前に内容は覚えていないが、本格もので樽は面白かった記憶が有ると書いた。最近再読したが平板でちっとも面白くなかった。一応最後まで我慢して読めた所がシュンのものということだろう。
さて、江戸川乱歩の探偵小説黄金時代のベストテンというリストがある。樽は第九位である。てえと、それより番号が若いのは樽より面白いのだろうと、次回第七位の「帽子蒐集狂事件」(ジョン・ディクスン・カー)を読むことにした。
ちなみに、黄金時代というのは第一次大戦後から1935年までのことらしい。
樽はアリバイ崩し小説なんだが、これはリストを自分で作って読まないといちいちデータは覚えていられない。前は著者がそうだと書けば、素朴にそうなんだろうと信じて読んだから面白かったのだろう。アリバイ崩しが警察と弁護士の傭った私立探偵の平行線(実際には私立探偵が警察の捜査を後追い検証する)というのも趣向だろう。ハードボイル以外では大体私立探偵が警察に協力的で警察の顔を立てるわけだが、樽ではそこが両者の競合になっているところがユニーク(おそらく)なところだろう。
非常に作り物という印象だ。発作的に妻を殺した男が直後に周到な隠蔽工作、アリバイ工作をあっという間に組み立てる。こんなことが心理的に切迫した状況で出来る訳がない。周到に計画した殺人でアリバイ工作も綿密に練っていたという設定に普通はなるものだ。ここが最大の欠点だろう。衝動殺人と周到なアリバイ工作、それも直後に計画を立てて水も漏らさず実行する。非リアリズム小説の極致だろう。
工作そのものの出来映えも良くない(うまくいくとは思えず、偶然の助けがなくては実行不能とみえる)。
いずれも創元文庫で読んだが、創元文庫は古典(探偵小説の)をいつまでも入手可能にしてくれる方針をとっていくらしく、この点は褒められるべきである。くずのシリーズ物ばかりを並べる早川に対して出版社の良心を感じる。上記の「黄金時代ベストテン」も大体創元文庫で手にはいるようである。