているブリアンコーチが「結弦はショックを受けて、泣いていた」と、明かした。
 羽生は今大会に前人未到の5連覇が懸かる12月のGPファイナル(名古屋)進出が懸かっていたが、可能性が消滅。
 また、66年ぶりの連覇の懸かる平昌五輪への調整にも影響が出る可能性が出てきた。

「治療の計画を立てて、全日本に照準を合わせて、治ればいいんだけど」と、
 五輪最終選考会となる12月の全日本選手権(調布)に向けて調整していくとした一方で
「五輪まで3カ月。そこで勝つのが彼の目標だ」

 治療のため、同日夜に設定されていた公式会見を欠席。この日午前の公式練習にも姿を見せず。
 日本スケート連盟側には出場の意思を示しており、日本連盟の小林芳子強化部長は
「競技に出られるように、今、必死に治療を頑張っています」と説明していた。”


織田信成が羽生の決断支持「賢明な判断やったと思う 絶対すぐに良くなる!!」
“解説者の織田信成氏は、自身のツイッターで「本当に辛くて悔しいと思うけど、賢明な判断やったと思う」と、決断を支持。
「絶対すぐに良くなる!!!すぐに良くなるように祈ってるぞ!!!」と、早期の回復を祈った。”


羽生結弦、負傷前日に発熱していた コーチ明かす
“ブリアンコーチはさらに、9日夜に羽生本人と話した内容について
「GPファイナルにつながるこのNHK杯も大事だけど、五輪が大事だということを話した」と説明。
 加えて、8日には発熱のため1日休養していたことも明らかにした。”


羽生結弦、公式練習に参加せず…ショパン寂しく響く




こんなシナリオを誰が描けるだろうか

ゆづくんは、どこか真央ちゃんと共通する
波乱万丈の壮大なドラマのような人生を生きていると時々思う

2人とも笑顔を絶やさず、並々ならぬ苦労や怪我の苦しみを見せず、
日本を背負って、かつ世界の絶大な支持と人気を誇る選手

私たちフィギュアスケートファンのみならず、
みんなをハラハラドキドキさせてくれる
人生そのものが映画、小説のようだ いやその上をはるかに超えている
そんな運命を背負って生まれてきたのだろう

その先には、どんなストーリーであれ、
やっぱり私たちを興奮させ、感動させてくれる次の展開がある

きちんと回復して、万全の状態で氷の上に戻ってくることをみんなで祈っているよ
ヒトの祈りには力があると信じているんだ



コメント

東京モーターショー開幕! "自動車大国"ニッポンの未来は?@週刊ニュース深読み

2017-11-10 12:25:00 | テレビ・動画配信
東京モーターショー開幕! "自動車大国"ニッポンの未来は?@週刊ニュース深読み

“これまでハイブリッド車や燃料電池車などを次々開発し、
 次世代エコカーの分野で世界を牽引してきた日本の自動車産業。
 今、大きな岐路を迎えています。

 今年に入り、世界の自動車メーカーが電気自動車(EV車)を強化する方針を相次いで発表したのです。
"EVシフト"の大きな潮流の中で、日本経済の屋台骨と言われる自動車産業は、今後世界とどう戦っていくのか。
 クルマの未来について深読みしていきます。 ”

専門家:
大聖 泰弘さん(早稲田大学 教授)
中西 孝樹さん(自動車アナリスト)
町田 尚さん(芝浦工業大学大学院 教授)
今井 純子(NHK 解説委員)

ゲスト:
レッド吉田さん(タレント)
相田 翔子さん(歌手・女優)


私自身は免許証を持たず、クルマにも興味がない
エコカーと言っても電気を起こすのに原発を使ってたら意味がないのではと思うけれども

昔、宜保愛子さんか誰かが未来を透視した時
「面白い丸い形をしたクルマが走っているのが見えます」と言っていたのと
今回、最新と発表されたクルマのフォルムが似ていたので気になった

完全自動運転可能な未来はSFでも散々描かれてきたけれども
まだまだ遠い未来の話か?


【内容抜粋メモ】

田中寛人アナが実際に「東京モーターショー@東京ビッグサイト」を取材

助手席が回転し、横の窓には端末とつないで情報が見れて、
クルマに乗りながらでも仕事ができる(そこまで働くか?!

 


<AI搭載車>

運転者の顔をキャッチし、暑そうならエアコン温度を調整したり
好きな音楽を流したりしてくれる

 


こうしたクルマを「次世代エコカー」と呼び、オール電化が主流


日本車事情~今あるのは主に4種



「ハイブリッド車」
販売累計台数は約1300万台
去年海外で売れた9割が日本のハイブリッド車
それだけ日本の技術は海外で高く評価されている

「EV」
100%電気で走る 課題:電気スタンドをあちこちに作らないといけない

「FCV」
水素で走る 課題:水素ステーションを一から作らないといけない

世界のシェアはまだまだ「ガソリン車」+「ハイブリッド車」


●海外でも進化する「次世代エコカー」 「EVショック」



日本経済を支えているのは、自動車メーカー



世界で一番EVを買っているのは中国だが、自国での普及を加速している



自国のEV車を買ったら最大100万円の補助金を出す
北京の大気汚染が最悪のレヴェルに達したための緊急対策でもある



ノルウェー:2025年までに、新しく国内で売る車はEVにすると宣言した
インド:2030年までと宣言 人口の爆発的増加が背景にある

 

トランプ大統領は「自然破壊などない」と主張しているが、州によってはもう動き出している
カリフォルニアは「日本のハイブリッド車はエコカーではない」と言っている


IT企業、家電メーカーなどの新規参入



これまでのガソリン車だと、エンジンだけでも約7000もの部品が必要なため、簡単にマネできないが
EVはラジコンカーのような原理で比較的マネ出来る技術のため、google、apple、ダイソンなどが作りだしている


雇用問題にも波及



エンジンは約7000点、すべて合わせると3万点を作る会社、GS、自動車保険、レンタカーなど、
日本で働く12、3人に1人は自動車関連の仕事に属している/驚
将来、簡単に作れるとなると雇用にも不安がある


町田:


本当にヤバイ 中国は自動車普及率が10%ほど 先進国は大体60%
中国も先進国になるから、今より5、6倍のクルマが必要 インドは今の20倍
ガソリン車だと排気ガスで国の問題になる 偏西風で日本もヤラれてしまう
「排気ガスの出ないものを」と国が考えている


大聖:


ヨーロッパは、2040年にエンジン車はダメだが、ハイブリッドに関しての決断はまだ
ハイブリッド車は燃費が倍ほどになる 電気自動車より安く作れる

充電可能なハイブリッド車もある
EVで50km走って、それ以上はハイブリッド車として走れるなど
そうなると電気スタンドが要らない


中西:


「PHV(プラグイン・ハイブリッド)」

ハイブリッド車は一般的なエンジンにかわってきている

わずか2年前までは「電気自動車の普及率は落ちる」と言われていた
電気は高く、インフラに時間がかかるため
でも、流れが急変した要因は3つある



一番大きいのは「フォルクスワーゲンのディーゼル不正問題」
ヨーロッパで「都市の大気汚染」として大きな社会問題になっている
日本では1970年代から社会問題になっていて、政治的な解決が必要

中国の狙いは「自動車立国を果たしたい」
でもエンジン、ハイブリッドでは日本に勝てない

インドなどは事情が少し違い、「エネルギー保障」
石油を輸入するのはリスクになると同時に
中国を見て、日本とともに沈没する懸念を感じている
表向きは「エネルギー政策」と言いつつ、中国に負けたくない思いがある

こうした思惑が絡んでいるため、単純に「EVが優れているから」と見るのは危険


<視聴者の声もYESとNOが割れている>

 


大聖:
今、中国で狙っているのは、2018年から10%ほどEVにする販売義務を課している
アメリカは20%ほど

レッド:
一気にかえられたら、中古車センターとか大変なことになりますよね

町田:
ハイブリッドはエンジンとモーターが2つ付いている
2つは無駄だからモーターだけにしようとするとEVになる




町田:
今はとりあえずガソリン車が売れているが、いつまで続くだろうか?
10年か20年か それまでに電気自動車の部品をどう開発するか
下の開発がものすごい勢いで動きはじめている


中西:
時間の問題 10年と30年では問題意識がかわってくる
企業の経営者は、彼らの定年、年金まで考えたら、
2050年~2070年までに見直さないと経営者責任を果たさないことになる
長い目で電化する中で、会社をどう業務転換して、
みんなの生活を守るかという意識は若干、次元が違う


<ガソリンエンジンがEVに置き換わった場合、部品の生産で影響度がどれほどあるか都道府県別に並べたランキング>



今井:
意外なのは自動車王国の愛知県が6位
今、ハイブリッド車に向けてすでに部品の電子化が進んでいるのでショック度は相対的に低い

驚きなのは群馬などが高い
ガソリン車向けのトランスミッションなどの部品の製造率が高いため
航空機などに力を入れていこうという動きがあるけれども、置き換わるのにどれほどの時間があるのか

(クルマを航空機にかえただけじゃエコじゃないじゃん


大聖:
国内市場だけで言うと、毎年8%ぐらいクルマが置き換わっている
すべて変わるにはとても時間がかかる


町田:
今度、元気になるのは電気メーカー
テレビで酷い目に遭ったけどいよいよだということで、自動車会社にどっと集まっている

今井:
心配なのは、これまでの自動車生産のピラミッドの頂点に立っていた自動車メーカー
かつてデジタル化に乗り遅れて、サンヨーがなくなり、シャープは台湾メーカーの傘下に入り
東芝も危機になっているが、今度は自動車メーカーの番にならないか


EVに早く移行すべき?

町田:私は先に行くべきだと思う 後から行ったら絶対負ける

大聖:
ハイブリッドもあるし、充電ができるハイブリッド車も今後長く続くのではないかと思う
EVへのシフトは長いので、両方をつなぐ意味で貴重な技術だと思う
ハイブリッド技術があれば、EVはすぐに出来る

自動車メーカーは実はモーターも開発しているので開発力はすごくある
モーターまで電気メーカーがすべて作るという話ではない

中西:
私はEVシフトには時間がかかると思う かつシナリオにかなり幅がある
幅がある未来を見通しながら賢く戦うしかない

レッド:でも確実にEV時代にはなる?

中西:
あの規制自体もまだ何が具体的に行われるかは不明であくまで方向性
政治的なメッセージに踊り過ぎてはいけない


「イノベーションのジレンマ」

町田:
「ガソリン車は日本が1番だ」と言っているうちに
いつのまにか下のほうが電気自動車になってしまって、あれと見たらお客さんがいない

「イノベーションのジレンマ」というのは高度化をやりすぎて、顧客のニーズ以上に製品がいってしまう
結果、本当に普及するものが出来なくなり、業界が破壊する
上にのぼるだけがいいわけではない



原発や火力に頼るのが「次世代エコカー」?(私も一番そこがひっかかる



大聖:
急速充電だと50kwほどの電気を使う 30分ぐらいですけど
50kwは17軒分の家の電気が一瞬に使われるということ
もし、そういうクルマが日本で2万台、同時に充電すると原発1基分が必要になる


充電する電気源をどう提供していくのか、
エネルギーの転換、エネルギー政策としても考えなければいけない

まだ台数が少ないので、急速充電のステーションは全国に7000箇所ほどあるが、それでは足りない

レッド:太陽光発電のクルマもあるじゃないですか?

町田:
風力発電で世界の50%握っているのは中国 中国は電力が頭にすでに入っている
原発に頼らない「クリーンエネルギー」の方向にもっていこうとしている
そこにまた大きな「風力発電産業」が出てくる


大聖:今は石炭をたいているのが主なので、それをどう転換するかが課題


町田:
ガソリンエンジンは、大体1886年にベンツが発明して、もう130年ほど経つ
その前は「蒸気機関」の時代が100年以上あったが、今はもうないことを考えると
ガソリンエンジンが130年を迎えたところでピークを迎えていることになり
エネルギーが別のものにかわる可能性が高い
これはものすごく大きなイノベーション 社会構造全体がかわる

自動車の話だけではなく、発電、インフラすべてが変わって、大きな経済効果を生み出す
ネガティヴに考える必要はない


中西:
我々は基本的には同じ考え 問題は時間軸
2030年の議論と、2050年目線だととるべき施策がかわる


EVのメリット・デメリット

今井:
消費者の感覚だと、こんなにすごい自動車ができると言われてもなかなかついていけてない
それによってどんなメリットが受けられるのかが感じられない

レッド:メリットは感じるが、デメリットは言われない


大聖:
割高だというのが1つ 「リチウムイオン電池」が高いから
発明者はノーベル賞の候補に毎年なっている それほど日本の技術は進んでいる

2030年くらいになると、それを超える電池が出てくる可能性がある
それも日本がリードしている

だから、今買いなのか、もっと先にいいものが出てくる可能性があるので期待したいが
技術は発明しても、生産が海外にもっていかれてしまうことがよくあるので注意が必要
技術で勝って、市場で負けることがある


今井:
今後は単にクルマを作るだけではなく、サービスも含めたトータルで考えるべき
例えば、今問題になっている高齢者による事故を防ぐクルマだとか
過疎地の足をどうするのか、都心でも駅からちょっと離れた地域の空き家問題などを
地域といっしょに解決するような自動運転のクルマが普及すればニーズはあると思う


●「ものづくり」の現場の疲弊~「100年に1度のものづくりの変換期」

 

町田:
モノにこだわらず技術にこだわる必要がある
モノは変化して、40年もすればなくなり、違うモノにかわるが
技術はコアとして残るので、それを使って次のモノをつくる



東レは繊維会社だったが、今は繊維は1/3ぐらいで、
「炭素繊維」や「医薬品」など、時代とともに会社の中身を替えている




今井:
神戸製鋼も連日のように検査データの偽装が明らかになっている
グローバル化の競争の中でコスト削減を求められ、人手不足、
生産性を求められ、納期を守れ、などなど
今は「100年に1度のものづくりの変換期」と言われている

AI、IOTなどの新しい技術がどんどん出て来て、現場にしわ寄せがきている状態


中西:
今、ものづくりは複雑な状況
ヨーロッパメーカーなどは、エンジンに投資するモチベーションが落ちているので
いろんな仕事が日本に発注が来ている

電化で仕事がなくなると同時に、実は目の前には仕事が山積みしている
それが究極の落ち穂拾いになるのか、意外に長い転換のシナリオになるのか悩ましい

私が企業と話す時は、従来の技術に驕って横綱相撲をとっている姿勢で受注するのは大変危険だが
もっと積極的にとればいいと思う

中国の戦略にのっかるのは、彼らを助けることになる
日本には日本の戦い方がある ただし、業務転換はしていかなければいけない

気持ちを初心に戻して、上手く儲けて、それを将来技術に転用していければ
欧州や中国のすさまじいスケールの大きな戦略に対抗できると私は思う



「EV化も大切ですが、消費者が求めるモノを作らないと先はないのでは?」



クルマの未来をメーカーも考えはじめている

「東京モーターショー」の田中アナに戻り、違うブースを紹介

<リビングから歩いて数歩で、駐車場に行かなくても出発できる!?>

 

 



デカすぎるキャンピングカー!?
と思いきや、家の一部分がクルマになっている/驚×5000


<一見クルマ椅子に見えるが2人乗りの新しい乗り物>

 

老々介護する高齢者向けに作った
自動運転で、行き先を言えば、目的地まで連れて行ってくれる
歩くほどのゆっくりしたスピード



大聖:
たしかに電気のほうが制御しやすいし、排ガスが出ないのは良い
ただ、一般道路を走る時、皆さんがどういうものを選ぶかという選択肢がある

(前に、「運転するタイプのベビーカーは一般道路を走れ」みたいな意見のニュースを見たな
 道も大幅に変えなければいけない


町田:
今の提案は先進国向け 高齢化が進むので
EVが欲しいと今言っているのは、どちらかというと新興国
少し分けて開発することになると思う
移動が楽しくなるという状態が作れるのではないか


中西:



今流行りの言葉で「CASE(ケース)」というダイムラーが名づけた
自動車産業に大きな技術革新が起きている

クルマと情報のつながる化

AIによる自動運転

「シェアリング」
新興国では、何千万年もクルマが売れるとは考えづらい
環境のためにもシェアして賢くクルマを利用する

これらを「電気」で動かすことの信用性が高い

家電でおきたような「デジタル革命」、システムそのものがかわるのか
技術がだんだん進化しながらどう変わるのか、みんなが未来像を悩んで模索しているのが現状


大聖:
2030年はひとつの分岐点だと思う
もっと新しい性能のいい電池が出てくる可能性
エンジンもまだ2~3割ぐらい燃費が良くなるから
どっちが得か消費者によって選択肢が分かれるはず
しかも、安く作れるという点ではエンジン技術はさらに進化すると思う


今井:地域と都会、先進国と新興国、クルマに求めるニーズが違う


中西:オールオアナッシングですべてが偏ることはおそらくない


町田:
こういう大変換期の時は、昔にしがみついてネガティヴに考えず、未来に夢を描くいい
こうなったら楽しいな、と思うところにいい答えが出てくる


相田:
買うのも使うのも消費者だから、安全性、環境問題、雇用などの根底で不安があればいけないし
進化しすぎてクルマ離れになってしまったら本末転倒


町田:
こういう時に一番欲しいのは国の後押し
ルールをきちんと決めるとか、規制を緩めるとか、道路の整備とか


中西:
自動車の産業政策は2012年に設置されていて、
2013年の「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」がよーいドンのスタートだった
ちょっと時代遅れの感があるので、ビジョンを早く示さないと
末端の部品メーカーは非常に悩んでいる

大聖:CO2を出さないような電源にしていかなくてはならない


議論は尽きないまま番組終了



<グラフィックレコーディング>








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『幻影の構成』 眉村卓/著(角川文庫)

2017-11-10 12:24:00 | 
『幻影の構成』 眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓著 カバー/木村光佑(昭和年52年初版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。

[カバー裏のあらすじ]
時は未来のある時代。
人々は美しい町“第八都市”で、イミジェックスと呼ばれる銀色の小箱からあらゆる情報を得て平和に暮していた。
その小箱は人類の万能の家庭教師であり、娯楽施設であり、マスコミ機関であり、人々は絶対的信頼を置いていた。

“―――が、これは本当の平和だろうか? どうしようもない人間の頽廃ではないだろうか・・・?”
そう思った一人のアウトサイダーがいた。
しかし、それに気付いた時にはもはや、イミジェックスを利用した宇宙人の侵略が始まっていたのだ!

現代の情報化社会に、そして人類の未来に、鋭く刃をつきつける眉村卓衝撃の長編SF!

***

以前読んだ解説かどこかで、眉村さんが初めての長編に、
これまでのサラリーマン生活などの鬱屈などを叩きつけるように書いたというような記述があった覚えがある これがそうか

覚悟して読み始めてすぐ、現代とあまりに相似していること、
これからの「未来」について考えさせられ
1ページ、1行読むごとに頭を抱えて、背筋がゾッとした

イミジェックスは、今のスマホなどの機器に簡単に置き換えられる
地雷区域に気づかずに入るほど我を忘れて没頭する娯楽ゲームや、スピーディに消費される音楽etc...

都市に溢れるポスター、音、煌びやかな動画の看板の情報の渦
1人ひとりの閲覧記録を分析して、その人の嗜好に添った大量の広告を垂れ流すAI技術

政府ではなく、大企業のトップが一般市民を操る世界構造
あらゆる問題、真相が見えていながら、無関心にさせる意識下へのコントロール

“宇宙人の侵略”部分がなくても、これだけで充分な警告だ
しかも書かれたのは昭和52年で、舞台は2000年
やっぱり、眉村さんは、ヴェルヌ同様、未来を垣間見てきた1人ではないだろうか?

一見すると、地方から大都市に上京したてのカルチャーショックと片付けることも出来る
でも、「なにかがおかしい・・・」と勘付き始めてから、なにもかもがウソに見えてくる
知らなかったほうが“幸せ”だった虚構の現実世界

途中、何度も頭を整理しながら、1度では理解できないことも多く
先を読みたいが、真っ黒な闇に引きずり込まれる薄気味悪さと戦いながら読んだ



あらすじ(ネタバレ注意

<はじめに>

よくある喫茶店にビジネスマンが数人入ってくる
一人が思いつめたように「宇宙人の話、させてくれ」と何度も訴えるが
無視して、店の印象や異動の話を続ける同僚たち

この時、あなたは笑うだろうか この小男を追いかけて問いただすだろうか?
あなたは決してそんなことはしない 「映画でも見ない?

それでいい それが常識なのだ
宇宙人などは幻影だとよくご存知なのだ

(幕、ひらく)


第一部

ラグ・サートは必死に逃げている 気付いた時は、水溜りに倒れていたのだ
周りの荒廃した町の様子を見て(ここは俺の2020年の都市ではないぞ!)

彼は、一般市民を統制する「中央登録市民」の制服を着ているのを誇りにしていた
(こんな訳の分からない世界で終わってたまるか)

そこにパトロール・ロボットが近づく音が聞こえてきた
彼らはいったん対象を追うと、決して獲物を逃がさない機能を持つ
(俺は今ではパトロール・ロボットを駆り立てる身分だ こんな馬鹿なことがあるものか)

走り続けたが、すぐ目の前にパトロール・ロボットが映り、麻痺カプセルが胸に刺さった
(やっとの思いで「第八都市」の「中央登録市民」になったばかりなんだ・・・)



その美しい町は「第八都市」と呼ばれていた

「ご覧 これがお前のイミジェックスだ

幼いラグに1辺が10cm弱の銀色の小箱を渡す母
中にはイヤホンが入っていて、耳にあてると楽しい歌声が聴こえてきた
母:これからずっと、お前もそれを使って、ちゃんとした人になるんだよ

「イミジェックス」は、市民の家庭教師、情報伝達者、感受性育成器
聴く人間の年齢、立場に合わせて情報が送られ、同じ内容は2台とない
その人間に合った娯楽を提供し、その放送なしには市民はどう生活を送ればいいのか分からない

集合住宅にあるラグの家には、食料供給栓にはじまり欲しいものはぎっしり揃っている
だが、イミジェックスはあとからあとからいろいろな製品を知らせる

家には1日の労働に見合った計数値と、消費が記録されたメーターがついている
消費した分だけ減り、大きな買い物の後は必ず、必死に働きつづけなければならない

ラグが12歳の時、隣りに可愛い女の子がいたが、ある日突然引っ越した
母:欲しがりすぎたのさ 計数値がマイナスになって、取り返すためにもっと小さな家に移ったの
ラグ:イミジェックスが買えって言ったんだろう? その通りにしてなぜいけないんだ?

母:うるさいわね 私の番組を聞かせて
ラグは二度と質問しなくなった

自分の住む「第八居住区」から、初めて他に出かけた日
ラグ:奉仕マンだよ!

白い制服を着た奉仕マンと呼ばれる「中央登録市民」は、市民の生活を守る専門職で
一般市民とは別種とさえ思われている

ラグが興奮して駆け寄ると「なんだこいつ!」とためらうことなく銃の引き金を引いた
父:奉仕マンの仕事の邪魔をしたから、神経麻痺銃で撃たれたんだ あんな真似をするんじゃないよ

ラグ
(奉仕マンは市民の生活を守る偉い人たちだなんてウソだったのか? イミジェックスはウソを教えたのか?



強い日差しの下で半裸で働くのは辛い仕事だった
ラグ:なぜ奉仕マンが監督するんだ?
父:奉仕マンの悪口なんて言うもんじゃない イミジェックスは奉仕マンが我々のために働いていると言っているじゃないか

ラグ:
僕はあんなもの信じてやしないよ 登格テストを受けて、白い制服を着るんだ
中央登録市民になれば、奴らに監督されることもないからね

イミジェックスはラグの不信に気付き、女性への関心を植え付けはじめ
仕組まれたかのように口をきくチャンスが増えたことに気付いた
だが、ラグは必死に抵抗した

(誰かがプログラムを組んでいるんだ
 俺たちをコントロールしようとしている連中と肩を並べ、踏みつけてやる



25歳になったラグは、6回目の「登格テスト」を受けに来た

委員:なぜ一般市民で終わろうとしない? お前の心は歪んでいる 一番幸福なのは一般市民なんだ
ラグ:義務も権利もない

委員:
君は今度はパスするだろう 8時間の気違いじみたテストを乗り切り、成り上がりの1人になる
それが君の地獄の始まりで、死ぬまでそれは続くんだ

恐怖テストでは、心理制御学の域を尽くしたイメージをスクリーンで見せた 悲鳴をあげる者、嘔吐する者
「君らの行動は、呼吸ひとつまで完全に記録されている 逃げるか、耐えるかのどちらかだ」



「明日から1週間“圧縮学習”を行う」

20名の登格者はラグを除いて、中央登録委員の子として小さい頃から訓練を受けている
本年唯一の“成り上がり”のラグは、最下級の「第四級中央登録市民」の制服を着た



パトロール・ロボットに捕まったラグは、四肢を縛られ、ベッドの上にいる
(手足の1、2本折れても逃げてみせるぞ)
強靭的な力で手足の金属を切って逃げる 再び捕えられたらすべては終わりだ

前に広がる森を見て、体が震えた 恐怖の中でも最高のものの1つだ
都市と都市の間には森があり、連絡ハイウェイが通じている
森へ近づくな 危険だ とイミジェックスは繰り返していた
森に入ってもパトロール・ロボットは追ってくる

不意に石質の建造物に当たった
塀が崩れて穴になったとこに体を押し込む

第八都市だ! だが、どこか違っている

(あの建物はあんなに汚れていただろうか
 奉仕マンの制服はズタズタに裂け、市民たちも妖怪のように疲れて濁った目をした痴呆に見える


第八居住区まで来た時には、ほとんど精神錯乱状態だった
母:ラグじゃないか! この2日間どこに行っていたんだい?
(たった2日だと? これは母に似ているが母じゃない はるかに老いている)



主管委員のハクソン・Dは主管委員室にイラついて入って来た
(なぜ私があの愚鈍な第八都市の60万の豚どもの面倒をみなきゃならないんだ?)

D:
我々が月に1回、ハイウェイを通って本社に行くのを遊びだと思っているのさ
地方都市など、眠っていても統治できると考えているらしい

マエダ:統治じゃない 奉仕だ

D:
一般市民の購買欲求はまだ不足だと言う 近頃の本社提供情報はどこか狂ってる

マエダ:
4日前に行方不明が1人出た れっきとした四級市民だ
ラグ・サートという今年唯一の成り上がりだ
クルマを飛ばして、東端の境界にぶつかり、現場に駆けつけたらどこに行ったか分からなかったが、彼は帰ってきた

D:まさか!

マエダ:
第三カモフラージュ地帯から徒歩で自宅に帰った その後「圧縮学習」を受けた 幸運だったよ

D:
(ただの幸運であっちへ行った人間が戻れるわけがない
 他の委員に気付かれないうちにそいつを自分の手足にしよう
 つい昨日まで実行不可能と思った“ある計画”に着手できるかもしれない


Dの担当部門は「運輸・配給管理室」
間接制御系統は「イミジェックス・センター」内の人工頭脳の「直接制御系統」にすべて管理されている
人工頭脳は奉仕者たちを隷従させようとしているように思える


【中央登録市民の合同打ち合わせ@カガ・ホール】

打ち合わせといっても、いつしかパーティにかわり、ストレスの多い中央登録市民の憩いの場となっているが
収容人数300人ほどのカガ・ホールに、1000人以上の中央登録市民は入りきらない
だが、新入りのラグはきっと来るだろう

マエダは妹のユリを、一番若い主管のDと結びつけようとしていることに気付きながら
Dは年長の同僚に対して、保身のために適当にかわしながら、ラグを探す

ラグのDをも恐れぬ不敵な態度を見て「こいつを僕のアシスタントに回してもらうよ」



食品工場の運転が停止したと緊急報告が入る

D:このままじゃ明朝の食事ラッシュにしみんなを満足させることは出来ない

マエダ:
要員を急行させた 邪魔するロボットも射てと命令した 不足すればいくらでも中央市から回してくれる
奴らはロボットを売りたくてウズウズしてる こんな事例は初めてじゃない

発電所からの動力線が、なにか鋭利な刃物で切断されていたと報告がきて、現場近くにラグがいたと連れて来る
ラグ:妙な生き物が見えました 気付いた時には町中に走っていきました
他のアシスタントは何も見なかったと報告し、錯視現象と認定される

D:
(都市というものは精密な機械のようなもので、どこかわずかでも狂うと、たちまち致命的な影響を受けるんだ)
中央市の本社へ、第八都市のイミジェックスを告発する

マエダ:気が変になったのか? もし告発に失敗したら・・・

D:
設置されたのは1980年で、あれは古くなりました 劣化の可能性も大いにあります
アシスタントとしてラグを明日連れて行きます



第八都市に帰還してまだ4日目だが、どう考えても何か狂ってるとしか思えない
惨めに老けた父母、剥落だらけの居住区
鮮やかだったはずの図書館なども傷みきって、中には存在してない建物もある
イミジェックスは、第二街区の6階で開かれた奉仕会議について放送しているが、ビルは4階建てだ

「圧縮学習」では、強制的に催眠状態にされ、膨大な知識を詰め込まれたが
すでに不信感を抱いているラグには、缶詰教育を鵜呑みにはできなかった
(記憶は幻影だったというのか? ではイミジェックスはなぜ・・・?)

イミジェックスを耳にあてると楽しかった
だが、イヤホンをとるとすべては塵塚だ

今では中央登録市民の高収入で広い家に移り、イミジェックスのけしかけにより父母は毎日買い漁っている
買っても使うわけでもなく、娯楽施設の集まった第三街区へ通い続けるほか時間を潰すことがない

イミジェックスがあるかぎり、もはや家庭的団欒などは存在しない
あるのは、経済共同体としての購買小集団だけなのだ



中央市に向かうハイウェイに乗る

D:
君はイミジェックスが好きか?
私が第八都市のイミジェックスを掌握すれば、君も一般市民あがりには許されない役職につくことが可能だ
手伝う気はないかね? 君は適格者だ 経歴、荒々しさ、その狂気が欲しいんだよ
私は君の上司だ 任免権を握っている

昔、存在した教育機関、マスコミなどは、今じゃイミジェックス1本に置き換えられている
イミジェックスは、中央市の本社からレーザー回線で各都市に送られ、小型の人工頭脳にかけて有線で放送される
私は最近、その内容が少しおかしいと思いはじめた あまりにヒステリックだ

都市が自主性を持つにはどうする?
回線は都市南端にあるアンテナから、地下ケーブルでイミジェックス・センターに送られる
センターには、非常時に備えて1個人の思考を伝える装置がある それを使えばいい

中央市にはそうした“本社”がいくつもある
「1業種1メーカー」と呼ぶが、各コンツェルンは、自給自足できるよう全産業を持っている
我々はカガ・コンツェルンだけだ
だが、コンツェルンとまったく関係ない「自由民」と呼ばれる連中も住んでいる

ラグ:(中央市についてもイミジェックスはウソをついていたのだ!)
だが、まだ得体の知れないものに賭けたくはなかった


【中央市】

ビルの壁いっぱいの発光板が明滅し中央市には夜がない
「虹のアーチ」と呼ばれるものが象徴的にそびえ、どう見ても資材やエネルギーの恐るべき浪費だった

通りの人々の半数以上は制服ではなく、まったく自由な服装だ
服がこれほど千変万化になり得るとは想像だにしなかった

ムービング・ロードからさらに高速で時速150キロのベルトウェイに移る
料金は身分証明書から引かれるのではなく、「エン」という貨幣を使う

D:
信用経済はここでは成立しない 我々の本社の中央市での比重はゼロだ
そのゼロに我々は命令され、余剰生産物を吸い取られているんだ バカな!

ラグは自分が這い上がった分、それ以上のスピードで、彼自身の世界が小さくなるのを感じた


【カガ・コンツェルンの宿泊所】

窓から外を見ると、ビルの群列 全く同じビルが間隔をおいて幾何学的に並んでいる
だが目をこらすと、その向こうにはでたらめな風景があった
これが中央市なのか? ただもう広大で、入り組み、そこに“在る”だけなのだ

D:
君が見ているのは中央市の全貌ではない
中央市はかつてメガロポリスと呼ばれていた都市連合体だ
我々は西部から入り、今は中部地域にいる
あのビル集団は、各コンツェルンの本社だ

君はなぜ驚かない? もっとショックを受けるのが本当じゃないか
君はイミジェックスか、目の前の風景のどちらかを信じなければならないはずだ
どんな方法で潜在意識にわたる支配から逃げ出したんだ? 君は何か僕に隠している

ロボットが入ってきて、「食事をされますか?」などの質問に答えるまで繰り返す
最後は型番を言って「詳しくはカタログをご覧ください」

D:中央市のピントはずれのほんの一例だ


【中央市会議@第15号館】

D:本社独得の晦渋趣味だ
ラグ:(ここの連中はよほど偏執的で歪みきっているのではないか・・・)

丸い室の中央に円形のテーブルがあり、4人の制服の人間がいた

壁の真下には・・・あの異形の生物がいる!!
ラグはDに小声で指摘するが、Dにも、他の4人にも身長1mもある怪物は見えない
生物の動作は知能のあるものだった

青年らはDの報告に唇を歪めた

「生産配分がおかしいのは分かったが、君が思っているだけかもしれない
 他にどんな証明の方法がある? 原子保存は、人間じゃチェック出来ない
 プログラムの歪みをどうして見つける?
 これを却下したら、君が主管の地位をほうりだされることも知っている
 イミジェックスは、いったん反逆を企てた者を許しはしない」

ラグ(この少年じみた本社員らは、はじめからDの説など聞く気はなかったのだ)

D:うちのパトロール員が、回線中継所が破壊されているのを発見した

彼らはおかしくてたまらないというように笑った

青年:
第八都市の人工頭脳は狂っていたのさ 今日の会議はそれを通告するためだが、面白い趣向だったろ?

ラグは青年たちとともにあの生物がついて出て行くのを見た
あの奇妙な現象はここでも起きている
見えないものを見たと感じ、現存するものを認めない
内部でなにか崩壊しようとしていた
巨大な都市機構のすべてが今や幻影のように見えはじめた



第二部

勤務を始めて10日もしないうちに幻滅を感じていた
同僚はラグの粗野な態度や、真面目さを怖れながら軽蔑している

ラグは中央市行き以来、在室中はイミジェックスのイヤホンを外していた
それは麻薬の禁断症状に似て、おそろしい苦痛をともなうが
驚くほどの克己心で誘惑に耐え抜き、1週間にもなると苦痛は遠のいてきた

夜、奉仕ビルを出ると外は雪だった
メインストリートに突然、燃えたクルマが突っ込んできた
あの昆虫に似た怪物も見た 奴らが襲ったのか?!

中の2人の男は息絶え、倒れている1人を抱え上げると女だ!
彼の闘争心を鈍らせ、生活に安住させようとする女と親しくなることをラグは避けてきた

だが、この女が第八都市に属していないのは服から明らかだ
あの化け物が何か知ることができるかもしれない 保身欲と、好奇心が揺さぶった

3人の中央登録市民がクルマを発見し報告に行ったのを見て、家に連れていく決心をしたが
それには遊技場で賑わう第三街区を抜けなければならない

女:
私の姿は、あの連中には見えやしないわ 先入パターンの比率が大きいから・・・
私、死にそうなのよ 私は後についていくわ

自室でひととおりの手当をし、ラグは女を質問攻めにした
ラグ:どうしてオレには見えるんだ 教えてくれ!

パトロール・ロボットに追われて森に入った経緯を話した
女は中央市の自由民の娼婦でマギといった

マギ:
パトロール・ロボットは侵入者を捕えて、頭脳クリヤーをして、上級市民に引き渡す
白痴処分して追放するの 各コンツェルンはそれぞれの都合のいい先入観を植え付けなきゃならないから

あんたたちは、何ひとつ本物の現実を知らない
イミジェックスで思考形態まで作られるから

そのイヤホンを耳につけている間は、イミジェックス・センターに記録されてるのよ
市民がどんな傾向を好み、どんな話を避けるかも判る

さっきクルマが見えたのは、雪で既成パターンが変わったから 異物とバックの比率よ
いくらイミジェックスが働いても、わずかなバックだと透明人間は姿を現すってわけ

人間はものごとの形や意味を先入観にあてはめる
よほどの変化でない限り、気付くには絶えざる注意が必要なの

建物や人間は万古不変のはずがないのに、人々は自分の都市が文明の極致みたいに考えている
飼育された人間は物体を潜在意識では認めながら、表層意識では拒否する 無意識に目をそらすの

虫どもは、地球外から来た宇宙人よ
イミジェックスに安住している人間を思い通り支配して奴隷にしようとしてる


中央市には昔ながらの生活をしている自由民がいて
イミジェックスで滅亡に向かってるのを止めようとして革命団を作っている
私に教えてくれたのは“先生”というあだなのフナダと、ジャンクというタフなリーダー

私にはある人間に会って、イミジェックス機構を内部から破壊するよう働きかける目的がある


話を聞き終わり、ラグは今までの半生を思った
すべてを賭けた空しい努力、白い服への憧れ、長い屈従・・・

復讐だ 俺は今こそすべての人々の解放という自分の真の目的を発見した
それには、迅速、徹底的に実行しなければならなかった



ラグはマギの言うとおりすぐ都市から脱出するか、Dに加担するか選ばなければならない
簡単に切り捨てるのは難しい Dの先手を打てば、主管委員の肩書きももらえる可能性がある

侵入者事件の調査は順調に進み、居住区がしらみつぶしに調べられている
父:お前のイミジェックスが壊れていると通達書がきた なぜ早く届けなかったんだ!

組織はなかなか迅速に反応しないが、一歩一歩、確実に対象を追い詰める
誰が指揮せずとも、何百もの手続きによって、結局は正確に検出し、命令し、処断するのだ


D:どこへ逃げよう

マギ:
中央市に決まってる ジャンクの仲間になって闘うのよ
イミジェックス機構と宇宙人を切り離さないと、みんな本社や都市の命令だと思って服従しているうちに
思惑通りの生産構造や、奴隷制度がいつの間にかできあがる

マギの接触した一般市民はDだった

荷物をまとめ、夜、外に出ると、もう緊急時に出動する保安部のクルマが自宅を目指している
マギは青酸銃で撃たれて死ぬ 現れたのはDだった
やはりDはラグが捕らわれて、自らの陰謀が公になるのが怖かったのだ

D:君はもう中央登録市民じゃない
ラグ:この女は、マギなんだぞ!

Dは白い顔で侵入者を見たがすぐに笑った 「あり得ないことだ」
ラグはDの首を締め、要員たちは一級市民を殺してしまう危険性から手が出せない
その隙にラグは森に走った



ハイウェイ沿いを果てしなく歩き、疲労がどっと襲いかかる

そこにあの昆虫が迫って来た 反射的に点火具を押しつけると可燃性の肉体なのか燃え上がった
笛の音が聞こえ、クルマがヘッドライトを向けた
多様なボロをまとった集団が火炎放射器のようなもので虫と森を焼いた

彼らの様子は痩せこけ、おかっぱのような髪型だが、不思議な感動にうたれた
1人1人にハッキリした個性があるのだ

男:いっしょに来るのか来ないのか?
ラグ:行こう 君たちはジャンクの仲間か?
男:その通りだ

トラックの荷台に乗ると
男:俺たちは仲間を捜索に行った イミジェックスの秘密を探りに出て、もう2週間も帰らない

ラグは事情を話した



着いた場所は、傾いた木造の家々だったが、名状しがたい懐かしさを感じた
たしかに人間が暮している感じだ

奥には2人の男が座り、先ほどの男はクリタと呼ばれた
ジャンクにいきなり重いストレート、強烈なアッパーを食らい
ラグは初めて生命の危険を覚え、無我夢中で相手を旋回させ、首を締め上げた
次の瞬間、盛んな拍手が2人を包んだ

ジャンクは座り直したが明らかに結核かなにかの病気だ
「今日はもう休む 先生、こいつに入団の儀式をやってくれ」

古い巻紙は、一種の連判状のようなもので、ラグも署名した
老人:これから慣例により長い物語を聞かねばならん 今の世がなぜこうなったか 私たちが何をなすべきか
ラグ:聞かせてください 先生

フナダ:
20C後半は、いろんな連中が未来像を作り上げようとした
その頃すでに社会は、それ自体有機体の能力を得て、未来予測は困難になっていた

当時の人間は大別して3つに分けられる
伝統的古典的教養で人間生活のあり方を考えようとする文化人
分化する科学・産業の中で、自己に埋没した専門人
3つ目は“大衆”と呼ばれた一般人

この構図が狂いはじめた 社会で生き抜くには専門的な仕事につかなければならなくなった
大衆社会が「専門家集団」に変質した

企業は吸収合併を繰り返し、巨大に成長した
アダム・スミスの“神の見えざる手”)は、再び復活したかに見えた
「欲望の資本主義~ルールが変わる時~」とリンクした/驚

放任経済が統制経済にかわり、社会は多数を代表する少数の社会人に握られた
文化人は無力化した 未来に何がやってくるかちっとも判らなかった

まずはじまりは「都市集中」という現象だ
人数が増えると、コミュニケーションの機会は幾何級数的に増えていく

はじめは立体テレビ電話網だったが、そのせいで人口の都市流入は減少しはじめた
慌てたのは企業だ 1960年にはもう傾向は見えていたが、
大企業にとって、複合寡占状態のもとでは、消費地は密集しているほうが有り難い

それが「消費都市の造成」につながった
自分たちの商品しか買わない住居群を作れば、販売は安定する

都市の周りは工場群を並べ、従業員に社宅街を与える
採算割れを防ぐために採用されたのが「イミジェックス」
マスコミュニケーションからパーソナルコミュニケーションになればいい

“自分の目”を持たない人々は有り余る情報の中で溺れていた
こうして企業群は、自分の系列の消費地を持ち
総合産業としてコンツェルン・システムを作った

我々「極東経済圏」は、いくつかのコンツェルンに分かれ、上層部だけが結びついた協力体に操られる
形だけの政府を通じて、最低限の貿易はするが、分厚いカーテンをおろし合っている

1999年頃から総人口が減り始めた(少子高齢化まで予測してる もうずっと前から判っていたのか?
コンツェルンは、イミジェックスに「意識下統制」を強制した
今では「視覚転換」の力さえ持っている
これは「修正資本主義」の最後の形かもしれない

やがて大企業のトップに私物化されれば、景気変動も経済成長もない
あるのはただ慢性化した不況だけ イミジェックスでその観念さえなくなる

2000年以降、大部分はイミジェックスの虜になった
なぜ人々は従ったか? 世界は「平和待望ムード」にあった

ショックを受けること、考えること、不安な情報には目を閉じ
子どもの教育、野菜の値段、昇給、娯楽に浸っていれば満足な人々にとってこれ以上の社会機構はない


それでもまだ約2000万人が自分なりの生き方をとろうとした
「自由民」には生産物の余剰を高く売りつけ、従業員として地方都市に送った
「中央登録市民」と「一般市民」ができた理由はそこにある

「中央登録市民」は最初から企業に属していた連中で、
「一般市民」はイミジェックスで安楽に生きている

地方都市で合成食品などをつくり、コンツェルン本社に収容する
生産配分の図式を保っているのがイミジェックス
かつて情報を管理するものは人間を支配したが、今は情報管理の体系を所有するものが支配する


この一番悪い時に来たのが虫どもだ
地球の社会体制がこうなるのを予測して待っていたのかもしれん
昆虫の進化したものらしいが、気付いたらあちこちに存在していた

彼らは自由民地域にはこない イミジェックスに支配されている人々のところに来る

コンツェルンは、自己の都市にアイキャッチャーや、レタの統一などでパターンを作り安心感を与える
宇宙人は、イミジェックスを使えばそれでいい
地球の産業形態を好みに仕立て、奴隷人間を作るのは簡単だ

わしらの団体は結成されて9年になる
わしらの工作が連絡網を壊したりするたび、宇宙人はコンツェルンも気付かぬうちに修復する

最近、わしらの存在に気付き、攻撃してくるようになった
奴らは人工照明の下でないと行動しない

多くの犠牲が出た
誰もイミジェックスがどう運営されているか知らない
第二は武器の不足 クリタが乏しい材料で作り出そうとしているが全然足りない
第三にして最大な問題は、現リーダーのジャンクの病気が悪化している

指導者は生まれつきの素質だけでなく、特殊な環境があって生み出される
一種の負い目を持ちつつ、仲間より一歩進んだ意識がいるのだ

世の中を要領よくわたる連中が100人いるより、
世に軽蔑されるぐらい気違いじみたひたむきさを持つ数人の男が役に立つ
たとえば、あんたのような男だ



ラグの仕事はある時もない時もあった
多くはコンツェルンの下請けか、富裕な自由民が経営する店の手伝い
大通りをうろつき、求人情報をたよりに出かけるほかない
時々、専従者の誘いも受けたが断った(正社員みたいなものか?

ジャンク一味の集会所は学校も兼ねていた
フナダはイミジェックス以前の流れを汲む社会学者で団員に哲学、歴史、科学などを教えている
クリタはフナダから小さい頃から教育を受け、乏しい材料から武器を作る特技を持っている

中央市では20C後半以来、何ひとつ変わらず、昔の農村のように頑固で、閉塞的で、すさまじい消化力をもっていた
ラグはイミジェックスをうまく使ったほうが“あるべき社会”を作り出しやすいのではと考えていた

ここでは放火、殺人、強姦などが次々起こり衝撃を受けたが
おそらく第八都市でも起きていて、事件はすべて消されていたのだろう

夜になると護身用のパラライザー(神経麻酔銃)を持った本社員がロボットを護衛につけて
バーや娼婦館にやって来る

ラグのいる中部ではまだ少ないほうで、東端は住民の大半がコンツェルンに頼っている
イミジェックス・センターを破壊するには、コンツェルンの防衛線を突破しなければならない
自由民100人ほどで一体何ができよう

クリタが宇宙人について調べると、昆虫は蝶以外赤色は見えないが、
彼らは赤外線のほうが見えていて、夜にしか飛ばないと分かった

クリタ:
わずか30年前は、水爆、中性子弾、細菌兵器、すごい武器がたくさんあったんだぜ
その中でレーザーが有効だ 何でもたちまち溶かしてしまう


ラグ:
それには少なくとも地方都市の1つは押さえないと不可能だ 何千、何万という作業員、工場がいる

2人が長屋に戻ると火事で燃え盛り、死傷者があふれていた
ジャンクは全身火傷を負い、焦げたボロのように生涯を終えた 負傷者にはフナダもいた


ラグは今や70名近い団員をリードしていた

ラグ:
コンツェルンと宇宙人の両方を敵に回すのは不利だ 我々はまず宇宙人を攻める
中央本社の干渉をはねのけて地方都市の独立性を持とうとしている一級市民を知っている



第三部
ハクソンは人事主管のマエダが自分に反感を持っていることに気付いていた

マエダ:
あのラグという男が消えた時、君は自ら出動した 明らかなマイナスだったんだぞ
今夜の当直は僕だ よく考えたほうがいい

D:(私自身がイミジェックスを支配するほかに救われる方法はない)

夜になると、Dは一般市民を招集して森に入り、根ごと掘り起こせと指示し、すぐにバスに戻り、奉仕ビルに戻れと指示
(奴らは地下ケーブルまで切断してしまうだろう 一刻も早くセンターに到着しなければ)

センターの番人がDを止めた

マエダ:
何か、イミジェックスに用件でもあるのか?
何を考えているか分からんが、僕と仲間になるほかはないよ

マエダがDよりはるかに陰険な権力主義者だと今初めて悟った
そこに工事にかかった一般市民がみんな燃え上がったと報告が入った

マエダ:
関係者の記憶を消去すれば表面上はおさまるだろう 2人で相談しないか?

絶望しているDの前にラグが現れた
D:よく帰ってきたな まだ追われているはずだ 私がかくまってやろう

ラグは相変わらずのDの態度に怒りを覚えたが、仲間によってDは地面に倒れ伏した

ラグ:
この1週間ずっとお前の動きを追っていた 
俺たちはお前の計画を手伝いに来たんだ


第一街区に入ると、朽ち果て、歪み切った虚像の廃墟だった
主管委員室の廊下で虫が現れ、火炎放射器で焼くと、仲間は委員を締め上げた

D:
お前たちの統治はもう終わりだ すぐに本社との連絡を絶て
パトロール・ロボットが受信アンテナを壊せば、この都市は単独で統治することになる



Dとラグはイミジェックス・センターに向かい、ダイヤル錠でドアを開けた
そこでは機械そのものが生きているのだ

D:ここは人工頭脳の世界だ あとは非常事態用のヘルメットをつければいい

たったこれだけで、第八都市60万人の思考を支配していたことにショックを受けつつ
ラグはDの首を締め付け、ヘルメットをかぶり思考で呼びかけた

これは重要な情報だ!
 都市に宇宙人がいる そいつらを殺すのだ 奴らを全滅させるまでやめてはならない!
 武器を大量生産しろ! すべての部門は、この戦闘のための研究、作業を始めよ
 都市には一級市民の上に“指揮委員”が置かれた すべての権限は彼らにある!



娯楽施設だった第三街区には突貫工事で工場が建った
クリタの白い制服にも“指揮委員”のマークが描かれている

クリタ:レーザー搭載の装甲車は明日出来る
ラグ:奴らの攻撃隊は中央市で集結しはじめている 今夜中に仕上げろ
クリタ:イミジェックスっていいものだな やはり組織だてて仕事をするほうが有り難いってことだ

イミジェックスを聞いた一般市民たちは、即刻戸外へ飛び出し、宇宙人を叩き殺そうと彷徨した
これまで中央登録市民らしか携行できなかった武器も供与され、第八都市内の宇宙人は駆逐された
わずか半月で、強制移転、研究所建設が行われ、見事に戦闘都市に変貌した

ラグはカガ・ホールに向かった
中央登録市民は、一般市民ほど指揮委員に心服しなかった

ラグ:
今夜いよいよ宇宙人との戦闘が始まる 諸君は奉仕マンだ!
真正面からぶつかる実力を持っているはず 参加してくれ

手をあげたのは十数名の四級市民ばかりで、彼らを即時、昇格させ配属させることにした

主管委員:我々には適性というものがある 我々に出来る仕事が欲しいんだ
ラグ:一般市民がそう言った時、諸君は“仕事に自分を合わせろ”と言った

反対する委員をラグはためらいなく青酸銃で撃ち殺したことに衝撃が走った
D:長続きしやしないぞ 支配者は支配者 下司は結局は下司に過ぎんのだ


ラグは宇宙人の絶対数が少ないのではないかと思ったが
「ハイウェイを奴らがやってくる」と報告が入った

青白い円盤が現れ、あっという間にいくつかのビルが爆発された
それなりに連絡網を作ってはいたが、いざ戦闘が始まるとほとんど役に立たなかった
ラグもクリタも組織を使う訓練は受けていなかった
大部隊の指揮官能力、参謀の適性がなかったのだ

クリタのレーザーが1台の円盤にようやく当たって落ちた後、なぜかほかの3台はそのまま去って行った
形勢が逆転するや、追撃の動員令を出した
奴らの逃げる道はハイウェイしかない 両側の森は片っ端から火をつけた

ライトを照らすと手に棒や石をつかんだ人間がぎっしり並んでいた
ラグ:カガと違う系列の都市の住民だ 押し通れ!
(イミジェックスで駆り立てられているだけの彼らを、まるで虫を踏み潰すように殺さなければ、俺たちの目的は達せられないのか?
 俺は、結局ハクソンやマエダと違わないではないか?


突然、あたりが白昼のごとく輝き、やわらかな声が流れた

“地球の諸君 どうして我々の真意が分かってくれないのだ?
 我々の厚意を受け取ろうとしないのだ?
 諸君は、ようやく文明に有機性を与えた
 それを望ましい方向に導こうとする我々になぜ反抗するのだ”


空には無数の円盤が不気味に光っていたが、やがて消えて行った

ラグ:
円盤は、もう来ないよ
奴らは諦めたんだ イミジェックスを利用して人間を高みに引上げようという試みを

クリタ:
俺たちはついに宇宙人とイミジェックスの両方を追い払うことに成功したんだ!

ラグ:
(ちっとも嬉しくないのはなぜだ・・・?)
俺には判る 不意にイミジェックスから切り離された連中が何をするか・・・

人間の欲求を、個体の集合体である社会がすべて満足させるわけにはいかない
社会はいかにそれらを有効に利用し、秩序を保つか

いかに公正に不公平を作るかという矛盾した命題を解決しようとして、歴史は実験を繰り返してきた
社会秩序を支えるのは「法」「慣習」「道徳」だった
だからイミジェックスに価値があったのではなかろうか?


人間が不可能と知りながら実現させようとした社会的規制と、個人の欲求の表裏一体化が可能になったのではないのか?
今や、何がものさしか、誰にも分からないのだ

一般市民は奉仕マンに「イミジェックスを!」と不満をぶつけた
次は奉仕マンが焦りだした 彼らは中央市の本社から送られる情報を待ち、本社に行った使者は消息が知れなくなった
狂気が伝染病に広がっていった

自由民は群れをなしてコンツェルン本社に向かった
完全な無政府状態 群衆同士が理由なき敵意のもとに至る所で激しい衝突を繰り返した

クリタ:
今まで散々ふんだくってきた報復を受けているんだ!
エン、医薬品、合成食品などをすべて奪い取ろうというんだろう
俺は先生を探しに行く

ラグ
(1個の人間が自分の信条に従ってやることのなんと独善的なことだろう なんと空しいことだろう
 俺はもう心身ともに疲れ果てている 休むのだ)


パニックが長引くと深刻な食糧問題が起きた
中央市からどっと難民が押し寄せ、地上は相変わらずの地獄絵

長屋に着くと影も形もなく、女に聞くとフナダらはずっと前に第八都市に行ったという
女:ラグさん、あんた私らを助けてくれないか みんなで力を合わせても、指揮する人がいないんだよ
ラグ(俺はここで1人の自由民として生活を一から始めよう)



ラグがバラックが寄り集まったに住みついてから2年余りになる
天然食品の生育は比較的順調に進んでいた
イミジェックスの解放は、慢性的な飢餓、病気への不安となっていたがラグらは幸運だった

そこにフナダが訪れてきた カガ・コンツェルンの指揮委員の制服を着ている
クリタも第八都市にいるという

フナダ:
宇宙人が地球のためと思ってやったことは、所詮奴らの望む文明を地球に生み出す度が過ぎた干渉だった
だが、あんたは今の暮らしが最上とは思っているまい

第八都市は今、復興の中心地になろうとしている まだあの時の体制は生きているんだ
だがそれではとても間に合わない あらゆる設備が朽ちて、技術は失われる
てんでばらばらに試行錯誤をしているうちに、人間は数百年後退したところから始めねばならないだろう

我々の結論は、イミジェックスを復活させることなんだ
現存している文明レヴェルまで人間を誘導する
わしらと似たような組織は世界各地に存在していたことが判った
クリタが世界に呼びかけたら至る所から返信があった
中央市で今、国際会議が開かれている
会議で、世界の復興は歴史の折り返し以外はないと結論に達した

住民たちにはここで歴史が歪んだことを忘れさせる
それからあとは人間全体に任せればいい


Dやマエダは、昔、白痴化された人々や、ショックで変調をきたした人々の治癒にあたっている
頭脳クリヤーの原理で可能だ 彼らは専門家の力を持っている
これは大きな仕事だ 一人でも協力者が多いほうがいい ラグ、やってくれないか

イミジェックスが同じ形状をとることはもうないだろう
初期のラジオのようになるかもしれない


現状を復元後、イミジェックスを自動的に捨て去るやり方をラグは気に入った

(所詮、俺は俺以外の何物でもないのだ
 どうしても満足のできない男 そいつを認めるほかはない)


月光を浴びて、静かな微笑が浮かんだ
生まれて初めての静かな表情だった



<ふたたび>

日曜の百貨店
子どもたちが走っている 笑っている 跳ねている

このきらびやかで雑駁な小型世界に初老の紳士がやって来た
彼が手に持つロボットを見た商人は「宇宙人ですか なるほど」と言い、馬鹿げていると言いたげだ

ラグ
(もはやあるのはただ、戦後からの輝かしい復興の記憶だけだ 誰もそれには気がつかない
 毎日が平凡で1年、また1年と生きる人々は、それぞれの日常で忙しいのだ
 そんな人々の全集積が人間社会を推し進めてゆく どこへ―――

 もう誰にもコントロールされてはいない 自分の責任で進むほかはない
 あなたがた1人1人の集計に委ねるほかないのだ
 今日から明日へ生きつづけることで未来へ到達しようとしているのだ

 どこへ―――。






【中田耕治 解説内容抜粋メモ】

眉村卓は、私にとって懐かしい作家の一人だ

もともと私には、SFに関してほとんど語る機会はなかったため
SFフォービア(嫌悪症)の批評家に見られていたが事実ではない

私はSFの翻訳もした
ベスターの『虎よ、虎よ!』、デイックの『宇宙の眼』など

福島正実の回想『未踏の時代』には私の名が1ヶ所だけ出てくる

「みんな、SFがいかに翻訳家の仕事として価値あるかの長広舌を聞かされてうんざりしたはずだ
 そしてそんな大演説をぶった僕は、いつもどうにもならない空しさと疲れを背負っていることに気づいた」

「人はそれぞれ自身の道を選ぶべきだから、他人に僕の行き方を強制するつもりはなかった
 ただ、道が分かれたら、その人間に対する積極的な関心を失うだけだ」


福島と私は絶交状態だったが、今、一時期に親しい交遊をもち得たことに深く感謝している
そんな時、福島の口から眉村の名前を聞いた
当時、私は翻訳劇の演出を続けていたので、いい創作劇を探して、その中に眉村の作品があった
彼のSFは、ホワイトカラーの世界を含めて、現実の転位を用いた、ある破滅の解明に他ならない

『なぞの転校生』から『猛烈教師』までの変化はかなり大きい
短いセンテンスで改行がつづく文体で、スピーディな展開が特徴
だが『幻影の構成』に頻出する名詞止めなどに鋭敏な感性を認める

ラグは、タイムラグ、“大騒ぎ”“下層民”の意味

眉村の小説は、逆ユートピアもの、タイムトラベルもの、インヴェーダーもの、複数宇宙ものといった
SF的な批評上のジャーゴンで片付けるのは簡単だが、私は「崩壊」「幻影」がかなり多いことに注意する
これは作家の内面に潜む何かを暗示していると思われる

まず世界に何らかの不確定性があり、内部に何かが「崩壊」する状況が大きなモティーフになっている
眉村が明るい表情を見せながら、かなりペシミスティックな思惟を持っている例証に思われることに興味がある

何ひとつラグが起こらない世界
このパラドックスを、私たちはいくらでも現在の私たちに重ね合わせることができる

コンピュータによる国民総背番号制(マイナンバーか?)、歌手のマリファナ喫煙とマスコミの報道など
私たちはまさにイミジェックスの世界に生きているだろう

福島が亡くなる3ヶ月ばかり前に偶然再会した時、互いにかつての確執はなかった

懐かしい福島正実
彼は、ある日、彼のイミジェックスの世界を全力で疾走して行ったに違いない



***

“宇宙人侵略”なんて古い考えだと思っていたら、やっぱり助けようとしていたのか
途中で帰ってしまったのは、干渉を止めてヒトに未来を託したからか?

でも、大きな過ちを犯していた歴史を人々に忘れさせるのはどうかな
歴史には大きな意味がある もう二度と繰り返さないと思い出すために

何気ない日常生活に戻った彼らにはもう悲惨な記憶は消されている
それもまた今の私たちの生産活動と似ているのに不気味な後味が残る

最後の最後まで、頭を抱えさせる逸品だった



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