映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ワーキング・ホリデー」 坂木司

2010年02月10日 | 本(その他)
初めまして、お父さん

              * * * * * * * *

ワーキング・ホリデー (文春文庫)
坂木 司
文藝春秋

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ホストクラブで働く大和(やまと)の元に、突然訪ねてきた初対面の少年が言う。
「初めまして、お父さん」

この物語はこんなふうに始まります。
思わず引き付けられますね。
この少年進は、確かに大和が昔付き合っていて別れた女性の息子らしい・・・。
身に覚えはある・・・。
まあ、ここのところは案外すんなり納得して、
進は夏休みを死んだと聞かされていた「父」と共に過ごすためにやってきたのです。
子供なんて考えたこともない、元ヤンキーで現ホストクラブのホストである大和。
突然の父子同居の顛末は・・・。

大和はきっぷのいいホストクラブオーナーの心遣いもあって、
まもなく宅配便の配達員に転職します。
父子関係の顛末もいいのですが、この宅配便業界の話もとても興味深いのです。
通称「ハチさん便」と呼ばれる、地域密着型の宅配会社支店。
配達区域がかなり限られた範囲内なので、大和が受け持ったのはなんとリヤカー! 
小回りがきき駐車の問題がない、宅配便の新兵器はなんとリヤカーだった・・・。
また、彼らは常に同地域を回るため、地域の巡回パトロールの役割をも意識している。
子供たちの動向にも気を配る。
いいですね。
今時の地域再生に一役。
これならついでに自治体とも手を結んで、独居老人訪問なども出来そう・・・。
確かに我が家も宅配便にはずいぶんお世話になっていますし、
いろいろな可能性がありそうで、わくわくする、ストーリーです。
大和の勤めていたホストクラブの同僚や宅配便支店の同僚も、ステキな人ばかり。
働くことってこんなに気持ちのいい物だったっけ・・・、と思わず認識を改めてしまいました。
働くこととは人と人がつながることなんですね。

さて、かっこよさが売り物の元ホスト大和は、リヤカーを受け持たされてがっくり。
始めは進にもそのことを言えなかったくらいなのですが・・・。
けれども、一生懸命働く姿は、かっこいいのです。
料理も掃除も得意のしっかり者、進くんは、
時折気持ちが行き違いながらも大和が大好きになっていく。

爽やかで楽しいストーリーでした。
最後には、進くんのお母さんとヨリが戻るのか・・・?とちょっぴり期待もしたのですが、
そこはもう少し将来先送りという感じですね。
いき過ぎでないところも好感が持てました。

満足度 ★★★★★