映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「半島を出よ 上・下」 村上 龍

2007年09月24日 | 本(その他)

「半島を出よ 上・下」 村上 龍  幻冬舎文庫

これは、”どえらい”小説です。
本のボリュームもたっぷりですが、いろいろ考えさせられながらも、手に汗を握り読み進んでしまう問題作。

近未来、2011年。
はじめはたった9人の北朝鮮の武装コマンドが福岡ドームを占拠。
その二時間後には500名の
特殊部隊が福岡市を制圧。
彼らは、北朝鮮の「反乱軍」と名乗っている。
北朝鮮側も、それは反乱軍だから、好きに始末をしてよい、自分たちの国家とはかかわりがない、という。
そのように宣言されてしまっては、北朝鮮に抗議も報復もできない。
日本として、何とかしなければならないのだけれども、福岡市民を人質にとられたと同然なので、攻撃を仕掛けることもできない、というかその責任を誰もとろうとしない。
無為無策。
日本政府は福岡から北朝鮮コマンドが首都圏へ潜入することを恐れ、福岡市を完全に封鎖してしまう。
福岡は日本から見捨てられた形で、高麗(コリョ)遠征軍と名乗る北朝鮮部隊が支配する都市となってしまう。
さらには、12万人の部隊が大挙して九州に上陸しようとしている。

そんな馬鹿な・・・と思いながらも、もし、実際にこんなことがおきたら、日本政府はなすすべをしらず、まさにこのような結果になってしまうだろうことが、想像できてしまうのが怖いです・・・。
こんな時にはすぐに助けに来てくれるはずのアメリカ軍も、実は日本の要請なしには動かない。
まあ、そうですよね・・・。

高麗遠征軍は、しかし、表面は大変紳士的で、敵意を向けなければ市民を殺戮も略奪もしない。
圧倒的な武力・暴力の前には実際、人間は大変弱いのです。
福岡市役所職員はほとんど友好的とも思える態度で、遠征軍を援助してしまう。
彼らは、正当でないやり方で巨額の富を築いたものたちを「犯罪人」として逮捕。
ひどい拷問の末、彼らの財産を没収し、自分たちの財産とする。
軍のための物資はすべてその財産から支払いがなされるので、もし、12万の人員が上陸すれば、市の経済流通が活発になるという、考えようによっては、「日本」の一地方であるよりも利点があったりもするのです・・・。
まあ、この小説の前提として、この日本は完全に経済破綻し、失業者やホームレスであふれている、という状況があるのですが・・・。

さて、それにしても、相手は武装集団。
いつどんな言いがかりでわが身の安全が犯されるかわからない。
そんな日常は耐え難いでしょう。
そこで、立ち上がったのが、ある若者たち。
別に、正義の味方でも、鍛えぬいた体を持った者たちでもありません。
それぞれが何かのオタクとでも言うのか、
武器・爆薬・毒をもつ生物・ビルの構造。
・・・こんなことにそれぞれが異常な関心と知識をもっている。
彼らは、ひどい環境に育ったためか、どこか心が壊れていて、
家庭はもちろん一般社会からもはじきだされたものばかり。
このわずかな人数の若者たちが、いったいどうやって500名の軍隊に立ち向かおうとするのか、・・・・・・・・まあ、それは読んでのお楽しみ!

これを読むと、テレビで北朝鮮のニュースが流れていたりすると、ドキドキしてしまいます。
無論フィクションですからね。
フィクションはフィクションと割り切るオトナになりましょう・・・!
それにしても、確かに、平和ボケ、危機意識の欠如・・・
これは少し考えたほうがいいかも、と思いました。

満足度 ★★★★★