映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「写楽 閉じた国の幻」 島田荘司

2010年09月02日 | 本(ミステリ)
ぼーっと、酔ってしまう結論!

写楽 閉じた国の幻
島田 荘司
新潮社


           * * * * * * * *

島田荘司氏の新刊。
この方の本だけは、単行本の新刊を購入します。
それはもう、自分の中のお約束。
この本、結構ボリュームもありますが、これまでの氏の作品とはやや趣が異なります。
御手洗シリーズでも、吉敷竹史シリーズでもない。
扱う題材は東洲斎写楽。
うーむ、そのような題材には疎い私、
ついて行けるだろうかとやや心配ではありましたが、
もちろんきちんとわかりやすく書いてあるので大丈夫。
最近バイオテクノロジーなど、
科学の先端を行く題材が多かった島田氏にはちょっと意外だったのですが。
でも、この着想は20年も以前から温めていたとのこと。
このテーマは若干、高橋克彦氏の作品を連想しましたが、
実際この作品中にも高橋克彦氏の名前が登場するので、ちょっとうれしくなりました。


写楽については、いろいろな謎があると言います。
まずはその画法の独自性。
それまでの浮世絵はひたすら繊細で美しくあろうとした。
特に役者絵はブロマイドの様なものだから、見目よく表されていなければならない。
けれど、写楽の絵はリアルで辛辣。
まるで風刺画のようでさえある。
でもだからこその迫力、
その一瞬を切り取ったような描写がすばらしいと言われるのです。

この作品を出版したのが当時の版元、蔦屋ですが、
当時無名の写楽の作品を、破格の好待遇で世に送り出しているというのも謎。

それから、写楽の絵が描かれたのは、
寛政6年(1794年)5月から翌年正月までの10ヶ月間のみ。
その間に百四十数点という夥しい作品を出した後、忽然と姿を消している。
それ以前にも以後にも、写楽という人物が江戸に、いえ、日本にいた痕跡が全くない。

このようなことから、写楽というのは、
実は他の名の通った人物が写楽という仮の名前を使った別人ではないのか、
という説があるというのです。

これについては、素人から玄人まで多くの人が多くの説を掲げて、
論争を繰り広げていますが、
では実はそれが誰なのかは、結局解らないまま。


この本では、島田氏の自説が小説の形を借りて繰り広げられています。
主人公は浮世絵の研究家。
しかしかなりトホホの立場の方でして、自殺寸前・・・。
この方が写楽の正体を探るうちに信じられない結論を得て、
自信を取り戻して行くのです。
初めのうちは、平賀源内が写楽ではないのかと当たりをつけるんですね。
でも、この寛政6年時点では源内は既に亡くなっている。
しかし、ここにもいろいろな説がありまして、
平賀源内は獄中死したということになっていますが、
実はうまく抜け出して生き延びていた・・と。
ところが島田荘司はこの結論では満足しない。
もっと、壮大でロマンたっぷりの結論が出ています。
それはもう、ここで言ってしまうと楽しみがありませんから、
ご自分で読んで確かめてください・・・。

この結論にはちょっとぼーっと酔ってしまいますが、
あくまでも小説ですから、
どこまでが本当なのか・・・と読みながら疑問を感じもします。
ところが巻末に後書きがありまして、
この結論を裏付ける作品中の文献はすべて実在し、その記述も本物とのこと。

う~ん、本当に・・・・?

とすればすごい話です。
歴史っておもしろいですねえ。
作中、この寛政6年にあったであろうことの顛末が描かれていますが、
その描写がとても活き活きしていて楽しい。
この時代にだってフロンティア精神の持ち主はいたはず。
島田氏渾身の作、確かに受け止めました!!

満足度★★★★★