ディック・フランシスの「大穴」、どうして原題のOdds Againstがこうなるのか分からない。私なら「競馬場ころがし」 とか「競馬場乗っ取り」にするかな。さらに言えば原題そのものが内容とどう照応するのかもよくわからないが。
先に紹介したフランシスの「興奮」が八百長を調べるために厩務員のなかにもぐりこむ話で、厩務員の生態が目玉であると書いたが、本作の主役は競馬場である。
たとえれば、大井競馬場をのっとって、更地にして大規模マンション開発業者に転売して大もうけをしようと言う悪党たちの物語である。
乗っ取りの舞台になるのは、あまりはやらなくなった地方の小さな競馬場である。株式は上場してあるから乗っ取りと言う経済行為はなりたつ。一方では庶民の住宅需要は旺盛だから跡地を宅地開発してしこたま儲けようと言う計画がなりたつ。
フランシス初期の作品で1960年代の話のようだが、日本でも昨今左前になってきた地方競馬の廃止問題と妙に似ている。
大井競馬場は儲かっているようだが、かりにそうね、浦和競馬とか、前橋競馬とか、そんなのがあるかどうか知らないが、近頃さっぱり客の入らなくなった競馬場が廃業身売りするようなはなしだ。
それも悪漢たちが故意に誘導する、つまり競馬場で故意に火災を起こしたり、事故を起こしたりして客足が遠のくのを人為的に促進する。そして裏で株を買い占めるといったたぐいの話である。
そういえば、そういうはやらない北関東の競馬場を楽天が買おうとして話がまとまらなかったことがあるよね。楽天はもちろん正攻法でいったのだろうが、フランシスの小説では不法行為すれすれのオンパレードというわけ。
直近の書評で取り上げた「興奮」が澄んだワインとすれば、多少澱の浮いたどぶろくという出来栄えである。お勧め度は平均以上ではある。
なお、この小説の主人公は探偵調査会社に勤める元チャンピオンジョッキー、シド・ハレーである。かれはいくつかのシリーズの主人公らしい。イギリスの興信所みたいな組織のなかに競馬課なんてあるのが、イギリスの実態を反映しているのかどうか、面白い。日本でもそれだけの仕事はあるような気がするけど。
蛇足 巻末に解説はまったく役に立たない。平尾圭吾というんだが、どういう人だか。