「彼曰く、プラトンの国家論にものすごく似ているというのよ」と大道寺綾子記者は言った。「あんまり似ているから星タコは古代ギリシャ人が移民して作った国家ではないかと思ったそうよ、その内閣参与は」
「どういうことですか」と彼は反問した。
「プラトンっていうのは知っているわね」
「名前だけはね。古代ギリシャの哲学者でソクラテスの弟子だったというくらいしか知らないな」
「彼に国家論という対話篇があるらしいんだけど、読んだことある」
「もちろん」と彼は声を高めた。「勿論ありません」
「その国家論によると、理想的な政治が行えるのは哲人指導者のもとだけだというわけね。それで哲人指導者をどうして見つけて育てるかということが書いてあるそうよ」
プラトンによると、国家指導者と言うのは国家を守り、導く戦士階級のリーダーだということになる。プラトンによると優秀な父母の生殖細胞から生まれた子供は母親から取り上げられて、もちろん父親からも離されて、国家が保育、教育を一貫して行う。そうして厳選された教育プログラムを施されて、その過程でさらに優秀な人材を選んで国家の指導者にするという。
「そうすれば国家は安泰で繁栄するということだそうよ」
「なんだか優生学の応用みたいだ。そうすると彼ら子供たちは成長の過程で両親と暮らすことはないわけだね」
「そう、第一誰が誰の親であるということは、全くトレース出来ない。というよりさせない。また、親も自分の子供が誰であるか全く識別できないという」
「なるほど、徹底はしているね。家族制度などどこを探してもない。伝統的な倫理観なんか微塵もないわけだ」
彼はタイムトラベルで見聞したことを思い返して、それで生殖というか性交過程や分娩までのあつかいはどうなるわけ?と聞いてみた。
「それよ、いまや星ダコよりはるかに文明の遅れた人類でも人工授精とか、試験管ベイビーとか未熟児のインキュベーターによる胎児の管理が可能になっているわけでしょう。だから早くも受精の段階から親と言う者は特定されないわけ。男女から精液と卵子を機械的に採取して人工授精するわけよ」
「そりゃあ、ある意味では文明の進歩には違いないが、容易に受け入れられないわな」
ところでね、GHQの若造の提案にはさらに猛烈なアイデアがあるのよ、と言うと大道寺綾子は彼の気をじらすように三秒間沈黙した。