映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パリ3区の遺産相続人

2016年01月11日 | 映画(は行)
大人にならないまま、年令を重ねてしまったワケ



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ニューヨークから、あまり風采の上がらない一人の男・マティアス(ケビン・クライン)が、
父親から相続したパリの高級アパートへやってくるところから物語は始まります。
彼は現在家族もなく、僅かな財産を処分して航空賃を工面し、ここへやって来ました。
このアパートを売却した費用で、人生をやり直そうと思ったのです。
ところが、そこには見知らぬ老婦人マティルド(マギー・スミス)と
その娘クロエ(クリスティン・スコット・トーマス)が住んでいました。





これが、「ヴィアジュ」というフランスに古くからある独特な住居の売買契約システム。
住居の買い手は、売り主である居住者ごと住居を買うのですが、
住宅ローンの代わりに売り主に「年金」のように月々支払いをする。
それを売り主が死ぬまで続けるのです。
これは殆ど賭けのようなもので、
すぐに売り主が亡くなればそれまでの支払いで住居が手に入るわけですから丸儲け。
けれど、売り主が長生きをすると、ずーっと支払いが続くわけで、
下手をすると買い手のほうが先に死んでしまうこともあるとか。
現在はこういう契約の仕方はなくなりつつあるとのことですが。



というわけで、マティアスは、月々マティルドに年金を支払わなければならないという、
負債を相続した事になるのです。
少しもお金が入らないだけでなく出費まで!! 
でもマティルダは自称90歳、実は92歳の高齢。
そう遠くないうちに亡くなりそうではありますが・・・。
安心してください(?)。
だからといって、殺人事件にはなりません。



この古いアパートの一室で、マティアスはある写真を見つけます。
そこには若いころの父とマティルドが写っている。
父とマティルドの秘密の関係が明かされていきます。


「不倫」という言葉はドラマなどにはつきもので、
もう殆ど日常茶飯事のような感じになってしまっているのですが、
そのことによる家族の心の傷の大きさを今、改めて感じます。
不倫をされた配偶者はもちろんですが、その子どもたちもまた・・・。
子どもはそういうことを直接的に聞かなくても感じ取るものなんですね。
親に愛されていないと感じた子どもは、その満たされない心を抱えたまま成長していく。
体はすっかり大人になり、老化を始める頃になっても、
どこか自分の人生にしっかり向き合えない。
心が子どものままであるかのように・・・。
マティアスとクロエは、
互いに自分たちがそのようにして大人になってしまったのだということを自覚していくのです。


だからといって、「どうすればよかったの」と、マティルドは言う。
確かに、裏から見ればそれはまた、映画にもなりそうな一つの「愛」の形なのでしょう。
厄介なものですね。
「愛」とは。



「パリ3区の遺産相続人」
2014年/イギリス・フランス・アメリカ/107分
監督: イスラエル・ホロビッツ
出演:ケビン・クライン、クリスティン・スコット・トーマス、マギー・スミス、ステファーヌ・フレス、ドミニク・ピノン

パリ度★★★★☆
愛の厄介さ★★★★★
満足度★★★☆☆