「新・夢十夜」 芦原すなお 創元推理文庫
夢と現が交差する、不思議な十の物語・・・、ということで。
芦原すなおといえば、「ミミズクとオリーブ」のシリーズは読んでいまして、どちらかといえばユーモラスな語り口のミステリのイメージがあります。
ところがこの本は、ノワールのにおいがする・・・、ちょっと怖い短編集。
「夢」といってもいろいろありますね。
なんとなく、ふわふわと楽しいような、そんなイメージもありますが、ここではむしろ悪夢。
どこまでが夢なのか、現実なのか、わからなくなってくる。
夢からさめてもそこはまた夢。
夢の迷宮に閉じ込められ、永久にさまよわなければならないような、そんな不安がわいてくるのです。
この本の解説の亜門虹彦氏はフロイト風にこれらの夢のストーリー分析していますが、怖いくらいに作者の無意識を読んでいます。
「いわば、『リアルな自分の精神世界』を描いたのが、本書といえる。
夢の世界を描いた,最も幻想的な作品が、実は作者にとって切実であり、リアルであるというのは、まさに小説のパラドクスではある・・・。」
とのこと。
まったく自分の空想によるストーリーはつまり、もろに、自分の内心をさらけ出すことになるということなんですね。
なかなか厳しい。
でもまあ、そこまでの分析をしなくとも、夢の不思議なストーリーを楽しむだけでも十分だと思います。
夢のはなしでよく引き合いに出されるのは「胡蝶の夢」という荘子の漢詩ですね。
今いる自分が蝶を夢見ているのか、それとも、蝶が人間になった夢を見ているのだろうか・・・というもの。
この本ではこのように、夢を見ている「自分」とはいったい誰なのか・・・それすらも、次第に歪んでいくのです。
また、夢というのは、一つ一つのディティールは正しいのに、全体としての脈絡、時間軸、空間軸の統制が取れていない。
・・・先日美術館で「ダリ展」を見たのですが、そのダリの絵のような感じですね、夢の世界って。
この本の最終話「ぎんなん」ではとうとう、死者の夢まで出てきます。
登場人物は実はかつて生きていた自分が生前に見た夢の中の自分。
死者の夢であるから、永遠に覚めることはなく、永遠に夢の迷宮をさまよわなければならないのか・・・。
大変、興味深い一冊でありました。
満足度 ★★★★