かねて評判の高い同書を書店で見た。あまり書店に並んでいないので、その時に買ったのだが。早川文庫の帯にはミステリが読みたい2010年版で第五位だそうだ。
どうかね、勿論凡百の作家に比べればレヴィンの作品がよいのは当然だが、どうかね、あまり感心しない。
アガサ・クリスティはアクロイド殺しでフェアかどうか、論争を呼んだが、この本はなぜそういう批判がないのだろう。
クリスティのはナレイター役が犯人と言うのは読者と作者が知恵比べをするミステリーではフェアじゃないというのだった。この死の接吻は「代名詞」「固有名詞」の使い分けで人物を錯綜させてエッチラホイというのだが、
オイラは中田耕治の誤訳ではないかと280ページ当たりでとうとう我慢が出来なくて放り出してしまった。その時のおいらの評価はC級。
ところが例のS・キングがベタほめらしい。そこで問題点を整理して(今まで読んだところの)最後まで読んだわけ。それで代名詞トリックとわかったわけ。これは謎解きでもなんでもない。アクロイド殺しのあっと驚く記述者イコール犯人と同じで。
この種の頓知としても失敗だ。なんだかおかしいな、と思い違和感を感じながら話のスピードで読者をさらって最後までいってあっと驚かせるなら筆力といえる。しかし、なんどもひっかかるわけよ、これは作者の意図が挫折している。
もっとも、いろんな読者がいるもので、キングを初めてとしてベタほめばかり、オイラはマイノリティらしい。
代名詞トリックというのは、相手は名前いりで、犯人だけは「彼」で押し通す、そうして交互の章で男の名前が出てきて、それがいかにも「彼」らしい。つまり犯人はその男らしいと思わせる。
ところが彼は彼なのね。トンチとしては面白いがミステリーじゃないな。