さて、前日話したカフカの「城」の翻訳であるが、池内訳を10ページほど読んだ。読んだ箇所は池内訳20章「オルガの計画」である。ちなみにこのくだりは新潮文庫前田訳では第15章になっている。
絶対比較はできないが、相対比較では比較にならないほど池内訳の方が良い。絶対比較するならドイツ語の原文にあたらなければならないし、第一、ベースになるテキストが明らかに違う(章分けを見ても明らかな様に)からテキスト・クリティークにまで踏み込まなければならない。本書評の範囲外となる。
前田訳は日本語としてもおかしいという箇所を三カ所ほど指摘したが、会話の女言葉の取扱が前田では妙だ。たとえば、「オルガの計画」であるが、ここ以外でも「城」のなかでKと女の会話は、会話というよりも長いモノローグの羅列と言った方が良いところが圧倒的に多い。
前田訳はほとんどの語尾に「ですわ」などの女言葉を使っている。猛烈な違和感がある。池内訳では女性的結語は最小限に抑えている。正解はこちらだろう。言葉に対するセンスの問題なのだろうが。
話は違うがカフカの「変身」は結局二、三度読んだが私は読み終わると本を捨ててしまうので読み直すときは買い直した。それで何人かの違う訳で読んだのだが、訳者の違いによる違和感は無かった。だが、この「城」は前田と池内では全然印象が違う。
それぞれに後書きが付いているがこの文章にも歴然とした差が出ている。
ま、どうでも良いことだが変身でも審判でもKは勤め人(今の言葉で言えばサラリーマン、週刊誌言葉で美化すればビジネスマン)なのに、城では測量士*だ。そして彼の仕事ぶりとかは全然出てこない。城が仕事をくれないのだから、当たり前ではあるが。カフカの長編では『失踪者(アメリカ)』というのがあるらしい。この主人公は15(6、7)歳らしい。池内訳で読んでみようかなという気になった。
なお、彼の短編、中編であるが、変身以外にいくつか読んだが感心した物は一つもなかった。
私も過去に必要上1、2度日本の測量士と接触したことがあるが、かれらは土方とインテリの中間という印象であった。知的仕事ではあるが、仕事の現場は土方と異ならない。カフカも役所勤めの間に測量士と接触した経験があるのかな、それが反映しているのかな。