「記憶をなくして汽車の旅」 コニス・リトル/三橋智子訳 創元推理文庫
この物語は、主人公である女性がふと目を覚ますと自分が誰なのか、ここがどこなのかわからない。
記憶喪失に陥っていた、という大変インパクトの強いツカミで始まります。
なぜか汽車に乗っており、しかも、場所はオーストラリア!
わけがわからないうちに、メルボルンからパースまでのオーストラリア横断鉄道にのせられてしまいます。
何しろ、いきなり婚約者と名乗る男性が出てきて抱きしめられたり、あんな奴との婚約はすぐに解消して自分と結婚するのだと迫る怪しい男も出没。
持っていたハンドバッグの中身から察して自分の名はクレオらしいのだけれど、次第にそれは何かの間違いで、本当はその友人のバージニアというのが自分なのではないか、と思えてくる。
というのも、クレオはどうも遺産目当てで殺人を犯しているらしい・・・。
自分がクレオではないと思うのは単なる願望なのだろうか・・・。
親切にしてくれる、ジョー叔父さんをはじめ親戚(らしい)の人たちに記憶を失っていることを打ち明けられないまま、悩ましい汽車の旅が続きます。
オーストラリアの東から西へ向けての横断。
なかなか興味がありますが、なんと、区間ごとにレールの幅が異なっていて、何度も列車を乗り換えなければならない、という不便な点も。
そのつど、大きな荷物を持って移動。乗り換え時間を見合わせて食事を済ませるなどしなければならなかったり、これは以外にストレスかもしれません。
(もちろん、現在はそんなことないと思います!)
そうこうしているうちに、今度はその列車内で、実際に起こる殺人事件。
列車内で起こる殺人事件、これはもうミステリとしては黄金のシチュエーションですよね。
異国の旅情に加えて、自分自身の謎、そして、この殺人事件の真相は???
・・・ということで、たっぷり楽しめる作品。
さて、この作品の舞台の年代はいつ?
少なくとも、電車ではなく汽車が走っていた時代のようだ・・・ 。
作中にはそれがわかるような記述がないなあ・・・と思ったら、
この作品はなんと1944年に書かれたもの。
つまり、これはその当時において「現在」のストーリーだったわけです。
(この本自体はこの8月初版です。)
そんなことも知らずに読んだのは、新聞の書評で紹介されていたからなんですけどね。
著者コニス・リトルは実は二人の姉妹競作のペンネーム。
すでに二人とも没しているとのことであります。
それから、この本のカバーイラスト、ひらいたかこさんによるものですが、すばらしく印象的。
こういう本は大事にしたくなりますね。
満足度★★★★