メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

少年少女新しい世界の文学 4 極北の犬トヨン ニコライ・カラーシニコフ/著 学研

2023-08-27 10:48:46 | 
1968年初版 1984年 第18刷 高杉一郎/訳 辻まこと/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


日本から遠く離れた、文化、習慣の違った地域だけれども
そこに暮らすヒトとイヌの物語は
どの国のヒトの心も温かい感動に包むだろう

作者が実体験に基づいて書かれたそう



【内容抜粋メモ】

登場人物
私 著者

グラン
アンナ 妻
ナータ 長女
ロダ 次女
なまけもの 飼い犬

タルツ 友
ダーン 父母を亡くした孫
おくさん 素晴らしい猟犬

ベリョースキン ベルホヤンスクの商人
マカール アンナのいとこ
アサツ 息子
クララーク 隣りの郷の村長








●ベルホヤンスクへの旅
20歳の私はサンクトペテルブルグで1年間、独房に入れられた後
政治犯として中央ロシアから北シベリアに流される途中だった





ベルホヤンスクは世界で最も寒い荒涼とした土地
案内のヤクート人、護送のコサック兵2人とともに馬で行くと
吹雪になり、こんな所で5年も暮らすのかと圧し潰されそうになり
拝火教徒になった気がした

途中で寄ったグランのテントは温かく、清潔で、広々としていた
コサック兵は密売用のウオツカを持っていて、みなにすすめた
私はムリに飲むと、涙があふれて息ができなくなる

動物好きな私は、オオカミに似て、額に☆模様がある年寄りの灰色の犬トヨンに気づいた
グラン:これはわが家の善霊で、この家にあるものはすべて、この犬のお陰なんです





ウサギの毛皮の毛布にくるまると、トヨンがそばに来て寝た
滅多にそんなことはしない、と珍しがられる

以下は、グランが話してくれた家族とトヨンの物語


命は消えてなくなることがない
吹雪が5日も続いて、蓄えた食料も減ってきたため
ベルホヤンスクに援助を求めるついでに
家族のような友タルツの様子を見に行こうと思う

前の晩、何度も聞かせた自分の幼い頃の話をふたたび妻アンナと子どもたちに聴かせる
みんななぜ笑うか分からず、毎日笑って過ごしていた日々

しかし、ある日、黒死病(ペスト)が流行り、妹と2人の兄弟が死に
母が死に、父が死の床で「ここを焼いて逃げて、作物を植えることを教えてもらえ」

ベルホヤンスクでアンナと出会い、結婚した

アンナは山シギが1羽、ユルタに飛び込んできた夢を見た
『その山シギを逃がすなよ お前の幸せだから』という声が聞こえた







ナルタ(そり)に荷物をのせて、トナカイに引かせて着くと
タルツは病気で長く寝ていて、素晴らしい猟犬のおくさんは凍死
産んだばかりの子犬も4匹死に、1匹だけが助かる

グラン:
オレたちはこの世に生まれて、やがて死ぬ
だが、だれでもこの世になにか残さずに死ぬ者はいない
命は消えてなくなることがないのだ


タルツ:
白ギツネ、赤ギツネ、こげ茶色のキツネの毛皮を渡すから
8歳になる孫ダーンの面倒をみてやってくれ とグランに頼む







ダーンは、おくさんが「子犬になんて名前をつけてくれる?」と聞く夢を見た
グランは「トヨン」と名付ける

ダーンに子犬とタルツの世話を任せて、ベルホヤンスクに着き
商人ベリョースキンに毛皮を頼むと、タルツの信用が篤いために
毛皮をすべて売り、食糧を渡してくれる


なくしたもののことは考えず、手に入れたもののことを考えるんだ
夢の中でタルツが「おくさんがオレを呼んでいる」と言って亡くなる
ダーンを自分の息子同様に育てると誓い、おくさんと子犬の眠る穴に一緒に埋める
のちに、石碑を建てる

巨大な神の殿堂には、善悪、生死、陸と海のあらゆる生物も
いっさいが存在しているが、その秘密を探れるのは神以外、誰があろう?

グラン:
死ぬのは、昼間いっしょうけんめい働いた後、夜眠るようなものだ
怖がるんじゃないぞ
オレの家族と一緒に暮らそう
なくしたもののことは考えず、手に入れたもののことを考えるんだ
犬は人間の友だちだ
犬のいない庭なんて空っぽのようなものだ

人間の一生が幸福だったかどうか 誰に分かるだろう?
タルツといっしょに消えたものもある
しかし、子犬とともに来る未来もあるのだ



過去と未来は同一のものの部分にすぎない
トヨンとダーンが来てから、魚も猟の獲物もたくさんとれた
苦労と心配だらけの家に満足と幸福が訪れた
タルツのユルタに住んでいた善霊が移ってきたようだった







グラン:
たしかに犬には心がある
犬に命を救われた猟師はいくらでもいる

トヨンはトイレの場所を覚え、投げたものをくわえて戻ることも覚えた
剥製のリス、ウサギ、テン、キツネをつくり
遊びから毛皮を傷つけずにくわえることも覚える
オオカミの剥製にはうなって、首に噛みついた

6か月になり、首輪をはめて、皮ひもでつなぐ

グラン:
北国に住むオレたちが手に入れる一番の幸福は、冬に飢えないという保証だ
トナカイを20頭増やせれば、食糧、乳、服も心配いらなくなる


ツンドラでは訪問客は、いつまでも思い出話のタネになる
ベリョースキンから馬と鋤、まぐわを買い、大麦の栽培をはじめる
大麦の収穫は、モルモットとトヨンの戦闘にかかっていた
トヨンはモルモットに噛みついて殺す

グラン:北国の春と夏は神さまの贈り物だ

トヨンとなまけものは強い友情の絆で結ばれた
一緒に歩く時、バネや罠の避け方を教えるなまけもの
グラン:用心は勇気と同じくらい大事だ

家畜小屋にオオカミの足跡を見つけて、グランは銃で撃つ
オオカミに殺された母ウサギを見つけて、トヨンは母を失った子ウサギをくわえてきて
ナータのペットとなる

ダーンは激流の川の上を木の枝につかまって飛び越える「リスの遊戯」をナータに見せると
ひそかに練習していたナータが川に落ちて、トヨンが助ける






獲物が磁石のようにひきつけられてくる
グランはトナカイを15頭買い、アンナのいとこのマカール家族に頼んで
タルツのユルタに住んで世話をしてもらう
アンナは息子アサツが不良だと注意するが気にとめないグラン

グランは、隣りの郷と合併する際、代表に選ばれる
隣りの郷の村長クララークはとても裕福で
わいろを使って当局とも密接につながっているという噂がある
グランの活躍ぶりに深い恨みを持つが表面では隠している

グラン:
トヨンは3歳にもならないが、すっかり裕福になった
お前を助けたのが運のはじまりだ







グランの夢にトナカイの大群が現れ、誰のだ?と聞くと
「忘れたのか? お前のじゃないか オレの石碑を建ててくれたからありがたいと思っているよ」

なまけものは平凡な雌犬を好きになり、マカールのユルタに引っ越した


●しろ
クララークに3人目の孫が生まれた祝宴に呼ばれたグラン

ユルタに着くと、たくさんの犬に吠えられ
先頭に噛みつき、後にのこった真っ白なメスの子犬を見て
トヨンの相手にぴったりだと思うグラン

禁止令も構わずたくさんのウオツカを貯蔵していて
たくさんのご馳走とともにみなにふるまう
明日、トナカイの競争をして、優勝すれば200ルーブルあげると豪語する

グランは、優勝したら、あの白い犬をくれと言う
グランの老いたトナカイは競争用で自信があった

その夜、トヨンが吠えたので起きて見ると
クララークの使用人がトナカイにエサをやりに来たと言って去る
雪の上に桐が落ちていて、グランのトナカイに刺すつもりだったと分かるが
クララークには言わずにおく







クララークのトナカイも素晴らしいが、御者はまだ若く、経験が乏しい
優勝はグランで、白い犬をもらい「しろ」と名付ける

冬の終わり、ベリョースキンが来て、毛皮を売ると数千ルーブルになる
銀のシマのあるキツネを1つがい捕まえたら皇帝に献上できると頼む



●クマ
ロシア風の家を建てるために木の検分に来てクマと遭遇してしまう
クマは逃げ腰だったが、逃げ道をふさがれ、しろが吠えて噛まれてしまう!





しろが死んで、トヨンは飲まず食わずで遠吠えばかりして、すっかり変わってしまう

グラン:
あの恋わずらいをどうやって忘れさせるかが問題だ
あの病気で死んだ犬をいくらでも知ってる

あるヤクート人の作業犬が子犬を産んだため、連れてくると、トヨンになつき
トヨンも少しずつ元気を取り戻す
子犬は「くろ」「くいしんぼ」と名付けた





アサツが手伝いとして来るが、馬に水をやり忘れたり、棒で殴ったので
動物を脅かしたら家を出てってもらうと忠告するグラン


火は火花のうちに消せ
女の子は16歳でお嫁に行くが、ナータは11歳、ダーンは14歳

グランが1週間ほど家を空けると言って出かけ
アサツはナータを縛ろうとしているのを見つけたダーンとケンカになる

アサツの不審な行動に注意していたグランは途中で戻り、トヨンが助けに入る
グランはアサツを家から追い出す

アンナが3人目を身ごもり、さらに使用人を増やして
新しい収入を見つける必要があったが
トヨンはしろの件でクマを追いかけて深い傷を負う

ベリョースキンにまた借金を頼むと、再び銀ギツネを捕まえてくれと言われる
ベリョースキン:流行がある ひところは赤ギツネ、それから白ギツネ、今は銀ギツネ

猟師と猟犬は一心同体で行動しなければならないため、グランはトヨンに一心に語りかける







不幸はことわりもせず、いきなりユルタの中に入って来る
マカールのユルタの煙突から煙が出ていないので不吉に思って入ると
30頭のトナカイが盗まれ、マカール夫妻は縛られ
なまけものはトナカイを守ろうとして殺されていた
マカールはアサツとクララークの使用人の仕業だという

トヨンににおいを嗅がせて追うと、途中でトナカイの集団を見つける
トヨンはそれ以上深追いせず、鉄砲を持った犯人を追うのは危険だからとマカールもグランを止める


女房がよければ、悲しみは半分、喜びは倍になる
アルダン川支流で金が見つかったという噂が広まりゴールドラッシュとなる
一攫千金を夢見る人たちであふれ、衣食のために物価がうなぎのぼりに上がり
1頭25ルーブルほどのトナカイが、300ルーブルで売れた

グランもトヨンを家に置いて、仲間2人とトナカイを売りに出かける
だが、もう戻れない所に来て、トヨンもついてきていることに気づく







川に着くと、夜昼の区別なく人だかりがあり
警察と娯楽場の経営者の間は繋がっている

すぐに買い手が集まり1頭250ルーブルの値をつけられるが
クララークが仕切って、1頭350ルーブルで買い取り
グランは札束を首にかけてしまう

ご馳走を食べ、ウオツカを飲み、トランプ賭けが始まり
グランらはすっからかんになる

親元の銀行のロシア人はプロのペテン師で、クララークが元締め
アンナの夢の通り、大ゲンカが始まり
以前、トナカイを傷つけようとしたクララークの使用人の顔もあった







トヨンが助けに入り、テーブルの上に残った唯一の札束をつかんで逃げ
3人で分けたら1人あたり200ルーブルずつ
警察に訴えてもムダと分かり、家に帰る



銀ギツネ
トヨンは1人でも獲物をつかまえてくるようになる
近隣のメス犬がトヨンそっくりな子犬を2匹産むが、すぐに死んでしまう

銀ギツネのメスをとってきたトヨンに興奮し、グランはつがいのオスも捕まえる
大麦の収穫も多く、漁獲も想像以上で、仕事は山のようにあった







冬になると、飢えたオオカミがうろつくようになる
ダーンとナータはマカールのユルタで一泊し、翌日の出発が遅れて
暗くなったのに、まだ帰り道の半分で、途中の洞穴で夜を越すことにする

暗くなるほどオオカミの群れが増え、弾は15発しかない
1匹撃ち殺すたびに、群れが襲ってあっという間に死んだ仲間を食い散らかす!







心配したグランがトヨンに探させると、トヨンは洞穴を見つける
ナータのリボンを結んで、グランを呼びに行かせる

薪が足りなくなり、ナータは恐怖から謎の高熱を出す
家に連れて帰った後もずっと寝たままで、ディムおじいさんは薬草などを与える

ディムおじいさん:
動物に効き目のあるものは、たいてい人間にも効くものだ
わしが嫌いなのは、病気になると、ため息をついたり、悲しんだりすることだな


丁寧な看病のお陰でナータにようやく笑顔が戻る


腹が減ったら食え 若い時は恋をしろ
グランはトナカイ約150頭、牛15頭、ヒツジ50頭、馬10頭
大麦畑を持ち、ロシア風の家とユルタを夏の家、冬の家として使っていた

クララークは殺人の罪で刑務所入り、アサツも捕まった







オオカミの罠にかかって骨折したメス犬をダーンが助けて
「しあわせもの」と名付け、トヨンの子犬をはらんでいる

この冬にナータが16歳になるから、ダーンと婚約させると発表
何日もご馳走がふるまわれるのを心待ちにする使用人たち

ディムおじいさん:
幸せを守るには知恵が必要だ
でなきゃ、穴だらけの袋のように幸せが漏れてしまってることに気づかないだろう


事故
アンナは、トヨンとダーンが病気で寝ている夢を見る
冬の間、みんななにかしらで忙しいのに、1人ヒマなダーンは湖で魚を釣ろうとして
氷が割れて水に落ちる







ダーンを助けようとして、トヨンも水に落ちて、通りかかった使用人がみなに知らせた
ディムおじいさんの指示で2人を水から上げ、服を脱がして毛布でくるみ
凍傷にならないようにマッサージしつづける

ダーンは治ったが、トヨンの足はずっと引きずり、猟もできなくなった
それでも家族同然のトヨンの命が助かったことを喜ぶグラン


旅の終わりに
私は3日、グランの家に泊めてもらい、その間にこの物語を聞いた
凍りついた極北の大地のイメージが温かいものに変わる

ナータとダーンは結婚し、しあわせものは、トヨンそっくりのオス犬を産んだ
グランはトヨンのために猟を辞めて、トナカイの飼育をしている

出発前、あたたかい頭巾つきのククリャンカと、トナカイ製の長靴、手袋をもらう
お礼に唯一持っていた母からもらった懐中時計をあげる

トヨンそっくりな額に☆の模様を持つ子犬を見せてもらうと
「僕は若い頃のトヨンなんですよ」と話しているのを聞く(!

グラン:死は1つの生命から次の生命にいたる橋にすぎない

これは30年も前に経験したこと
トヨンは私が知る英雄のうちの1人に数えている
彼は極北ツンドラの魂だった




訳者あとがき






ニコライ・カラーシニコフ
1888年 シベリア生まれ
祖父が若い頃、クリミヤ戦争に行った冒険談を聞いて軍人になりたいと思う
16歳の時、人民解放運動に加わり、日露戦争後に第一革命に参加

刑務所に入れられ、シベリアの極北に流刑
5年の期限だったが、4年目に第一次世界大戦が始まり
恩赦となり従軍

中国へ亡命した後、1924年にアメリカに渡り市民権を得た
作家として成功し、本書は作者が62歳の時に発表
流刑地に送られる途中で経験した実話 1961年、73歳で死去


(こんなに戦争を体験する人生って物凄いな・・・
 軍人に憧れて、愛国心のために戦っていたらツライとも思わなくなるのか?


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