ポール・オースターのいわゆるニューヨーク三部作を柴田元幸氏の翻訳で再読した。たいして理由があったわけではないが、ちょっと口さみしい時期だったのである。その後の彼の作品もいくつか読んでいるが、どうも上手くはなっているが、あるいは小説らしくはなっているがムンムン度は薄れているようだ。今度三部作を読み返して改めて感じた。
それで原文で読んでみようかと思って「幽霊たち(Ghosts)」を探して洋書をそろえている店を二、三軒回ってみたが、最近の作品はあるが、初期の作品はおいていない。ようやくある店で[Newyork Trilogy]というタイトルで三冊をまとめている本があった。立ち読みしてみると、これが超微細な活字で組んである。学生時代と違って目に優しくない活字は敬遠しているのでパスしたのである。オースターは意外と多作で、初期の作品は一番彼らしいのに、いまでは隅に追いやられた感じである。
訳者があとがきでオースターの先行者として、ベケットとか安部公房をあげていた。安部については大昔に二、三の作品を手に取ったことがある。しかし完読したのは「燃え尽きた地図」のみである。そして面白くはなかった。ほかには壁、砂の女、箱男があるが、いずれも最後まで読む我慢が続かなかった。柴田氏の指摘が無学な私には意外だったので、再度安部公房を読んでみることにした。
過去の経験から中編あるいは長編はどうも途中で続かなくなりそうなので彼の短編を探してみた。文庫で何冊かあるようだ。現在三つほど読んでみたが、「夢の兵士」という冬山で訓練中に脱走した兵士の話がある。これが比較的読みやすかった。といっても、感銘を受けたというより、「うまいな」と感心したのである。
大体において彼の作品は読み返さないと意味がとれない。そういう風にできているようだ。長編だと、読み返すのが大変だが、短編だとその辺は楽である。全部一応読んでから読み返しても大して*手間*がかからない。