本部長は甲のほうを向いて、「それではこれまでにまとめた調査結果の報告をしてもらおうか。犯人たちをクラスター分け出来るような特徴のようなものは把握できたかね。君たちの用語で言うと犯人のプロファイルというのかな」
甲は指名を受けて顔を紅潮させた。といってもよりどす黒くなっただけであるが、午前中に大慌てで部下に纏めさせたレポートを取り上げた。
エヘンと咳払いしてから甲は手元の報告書を読み上げた。
「まず、犯人の男女別の内訳でありますが、男性が50パーセントで女性は四十パーセントであります。年齢別に見ますと10代から90歳代までそれほどのばらつきはありません」というと甲は一座を見渡した。みんな彼を睨みつけている。甲はますます上がってしまってしどろもどろになりながら、「報告書のコピーは皆さまのお手元にございますのでご覧ください」と言って出席者の疑い深い視線が自分に集中するのを避けようとした。
早速質問が飛んだ。男性が50パーセントで女性が40パーセントと言うと残りの10パーセントはなんですか、中性ですか」
「いや、それは遺体がばらばらになってしまって性別が特定できなかったのであります。と申しますのは次に申し上げる『通り魔』の犯行方法が様々でありまして、たとえば、飛行自動車で上空から群集に突っ込んだ場合などは燃料が爆発して遺体が燃えて無くなってしまう場合があるのです」
「遺体が無くなるというのは適切な表現ではないな。人体の残存物として識別できなるなるということだね」と司法長官が確認した。
「さようであります」と甲は死刑判決を受けたかのように委縮してしまった。
「それにしても年齢層が若年層から90歳代までまんべんなく相当あるというのは驚きだね。それでは犯行方法の特徴はあるのかね」と司法長官は聞いた。
「大別しますと、刃物によるものと、車によるものが多い。だから一件当たりの被害者の数はそんなに多くないのであります」
「そうだろうな、刃物なんかじゃ数は稼げないからな」と誰かが不謹慎な発言をした。
「そうです、一件当たりの死傷者は刃物の場合はせいぜい数人です。車を使った場合は状況によってマチマチですが、十人以上になりますね。被害者がもっとも出た事件では百五十人の死者が出ました」
「どうしてだ」
燃料を満載した大型空中バスを高度二百メートルから渋谷のスクランブル交差点に墜落させた事件であります」
「ああ、あの事件か」
「銃器や爆発物を使用することはないのですか」
「ご案内のように人間に対しては銃器の所持を厳しく禁じております。爆発物の携行も許していません。その辺はわが警察が厳重に監視しております」と甲はここぞとばかりに胸を張ったのである。