映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「神様のカルテ」 夏川草介

2010年01月01日 | 本(その他)
皆様、あけましておめでとうございます。
拙いブログですが、いつもきていただいている方、
どうもありがとうございます。
2010年となりましたね。
お正月とはいえ、いつものペースで淡々と行きたいと思います。
休暇中、いろいろ本も読めそうですし、映画にもいけそうなので、
またご紹介していきますね。

どうぞよろしくお願いいたします。 

           ★★★★★★★★★★★★★★★



神様のカルテ
夏川 草介
小学館

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この作品は、第十回小学館文庫小説賞受賞作。
それなのに文庫でない、とはこれいかに???
などと突っ込みを入れるのもはばかるほど、これはいい作品です。
いきなり文庫にしてしまうのは忍びない、と、編集者も思ったのでしょうか?


まず、この作品の文体ですが、
いろいろ本を読んでいる方なら、ある作家との類似にすぐ気づくと思います。
つまり、森美登美彦ですね。
この物語の主人公、栗原一止(いちと)は、夏目漱石に心酔するあまり、
普段の話し方や文章が、文語調になってしまった、との弁明あり。
でもこれは前者の影響がモロに感じられてしまうことは避けられません。
森美登美彦が描いた医療小説。
・・・という雰囲気の小説に仕上がっております。
森美氏が京都なら、こちらは信州松本と、地域性を前面に出しているあたりも。

ただし、だからといって決して内容は二番煎じではありません。
栗原一止は、信州にある本庄病院に勤務する5年目の青年内科医。
彼が癌患者の治療とその末期を看取る様子、
同じアパートに住む住人との交流などを通して、
彼自身、大学病院へ移るべきか、このままここへ残るべきか、
人生の針路を見出していくというストーリーになっています。
この病院が、またすごい。
「24時間、365日対応」をうたっている。
そのため、医師は当然ローテーションを組んだ勤務となりますが、
強烈なハードワーク。
多分、これは誇張ではなく、実際こういう実態が常なのだろうなあと思います。
何しろ、この著者自身が医師ですから、
相当自身の思い入れが入っていると思われます。

医師がめざす、あるべき地域医療。
それは、患者個人個人の心に添う治療のあり方なのでした。
だからあまりにも理想的に「いい人」が集まり過ぎていることも否めませんが、
これはこれでいいんですよね、多分。
こんな病院があれば、ぜひ行ってみたい。
そういう病院のあり方の夢を語っているのだから。

この主人公の奥様がまた、なんともかわいらしい・・・。
これって、男性が求める理想の女性像そのまま・・・。
生身の「女」は、実はこうではないぞ・・・、といいたくもなるけれど、
まあ、全体の雰囲気とあわせればこれも仕方ない。


あれ? 全体を通して、なんだか辛口の感想になってしまっているような気がしますが、
実は、とても気に入ったのですよ。
この古風でやさしい全体のトーンも心地よいですし、
ほろりとさせられる部分もあり、登場人物も好感が持てる。
"癒し"が求められている昨今、人気があるのは当然ですね。
ちょっと落ち込んだようなときに、ぜひ読んでみるといい本だと思います。

満足度★★★★★