オドロキに満ちた瑞々しい世界
* * * * * * * *
この本は、ちょっと今までの森見ワールドとは趣が異なります。
まずは舞台が京都ではない。
どこかの都市の郊外、新たに区画されてできた住宅街です。
まだそこここに森や草原が残っている。
そして主人公が学生ではない。
小学4年生の男の子、アオヤマくんが語り手となります。
・・・となれば、もうこれはいつもの森見ワールドとは言えないのではないか?
いえ、そうではありません。
基調はファンタジーなのだと思います。
京都で起こる不思議は、なにやら日本古来のほっこりとした懐かしさがありますが、
この「ペンギン・ハイウェイ」は、まさに、現代のファンタジーといっていいでしょう。
ここで主人公を小学生に据えたのは、
何も目先を変えようというだけではないのです。
ちょうど自意識が目覚めてくる10歳前後の子。
身の回りの世界と自分との関係をはっきり系統立てて理解できてくる年頃なのだと思います。
何もかもを新鮮なオドロキで見つめ、考える。
そういう瑞々しさに満ちた世界を、
私たちもアオヤマくんの視点を借りて体験することになるのです。
ストーリーは、この静かな街にある日突然ペンギンの群れが現れる、
そんなところから始まります。
あるはずのないこと・・・。
アオヤマくんはとても賢くて研究熱心なので、
お父さんにもらったノートに様々なナゾを書き付けて、解明を目指します。
そんなある日、アオヤマくんは
大好きな歯科医院のお姉さんが放ったコーラの缶が、ペンギンに変身するのを目撃。
どうやら時々この町に出現するペンギンたちは、
このお姉さんが作り出しているらしい。
でも、どうしてそんなことが起こるのか本人もわかっていない様子。
また、そんな時、
アオヤマくんのクラスメイトのハマモトさんが、
森を抜けた草原に不思議な球体がぽっかり浮かんでいるのを発見。
直径5メートルばかりのそれは、水でできているようにも見えるので、
<海>と命名し、
同じくクラスメイトのウチダくんを交えた3人で、
この<海>を観察し研究することとする。
どうやらペンギンとこの<海>は関係がありそうなのですが。
さあ、アオヤマくんはこのナゾが解けるかな?
アオヤマくんの家族、歯科医院のお姉さん、ウチダくんにハマモトさん。
アオヤマくんはとてもいい人の輪を持っています。
こういう環境は、確かによい子をつくります。
今さらですが、こういう風に子供を育てれば良かった・・・なんて思ったりして。
でも、そこにちゃんと子供にとって理不尽な試練もあるんです。
それがスズキくんの存在。
スズキくんは「スズキ君帝国」の皇帝。
つまりいばりんぼで、いじめっ子なんですよ。
アオヤマくんは彼らにも何とか冷静に対処しようと思うのだけれど、
度重なるいやがらせには我慢できないこともあるようで・・・。
そんなところがこの妙に大人びた少年に少年らしさを呼び戻すところでもあり、
このおかしみもこの物語では重要です。
大人たちが変に介入せず、
とりあえず状況を見守っているという風なのもいいですね。
結局、アオヤマくんの抱えているナゾは、歯科医院のお姉さんに帰結していくようです。
それはまだ恋とも言えないほどの、
アオヤマくんの不可思議な心の動きに、微妙にリンクしているようでもある。
アオヤマくんにとっての最大のナゾはお姉さんであり、
それはこれからの今後の彼の人生の中でも、
もっと大きくなっていくナゾのプロローグである、
ということなのではないでしょうか。
不思議で楽しくて、ちょっぴり切ない。
おすすめの一冊です。
満足度★★★★★
ペンギン・ハイウェイ | |
森見 登美彦 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
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この本は、ちょっと今までの森見ワールドとは趣が異なります。
まずは舞台が京都ではない。
どこかの都市の郊外、新たに区画されてできた住宅街です。
まだそこここに森や草原が残っている。
そして主人公が学生ではない。
小学4年生の男の子、アオヤマくんが語り手となります。
・・・となれば、もうこれはいつもの森見ワールドとは言えないのではないか?
いえ、そうではありません。
基調はファンタジーなのだと思います。
京都で起こる不思議は、なにやら日本古来のほっこりとした懐かしさがありますが、
この「ペンギン・ハイウェイ」は、まさに、現代のファンタジーといっていいでしょう。
ここで主人公を小学生に据えたのは、
何も目先を変えようというだけではないのです。
ちょうど自意識が目覚めてくる10歳前後の子。
身の回りの世界と自分との関係をはっきり系統立てて理解できてくる年頃なのだと思います。
何もかもを新鮮なオドロキで見つめ、考える。
そういう瑞々しさに満ちた世界を、
私たちもアオヤマくんの視点を借りて体験することになるのです。
ストーリーは、この静かな街にある日突然ペンギンの群れが現れる、
そんなところから始まります。
あるはずのないこと・・・。
アオヤマくんはとても賢くて研究熱心なので、
お父さんにもらったノートに様々なナゾを書き付けて、解明を目指します。
そんなある日、アオヤマくんは
大好きな歯科医院のお姉さんが放ったコーラの缶が、ペンギンに変身するのを目撃。
どうやら時々この町に出現するペンギンたちは、
このお姉さんが作り出しているらしい。
でも、どうしてそんなことが起こるのか本人もわかっていない様子。
また、そんな時、
アオヤマくんのクラスメイトのハマモトさんが、
森を抜けた草原に不思議な球体がぽっかり浮かんでいるのを発見。
直径5メートルばかりのそれは、水でできているようにも見えるので、
<海>と命名し、
同じくクラスメイトのウチダくんを交えた3人で、
この<海>を観察し研究することとする。
どうやらペンギンとこの<海>は関係がありそうなのですが。
さあ、アオヤマくんはこのナゾが解けるかな?
アオヤマくんの家族、歯科医院のお姉さん、ウチダくんにハマモトさん。
アオヤマくんはとてもいい人の輪を持っています。
こういう環境は、確かによい子をつくります。
今さらですが、こういう風に子供を育てれば良かった・・・なんて思ったりして。
でも、そこにちゃんと子供にとって理不尽な試練もあるんです。
それがスズキくんの存在。
スズキくんは「スズキ君帝国」の皇帝。
つまりいばりんぼで、いじめっ子なんですよ。
アオヤマくんは彼らにも何とか冷静に対処しようと思うのだけれど、
度重なるいやがらせには我慢できないこともあるようで・・・。
そんなところがこの妙に大人びた少年に少年らしさを呼び戻すところでもあり、
このおかしみもこの物語では重要です。
大人たちが変に介入せず、
とりあえず状況を見守っているという風なのもいいですね。
結局、アオヤマくんの抱えているナゾは、歯科医院のお姉さんに帰結していくようです。
それはまだ恋とも言えないほどの、
アオヤマくんの不可思議な心の動きに、微妙にリンクしているようでもある。
アオヤマくんにとっての最大のナゾはお姉さんであり、
それはこれからの今後の彼の人生の中でも、
もっと大きくなっていくナゾのプロローグである、
ということなのではないでしょうか。
不思議で楽しくて、ちょっぴり切ない。
おすすめの一冊です。
満足度★★★★★