映画と本の『たんぽぽ館』

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「楽園 上・下」 宮部みゆき

2007年09月17日 | 本(ミステリ)

「楽園 上・下」 宮部みゆき 文藝春秋

「模倣犯」から9年。そこで登場したジャーナリスト前畑滋子が、再び事件にいどみます。
「模倣犯」の事件で受けた心の傷がまだいえていない彼女のところに来た話は、ちょっと奇妙なものでした。

ある民家の自宅の床下から、16年前に行方不明となっていた少女の遺体が発見されます。
それは、なんとその両親が素行の悪い長女を殺害し、埋めてそのまま、16年間そこに住んでいたというショッキングなもの。
それも、その両親自らの供述で発覚したことであり、現れた事実はそのとおりで、いわば終わった事件です。

ところが、ある少年が、この事件が発覚する前に、家の床下で眠る「少女」の姿を透視(?!)していた。
滋子は、事故で亡くなったその少年の母親から、少年のその不思議な「能力」についての調査以来を受け、事件を調べ始めることになります。

何もつかみどころのないようなその話なのですが、わずかな糸口から、調査を進めるうちに、意外に、深い真相が現れてくるのです。

問題となるのは、その亡くなっていた少女「茜」の人物像。
誰もが、どうにもならないアバズレのワルだったと証言します。
家出したと思われていたのですが、誰もが納得し、思い出しもしなかった。
まるではじめからいなかったかのように・・・。
ただ単に素行が悪かった、ということでなく、実は決定的な事件があったのですが、ごく一般的な、普通の家庭に育ったはずの彼女が、なぜ、「そちら側」へ行くことになってしまったのか・・・、家族・親子の「愛」について考えさせられます。
茜の親は、彼女が向こうの世界へ行ってしまわないよう、こちらに引き戻すために、命を奪わなければならなかった・・・。

ストーリーとしては、まあ、よかったと思うのです。
「ミステリ」とこの話のような「オカルトめいた部分」のつなぎ合わせが難しいだろうと思ったのですが、極端な無理がなく収束したのかな?と。


実はこの本は一ヶ月前に読み終えていて、ただ、どうしても自分の中で消化できない部分があって、記事にまとめられないでいました。
いえ、単に私の理解不足だとは思うのですが、問題はこの本の題名「楽園」についてです。

物語のラストに、このような記述があります。
長い引用になりますが・・・・

「・・・人間は原罪を抱えていると説く。
神が触れることを禁じた果実を口にして、知恵を知り、恥を知り、しかしそれによって神の怒りに触れ、楽園を追放されたのだという。
それが真実であるならば、人々が求める楽園は常にあらかじめ失われているのだ。
それでも人は幸せを求め、確かにそれを手にすることがある。
錯覚ではない。
幻覚ではない。
この世を生きる人々は、あるとき必ず己の楽園を見出すのだ。
たとえ、ほんのひと時であろうとも。
・・・・・・・・血にまみれていようと、苦難を強いるものであろうと、秘密に裏打ちされた危ういものであろうと、短くはかないものであろうと、たとえ呪われてさえいても、そこは、それを求めたものの、楽園だ。」


これを読んでも、私はこの本の中で、宮部氏がイメージする「楽園」というのがどうもわからない。
このストーリーの中に、登場人物が求めていた「楽園」の描写があっただろうか?
それは他者の生命などお構いなしで、自己の快楽を求める、ということなのか。
それとも家族愛?。
ゆるぎない信頼でつながった人と人同士の愛に包まれた姿なのか。

少なくともこのストーリー上では、どういうものを指しているのか、なんだかピンとこなくて、ここだけとってつけたような気がしてならない。
しかもそれが題名になっているから余計深刻。
この題名でなければ、もっと素直に楽しめたのに・・・・。

まあ、その話は別として、この本編の合間に、「断章」として、別の新たな事件が起ころうとしているのが少しずつ語られていきます。
これがまた、本編とどうつながるのかという興味と、ちょっと不気味な雰囲気とで、なかなか読ませる趣向でした。
この中で、「犯罪歴のある男が、母親とともに住んでいる家」が出てくるのですが、先日見た映画「リトル・チルドレン」に同様の設定がありました。
まあ、無論同じストーリー運びになるわけではありませんし、だからどうしたということでもないのですが、時々、こういうこと、ありますよね。
似たような設定の話がなぜか重なってやってくる。
何か関連のあることが連鎖して飛び込んでくる。
そういえば、「残虐記」に通じる部分もあるかな・・・。
はじめから知っていたわけでなく、たまたまのチョイスなのに・・・?
自己シンクロとでもいいましょうか、面白い現象だと思います。


満足度 ★★★★