「私を離さないで」を三分の一ほど読んで挫折したことは書きました。その後処女作(元服後、あるいは成人式後の処女作ともいうべき)「遠い山並みの光」と第二作「浮世の画家」を軽読しました。
私は成人式後の処女作を(つまり習作期間中の作品ではなく)を重視するものですから、処女作からシリアルに読み始めたのです。彼の手法的な特徴というのか(内容ではなくて)、なんというのかテーマというか謎というか、展開すべき着想というのでしょうか、それを最後まで明らかにしないということに気が付きました。もっとも、だからと言って途中で本を投げだすということもなくて最後まで読ませる筆力はあります。最後に至っても、通俗小説のようなテーマの明示はないのですが、それでも読後の、なんというか、充足感はあります。やはりその辺が力量でしょう。
ストリッパーが一枚一枚脱いでいって最後にいたっても全部脱がないというのに似ていますね。それでも十分にお客を満足させる芸になっている。全部脱がないとブーイングが起こるのは場末の、あるいは歓楽地の温泉街の小屋ぐらいのものです。