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メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)(1)

2017-11-21 10:20:39 | 
『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)(1)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和年53年初版)

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[カバー裏のあらすじ]
人類文明の祭典“万国博”が三年後に予定され、各社が新製品の出品をめぐり、激烈な競争をしていた。
大阪レジャー産業にも“夢を作る装置”に財閥系企業から不当な圧迫が加わった。
が、剛腹な専務は、統合プロダクションを使って反撃を開始した…。

しかし謀略合戦は、企業間だけにはとどまらない。
男性優位の文明を一気に覆えそうと、万博反対を叫ぶ女性の党の画策。
マスコミ操作で自己満足に生きる“ビッグ・タレント”。
そして産業コントロールのために育成された能力人間“産業将校”の思惑…。
社会は今、巨大な渦となって動きはじめた…。

産業文明を鋭く抉り、人類のあり方を考察する問題の近未来社会SF!

***

これは果してSFだろうか?
昭和年53年(1978)に書かれて、たった10年先のことを書いているが

東京オリンピックを控えて、大金を使って無理やり盛り上げ、
「経済大国日本」を再び世界にしらしめようとしている現代の姿にあまりにリンクする

かつて「大阪万博」で異例の抜擢をされて「太陽の塔」を造った岡本太郎さんが
高度経済成長のその先の空しさを見越していたのを思い出す

ヒトはそれほど進歩しないものか 歴史はそれほど繰り返すものか


4部に分けて、それぞれが1年分の動きを描く構成もドキドキさせる

第一部では、一筋縄ではいかない登場人物が各章で次々と出てくる
業績が下降し、社運を賭けている企業、
膨れ上がったマスコミを象徴するタレント、
フェミニズムを掲げた党、
日本を牛耳る大財閥などなど

政府は大企業の傀儡と化していること、さまざまな技術革新まで
今作でも眉村さんは、未来を見てきたかのように描いているが
それらは、もっと以前から科学者、哲学者、文化人らが示唆していた総合なのかもしれないと思った

これほどの大作が、これまで映像化されなかったのがフシギ
社会派人間ドラマとして超大作となる様子が目に浮かぶようだ
それこそビッグタレントを豪華に大勢起用して

まさにそんな産業社会を皮肉った大作なのだから



あらすじ(ネタバレ注意

<主な登場人物>

【大阪レジャー産業】
熊岡社長
豪田忍 専務 社長の義弟
土屋庄二 総務部長
沖康介  開発技師長
浅川 経理部長

大川律子、広野鉄夫 産業将校 経営顧問

【シン・プラニング・センター】
山科信也 チーフ
北島未知 部下
福井宏之 部下

【産業士官学校】
運営委員会
産業将校
三津田昇助 三津田商事会社社長
室井精造 水耕農業推薦

【家庭党】
党首
最高幹部会
恵利良子
山科紀美子 山科信也・妻 万博監視員

【ビッグ・タレント】
朝倉遼一
筆頭マネージャー
紀の川信雄 朝倉のライバル
東小路忠春 新進

【丸の内重工業】
五十嵐貞衛 万国博協会長
古橋荘一郎 総合計画室長
植田香子  万国博事務局長

日本興業機械 丸の内系列



【第一部 ’84】

記者が、郊外にある異様に敷地の広い場所で、何かの起工式らしき風景を見て不審に思うが
誰に聞いても口を閉ざしていることに対して、批判する記事を載せる

“各企業は小手先の防衛柵を考えるより、もっと根本的な体質改善にかかるべきであろう。”


1 シンクロ・ニュース
“'84.10.22 東海道万国博協会は、出店調整会議を開いた”という記事


2 大阪レジャー産業
ほぼ1週間眠らずに仕事を片付け、新幹線に乗った豪田忍は、映話で社長が倒れたと聞く

「内山下プレイランド」
開発工場の試作品の反響を見るために一般開放している巨大施設
あらゆる照明、音などを駆使して人々の高揚感を煽り、
巨大スリリングマシンでは、客を殺さんばかりのレジャーが流行っている

沖:
アメリカの一部の州で施行されている「自殺契約特認法」がまだ成立しないので、遊園地の延長にすぎませんよ
何千回に1回かは頭蓋骨を叩き潰すなら作り甲斐もありますが
今の政府を握っている大企業が、うちのような財閥外単独企業にそんな法案を出すわけがない

どんなに危険でも、正常に作動する限り、与えられるものを使うだけ 家畜の反応と変わりゃしません
レジャーマシンは、やはり高性能でコンパクトでないと

「メイン・ハウス」
ここには高精度で、耐久力があり、量産でき、故障が少ないため、マニアが多い
1Fは完全自動化された擬似戦場などの大部屋
2Fは芸術家気分を味わうなどの小部屋
3Fはスポーツ、ギャンブル、熟眠装置もある

「関係者以外立入厳禁」
万博の出展テーマ「時間旅行・日本の歴史」の「実感装置」の試作が出来たと聞いて興奮し、早速試す豪田
立体投写スクリーンの前のイスに座り、「脳刺激テープ」を体験すると、
黒人とのボクシングの立体映画がはじまり、実際殴られた痛みで倒れた

沖:
しばらくは痛みが続くかもしれませんが、神経作用ですからすぐおさまります
実は装置はこれ1台でおしまいになりそうなんです
「超純粋金属」をフルに使うが、メーカーが出荷を断ってきた
今は引っ張りだこで、新しいルートからだと約10倍の価格になる

もう1つの問題は、ビッグ・タレントが今朝一斉に断ってきた
よそのブレーンがおさえたらしいと・・・

豪田:うちが昔のようになるかは、今度の万博ひとつで決まる やるだけやらなあかん

豪田が病院に寄ると、熊岡社長は、社内の重要ポストに産業スパイがいて
丸の内財閥系と通じていて、実感装置の件も漏れ、手を回されたという

社長:社の株を握っているのはわしとお前や しばらくはお前に任せた


3 背景

1984年秋
日本総人口の5割以上が住む東海道メガロポリスは、消費景気の只中にあった
あらゆる地区にプレイランドが乱立し、猛烈な販売競争を伴った

海外、とくにアメリカの大資本が続々と上陸
ひとつ誤れば日本産業全体がひっくり返る可能性があった


この間まで「家族的経営」「年功序列」のぬるま湯に浸かっていた会社経営者で首を吊った者が相次いだ
やがて海外企業の進出テンポが落ち、日本企業の諸系列と結びついた
あらゆる対策が必要だった 熊岡らは目標を万国博に置いた


4 プラニング・センター

【シン・プラニング・センター】

経営能力の弱い企業を見つけて、総合ブレーンを受ける仕事をしている
はじめは5、6人でスタートし、面白いように儲かったが、
2年ほど前から「資本自由化」により中途半端な規模の会社が加速度的に減り始めた

7年目になり、経営は目に見えて落ちている
次々と大企業に有能なメンバーを引き抜かれ、今はスペシャリストしか残っていない
レッテル化した学歴にこだわらず5人採用し、半年で3人が辞め、残ったのは北島未知と福井宏之

チーフの山科信也は、未知から、別居中の妻・紀美子が自殺未遂をはかったと聞いた
福井からは、大阪レジャー産業から東京支社に来るかどうか即答を求められたと言われる
未知がすぐに豪田は42歳、社長の義弟だと調べた

山科:
片っ端から呼び寄せてプランを出させて競走させるつもりだ
こんな絶好のチャンスを逃がすこともないだろう

未知:
ほとんどは軽い気持ちで出向くはずよ そこに完全なプランを整えて勝負をつけるべきだわ

山科はレジャー機器メーカーがどれほど汚いやり方をするか知っていた
うまく立ち回れば逆に相手を食い物にもできる

早速ブレーン・ストーミングを始める
それぞれがアイデアを出していく“集団連想”形式の会議
時間はないのだ


5 夜
帰り 未知に言われて、妻の見舞いに行くことにした

未知:みんな充電スタンドにかわって、そのうち都市専用車条例でも出るんじゃないかしら
福井:なし崩しにかえるのが政府やメーカーの腹じゃないか

未知:自動管制車を持てるのは企業体か、高収入の階層だけだもの
福井:分極化は時代の勢いだからな だからリース産業なんて発達するのさ

未知:パワーエリートなんているのかしら 今は組織の時代でしょ
福井:今は過渡期さ エリートのない時代なんて人間集団にはあり得ない 複線教育の時代だからな

山科
(東京はいつの夜も同じ貌“かお”だ それはいつも横顔でこちらを向いていない
東海道新幹線の脱線事故で両親を亡くした時も、紀美子ら自由業作家が没落しだした時も・・・

「紀美子さんのベターハーフですか?」と聞かれ部屋に入ると、十数人の20~50代の女性たちが睨んでいた
婦人らの胸についた赤い太陽のバッジで「家庭党」だと気づいた “原始、女性は太陽であった”に由来している

「私たちは奥さんを保護にしにきました
 あなたが今のように家庭より仕事を大事にするなら、告発するつもりです
 みんなががむしゃらに働かなくなれば家庭の平和は戻るのです
 家事を平等に分担する条件付きで」

これほど偏執的とは思わなかった これだ!
大阪レジャー産業を射落とすにはこの線しかない
閃いた山科は見舞いも忘れていた たかが女の一人、仕事とは引き換えに出来ない


6 ビッグ・タレント

ビッグ・タレントは画一化される現代に残る最後のヒーローかもしれない
社会を動かす連中は、カリスマ性を失うと影で代行者を操って地位を守った
この仕組みは大量の印刷物、テレビの普及で飛躍的に進んだ

彼らはかつてのシーザー、ナポレオン、ヒトラーのように人々が期待するとおりに振る舞った
人々はこのからくりに気づき、みな消耗品だと隠さなくなった
短期間でも世に時めけば、普通の何十倍、何百倍も稼げたからだ

やがて人々は飽き始め、マスコミも投資が割に合わないと気づいた
幾何級数的に情報量が増加し、マスコミ同士が血で血を争う中、やはり“本物”が求められた

今、日本に10名ほどしかいないビッグ・タレントは、一流の俳優、演奏家、作家、画家、作曲家、、、
一人で備えたスーパーマンなのだ

これを可能にしたのは、日本の教育制度の形骸化だった
詰め込み教育、エスカレータ式の進学、いわゆる複線教育だ

ビッグ・タレントは幼い頃から創造的才能を認められ、
20歳を過ぎると集中的に科学機器を利用して専門知識を叩き込まれる

その勝利者の1人、朝倉遼一は、100人近いルーム員を率いていた
朝倉が起きると、筆頭マネージャーが今日の分刻みのスケジュールを出す
催眠記憶機のヘルメットをかぶり、最大効率で動くようスケジュールを組む

今朝の座談会のゲストは2人の家庭党員で、ライバルの紀の川信雄は急に仮病で休んだ
ルーム員の調べで、家庭党員と会うと具合が悪いとなると、
家庭党が反対している丸の内重工業と契約した可能性が高いという

朝倉:
(万国博は、たしかに新技術を生み出し、産業社会を高度にするだろう だが本当に人間のためか?
 1964年の東京オリンピックは? 1970年の大阪万博は?
 “金字塔”を経るごとに体制は強化され、人々の自由は奪われていった
 たとえば自由業者、文化人はどこへ行った?
 なんとか食い止めなければならないのだ 私はやってみせる

紀の川の代わりに来た新進の東小路忠春は、徹底的に整形手術をし、躁病に近い状態になるトレーニングをしている

朝倉:
私は、万国博を産業の免罪符として扱うのは過ちだと思います
出展されるものすべてに監視と規制を行わないと無意味です
明日からでも白紙に戻すキャンペーンを開始します
日本の国際的立場より、人間自身の幸福が本当と考えるからです


7 説得

山科と福井は、大阪レジャー産業に向かった

ムービングロードは傷んで時代遅れに感じた
何もかも自分のものか他人のものかにしか分けられない日本人にとって、公共物という概念は概念にすぎなかった

ムービングロードを傷めるのはモラルの低い阿呆どもと断定し、
自分が集団の一人として原因になっているかもしれないとは考えようともしない


窓のない大阪レジャー産業のビルの入り口はいくつもに分かれ、厳重なセキュリティだ
裏で熾烈な駆け引きがあることが分かる 壁には隠しテレビが仕掛けてあるのだろう

猛烈に書類を片付けるゴリラのような男・豪田を見て、山科はこれは普通の男ではないとすぐに分かった
一般に説得理論の定石は30数種類あるとされるが、この場合は2つしかない
技巧を凝らすか、大博打をやるか 後者は“浦島の亀”“マーキュリーの靴”と呼ばれる
山科は賭けのほうを選んだ

豪田の前でぶ厚い企画書を破って見せ、頭に叩き込んだ説明を始めた

山科:
大阪レジャー産業がこの万博に投入する資金は9~11億の間です
展示物はたぶん、コンパクトタイプ中心 それも最近開発中の「実感装置」でしょう
それに従って作ったのがこのプランです

歴史の再現などというケチくさいことをやらないで、
地上に存在するあらゆる快楽を片っ端から提供してなぜいけないのです?

人間の悦びで永続するものなどどこにありますか?
人間の新たな冒険と旗を掲げて、英雄になったように錯覚させるんです

この建物の全部が大劇場で、席は1000 「実感装置」を除いて予算は6億4500万円
今の人間にとって、もっとも強力な武器は科学技術にのっとった産業体制です

豪田:
やめろ ここへ来た誰もが同じやり方だ 企画書を破るのも3回も見た
そやけど、あんた、よう調べたな ほんなら、これにサインしてくれるな?
社内フリーパス券も出すつもりや

山科は、先方がこちら以上に抜け目ないことを知った
最近のうちの経営状況もつかんでいる

イニシアチブは大阪レジャー産業がとり、他のプロダクションとも同時契約して競争させ、
いいほうを採用しようという魂胆だ

それでいいではないか 相手から金で奪い返すこともできる
万国博が開かれた時、決算書がどちらにプラスになっているか楽しみにしておこう

サインして帰る際、気づかないうちにシン・プラニング・センターも坂道を転がっているのかもしれないと思った


8 家庭党

家庭党は結成されてまだ3年ほどだが、母体は10年以上さかのぼる

大阪万博後、奇妙な不景気に落ち込んだ
ある商品は値上がりを続け、別のはダンピングが続き閉鎖する工場が相次ぐアンバランスな時代だった

消費者団体は次第にヒステリックな言動になり、デモ、署名活動をおこした
労働者の生活が苛酷になり、みな身を粉にして働き辛抱できなかった

ことに、家庭を切り回す主婦の集団が体系化され、産業構造の変化に抵抗をはじめた
ここにアジテートの訓練を受けた者が加わり、昔読み捨てられたヴァージニア・ウルフ、ボーヴォワールなどが引用された
“もはや女性は、第二の性として男に従属していてはいけない それは男性にとっても幸せなのだ”という理論が登場した

組織化された連合体が人材を集めると、組織そのものの存続が大切になる
昔、大学学長だった老婦人を党会長とし、もっとも利用しているのは実はビッグ・タレントだった
互いに革新者の顔を持ちながら、今の社会に乗っているのだ


紀美子は党員に誘われ、気乗りしないまま党大会に向かっている
彼女は集団を本能的に嫌悪していた 人々の上に君臨するのも煩わしい 自分は自分でいいのだ

昔、山科と結婚した時は、女も男と同じ人間だと信じきっていたが
その愛情は、男とその附属物で作られた小世界に生きるものではなかったか


だから、私がひとり立ちしようとした時、彼は文句を言い始めた
奴隷ではない女は女じゃないとでも言うように次第に離れていった

その後、思いきり仕事をし、遊んでやったが、結局自分が男に従属する生物だと思い知らされるだけだった
それがやりきれなくて薬を飲んだだけ この人たちに判るわけがない


二十数個の建物からなる「家庭党村」はお祭り騒ぎで人々は興奮していた
建物では料理、ホームマネジメントなど様々な催しものをやっている
人垣の間をぬって時々白いエプロンに赤い太陽章をつけた実行委員が誇らしげに通る

大ホールには6000人が詰めかけ、入りきれない1万人以上がアイドホールを仰いでいる
正面のスクリーンいっぱいに戦闘、ビルや機械のもとで働きながら発狂する青年などの立体映画が流れた

あなたは幸福ですか?
 あなたは言われなかった? 女は残業ができない 出張ができない
 思考が論理的でないから社会人として役に立たない


 違うのです 社会が男に有利に作られ、何千年も続いただけのこと
 女性が中心になれば 不必要な暴力もない 本当の文明がうまれる

 みんなのしあわせのために 党の力で女性型文明をつくろう
 それをつくるのがあなた わたし みんな”

白髪のまじった女党首が中央の演壇に出た

「みんな知っていますね 低俗な番組を作っているテレビ局が私たちの力で潰れようとしているのを
 新婚早々の社員を長期出張させようとした社長が、株主総会で辞めさせられたのを
 私たちは前進しています

 東海道万博をやめさせましょう!
 万国博こそ、家族を切り離す社会の象徴ではないですか?
 そんなお金があるなら、もっと立派な方向に使えるはずです」

党首が去ると、ソフトなアジ演説、党歌、幹部選任・・・
紀美子はいつしか魅了され、もう少し積極的に力を貸してもいいとさえ考えはじめていた


9 十二月

丸の内重工業に向かう車には、五十嵐貞衛(万国博協会長)、
古橋荘一郎(総合計画室長)、植田香子(万国博事務局長)が乗っている

小型カラーメモでは「フラッシュメモ」を流している
要点だけを次々報道して、予備知識のない人には訳が分からない

国内のことはニュースになる前に耳に入っている 幹部に重要なのは世界情勢だ
ロンドンニュースの非難は英国政府の代弁で、英国政府も日本と同じく政府閣僚が産業界にコントロールされている

五十嵐:“擬似大国”か
植田:コンゴで核保有国は39 わが国も早めにAA諸国対策に力を入れなくては

テレビ:万国博反対キャンペーンにビッグ・タレント4名が参加
植田:そろそろ騒ぎを消したほうがよろしいですわね
五十嵐:目立たぬようにな


つい最近まで眠っていた安城市の600万km2の土地は急変しはじめた
中央にタワーが建ち、円環状の土地は「サークランド」と呼ばれる遊戯施設となる
日本企業の敷地は分割され、狭く小さいが、これが狙いだ
本来の目的は、国内外に日本産業の健在を証明すること

五十嵐:(“最終武器”は効果を出すまで伏せねばならない)あれは来年2月に仕上がるんだったな
古橋:実用テストはまだですが

五十嵐:
使い物になるか日本の中小企業にやらせてみたらどうかね
我々の系列下に入れるか、潰させるか うん、あの大阪のレジャー機械屋がいい

その顔に期待に似た色が浮かんだ


(今ごろ気づいたけれども、『産業士官候補生』とか、「パイオニアサービスの無任所要員」(専門家の派遣会社)など
 他の作品に出てきた要素ともつながっている壮大な構成になっているのか/驚
 眉村さんの頭の中は、この現実世界によく似たパラレルワールドがもう1つあるようだ



【第二部 ’85】

1 産業将校
三津田昇助 21歳 各財閥から送り込まれた産業将校第一期候補生の最上級生
日本産業の「最終武器」として秘密裏に育成された産業用人間の一人
東北の貧農の次男として生まれ、この7年間、おそるべき競争を勝ち抜いてきた

彼の頭の中には今日1日の行動はすべて入っている
昨日までの知識を消去して、デジタルに新たな18件を入れる

丸の内連絡所(彼を送り込んだ丸の内財閥と候補生との連絡場所)から呼び出され「基本モラル室」に向かった
神経作用増進剤を注射され、これまで何度も聞いた高速講義をもう一度確認する

“「エグゼクチビズム」とは「エグゼクチブ」から導出された用語で、
 偽政者感覚優先原理、組織力学、行動科学に基づく支配原理をいう
 これなくして現代組織体を動かすことは不可能である
 ソ連の革命家、ナチスの指導者はいずれもこの感覚を所有しているグループで支えられた・・・”

古橋:私と話したことは忘れてほしい
昇助はただちに記憶から消去し、ただの顔となった

古橋:
君は通常の卒業資格テストのかわりに任務を与える
大阪レジャー産業を、丸の内系の日本興業機械に吸収させるか、倒産させること 期限は6ヶ月以内

昇助:
2つの訂正があります 1つは倒産以外に方法がないこと
理由は、組織体としては、大阪レジャー産業は、日本興業機械よりはるかに優秀だからです

もう1つは、6ヶ月以内では影響係数4以内の外的変化がなければあり得ません
私の計算では500日は必要です

会社を1つ作ってもらいます 資金はほぼ4億
産業将校は企業スパイでも、パイオニアサービスの無任所要員でもなく、組織を動かすエキスパートです

古橋は、機嫌を損ねつつ、青年の才能に目を見張った


2 春
3月になると、都会の花が一斉に咲くが、それは各企業の広告が入った大量の人工花だ
やがてアスファルトの掃き溜めとなる

政府、企業努力にも関わらず、人々の万国博への関心は盛り上がらない
もっと現実的な生活問題が先決なのだ


反対運動は、そこを巧みに捉えた
運動の資金の大半を負担しているのは家庭党で、海外諸国への出展中止呼びかけさえ始めた
その結果、万国博に無関心だった人々の興味を呼び起こした

企業は全力で準備していた 開催まであと2年たらずしかない あとは建設の段階だ
なんとかして日本産業の健在を示さなければならない各企業は、
それぞれ反対運動をしずめにかかり、圧力をかけた

十何度目かの出展者会議で、中之島商事社長は「万国博監視制度」案を提出した
おもてむきは万国博の監視・規制だが、真意は万博は国民のためで、産業の独占ではない印象を与えること
大々的に宣伝すれば、国民の目をそらし、関心を集めることが出来る

この異例の奇妙な制度が発表されると、たちまち内外からすさまじい反応が起きた
国内では、ビッグ・タレントが制度のからくりを暴き、世界的陰謀だと激しく攻撃したが
家庭党は奇妙な沈黙を守っていた

万国博に関して、事実とデマが混ざったあらゆる噂が乱れ飛んだ
アメリカ企業は物質複製機を完成し、量産を始めた説まで出る始末だ(もう3Dコピー機は出来たけどね
そうした中、本来の状態を知っているのは日本財閥のトップクラスだけだった


3 転向
山科紀美子は今や家庭党出版局で働いている
あの党大会で、入党し、すぐ仕事の依頼がきた

『現実の記録』というペーパーバックシリーズの手伝いだ
今まで知らなかった底辺の世界にショックを受けた

旧来の出版社は変質し、以前のようなフリーライターでは食っていけないため
専門職としてこの仕事に入り、次第に本気になるにつれ、
『現実の記録』の反響は大きくなり、現代の産業優先主義を告発する材料になった


山科紀美子と連れの画家は、粗末な長屋の1つに入った
妻、長男を交通事故で一度に亡くした丸目という男の取材に来た

丸目:
こう見えて私は国立大学を出て、昔はちゃんとしたサラリーマンでした
最初は一流会社を狙いましたが、当時は無責任な連中がマスコミを横行していて
大企業で個性を失うより、将来性のある小会社を選べと言うんです
私は何も知らない青年の一人だった

結婚して初めて気づいた マイホームを維持するのがどれほど大変かなどにね
その時はもう遅く、会社は簡単に潰れた

貧乏人であるほどステイタスシンボルが必要なんです
子どもに劣等感を持たせないためにも、次から次に買い続けねばならない
古くなったら、また新しいのを買う

やがてどうにもならなくなり、妻はとうとう会員制のクラブに入り、1週間情事というやつを始めた
あげくに誰のか分からない子を産んだ しかし外見的には幸せなマイホームでした

あんなもの事故じゃない殺人だ
怠けグセのせいでクビになった少年が盗難車でぶつかり、少年も死んだが身寄りもなく金もとれませんでした


あともう1件ほど回りたかったが、最高幹部会から緊急に来るよう指示が来た
家庭党村に着くと、純粋学生連合の学生が、家庭党が裏切ったと大騒ぎしている
「監視員受諾通告をただちに撤回せよ!」

党本部の入り口は、乙女行動隊が固めていた
中はマスコミが入り乱れ、紀美子は最上階へのエレベーターに乗る

初めて足を踏み入れるそのフロアーは、家庭党の神経中枢にあたり、秘密の打ち合わせはすべてここの会議室で行われる
出版局長に呼ばれ、声紋と錠で部屋に入ると、党首ほか、最高幹部ばかりが座っている中に
幹部とは想像できない若い男女が4、5人いる

中でも驚いたのは、20歳過ぎのテレビなどに出ている美貌の持ち主・恵利良子がいたことだ
紀美子と同じ頃に入党した新人

党首:
あなたは今の仕事をやめて、万博監視員になります
それとともに、非公式ですが最高幹部会のメンバーになっていただきます


紀美子:イヤです! 私は社会に埋もれた人々のことを世の中に訴え続けてきました

副党首:万国博は、私たちにコントロールできるものになったのよ

正面の地図には何百という家庭党の拠点を示すランプがあり、赤から緑色にかわっていく

幹部:
この緑色は、私たちの決定の支持を示しています もう時間の問題よ
これ以上反対運動を続けるのは、党自体の存亡にかかわる

紀美子が再び反論しようとした時、突然、短い、意味の分からぬ単語を発した音があり
最高幹部らは放心した目になり、思考停止状態になった

恵利良子:
ここの人たちは、もう私のもの 私のキーワードで眠ってしまうし、私の暗示通りに動くわ
私はあなたが欲しいの 私は催眠術も、科学技術も知っているけど、あなたのような表現の才能がない
だから協力してもらうの


紀美子は、その外せない視線にいつか快感さえ覚えていた


4 夏

土屋:いくらなんでも、こんなに一時に大量の幹部を格下げしたら無茶やおませんか?

豪田:
ゆっくりしてるうちにうちは潰れてしまうわ
能無しは即時格下げ、それで文句言う奴は、自由契約社員にして、能力査定を受けさせ、
自分の力を知れば泣きつくやろし、よそへ引っ張られれば助かるわい


社長はただの胃潰瘍ではなく、がんの全身転移と分かった
豪田は、ようやく人件費を落とし、人任せに出来ない性格から、あらゆる仕事を一人で片付けていた

沖:
実感装置は順調です 前に見たものより粗末な感じだが、材料が材料なもんで
低価格プラスチックは紫外線ではじかれますが、屋内で使うならこれでいいでしょう
あとは安い超純粋金属さえ手に入れば 問題は脳刺激テープの内容です

豪田:
それはシン・プラニング・センターなどにやらせてる
広報堂も調査結果を持ってくるはずや

沖:あすこは丸の内系列の日本興業機械のために製作していると聞きました

沖があまり財閥系の動きに詳しいのは、まさか社長の言っていた重要ポストにスパイがいるというのは・・・と豪田は疑惑をもつ


東京支社に入ると、支社長が映話でモメている
玄関で粘っている奴に帰せと怒鳴る支社長に聞くと、

支社長:
超純粋金属を安く納入できるという売り込みです
どこの系列にも入っていない20名足らずの三津田商事会社
社長は若く、中学卒 1月に設立して6月で月商4億円・・・

豪田:あほんだら! そいつを呼ぶんや!

三津田昇助:
こちらでお使いになるのは「実感装置」でしょう?
それに必要な超純粋金属を計算してみました 現物は地下駐車場にあります

トラックには超純粋金属がぎっしり詰まっていた

三津田:財閥系のほぼ5倍の6億1000万円 翌月起算の7ヶ月手形 これ以上は一歩も譲歩できません

7ヵ月後の来年3月は、資金計画からみてもっとも苦しい時期だ
6億となれば、不渡りになる可能性があるが、ここに安い超純粋金属があるのは事実だ

豪田:よし、買うた!


5 会場
山科らは列車に乗り、建設会社と打ち合わせし、夕方までには東京へ戻らねばならない
仕事量は増える一方で、利益はほとんど出ないが、ほかに仕事を奪われるのはなんとしても避けたい
今は大阪レジャー産業の仕事をやっていることで、財閥系の注文は目に見えて減った

列車を降りると、家庭党の反省促進員がまた追ってきた
告発されて以来、仕事の最中でもお構いなしだ
反省して良き夫になると誓い、入党するまでやめないつもりらしい

工事はいよいよ突貫の段階に入った

建設会社社員:以前の大阪万博は失敗ですよ まじめムードで意識は高いが、入場者数は伸びなかった

山科:
その3年前のカナダ・モントリオール博のせいじゃないか
その前にショーを中心にしたNY博が予想外の不振で、
真面目にやったモントリオール博が予想外の入場者数だったから
だが、見世物ずれしている日本人をいっしょに考えるのは誤算だ


会場に入ると、総工費邦貨で200億円といわれるGEの建物が見える
プレノイド回路のロボットショーを行う予定らしい

デュポン展示館では、真正立体映画、アメリカのレジャー機器メーカー合同館では
一度入れば、出るまでに心身リフレッシュする最新装置を用意しているという

日本の小型展示館は極めて精巧に設計されている

現場に着くと、工事をストップして、万博監視員の調査が入っていた
山科は紀美子に気づいたが、様子がおかしい
前はもっと感情的な女だったが、あれは紀美子ではない

福井:
僕、やっぱり辞めることにします
大阪レジャー産業に入らないかと豪田専務に誘われていたんです でも今月いっぱいは働きますよw


 影

朝倉ルームの会議室にビッグ・タレント5名が集まった

「財閥系列企業を中心に着々と万国博の建設が進んでいる
 何かが日本全体を動かそうとしているんだ」

朝倉:我々は続けねばならぬ


7 監視員総会

「万国博監視総会」に出席するために山科は豪田に呼ばれた
質問は「脳刺激テープの内容」について
最近は豪田の部下のようになって働かされている山科は疲れきっている

人々が万国博に好意的になってきた理由の1つは監視員のせいだ
月に1度、総会で検討し、質問に納得できないと形ばかりの手直しを要求される
これは茶番劇だった

大衆は、また他人のプライバシーを覗く楽しみを求めて「監視員」を選び、マスコミもそれに乗じた
元々どこかの団体から推薦されている監視員らは馬のように互いに競走しはじめ、万博を利用して有名になろうとした

「万国博監視制度」の狙いは図に当たったのだ
人々の関心を本質から別にそらし、万博に関心をかきたてること

大阪レジャー産業は、山科が失敗すれば、全責任を負わせて、別の方法を用意していることだろう
ここで失敗すれば、「説得技術専門家」としての職業生命を絶たれることになる
これは陰謀ではないかという疑念が山科にわきあがってきた

傍聴席には、蛇の目をした人々がいる
日本教育者連合推薦・高田から「脳刺激テープの内容」についての質問がされた

山科:
現実に体験し得ない夢や空想を体験していただくための設備です
広い意味での娯楽 エンターテインメントです

高田:それは現実からの逃避だ 許すわけにはいかん

山科:人間の娯楽は日ごとに変わります マイナスばかり見ていては時代に遅れてしまいます

水耕農業推薦・室井精造:
そのためには人にヘルメットをかぶせないといけない
まだ今の技術では無理で、発狂する可能性があります
受感者に精神不安定化剤を大量に服用させねばならないでしょう

家庭党推薦・恵利良子が、同様につっこんだ専門的知識を駆使して鮮やかに反論してみせると
突然、室井は笑って引き下がった
場内はわけが分からぬまま疑念は消し去られ、実感装置への期待が高まった

山科は、自分の完全な敗北感を感じていた 彼らの知識のほうがはるかに高いのだ
それは豪田に従属して生きるほかないことを意味した


8 拠点

家庭党の最高幹部会では、党首らは深い眠りの中、3名の女が話し合っている

「組織内での海外商品駆逐はきわめて順調」

「産業将校間の衝突でロスが多すぎるわ」



※メモは(2)につづく


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『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)(2)

2017-11-21 10:19:39 | 
『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)(2)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和年53年初版)

『EXPO'87』 眉村卓/著(角川文庫)(1)


【第三部 ’86】

1 雪

豪田:(熊岡社長の容態はいつ危篤になるか分からない 今日お見舞いに行かなければ

海外企業のシェアがにわかに落ちて、財閥系と同士討ちとなっている間
大阪レジャー産業は一般大衆の関心の的になった

山科は「内山下プレイランド」で沖らと仕事をさせている
沖の行動についても聞きだせるかもしれない

主力取引銀行は、財閥系とは無関係の岡山銀行で、豪田は超純粋金属自体を担保にして
6億5000万円を借り入れる約束をしていたが、本社に入ると経理部長の浅川が慌てて出てきた

浅川:岡銀から融資を取りやめると急に言うてきました!

もし融資がダメになれば、三津田商事に振り出した手形が不渡りになる
お見舞いを諦め、急いで岡山銀行本店に向かうと、審査部長・大森が出てきた

大森:
頭取が理由もなしに融資をやめろと言うもので
そういえば、昨日、見慣れぬお客さまと2人きりで長い間話しこんでいました 三津田昇助とか
おかしなことに三津田商事は全然手形を外へ出していないんです

そこにプレイランドの支配人が入ってきて、熊岡社長の死を告げた
豪田らはすぐに大阪に戻ろうとして、三津田のもとにクルマを走らせた
豪田:手形の期日を延ばしてもらうよう交渉するんや!

三津田商事に入ると、25、6歳の青年が出てきた
「社長は今日から15日間、休暇をとっています 2月13日まで連絡方法はありません」


2 二月(1)

奇妙なことが起こり始めていた
日本になだれこんだ海外ビッグ・ビジネス
の日本制覇のスピードが鈍りはじめた

かつてこんなことは前例がない
アメリカ、ヨーロッパの一部の世界市場に君臨する巨大企業にいったん狙われた市場、企業は必ず落とされるのが常だったが
自国産業防衛策に助けられているのは事実だ

為政者は、経済優先に固執し、世界に耳をふさいでやりたいようにやるところがあった
国民の実生活を知らない官僚にとって、世論は大計を知らぬ俗論で、ごり押しこそ正しいと考える


1970年からの新官僚の台頭がなければ、日本の保守政権は崩壊していたかもしれない
新官僚は使われる人間を知り尽くしており、お役所にない実績主義の競争を経ていた

一方、行政の上層部、政府自体が次第に財界を中心とした産業界のロボットにかわりつつあり
新旧交代は終わりを告げた今、日本を動かしているのは産業人である

日本企業群の反撃は想像を絶していた
各企業は軍隊そこのけの組織をもち、敵の根拠地にぶつかった
消費者を完全に仲間に組み入れ、海外企業製品に対する嫌悪感、恐怖感を植え付けた

これらの作戦には、作り手、売り手、買い手とわず、
20歳くらいの一群の若い男女がコンピューターと一体化して中核におさまっていた



最高級クラブでは、産業士官学校運営の連絡協議会が開かれていた

「あれだけ準備に手間隙かけ、莫大な金をつぎ込んだんですから思惑通りにいかなければ」

「産業将校があちこちでぶつかりあっているのは無駄に思えるが」

「そろそろ第一目標の海外企業駆逐に集中しなければ 我々同士の争いになる可能性があります」

「あの連中に横の連絡を持たせたら?」

若手幹部「もし彼らが与えられた権限を私物化し、我々の意志に反して動きだしたら・・・」

「まさか」議長は笑った


3 二月(2)

朝倉のところには面会券も持たずに、あらゆる連中が押しかけてきた
筆頭マネージャーが調べた最近の家庭党の転向の原因を催眠記憶に叩き込む

組織を動かしているのは、恵利良子と同様の男女らしい
出現時期は、三津田昇助と同じくらいの1985年2月

総計87名のうち、23名の身元が分かり、いずれも過疎地帯の極貧で生まれ育っている
皆なぜか中学で義務教育をやめ、1978年に行方不明になり、7年間空白
1985年に再び姿を現した時には、膨大な知識、人や団体をコントロールする技術まで身に付けていた


明らかにどこかで秘密裏に特殊教育を受けたのだ
彼らこそ、朝倉たちの真正の敵だ 強力になる前に対決しなければ


4 二月(3)

総合集会室には、再訓練中の産業将校が駆けつけている

「外資駆逐を最高目標 産業将校のメリットの縮小 普遍原理を求む」

「普遍原理は体制維持」

「現供与者にては破綻!」

これは反逆だったが、彼らは自分らのモラルに従って正当な判断を下しただけだ

三津田昇助「大阪レジャー産業は必然」

恵利良子「丸の内、ロス」

2人は握手を交わした


5 記事

2月15日 15名のビッグ・ビジネス幹部が到着した
来年3月15日に開かれる万国博の進行状況を見ることになっているが
真意は、最近アメリカのビッグ・ビジネスの日本市場での成績が伸び悩んでいる理由を究明し、対策を考えるためと推察される


6 交換条件

大阪レジャー産業は万策尽き果てていた
残された手段はただ一つ 三津田商事の手形の期日を延ばすほかない
6億1000万の期日は3月1日 あと4日で会社は潰れてしまう

豪田のもとに三津田昇助が若い男女2人を連れてやって来た

三津田:
こちらが大川律子、むこうが広野鉄夫です どちらも私の仲間です
用件は手形の期日を延ばすことでしょう 交換条件があります
この2人に大阪レジャー産業の経営を任せていただきたい


手形は2ヶ月延ばすつもりですが、この2人の言う通りにすれば問題ない
どこに配属してもいい その後、クビにしても、そのまま使っても構いません

まず、巨大スリリングマシンの生産の即時ストップ
実感装置はあなたの会社の受け持ちになります
無駄な競争をやめて、人も資材も適正に配置するのです

決戦に耐える体制づくりです
アメリカの巨大企業の幹部が来日し、日米の友好関係の緊密だといって帰りましたが
実際は、圧力をかけ、在日海外企業を駆り立てに来たのです


外国の大会社が史上空前の決戦にくるのは確実 その前に準備を整えなければ
生産、流通、消費が完全一体になることが必要です
我々は競争力のある企業を選んで工作しています 財閥系だけでは戦力不足です

(連中は気違いだ 誇大妄想狂だ)と思いながら、豪田には言うことを聞くしかない
豪田は条件を飲んだ 会社は助かったのだ


7 渦

万博開幕まであと1年
海外ビッグ・ビジネスは猛然と攻撃に転じてきた
どの国も経験したことのない恐るべき大規模な攻撃だった

日本人口の6割ほどを有する「東海道メガロポリス」を中心にあらゆる売り込み、会社を潰し、乗っ取ろうとした
各家庭にはセールスマン、映話などをフルに使って
ライフサイクルの短い豪華な商品、習慣性のある飲料などが売り込まれた

世界最高レヴェルの技術と金の力で、大量生産した材料が貸与され、
会社の工作、吸収の圧力は激しさを増したが、
日本側は、情報交換、技術提携、半製品の相互活用で応戦した

かつて外国製だというだけで飛びついた消費者も、自分の勤める会社の製品を買った
これは家庭党をはじめとする消費者団体に原因があった
日本産業全体が、優秀なリーダーによって指揮されていると気づいた海外企業群は密かに探った

それほど能力のない者は放り出され、力のない会社は次々倒産
昔ながらの一家心中、強盗、クルマで大勢が集まるところに突っ込んで即死する青年が続発した
職があってもやっていけないのは、本人にやる気がないか、無能だというムードが生まれた



朝倉はそのアイドル的な存在になっていたが、マスコミの様相そのものが変貌し、
今までのような有利な条件の出演依頼は減少した

組織の成員として生きた経験の少ない人間の常として、朝倉も世間智を信じず、
自分について来ない連中はレヴェルが低いからだと解釈した


だが、ビッグ・タレントは見世物の1つで、飽きられてしまった
集会に集まるのは、社会に適応できない理由を正当化してもらおうとする者が大半

万国監視員はいよいよ派手な動きをみせた
もはや監視どころか、道化の役割をしている

渦の中で日本財閥によって作られた“最終兵器”産業将校らは
財閥首脳部が予想もしない手段で最終段階の行動に移ろうとしていた


8 真昼

会場に着くと、万博の工事は完成に近く、建設会社社員が豪田と沖を案内しながら
新たに配属された2人の若者を褒め上げた
「あんなに頭のいい技術者は初めてです 呆れるばかりですよ」

大川律子、広野鉄夫の肩書きは経営顧問にしたが、見事な働きぶりだった
実感装置の改良点を指摘するばかりか、新製品まで作って、おそるべき勢いで売れた

手形を楽々落とした後もとどまるよう依頼して、5ヶ月後の今では豪田らは2人の指示するまま行動している
(利用するだけして、思いきって捨てなければ、命取りになる)

「最近、いろんな新製品があちこちで発表されて、作ったのはみな21、2歳の連中だという噂ですよ」

朝倉が叫ぶ画面を豪田、山科、未知も見ていた

朝倉:
物質の満足は、精神の充足と同じではありません
物質中心の世の中では都合が悪い産業界と、そのロボットである政府が原因です
万国博こそ、その象徴です



監視員総会以来、山科はスポンサーから愛想をつかされ、仕事は目に見えて減った
大口は、この大阪レジャー産業ぐらいだ


レストラン2階の特別室では、4、5人の丸の内のエグゼクチブが話し合っている

「最近の産業将校のやり方は、我々の考えを実行しているとは思えない
 たかが外資駆逐用に養成された道具にすぎないというのに」

「目的完遂のために、高効率な手段をとらなければならないのでしょう」

「主導権を奪われるどころか、へたすると、日本が彼らの思うままに動かされるかもしれません」

植田香子:
いきすぎないよう、やわらかく規制することです
ロボットたちに、真の支配者が誰か教える必要があります
明日、産業士官学校へ行く用があるので、運営委員長に話しましょう


東ゲートのそばでは2人の男が話し合っている
家庭用自動機器の最大メーカー、ワールドホームの極東支配人と
世界的組織を有する外資系サービス会社の日本駐在所長

極東支配人:
連中を調査するのは最終目的ではない
我々が本社から与えられている命令は、1日も早く日本市場を制圧すること
そのために連中を排除する仕事を頼みたい

駐在所長:即日着手しましょう


9 真相

万国博反対運動は大幅に縮小し、朝倉の仕事も減ったが、
仕事量は変わらず、割の悪い仕事をこなさなければならない
朝倉に寄生し、安心感を持ちたい追従者が大半だ

組織に同化されて安全になろうとする人々、
常に主流派としてしか生きられない人々で溢れている

万国博まであと半年 惑わされた大衆をどう目覚めさせることができる?

今日の面会券は1人で買い占められている 最近では稀ではない
客は40くらいの油断のならない顔つきの男だった

「これは手前どもが調査した資料です お読みいただきたいのですが」

そこには、「産業士官学校」についてまとめられていた

1973年 3財閥の丸の内、日本橋、中之島の指導者が参集し密かに会合した
当時、大阪万博後の不況のもと、資本の全面自由化を迫られていた

1972年ごろから思わぬ不安があらわれた 人材不足
ペーパーテスト中心の教育制度の欠陥により、実際に役立つエンジニアらの人口が伸びず
各企業はそれぞれ研修を行うと、他にスカウトされるのが頻発
そこで、従来の教育を無視し、高度で、普遍性のある教育機関を作ろうとした

1975年 奥多摩で産業士官学校の起工式を挙行
はじめは人工交配も考えられたが、まだ技術が完成されず間に合わないため
ごく優秀な成績者のDNAを調べて作ったリストをもとに、スカウトが始まった

普通教育で本来の才能をスポイルされる前でなければならず、中学卒業前か、年少に限られた

高給をちらつかせて、高校進学を断念させる交渉したが、半数以上が進学
スカウトできたのは、経済的、地理的に不利な家庭の出身者だった

1978年 第一期生の入学
教育期間は7年 平均点90点未満は進級できない

まず肉体面から訓練され、ハードトレーニングが終わると、圧縮睡眠記憶の学習がはじまる
科目はほぼ2つ 為政者として上に成る組織力学の養成 もう1つは、現代科学 完全武道もある
上級に進むとコンピュータを使う力を持ち始める

同情、恋愛感情などの情操的なものはすべて厳しく拒否されるので、
彼らには自己の内面からの衝動があってはならない

卒業した「産業将校」らは、一定期間ごとに学校に戻り、最新の知識を共同記憶として吹き込む
現在の産業将校は第一期87名、第二期96名 所属組織は以下の通り・・・


朝倉:
(これが彼らの正体だったのか そんな人間に個人の自由、尊厳が分かるはずがない
 今の世に間に合うよう作られた人間ロボットにすぎないのだ

 たしかに彼らのお蔭でまだ海外企業に踏み潰されずに済んでいるが
 本当の文化が生き残る余地がなくなってしまう

男:
朝倉さんたちの反対運動を阻んだのは彼らです
しかし、一般に訴えるには証拠がない その資金を私たちに出させてくれませんか?
反対運動を成功させませんか?

朝倉:(この機会を逃すことはできない やるのだ)

相手が海外ビッグ・ビジネスの回し者だと悟りつつ、朝倉は最後のチャンスに賭ける


10 黄昏

産業士官学校に来た三津田昇助は、何者かに襲われる
恵利良子「逃亡」 催眠術でなにもかも喋らせる

今日の議題は運営委員会からの干渉をどう排除するか
結論はもう出ている 今放棄すれば、日本企業は回復不可能だ

恵利良子「内偵者 派遣 朝倉遼一」「山科紀美子不明」

産業将校らの次の目標は、朝倉らに向けられる
その頃朝倉は、産業将校らへの激しい非難を開始した




【第四部 ’87】

1 夜明け

1851年パックストンの水晶宮とともに幕を上げた世界的博覧会
突貫工事は最終段階にかかり、それぞれのお国柄が顕著になってきた

異様なのは日本のパビリオン
こうした建設にはトラブルがつきものだが、ほぼロスもミスもなく、リードしているのは30名ほどの若い男女
中下級技術者らは、このまま自分たちはどこへ行くのだろうという不安がよぎるが作業は続けられる

都市においては、一群の若い男女が、実は財閥によって仕立てられたものと知って
昔ながらの資本化不信と結びつき恐怖を覚え始めた
むろん煽り立てたのは朝倉を中心とするキャンペーン

“世の中は彼らの思い通りに動かされるであろう
 この2月には第三期の卒業生がまた100名近く増えるのです
 私たちの質問に対し、公開の場所で釈明を求める”


朝倉が外資のバックアップに支えられているらしいという噂はマイナス要因だった
対案を示さないことも大きなマイナスになっている

財閥側は沈黙を守っていたが、実は、士官学校の詳細が洩れたことで
互いの疑心暗鬼、失脚を怖れて、足並みが乱れていた
それすら産業将校の計算内だった

公開会談は10日と決まった 財閥関係筋はノーコメントを通した
技師らは産業将校が勝つとしか思えない が、そのあとは?
どのみち彼らに許されているのは、事態を傍観することだけで、目の前の仕事が大切なのだ


2 戦術

第4回目の「産業将校排撃大会」が開かれた
若手のビッグ・タレントが司会をして同志に呼びかける

3日後 13時より4時間 場所は千駄ヶ谷の国立競技場 人員は3名
 第三大学教授、現革新党議員・伊達健治郎氏
 文筆家、家庭党の万国監視員でもある山科紀美子氏
 彼女は、産業将校によりおそるべき催眠術にかけられて行動していたのです!
 最後の一人は、言うまでもなく、われらが朝倉遼一氏!」

これが擬似イベントだと朝倉は百も承知していた
山科紀美子を奪い、高度な催眠術を駆使して、産業将校の術を解いた
ポテンシャルのぎりぎりまで酷使されていたため、本当なら1年以上の休養が必要だが、国民を感情的に動かす道具なのだ

朝倉は思った (勝てる)


3 戦略

この半年の間、産業士官学校の組織も設備も大きく変化した
産業将校は、自分の家や贅沢な乗り物を持たず、新しい候補生探し、遺伝子による人工交配の実験を続けた
これらは自己改造を続ける1個の有機体だった

朝倉と話し合うのは、三津田昇助、恵利良子、室井精造
ビッグ・タレントとの話し合いは一時的な通過点でしかない


4 一月十日

国立競技場は4分の入りだった
今はコピー文明で、現場に行くより、家で画面を見るほうがいい
10万人は集まると大会場に固執した朝倉のもくろみは外れた

10分前、真っ白なオープンカーから朝倉が現れ、
平凡なトラックに乗り、地味なスーツを着た産業将校らも椅子に座った

朝倉は世の「説得技術者」や、それに振り回される連中を軽蔑していた
まずは、理屈で押し、感情で攻める それには山科紀美子が必要だ
続いて彼らに不得手な人間の生の意義をぶつけて混乱させ、反省をうながすのだ


「公開討論」が始まった

朝倉:あなた方は危険なロボットですよ 産業将校とは何です?

室井:
現代は産業社会です
それを大局的に分析に具体的に手を打てる者が今までいなかった そうした人間は必要です

恵利:
今の政治技術は、不正確なコントロールしか出来ません
社会構造をそのままにしては、根本的なコントロールは出来ません

伊達:では構造なり体制を変えればいいではないですか

三津田昇助:
それはあなた方がやるべきではなかったのですか?

今の世界情勢では、後進国であるのは極めて不利な条件です
1日ごとに高度化している今は、複雑に絡み合った有機体です
全体の維持発展を行わなければなりません

室井:
私たちは組織力学の公式化されたものを身に付けています これは誰にでも活用できます

三津田昇助:
みんなが組織力学を身につけた時、世の中が大きく変化する可能性もある
自分の生活がなぜ圧迫されているか見通し、対策を立てられる
もはやかつての恐怖政治も独裁もあり得ません


伊達は興味をそそられ話に聞き入っているのを見て、朝倉は焦る
敵はこちらの弱点を見抜いている 平常心を失わせようとしているのだ

山科紀美子を見て、顔色が真っ青なのに気がついた
弱っていた上、ここ2週間ばかり排撃大会に出たりしたせいだろう
だが、今倒れられては困る

朝倉は紀美子に活力剤を渡し、紀美子は気丈にそれを飲んだ
山科紀美子が催眠術にかけられていたことを指摘し、恵利良子の仕業だと指をさしたが
恵利良子は作り話だとシラをきった
活力剤は1、2分しか効かず、もう効果は失われつつある

恵利良子は泣き声を出し

「あなた自身、私たちが存在すると困る理由をお持ちなんじゃないですか?
 私の尊敬する友人は脅迫されているんでしょう 力ずくで誘拐したのではないですか?」

紀美子はイスから転げ落ち、恵利良子はすぐに駆けつけた
「あなたはヒロイズムにとり憑かれた鬼だわ 可哀相に」
恵利良子は紀美子を抱えて退場した 感情作戦は産業将校らのものになってしまった

三津田昇助:こちらも2人でお相手いたします


伊達が意見すると

三津田:
ここにいるのはあなたの生徒ではないのです 誰でも判るよう普通の言葉を使うことは出来ないのですか?

室井:
そんな風に自分のやり方についてくる人にしか知識を与えないのですか?
それがあなた方の時代の“教養”ですか?


伊達は怒りで横を向いてしまう 朝倉が乗り出すほかなかった
三津田と室井が目配せしたのを見た 焦りが思考を鈍らせる

朝倉:あなたたちはいわば特殊な人間でしょう?

三津田:
あなた方が排撃大会で言っていたことへの誤解を解いていきましょう

今の職業は分化しています それぞれに差異が生まれて当然です
普通の人間が一生かかってもものにできないことをマスターしたあなたは間ですか?

産業士官学校の閉鎖性を攻撃していましたが、外資にすべて知られた上で産業将校を育てることはできますか?

産業将校は人間に不可欠な文化的なものを持たないと言いました
私たちは残念ながら組織力学、科学技術を学ぶだけで精一杯でした

1つの団体の特定目的の走狗となっているということについては
それが全員にとって最大の利益になるなら構わない
全員の利益にならなくなった時に離脱すればいい

あと1つ 産業将校が体制維持のためにしか働かないということでした

今の環境にすでに満足している人には、現状の破壊は別の欲求不満が生まれる
普遍的なものにするには、理想社会像を漠然にとどめるほかなく、ここ数千年人類はそうしてきた

私たちに言わせれば微視的 元々、人間は集団化する生物です 巨視的な見方が必要なのです
あなたの望む体制に、もし産業将校のような存在が現れたら、あなたは否定しますか?

朝倉:
あなた方はマクベスの同類だということです
やがては日本を乗っ取るつもりなんだ

室井:私たちは産業社会を効率的に維持し、発展させるだけです

三津田:
堂々巡りはよしましょう あなたがこれから攻勢を仕掛ける順序は大体推察できます
それにお答えしたほうが時間の節約になります
万博工事を推進していけないのなら、日本中がそう言えばいい でも反対している比率は少ない

その他も三津田は鮮やかに論破し、スタンドの何人かが失笑した

室井:
これぐらいで終わりにしましょう
殴りあいを期待された方がいらっしゃるかもしれませんが、私たちはそんな野蛮なことはしません
何事も平和的に、納得ずくでやります

おどけた会釈をしてみせて、観客は微笑し拍手すらあった

朝倉:あなたがたは一体どんな世の中を作るつもりだ?

三津田:
やり方さえよければ、もっと文明を享受できるようになる そのための推進力になるのが仕事です
これまでバラバラで、重複の多い全社会のエネルギーを、ロスのないよう集約すれば
頂上部は高くなり、全体を潤すことにつながる
芸術などは一段落ついてから花を咲かせればいいのです


1人ひとりは一流でなくても、成果をバランスよく社会のものにする人間が必要です
実例をお見せしましょう

トラックから直径1mほどの円盤を出して置いた

三津田:
これはファイ波にもとづき引力を操る仮説に基づき、現代興業の超一級を集めて開発しました
産業将校により今の産業体制のもとでは可能なのです

ほかにも天候管理、超小型燃料電池なども近く実現させます
私たちの未来はやっと管理可能になったのです
私たちの希望は未来に向かってこそ託さなければなりません

拍手が沸き起こった それはビッグ・タレントの完全降伏を意味していた


5 終末

朝倉ルームは、後援者らが手を引き壊滅するだろう
産業将校排斥運動も終わり、彼らの操るままにコントロールされるだろう

かれらがやがて作り上げる世界
誰も世の中全体には無関心になり、自分の仕事、家庭に熱中し、全体の一分子に飼育される世の中
物質面しか価値を持たない世の中 騙されていたと気づいた時にはもう遅いのだ


朝倉遼一は敗残者として生きていけるわけがない
筆でなにか書き終えると、睡眠薬を致死量だけ出して思いきり飲み、ベッドに横たわった

“周粟ヲ食マズ”


6 奔流

朝倉の死をきっかけに世の中は加速度的に変わりはじめた

産業将校の統制のもと、日本企業群は次々と新しい文明の利器を実現しはじめた
それらは以前のようにすぐに発表せず、本来の効果を発揮するタイミングで登場させた

海外ビッグ・ビジネスの力はぐっと弱くなった代わりに、日本企業群相手に交渉を始めた

財閥のトップクラスは、産業将校らにより追い落とされたという噂が流れた
人々は、これまでの為政者より産業将校のほうが公正だと信じ、有能なほうを好んだ

産業士官学校は、人工交配人間までのつなぎとして、初めて候補生を公募した
それまでとは違い、みなエリートの像を描いてどっと志願者が殺到した

「万博リズム」というおかしな唄と踊りが広がった
それは「ええじゃないか」とあまりに酷似していた

3月5日
万国監視員の解散式が行われたが、そこに恵利良子と山科紀美子の姿はなかった

山科紀美子は死の床についていた
「鏡を貸して・・・私がまだ美しいかどうか見たいの」


7 党葬

3月12日
薄幸のヒロイン、山科紀美子の党葬が行われた

山科信也:ぼくは夫なんだぞ! 別居はしていたが配偶者に間違いはないんだ

「家庭党では拒んでいるのです
 なぜあなたは、お通夜と、内輪の告別式にいらっしゃらなかったんです? あの時なら誰でも入れたのに」

山科信也:万博工事の仕上げに没頭して知らなかった ついさっきニュースで見て飛んで来たんだ


山科がクルマに戻ると、未知と豪田もいる
忘れたつもりでも、こうなると、作家になる以前の紀美子の顔が浮かんでくる

豪田は、産業将校団から、北海道支社長に赴任してほしいと命令を受けていた
今の大阪レジャー産業は、産業将校の体系で実感装置の中軸メーカーの役割を与えられている

豪田に誘われ、昔ながらの日本式料亭で飲むことになった
未知がつぐままに豪田は杯をあおった(やっぱり女性がつぐのね

豪田:飲んで忘れるんや

山科:
かれらに不必要な人間は、みんな死ぬか追い出される
我々のような中途半端な専門家の要らない時代が来る
その果てにもう一度それがくつがえされる

豪田:
沖を追い出したのは傑作やった
わしは、うちの息子を産業将校にさせて、もういっぺん大阪レジャー産業を取り戻させる どや?

山科:
(産業将校が超人類? 超人類とはたしか突然変異によるミュータントのことだ
 ミュータントはこれからますます発達する人間文明、科学文明に耐え、適応していく
 産業将校はそのミュータントを保護する培養器の役割をするかもしれない)


8 EXPO’87

安城の会場にパビリオンが約200
万国博専用線は満員の客を乗せて、ピストン往復している
7つのゲートで一斉にテープが切られた

1987年3月15日9時 EXPO’87の幕が開いた
34種類の最新の遊戯施設を詰め込んだ「サークランド」は子どもで溢れ、早くも長い行列ができる
GM館には、人類最初の月面都市、火星基地の一部実物大セットがある

これだけの入場者を集め続けるなら、EXPO’87は間違いなく大成功をおさめそうだった
それは、産業将校による成功ではなかったか?
万博は、産業将校による、産業将校の万博だった



全身に響く音 時間なのだ ささやきかける声

「はじめもなく 終わりもない時間の中での ほんの一瞬のきらめき・・・
 それが証拠なのよ 生きていた証拠なのよ」


に揺れる感覚、ひたすら夢を追う冒険が胸をふくらませる

嵐だ 船は揺れたがまだ死なない 倒れていたのは砂だ

自分はブタだったのか?
ひとつ眼の巨人を殺したのか?

砂漠の落日

いま船は故郷にむかっている


実感装置が止まった

未知:こちらのほうが本物のように思えるわ

山科:
(テープを作り編集した自分にこれだけ残存感があるなら
 普通の入場者にはもっと強い刺激に違いない)

豪田:ほんまよう出来とる この装置は、わしらが創りあげたんや

不意に山科は、この数年間全部がまるで夢ではなかったかという気分に襲われた
実感装置に与えられるものと変わりないのでは?

あの日本の情勢下では、産業将校かそれに似た存在は必然的に登場すべきだったのだ

豪田は北海道に帰る その影がどよめきの群衆にまぎれて行った





【山本明 解説内容抜粋メモ】

SF作家の多くは、編集者、放送台本の仕事を経て作家になったが
眉村は、サラリーマン生活を8年続け、『燃える傾斜』が刊行され、コピーライターとなり、文筆業に入った
彼は実直なサラリーマンだったと自称している

彼が好んで取り上げるテーマは、会社・社会の管理機構の強化と、精神労働・肉体労働の分離、
それにともなう人々の創造力の相対的貧困だ


これはブラッドベリーの『華氏四五一度』、オーウェルの『1984』にも描かれているが
これらでは管理社会が出来上がってからの状況を描き、それに至るプロセスには触れていない

小松左京『日本アパッチ族』『日本沈没』も管理機構の矛盾を描いている
管理社会の恐ろしさの告発より、どう生まれるか描くほうが難しい

本書が書かれたのは、日本万国博の2年前の1968年
日本は高度経済成長期で、バラ色の未来論が蔓延していた


眉村の描いた過程は、古典的な世論形成の理念型の踏襲でいささか同意しがたく現実離れしている
だが、まるでワイマール憲法下の混乱からナチスが出現したことを想起させる

この「産業将校」のアイデアを眉村は気に入り、のちに『産業士官候補生』を書いている
「ビッグ・タレント」も繰り返し現れる

本書を書く1年ほど前、僕は「産業将校」のイメージをアメリカで実見した
NYにおける日本人ビジネスマン社会だ


ホテルのロビーで突然、2、30人の「バンザイ!」の声にみな振り返ると、ドブネズミ軍団が万歳三唱している
わけを聞くと「第二次佐藤内閣が成立したんですよ

あれから10年以上経つ
今のドブネズミ軍団は、もっとスマートで、もっと大きな力を持っている

ナチスや、日本の青年将校のように、なにものかに仕えるために作られた集団が、
自分たちの力の大きさを自覚して支配者になろうとする動きも皆無とはいえない

この10年間 石油ショックを契機として恒久的不況が訪れ、200海里を巡る海洋資源が問題になった
ハイジャック、浅間山荘事件、成田空港阻止闘争など、1968年には考えもしない活動が展開された

僕は、そしておそらく眉村も、本作が荒唐無稽な夢物語だと読者が大笑いする日が来ることを念願しているが
当分はシリアスに読まれ続けるだろう


それは不幸なことと同時に、一層の不幸の歯止めになることを期待せずにおれない


***

読み終えて、最初の感想は「読み終えてしまったじゃないか、こんちくしょう!」だ

たくさんの登場人物への思い入れ、それぞれの結末とこれからは
本書の中で別次元の現実として続いてゆく
エンデの「それはまた別の話」というように

どちらがユメか現実か?
私もその中の1つで生きている それだけのこと

あらゆる駆け引きの中で、確実に万博へのカウントダウンが刻まれる
そして万博ははじまり、終わる そしてまた日常は続く

ピョンチャンオリンピックも、東京オリンピックもそうした莫大なお金が絡み合い
無数の想いが絡まりあって、はじまり、終わり、またいつもの現実に戻るのだろう

ユメとも、現実とも分からない、その合間の虚構
その永遠の繰り返しの中に一瞬一瞬がある

実感装置のプロローグのささやきのように

「はじめもなく 終わりもない時間の中での ほんの一瞬のきらめき・・・
 それが証拠なのよ 生きていた証拠なのよ」



コメント

「藤里方式」と称される、ひきこもり対策 ほか@あさイチ

2017-11-21 10:18:39 | テレビ・動画配信
生涯現役の町@あさイチ

“「藤里方式」と称される、ひきこもり支援策の先進地、秋田県藤里町の社会福祉協議会の取り組みをお伝えしました。
 ひきこもりを「家から出す」ことではなく「働く場所を探す」ことに重点をおき、
 町内でひきこもっていた人たちのほとんどを自立に導いたという、独自の活動についてご紹介。
 さらに、その知見を元にことし始まった、「仕事」と「生きがい」を
 すべての町民に担保しようとする、「人材バンク」の取り組みをお伝えしました。”

ゲスト:大野拓朗さん、前野朋哉さん
VTRゲスト:菊池まゆみさん(藤里町社会福祉協議会会長)
リポーター:遠藤亮アナウンサー


「藤里方式」に至るいきさつ



最初は、ひきこもる人たちを「家から出そう」と、さまざまなレジャーを企画して誘ったが参加者は集まらず



試行錯誤し、就職斡旋につながる資格取得のセミナーを企画したところ、大勢集まった
ひきこもる人たちは、働いて、人のために役立ちたい それによって自信がつくと思っていることに気づいた

 

菊池:
もう一度社会復帰できるチャンスみたいなものだったから出て来られたのかなと思った
彼らを自立させるために頑張るんじゃなくて、就職しづらい人たちに仕事を斡旋する
今では、若者が集まって、若い力を地域づくりに生かしてもらえればいいなと思っている


「人材バンク」を設立 その仕組み

 

「人材バンク」に登録して、フルタイムではなくても、季節ごとに忙しくなる場所に
短期間、短時間のピンポイントで入ってもらい、給料を得る

 

 

地域の一員になれるという気持ちが生まれるようになった
113人の登録者の9割が、今では正規で働いている

その後、人手不足となり、町全体に呼びかけた
今ではひきこもりとは関係なく人が集まるようになった
キッシュなどの商品は、県外からの注文も殺到する

定年退職後に、異業種の仕事をしてみたかった男性は、
地域の新たな商品「わらび餅」をつくる仕事につき、「初体験で面白い」と言う


例:91歳の女性 フミさん 元教師
以前、教師をしていた村は、ダムの底に沈んだ

 

夫を亡くしてからふさぎこむ日々が続いていた



ひと世代下の人たちに、昔の暮らしぶりを伝える講師(語り部だね)を始めて、とてもやり甲斐を感じている

 

「熊の脂は火傷にすごく効くんですよ」
(うーーーーん・・・こういう話から密猟が絶えないんだよな

菊池:これからは仕事と人のマッチングが課題

イノッチ:日本各地でこういうのがあればいいですね




特選!エンタ ヤマザキマリさんイチオシ!クリスマス向け書籍



<スタジオでイチオシとして紹介した書籍>

どれも興味深かった マリさんの語り口調が可笑しいしww

「トムテ」/ヴィクトール=リードベリ詩/ハラルド=ウィーベリ絵/山内清子訳/偕成社

「てぶくろ ウクライナ民謡」/エウゲーニー・M・ラチョフ 絵/うちだ りさこ 訳/福音館書店

手袋の中に、弱肉強食一切関係なくどんどんと入っていって、
暮らしやすいようにカスタマイズされていくのがとてもフシギだそう!

「それではさっそくBuonappetito!(ブオナペティート)」/著者:ヤマザキマリ/講談社

イタリアのクリスマスというと、なんとなくオシャレなイメージが浮かぶが
マリさんの夫の実家でのクリスマスを描くことで、その実態が明らかとなる/爆

ひと言でいえば、イタリアのクリスマスは「とにかく毎日ずーーーっと食べまくる!!」

マリさんのお姑さんは、ソーセージを毎年つくるが、ブタを潰すところからって・・・
マリさんは、それを手伝わされる

 

マリさん:
これだけやって美味しければいいですけど不味いんです!(ww
これを毎日食べなきゃいけない たまにカビが生えてたりするのに
お客さんが来るとあげたりする

1ホールのケーキもペロっと食べちゃう 全部のカロリーも書いたんですけど
ものすごい量なので、気づくと、太って別人になっている

 



で、みんな年始あたりから急に粗食、ダイエットモードになって
極端に「え、これだけ?!」て量になるから、
街を歩いている人たちがげっそりしているように見えるんです(ww

 


***

日本はもう「おせち」の注文を、クリスマスケーキと一緒に始めている
文化より“モノを売る行事”と化して、加速度的に前倒しになり、わけが分からないカオス

そんな時にクリスマスツリーの記事をツイッターで見かけた

神戸市 世界市のクリスマスツリーについて賛否 神戸市会議員 五島だいすけ



ここに映っている人は西畠清順さんだと気づいた

西畠清順が仕掛ける神戸港「世界一のクリスマスツリー」、ネイキッドによる光の演出も

“本プロジェクトのテーマは、「輝け、いのちの樹」。”

田中哲司×西畠清順×鈴木浩介@ボクらの時代@表参道 Magia di farina

代々木VILLAGE

プラントハンター・西畠清順さんを、はじめは自然を大切に想う人だと感じたけれども
「樹は金になる」と言い切り、世界中から珍しい樹をあちこちに運んでいる商売になんだか違和感を感じる

その風土気候に合って、数百年、数千年生きている樹を、突然別の場所に移すのは
大草原から野性の動物を捕まえて、動物園に閉じ込めるのと同じではないだろうか

私は、動物園も、水族館も、公園も大好きで、これまでたくさんの場所に行ったけれども
そのたびに、ここで飼育されるのは、天敵がいなくて、毎日ゴハンが出てくる代わりに、一生の牢獄だとも感じる

「種の保存や研究も兼ねている」という現実もあるけれど、
未来には、こんな見世物施設はないだろう 共生があるだけ


こんなニュースもあった

中野平和の森公園の17000本の木を切って、オリンピックの海外選手団の練習用体育館を作る計画。(未JUMP)



17000本の森をオリンピックのために伐る?! なんてこった・・・
税金をそんなことに使っていいと誰が言ったんだろう
こうした身近にいる人たちの報告がないと、誰も報道せずに、知らない間に一変してしまう

まずは、政治屋に自由に税金を使わせるシステムを変えないと
大雨で土砂崩れが起きたら、それはもう人害だ


『オリーブの樹は呼んでいる』


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