懲りずに安吾小説紹介。標題の短編、(中編?)はマクラの部分がいい。落語でいう所のイントロというか冒頭部分である。途中から妙な女の観念小説になる。
ハクチなどとは記述の順番が逆になっている。小説のタイトルであるが、どういう意味なのかと興味を持って読み始めたが、途中から読めなくなった(退屈で)。したがって読者にタイトルの意味をご説明することは出来ない。
相変わらず東京の大空襲が出てくる。作品は昭和二十二年発表、ハクチと同じ年である。ハクチが描いているのは四月の蒲田空襲であるが、こちらは三月十日の本所深川地区の東京大空襲である。二時間の間に東京都民十万人以上の民間人が虐殺された。時間単位での虐殺率を比べるとアウシュビッツも真っ青なホロコーストであった。
安吾の小説はホロコーストの糾弾が目的ではない。空襲までは母親からメカケ稼業を仕込まれる主人公の娘時代である。メカケ道というものがある。後妻道や後妻稼業があるように。母親もメカケで、何人かのメカケになっている。主人公の娘は母親の今の旦那のこどもではない。母親によるとメカケは一番いい商売である。もし、結婚したいなら実業家でなく、つまりお雇い社長ではなくて、大資産家の息子を狙えと教える。それも長男に限るというのである。
その母親は三月十日の大空襲で窒息死してしまう。大火災が起きると広範囲の酸素が燃焼してあたり一帯が無酸素状態になり、窒息死した都民もたくさんいた。
その後の記述は退屈で読めなかった。冒頭に興味を感じたのは、いまでも類似の母娘がいるらしいという友人の話を聞いたことがあるからかもしれない。