映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「方舟は冬の国へ」 西澤保彦

2007年09月29日 | 本(ミステリ)

「方舟は冬の国へ」 西澤保彦 光文社文庫

まず冒頭から提示される謎。
失業中の和人のところに来た依頼は、ある別荘で一ヶ月、初対面の女性と少女とで仲睦まじい「家族」を演じるというものでした。
しかも、盗聴器、カメラで厳重に監視されているという。
いったい何のために?

それは、和人にも明かされませんが、読者にももちろん明かされず、この大きな問題を核としてストーリーが進んでいきます。
やはり西澤作品なので、SF的要素がある不思議なストーリー。

別荘にやってきた3人は、外へ出ることも禁止されているので、とにかく毎日をこの家で過ごさなければならない。
ところが、テレビがない。
本もない。(あるけど洋書だけ!) 
少女だけは戸惑った様子もなく、せっせと絵を書いているのですが・・・。
うーん、確かに、これはつらそうです。
私なら本がないのは致命的・・・。
逆に言えば本と映画さえあれば、いつまででも閉じこもっていられそう・・・。
あ、話がそれました。
しかたがないので、みんなで洗濯したり掃除をしたり、やっと見つけたトランプをしたり。
料理もじっくり。
なぜかしらそんなうちに、うちとけて、家族の絆が生まれてくる。

しかし和人の悩みは「夜」のこと。
仲のよい夫婦の役とはいえ、いきなり初対面の女性とベッドインするわけにも行かないし、しかし、己はそれに耐えられるのか???、と。
和人は料理上手な24歳の好青年。
これで、10歳くらいの女の子の父親役は厳しいところもあるかな。
妻役の理香は、実は夫がいて、気の強い剣道の有段者。
和人よりは「ちょっとくらい」ではすまない年上。
この気の優しい青年と強気のオネーサンというコンビ、なかなかいい感じです。
そう心配しなくても、そこはそれ、物語ですから、自然に二人の気持ちが重なり合って、なるようになるわけです。
そう、気持ちが重なり合う、そこが大事ですね。
なぜか、この3人は、声に出さなくても、意思をお互いに伝えられるようになってくるのです。
このあたりが、このプロジェクトを組んだ組織の思惑と関係があるらしい・・・。
少女が妙に落ち着いているのも気になる。
ということで、この夫婦を演じる二人の気持ち、そして最初から提示されている大きな謎、その行方が気になり、途中でやめられない本でした。

満足度 ★★★★