メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

エドワード・ゴーリー『憑かれたポットカバー クリスマスのための気落ちした気色悪い気晴らし』

2020-12-25 14:26:29 | 
憑かれたポットカバー クリスマスのための気落ちした気色悪い気晴らし エドワード・ゴーリー/著 河出書房新社
柴田元幸/訳

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ゴーリーにもクリスマス本があったとは驚き!
しかもあの有名な『クリスマス・キャロル』のパロディ

いきなり気持ちの悪い虫が出てきてしゃべってくる 宇宙人?

ドアを開けずに黒い人影が入ってきて
それぞれいろんな情景を見せるが
どれもクリスマスにしては気が滅入る情景ばかり

3人の亡霊が見せる情景は
男の子や犬や盗まれた壁紙の話など
なんとなく繋がっていそうな気がしないでもない

盗まれた壁紙が結局、壁紙盗賊団の仕業だってすごい可笑しい

途中、北海道に住む兄からの手紙を読む女性の話が出てきて
日本が好きだということが分かって嬉しい

ラストは適度にハメを外して終わる



ゴーリー晩年の作品ということで
これまでとはちょっとタッチが違うけれども
平べったい顔、薄暗い絨毯の異様な描き込み具合は健在

河出書房新社は最初から柴田さんを訳者に迎えてゴーリー本を出しているが
少し横長のハードカバーの絵本として
ちゃんと統一しているのが素晴らしい

開いて最初に

「ゴーリー風味のアレンジで
 見苦しさの一歩手前まで盛り上がるクリスマスキャロル」


という宣伝文句も笑ってしまった

2、3色の色が使われていて、物語は結構長い



訳者あとがき
本作は1997年12月の『ニューヨークタイムズ・マガジン』日曜版の
付録についてくる雑誌に掲載され
1998年にハーコートブレース社から刊行された

翌年も同じ主要登場人物を起用したクリスマス本、首なし胸像が出て
ゴーリーのクリスマスシリーズが毎年恒例になるかと思われたが
残念ながら2000年に作者が亡くなり
クリスマス本は2冊で終わった


それまでの一連の作品とはちょっとタッチの違った
線がやや太め、背景も珍しくすっきりとした作りで
40年以上に渡った創作活動を締めくくるにふさわしい傑作となっている

西洋で最も有名なクリスマスブックといえば
チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』(1843)
本作はそのパロディである

『クリスマス・キャロル』では
過去の幽霊、現在の幽霊、未来の幽霊が出てきて
様々な情景をスクルージに見せて改心させるが

ゴーリーでは
“ありもしなかったクリスマスの亡霊”
“ありもしないクリスマスの亡霊”
“ありもしないであろうクリスマスの亡霊”に導かれて
いろんな情景を見ることになる

ディケンズの物語で進行役を務めるスピリットは
ゴーリーではバーハム虫という不思議な名前の虫に変わっている
これはスクルージの口癖「ふん、バカバカしい!」のもじり


終わり方も冷血漢のスクルージが
優しい善人に変身するのをなぞるかのように

冒頭では抗議の投書を書いていたエドマンドが
最後はみんなにパーティーへの招待状を書いている


ディケンズでは「神様、僕たちみんなにお恵みを」という一言で終わる
ゴーリーは「見苦しさの一歩手前まで盛り上がる」パーティーに化けている

ゴーリー晩年の深みのある絵を
まずは一枚一枚味わっていただければと思う

ちょっと名前を変えて再登場する続編をお届けしたいと思う





続編があるんだ♪

原書の発行は1997年
日本での出版は2015年

ゴーリー本は、最初に韻訳と原文を楽しんでから
あとでじっくり線画の魅力を楽しむようにしている


内容
「世捨て人」で通っているエドマンドは
クリスマスイブに一人でお茶を飲もうと準備に取り掛かる






最近と言っても10年以上前に贈られた
フルーツケーキを切ろうとしても歯が立たないw

ものすごい長いナイフを持ってる!

タイプライターのリボンが値上げしたことについて
新聞各社に投書しようとする

ポットカバーから中の空間に比べて何倍も大きすぎる生き物が飛び出してくる

「私は教訓主義の効用を広めるべくここに来たのである」






ドアが開きもしないのに黒い影がスーッと入って
「胸に迫る情景をお前たちに見せに来た」と言う







みなしごと野良犬がかすれた文字の墓石に身を寄せている







アルバータが帰宅すると客間の壁紙がなくなっている

エドワード夫妻は古時計が進んでいるか遅れているかを巡って意見が合わない

牧師が音叉を落としている

アルマがケーキのタネを混ぜていて
手首をくじくと、バグが威嚇的な口調で

「そういう真似はたくさんであった」と言う

この言い方が毎回出てきて教訓的で可笑しい


次に入ってきたのはありもしないクリスマスの亡霊

見せられたのは兄の手紙をもつ女性
ジプシーに連れて行かれる少女
今日が何曜日かを巡って言い争っている父と子
墓地から古い壁紙が出てくる






ビリヤードの最中に足首を捻挫すると
バグは警告的な口調でまた「そういう真似はたくさんである」と言い放つ


今度は床から3人目の影が現れる






聖書をどこかに置き忘れた女の子
愛犬が剥製になって戻ってきた/涙







「あなたの夫は国際的壁紙盗賊団の黒幕です」と告げられた女性ww

屋根を直そうとしたら隙間から落ちて
バグは「そういう真似はたくさんであろう」と言い放つ


家に戻り「パーティーを開こう みんなも招くぞ」と招待状を書く
背の高いケーキの中にはフルーツケーキが1/4トン入っている

え? ケーキの中にケーキ???


夜が更けていく中、見苦しさの一歩手前まで盛り上がったのだった







これまでは見つけるのがとても貴重だったゴーリー本が
今回一気に5冊も図書館から借りることができて

2週間で返却しなければいけないから
これだけ手の込んだイラストと文章を
素早く読んでしまうのは申し訳ないくらい贅沢

出版社と柴田さんらが地道に翻訳と出版を重ね
展覧会もあり、ゴーリーの人気が日本でもとても高くなった証か


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エドワード・ゴーリー『ずぶぬれの木曜日 きっとどこかにあるはずだ』

2020-12-25 14:09:00 | 
ずぶぬれの木曜日 きっとどこかにあるはずだ エドワード・ゴーリー/著 河出書房新社
柴田元幸/訳

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最初のページに河出書房新社と
英語で印刷されているけれども
これはどういうことだろう!?
その説明はあとがきにもなかった








訳者あとがき
拙訳によるゴーリー絵本の刊行はこれが20冊目
2000年から出した時は
まさか20冊も出せるなど想像もしていなかった

本書は1970年にアメリカで
サイン入り限定版が GOTHAM BOOK MART から刊行された

店主のアンドレアス・ブラウン氏は
長年ゴーリーの作品をサポートし
死後は版権管理もしている

ゴーリーがゴサムから本を出したのはこれが初めて
1970年は開店50周年記念の年で
それを祝って出された模様

1971年
サンタバーバラのカプリコーン・プレスという出版社から一般向けの版が刊行された


本書は数多いゴーリー本の中ではかなり異色である

(毎回異色って言ってるw

いつものように細い線をびっしり背景に描き込むタッチは影を潜め
白を背景に黒い傘、黒い犬が浮かび上がっている

この本では犬が主役
これまでそれなりに出てはくるが
猫のように枚挙に暇がないというほどではない

ストーリーもゴーリーにしてはかなりはっきりしていて
子供の命は救われるし
一応ハッピーエンドで不吉度が低いw

この本はおばのイザベル・ガーヴィーに捧げられている
ピーター・ニューマイヤーに宛てた手紙で
おばについて言及している

手紙:
昨日おばがヨーロッパから帰ってきて
ボストンからニューヨークに行く列車を
乗り過ごして助けに来てくれと言った

彼女は40数年前、悪性の感染症にかかって
片耳の聴力を失ってしまった

今朝になって症状がぶり返し
もう片方の耳も聞こえなくなってしまうのではないかとパニックに陥った

ケープコッドには耳専門の医者が一人だけいて
怪しい医者なので、おばも躊躇して
彼女の兄がいるフィラデルフィアに逃げて
そっちで治療を受けようかと迷っている



ゴーリーをいち早く評価した文芸評論の大家
エドマンド・ウィルソンはゴーリーにあてて

「これは君の最高傑作のひとつだと思う 素晴らしい掘り出し物だ」と書いている


ストーリーはとてもシンプル
主人が「傘がない」とうるさいほど言い散らかし
それを聞いていた犬のブルーノが探しに出かける








街ではみんな雨と傘の話でもちきり











「傘を買いたい」と言いに来た男は
女性店員がいろんな黒い傘を出して(どれも同じに見えるが
見せてもどれも気に入らず、ついにキレる

なんだかモンティ・パイソンのスケッチっぽいww













時々ブルーノが街を歩いていて
「きっとやり遂げるぞ」と頼もしい

素晴らしい嗅覚?によって主人の傘を見つけるブルーノ
傘の中に子供が入っていて
危うく下水道に飲み込まれるところを救い出す






家に傘を持って帰ると
「なんと気高い獣だ」と感動する主人

一方、救い出されたと思われる子供は
「悪い子だな」って言われている場面で終わる






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