![]() | 山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)萩尾 望都小学館このアイテムの詳細を見る |
さて、順不同になってしまったのですが、
萩尾望都短編シリーズ「ここではない★どこか」の第一弾です。
今更気づいたのですが、このシリーズ、小説家の生方(うぶかた)氏がよく登場します。
この冒頭が表題の「山へ行く」ですが、ここで、生方氏が初登場。
特別な事件があるわけではありません。
彼は朝起きるなり、「そうだ、今日は山へ行こう」と思いつきます。
ハイキング程度の近所の山なのですが、とにかく山の麓まで自転車で出かけた生方氏。
ところが、妻と娘・息子からいろいろ連絡が入ったり、用事を頼まれたり。
編集者とばったり会って仕事を押しつけられたり。
日常の雑事がいつにもまして吸い寄せられてくる。
山が薄れていく・・・、
山に行けるんだろうか・・・
行くんだ。
山の静寂・・・
山のにおい・・・・・
しかし、結局山には行けずじまい。
夕方家に帰れば奥さんに
「お父さん!おトーフは?」
「あっ・・・・忘れた」
「あーあ!」
「・・・・今日は忙しくて・・・・・」
「なにもしてないじゃない」
という具合。
それでも彼は、
いつか山に入って山の空気を吸って山にとけて、
すっかり人間を忘れるひとときを手に入れよう・・・・・・・と思う。
こういうストーリーなんですけどね。
しかし、これって私にはすごく幸せな状況と思えるわけです。
賑やかな家族、近所の人、仕事関係の人、
そういう人とのつながりがしっかりあって、
忙しい忙しいとつぶやいて、
しかし理想はやや棚上げ・・・。
だけどこれって望みうる最高の幸福なんですよね。
誰もいない山の静寂。
それもいいけれど、人の中に自分の居場所がきちんとあること。
これは生きていく上ではとても大切です。
次の「宇宙船運転免許証」もいいですよ。
この生方氏のところに宇宙船運転免許証の更新のお知らせが届く。
宇宙船の、「運転」というところが、何とも微笑ましいのですが。
生方氏と今は亡き弟の少年時代、この免許証をもらった記憶がある。
30年が期限切れなので更新の手続きにくるようにとの通知・・・。
信じられないことだけれども・・・。
不思議なテイストの一篇ですね。
時には人生の深みに切り込み、
時にはSFチック、そしてまた時には怪談めいて・・・
自由自在のストーリー展開。
やはりこれは1・2巻とも読んでみるべきですね。
満足度★★★★☆