年末野党再編評価するために欠かせぬ視点
「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/12/09
年末野党再編評価するために欠かせぬ視点
第2501号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019120919333361545──────────────────────────────────── 臨時国会が閉幕する。
この臨時国会の最重要議案は日米FTA承認案だった。
2016年末に大論議を呼んだTPP12(米国を含む12か国によるTPP 協定)の本丸が今回の日米FTA協定案である。
TPP12では日本が農産品などの関税を大幅に引き下げることが中心議題と された。
また、TPPの最大の特徴は、単なる物品貿易の関税率を引き下げるだけでな く、一国の諸制度、諸規制改変がもたらされることにあった。
とりわけ、国民生活と関わりが深い保険医療制度、食の安全、公共調達、郵政 事業などに重大な影響が生じる可能性が高く、大きな論議を呼んだ。
もちろん、根源的には私たちの生存に関わる食料の問題が重大だ。
食料自給は経済的安全保障の根幹に位置付けられる。
「食料自給は国家安全保障の問題であり、それが常に保証されているアメリカ は有り難い」
「食料自給できない国を想像できるか、それは国際的圧力と危険にさらされて いる国だ」
これは、米国のブッシュ大統領が国内の農業関係者向けの演説で、しばしば用 いたフレーズである。
(東京大学鈴木宣弘教授「食料安全保障の確立に向けて」https://bit.ly/348clYd より引用)
どの国も国民の生存と健康維持のために農業を手厚く保護している。
このことを度外視して国内農業を衰退させることは国民に対する背信行為であ る。
TPP12は日本の農林水産業を破滅に追い込むだけでなく、国民皆保険制度 の根幹を破壊し、食の安全・安心を崩壊させる結果をもたらすから、TPP1 2を日本が受け入れるべきでないとの主張が広範に展開された。
自民党も2012年12月総選挙に際しては、
「ウソつかない!TPP断固反対!ブレない!」
と大書きしたポスターを貼りめぐらせて選挙戦を戦った。
その際、6項目の公約を明示した。
農産品重要五品目の関税を守ることも明示された。
食の安全・安心を守り、国民皆保険制度を維持することも公約として明記され た。
また、国家主権を侵害するISD条項については「合意しない」ことが明記さ れた。
ところが、これらの懸念事項がまったく解消されないどころか、懸念がそのま ま現実化するTPP12協定案がまとめられ、安倍内閣が署名してしまった。
しかし、国会でこれを承認するべきでないとの主張が大きく展開されたのだ。
だが、安倍内閣は批准を強行した。
これがTPP12だった。
米国を含むTPPで、米国が離脱すると発効できない条項が盛り込まれてい た。
米国が離脱する可能性は高く、批准を急ぐ必要はないとの主張も強く存在した が、安倍首相はTPP12の合意を完全に確定するために批准を急ぐのだとし て批准を強行した。
実際、日本の批准直後に米国はTPPから離脱した。
これでTPPは臨終を迎えたはずだったが、あろうことに、安倍内閣はTPP 協定合意文書改変の先頭に立った。
そして、米国抜きのTPP11を強引にまとめ、発効させてしまった。
安倍首相はTPP12の修正は一切行わないことを明言するとともに、日米F TA交渉には応じないことを確約した。
ところが、米国のトランプ大統領に命令されると、日本の国会での明言など存 在しなかったかのように、日米FTA交渉を受け入れた。
その日米FTAの第一弾合意が今回の日米物品貿易・デジタル貿易協定であ る。
日本の国会を完全に冒とくする安倍内閣の行状を許すわけにはいかない。
安倍内閣の横暴を明らかにし、責任を追及するのが国会の責務、野党の責務で ある。
ところが、この臨時国会で、問題の日米FTA協定が批准された。
野党はほとんど抵抗らしい抵抗さえ示さなかった。
桜疑惑が一気に広がり、日米FTA承認を阻止することは十分可能だったはず だ。
しかし、野党は日米FTA承認を容認し、挙げくの果てに安倍内閣に対する不 信任決議案の提出さえ見送った。
理由は単純明快だ。
野党が衆院解散総選挙を恐れたのである。
このような野党では日本政治の刷新は夢のまた夢である。
日本政治刷新のために有効な野党体制構築を急がねばならない。
本ブログ、メルマガで繰り返し指摘しているが、旧民主党内部に与党と通じる 勢力が潜伏しており、この「隠れ与党勢力」が日本政治の刷新を妨げてw。
2017年10月総選挙に際しての変動を契機に、旧民主党=民進党が二つに 分裂した。
ようやく水と油の分離が始動した。
「隠れ自公勢力」と「革新勢力」が分離すれば、主権者の前に分かりやすい選 択肢が提示される。
米国・官僚・大資本が支配する日本政治を今後も続けるのか。
それとも、米国・官僚・大資本による日本政治支配に終止符を打ち、主権者国 民が支配する政治を始動させるのか。
この選択肢を主権者の前に提示することが何よりも重要なのだ
旧民主党=民進党が守旧勢力と革新勢力に分離・分裂すれば、主権者に明確な 選択肢が提供される。
2017年10月総選挙に際して創設された立憲民主党が主権者の支持を急速 に集めたのは、立憲民主党が革新勢力の旗手として進むことが期待されたから だ。
私たちの前には、原発、憲法、経済政策という三つの重要問題がある。
安倍政治は、原発を推進し、憲法を改変して日本を「戦争をする国」に変え、 弱肉強食を推進する経済政策を採用している。
この安倍政治に反対の主権者が多数存在する。
この反安倍政治の主権者の意思を汲む政治勢力の塊が必要なのだ。
原発即時稼働ゼロを実現し、平和憲法を守り、すべての国民に国家が保障する 最低水準を引き上げる共生重視の経済政策を実施する。
これが、安倍政治に対峙する政治勢力が掲げる基本政策ということになる。
安倍政治と正面から対峙する「革新政治勢力」が、いま求められている。
旧民主党=民進党の分離・分裂は、日本の政治勢力が「守旧勢力」と「革新勢 力」に二分される非常に重要な出発点と位置付けられたのだ。
しかし、このようなかたちで「守旧勢力」と「革新勢力」の二大政治勢力体制 が構築されることは、日本の既得権勢力にとっての危機である。
「守旧勢力」と「革新勢力」の二大勢力体制に移行すれば、「革新勢力」が権 力を奪取するのは時間の問題になるからだ。
2009年には「革新勢力」が政権を樹立した。
文字通り、既得権勢力にとっての絶体絶命のピンチだった。
だからこそ、守旧勢力は「革新勢力」の棟梁であった鳩山首相と小沢一郎前民 主党代表を徹底的に攻撃したのである。
そして、既得権勢力の目標であった鳩山内閣破壊が実現した。
この鳩山内閣破壊に寄与したのが民主党の悪徳10人集である。
渡部恒三、藤井裕久、仙谷由人、菅直人、野田佳彦、岡田克也、前原誠司、枝 野幸男、安住淳、玄葉光一郎の10名である。
鳩山内閣は破壊され、守旧派勢力傀儡の菅直人内閣、野田佳彦内閣が創設され た。
立憲民主党が創設され、革新勢力の大連合が創設されることは、日本の既得権 勢力にとっての危機である。
日本の既得権勢力にとっては、自公に対峙する勢力は、第二自公勢力でなけれ ばならず、革新勢力の大連帯は既得権勢力にとっての悪夢なのだ。
そこで、いま、再び「第二自公勢力」の構築が目指されている。
せっかく分離し始めた旧民主党勢力をもう一度一つの勢力に引き戻し、野党結 集という名の「第二自公勢力」の創設が目指されている。
この動きの中心にいるのが、鳩山内閣を破壊した「隠れ自公勢力」である。
この臨時国会で最重要の日米FTA協定案の可決成立が野党の無抵抗によって 実現した。
表側で「桜疑惑」が全開になったにもかかわらず、野党陣営は桜疑惑を盾に日 米FTA協定案批准阻止に全力を注がなかった。
挙句の果てが内閣不信任案の不提出である。
安倍首相が衆院解散に踏み切るなら、受けて立つのが野党の基本姿勢ではない か。
旧民主党勢力が元のさやに戻って数だけ拡大しても、安倍政治と対峙する明確 な理念、明確な政策公約、明確な対決姿勢がなければ、安倍自公政治の暴走を 側面援護するだけの存在になってしまう。
政権交代を実現できたとしても、安倍政治と変わらぬ守旧派政治を継続するこ とになる可能性が高い。
政治の決定権を持つのは政党ではなく、主権者国民である。
主権者国民として安倍自公政治と正面から対峙しない勢力を支援する意味はな い。
安倍政治に対峙する本当の意味の革新勢力を、主権者が主導して構築し、この 革新勢力に政権を奪取させなくては、日本政治刷新の目的は実現しない。
年末に向けての野党再編の動きをこの視点から捉えることが必要だ。