誰もが本当は“とうとい”
* * * * * * * *
全人類を救うための宇宙船。
その設計図を一生懸命に書いている青年がいます。
そこへ、ふらりと時折顔を出す中学生さくら。
彼女はコンビニで万引きしたところを店長に見つかり、
捕まってくどくど嫌みを言われていたのですが、
店員をしていたその青年智に手を借りて逃げ出すことができました。
物静かでやさしいその青年は、
不意に宇宙船の設計図を書くことに熱中し、
さくらのことなど見向きもしなくなってしまいます。
どうも、精神を病んでいるようで、時折あちらの世界に行ってしまう。
親友の梨利(りり)とうまくいかなくなり、孤立してしまっていたさくらは、
その青年の家のいごこちのよさに、頻繁に智の家へ通うようになります。
以前から梨利とさくらにいつも付いて歩いていたのは同じ年の勝田。
この少年はさくらと梨利との仲直りを切望し、
またいつしか智の家にも、入り浸る。
この物語は登場人物が皆、自分は一人だと思っています。
時代設定が1998年。
翌年はノストラダムスが人類滅亡を予言した年。
そうでなくても将来のことなど考えつかない年頃にして、人類滅亡といわれれば・・・。
自分の将来を堅実に明るく考えることなんてできないでしょう。
さくらにしても、梨利にしても、また勝田くんも、
押しつぶされそうな不安の中で、
おしつぶされないように必死に自分の殻を守っているように思えます。
心を病む青年も、根っこのところでは同じなのだと、彼らには分かっている。
ところが、次第に智青年のあちらへ行ってしまう頻度、時間が大きくなってきてしまいます。
また、このまま放っておくと自殺に向かいそうな徴候も。
どうすれば智をこちらの世界へ呼び戻せるのか。
さくらは梨利と仲直りできるのか。
終盤怒濤のようにスペクタクルな展開になっていきますが、
実に迫力があって読ませられます。
智青年は心優しすぎるあまりに、
うまく世の中に順応できなくなってしまったきらいがありますね。
でもこんな風に、きちんと正面から彼を見て、
理解しよう、手をさしのべようとする存在があるのがいい。
彼が小学生の頃に書いたある手紙の一文が心を打ちます。
ぼくわちいさいけどとうといですか。
ぼくわとうといものですか?
何だか涙があふれてしまいます。
そうですよね。
誰もがほんとうは"とうとい"のです。
その"とうとい"ものを、まず自分自身が自覚し守らなければならないし、
そうしたら人の"とうとい"ものも大事にできる。
私たちが生きていく根源のことを言っているように思うのです。
大切に持っていたい本です。
満足度★★★★☆
つきのふね (角川文庫) | |
森 絵都 | |
角川書店 |
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全人類を救うための宇宙船。
その設計図を一生懸命に書いている青年がいます。
そこへ、ふらりと時折顔を出す中学生さくら。
彼女はコンビニで万引きしたところを店長に見つかり、
捕まってくどくど嫌みを言われていたのですが、
店員をしていたその青年智に手を借りて逃げ出すことができました。
物静かでやさしいその青年は、
不意に宇宙船の設計図を書くことに熱中し、
さくらのことなど見向きもしなくなってしまいます。
どうも、精神を病んでいるようで、時折あちらの世界に行ってしまう。
親友の梨利(りり)とうまくいかなくなり、孤立してしまっていたさくらは、
その青年の家のいごこちのよさに、頻繁に智の家へ通うようになります。
以前から梨利とさくらにいつも付いて歩いていたのは同じ年の勝田。
この少年はさくらと梨利との仲直りを切望し、
またいつしか智の家にも、入り浸る。
この物語は登場人物が皆、自分は一人だと思っています。
時代設定が1998年。
翌年はノストラダムスが人類滅亡を予言した年。
そうでなくても将来のことなど考えつかない年頃にして、人類滅亡といわれれば・・・。
自分の将来を堅実に明るく考えることなんてできないでしょう。
さくらにしても、梨利にしても、また勝田くんも、
押しつぶされそうな不安の中で、
おしつぶされないように必死に自分の殻を守っているように思えます。
心を病む青年も、根っこのところでは同じなのだと、彼らには分かっている。
ところが、次第に智青年のあちらへ行ってしまう頻度、時間が大きくなってきてしまいます。
また、このまま放っておくと自殺に向かいそうな徴候も。
どうすれば智をこちらの世界へ呼び戻せるのか。
さくらは梨利と仲直りできるのか。
終盤怒濤のようにスペクタクルな展開になっていきますが、
実に迫力があって読ませられます。
智青年は心優しすぎるあまりに、
うまく世の中に順応できなくなってしまったきらいがありますね。
でもこんな風に、きちんと正面から彼を見て、
理解しよう、手をさしのべようとする存在があるのがいい。
彼が小学生の頃に書いたある手紙の一文が心を打ちます。
ぼくわちいさいけどとうといですか。
ぼくわとうといものですか?
何だか涙があふれてしまいます。
そうですよね。
誰もがほんとうは"とうとい"のです。
その"とうとい"ものを、まず自分自身が自覚し守らなければならないし、
そうしたら人の"とうとい"ものも大事にできる。
私たちが生きていく根源のことを言っているように思うのです。
大切に持っていたい本です。
満足度★★★★☆