2021/10/31 05:00徳島新聞
チラシを配って投票を呼び掛けるTYMEのメンバー=26日、徳島大常三島キャンパス
(徳島新聞)
衆院選の投開票日であるきょう、投票に行かないつもりの皆さんへ。2017年の前回衆院選で、徳島県の投票率(小選挙区)は46・47%と全国で最低でした。今回も棄権する人が多いかもしれません。そこで、そんな皆さんに代わって「投票に行かない理由」を、徳島大の饗場(あいば)和彦教授(政治学)にぶつけてみました。
「自分が投票しても何も変わらないから、行くつもりはありません」
饗場 前回衆院選の新潟3区では、2人の候補者が10万票近くを取って競り合い、結局50票差で勝敗が決まりました。つまり、1万人のうち2、3人の判断が違っていれば、逆の結果になり得たということです。一票は重いのです。
また「誰を勝たせるか」だけでなく「どの程度の人が投票するか」でも政治は変わります。今、若い世代の投票率は3割程度ですが、高齢世代は7割が投票するので、政府はお年寄りを意識した政策を打ち出します。若い人がもっと投票すると、政治はそちらを向くようになります。
「事前の調査で大差が付くと分かっている場合はどうですか。落選するであろう候補者に1票を投じる意味ってあるんでしょうか」
饗場 ガンジーはこんな言葉を残しています。「あなたのすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」。投票しない先には、選挙権がなくなったり、自由が保障されなくなったりする未来があるかもしれません。日本国憲法も「国民の不断の努力によって」、憲法が保障する自由と権利を保持しなければならない、と定めています。私たちは権利の上に眠ってはならず、権利を守るためには行動が必要なのです。
「そもそも選挙ってそんなに意味があるんですか」
饗場 政治には権力が必要で、政府は国家権力を背景に私たちを統治します。この権力は強大で、もし乱用されたら市民は大変な目に遭います。歴史上、国家による殺戮(さつりく)や抑圧はたびたび起きました。民主制であれば、権力を乱用する政府を選挙で変えることができます。この大事な民主主義を守るためには、投票という行動が必要です。ガンジーも行動を促していましたが、民主主義は自転車と同じで、こがないと倒れるのです。
「政治について知識がないので、投票すると結果をゆがめてしまう。だから投票しません」
饗場 学生にこういうタイプが多いです。ある意味、まじめなんですね。分かる人に任せておきたい気も分かりますが、それだとごく一部の人による偏った政治になり得ます。
例えば、81人の有権者がいて、9人ずつ9選挙区に分かれて選挙をするとします。9人のうち5人が投票すると投票率は56%で、今の日本とほぼ同じです。開票の結果、5選挙区でいずれもA党が3票、B党が2票を獲得すると、A党が選挙に勝って政権を取ります。しかし、A党に投票したのは「5選挙区×3人」の計15人のみです。つまり、わずか19%の意思で政治が動いてしまうのです。
こうした少数支配にならないためには、人に任せずに多くの人が投票しないといけません。
「いろいろと公約などを調べるのは面倒です」
饗場 シンプルに「与党か、野党か」という2択で考えてみてはどうでしょう。今の政治や社会の方向性に賛同するなら与党に、賛同しないなら野党に投じるというように。
「どんな点で『賛同するか否か』を考えればいいですか」
饗場 例えばコロナ下の経済支援など、日々の暮らしに直結するところで見る。これは分かりやすいですよね。日常で不都合は感じないかもしれませんが、民主主義に関わる問題や安全保障の課題も非常に重要なので、注目したい点です。
「未来に向けた約束である公約だけでなく、これまでに何をしてきたかも判断材料なんですね」
饗場 衆院解散を受けた10月15日の全国紙の1面を見比べてみましょう。朝日は「岸田・菅・安倍政権の4年問う」、毎日は「問われる国会軽視」、読売は「コロナ・経済争点」という見出しです。朝日と毎日はこれまでのこと、読売はこれからのことを重視しているのが見て取れます。
「投票所への入場券をなくした場合はどうなりますか」
饗場 入場券がなくても、投票所で選挙人名簿に名前があれば投票できます。
あいば・かずひこ 1960年滋賀県生まれ。読売新聞記者などを経て2007年より現職。専門は政治学、安全保障論、ジャーナリズム論。高校などで主権者教育に携わる。
◇
ここで挙げた「投票に行かない理由」は、饗場教授が学生からよく聞くものです。選挙啓発に取り組む徳島大生のグループ「TYME」は、この「行かない理由」とそれに対する「反論」をチラシにし、常三島キャンパスで投票を呼び掛けていました。コロナ下で私たちは政治が暮らしに直結していることを目の当たりにしました。民主主義を守るため、一人一人の「不断の努力」が求められています。
>これからの徳島を考える―徳島新聞選挙サイト「衆院選特集」
チラシを配って投票を呼び掛けるTYMEのメンバー=26日、徳島大常三島キャンパス
(徳島新聞)
衆院選の投開票日であるきょう、投票に行かないつもりの皆さんへ。2017年の前回衆院選で、徳島県の投票率(小選挙区)は46・47%と全国で最低でした。今回も棄権する人が多いかもしれません。そこで、そんな皆さんに代わって「投票に行かない理由」を、徳島大の饗場(あいば)和彦教授(政治学)にぶつけてみました。
「自分が投票しても何も変わらないから、行くつもりはありません」
饗場 前回衆院選の新潟3区では、2人の候補者が10万票近くを取って競り合い、結局50票差で勝敗が決まりました。つまり、1万人のうち2、3人の判断が違っていれば、逆の結果になり得たということです。一票は重いのです。
また「誰を勝たせるか」だけでなく「どの程度の人が投票するか」でも政治は変わります。今、若い世代の投票率は3割程度ですが、高齢世代は7割が投票するので、政府はお年寄りを意識した政策を打ち出します。若い人がもっと投票すると、政治はそちらを向くようになります。
「事前の調査で大差が付くと分かっている場合はどうですか。落選するであろう候補者に1票を投じる意味ってあるんでしょうか」
饗場 ガンジーはこんな言葉を残しています。「あなたのすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」。投票しない先には、選挙権がなくなったり、自由が保障されなくなったりする未来があるかもしれません。日本国憲法も「国民の不断の努力によって」、憲法が保障する自由と権利を保持しなければならない、と定めています。私たちは権利の上に眠ってはならず、権利を守るためには行動が必要なのです。
「そもそも選挙ってそんなに意味があるんですか」
饗場 政治には権力が必要で、政府は国家権力を背景に私たちを統治します。この権力は強大で、もし乱用されたら市民は大変な目に遭います。歴史上、国家による殺戮(さつりく)や抑圧はたびたび起きました。民主制であれば、権力を乱用する政府を選挙で変えることができます。この大事な民主主義を守るためには、投票という行動が必要です。ガンジーも行動を促していましたが、民主主義は自転車と同じで、こがないと倒れるのです。
「政治について知識がないので、投票すると結果をゆがめてしまう。だから投票しません」
饗場 学生にこういうタイプが多いです。ある意味、まじめなんですね。分かる人に任せておきたい気も分かりますが、それだとごく一部の人による偏った政治になり得ます。
例えば、81人の有権者がいて、9人ずつ9選挙区に分かれて選挙をするとします。9人のうち5人が投票すると投票率は56%で、今の日本とほぼ同じです。開票の結果、5選挙区でいずれもA党が3票、B党が2票を獲得すると、A党が選挙に勝って政権を取ります。しかし、A党に投票したのは「5選挙区×3人」の計15人のみです。つまり、わずか19%の意思で政治が動いてしまうのです。
こうした少数支配にならないためには、人に任せずに多くの人が投票しないといけません。
「いろいろと公約などを調べるのは面倒です」
饗場 シンプルに「与党か、野党か」という2択で考えてみてはどうでしょう。今の政治や社会の方向性に賛同するなら与党に、賛同しないなら野党に投じるというように。
「どんな点で『賛同するか否か』を考えればいいですか」
饗場 例えばコロナ下の経済支援など、日々の暮らしに直結するところで見る。これは分かりやすいですよね。日常で不都合は感じないかもしれませんが、民主主義に関わる問題や安全保障の課題も非常に重要なので、注目したい点です。
「未来に向けた約束である公約だけでなく、これまでに何をしてきたかも判断材料なんですね」
饗場 衆院解散を受けた10月15日の全国紙の1面を見比べてみましょう。朝日は「岸田・菅・安倍政権の4年問う」、毎日は「問われる国会軽視」、読売は「コロナ・経済争点」という見出しです。朝日と毎日はこれまでのこと、読売はこれからのことを重視しているのが見て取れます。
「投票所への入場券をなくした場合はどうなりますか」
饗場 入場券がなくても、投票所で選挙人名簿に名前があれば投票できます。
あいば・かずひこ 1960年滋賀県生まれ。読売新聞記者などを経て2007年より現職。専門は政治学、安全保障論、ジャーナリズム論。高校などで主権者教育に携わる。
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ここで挙げた「投票に行かない理由」は、饗場教授が学生からよく聞くものです。選挙啓発に取り組む徳島大生のグループ「TYME」は、この「行かない理由」とそれに対する「反論」をチラシにし、常三島キャンパスで投票を呼び掛けていました。コロナ下で私たちは政治が暮らしに直結していることを目の当たりにしました。民主主義を守るため、一人一人の「不断の努力」が求められています。
>これからの徳島を考える―徳島新聞選挙サイト「衆院選特集」