岩波の漱石全集第十三巻に「トリストラム、シャンデー」(ママ、昔は中点は使わなかったらしい)という論文があります。冒頭「今は昔し(送り仮名ママ)十八世紀の中頃英国にローレンス、スターンという坊主住めり。もっとも坊主らしからぬ人物にて、もっとも坊主らしからぬ小説を著わし云々」とあります。スターンはキリスト教の牧師でした。スターンには私の知る限り二著ありますが、ここで漱石が言っているのは
The Life & Opinions of Tristram Shandy, Gentleman のことであります。いささか与太ったスタイルの奇書であります。お察しのように拙著「中途退職者 新屋敷第六氏の生活と意見」というタイトルはこれをもじったものであります。拙著もかなり与太っているというか傾いでいるのものです。
新屋敷第六という架空の人物の伝記というか日常を描いたわけですが、そのスターン風の文体のせいか、書店によっては文芸棚ではなくエンタメ・コーナーに並べてあるようです。著者としてはどちらでもよろしいわけで、著者にジャンルの指定権があるわけではありません。著者としては文芸棚でもエンタメ棚でも、場合によっては精神世界棚に並べてもいいかな、と思います。読んで戸惑われる方もいらっしゃるようですので一言弁解をいたしました。
漱石はまた「スターンの文章は錯雑なると同時に明快に、怪癖なると共に流麗なり云々と言っています。拙著はとてもそこまではいきませんが。