穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

芥川龍之介の作品を標準偏差で見ると

2011-09-04 08:14:41 | 書評

前に紹介した米人編集の芥川短編集(新潮社単行本2007年)は適切な選択のようだ。その後新潮文庫でほかの作品をボチボチ読んでいるが、該アンソロジーのレベルより標準偏差は低い。

該書の中からさらに選ぶとすれば、羅生門、藪の中、地獄変だろう。編者は一編だけ後世に残るとすれば地獄変だろうと言うが。

ただ「大導寺信輔」だけはどうかと思うが、晩年の作品の出発点ということで入れておいてもいいかもしれない。

上にあげた三篇は初期の作品で、学生時代の作品もあるようだが、まさに前回で触れたように、芥川龍之介は白髪頭で生まれてきた男である。そして年を取るにつれて若くなる。(河童内の自己分析)

大導寺以下、河童、或る阿呆の一生などは文献的興味を催すだけだ。その鋭さを激賞するのが常のようだが、一括して「或る男の後日談、あるいはなれの果て」的な興味がある。

中期と言うか中間期の作品は器用に様々な「お色直し」をしているのには感心する。さすがは技巧派、感覚派、理知派と感心するものの、初期作品の切れ、艶は文章にはない。