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「黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年01月30日 | 本(その他)
祝! 第一子ご誕生!

黒く塗れ―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

お文は身重を隠し、年末年始はかきいれ刻とお座敷を続けていた。
所帯を持って裏店から一軒家へ移った伊三次だが、
懐に余裕のないせいか、ふと侘しさを感じ、回向院の富突きに賭けてみる。
お文の子は逆子とわかり心配事が増えた。
伊三次を巡るわけありの人々の幸せを願わずにいられない、
人気シリーズ第五弾。


* * * * * * * * * *

前巻で、お文の妊娠がわかったところですが、
お文はなかなかそれを伊三次に告げることができません。
しかし、いつまでも隠しておけることではありません。

「髪結いのご新造さん、ややができたんでござんすかい」
茶化すように問う伊三次に
「ばか」
と応えるお文。

ここのところは巻末の解説で竹添敦子さんも引用していますが、
ホント、引用したくなるくらいの微笑ましい名シーン。
子どもは逆子で難産でしたが、無事生まれます。
男の子で伊与太。
不破の旦那の命名です。
しかし生まれれば生まれたで、一日中その世話に追い回されるお文は疲れ気味。
『自分は本当は子どもをあまり好きではない』ことに気づいた、
などと言っていますが、
こういう感覚は、著者が女性で、しかも子育てを経験した人ならではという気がします。
わかります。


でも、伊三次は極力仕事を早く切り上げ、帰ってきてからはお文とバトンタッチ。
立派な育メンなのであります。
あ、本筋と関係ないことばかりですみません。
しかし、私としてはこちらが本筋と思っていたりします・・・。


さて、本巻

「畏れ入谷の」
泥酔し、ひどく荒れて暴れまわる武家の男が評判になります。
ある時とうとうお文が酒席でその男の相手をしなければならなくなった。
案の定、男は乱暴を働き始めるのですが・・・。
身重のお文さんに何かあったらどうするのさ!
とハラハラしてしまうのですが、そこがさすがお文さん。
やんわりと受け流しつつ、ここまで荒れてしまう男の悩みを聞き出してしまう。
それがまたなんとも理不尽な話、
大奥に下働きで働いていた彼の妻が、お上に見初められて、
彼とは離縁をしなければならなくなった、というのです。
切ないですね。


「夢おぼろ」では、
伊三次が富突き、つまり宝くじのようなものを買うシーンがあります。
子どもまでできていよいよ物入り。
そりゃー、一攫千金の夢も見ますよね。


「黒く塗れ」の題名はなんと、矢沢永吉さんのロックの題名が気に入ってつけたのだとか。
呪い、つまりは催眠術を用いた犯罪を題材とした異色作です。
でも以前、幻術のシーンが有ったくらいなので、そうは驚きません。
伊三次の感の良さで事件が解決するシャレた一作。


ラストの「慈雨」は以前出てきた巾着切りの直次郎が登場します。
足を洗うために自分の人差し指を切り落とした彼は、
それでも想い人・お佐和を忘れることができません。
そしてお佐和の方もまた・・・。
著者は再び直次郎を登場させようとは少しも思っていなかったのだそうですが、
女性読者から「直次郎を幸せにしてください」との手紙をもらい、
このストーリーができたのだとか。
確かに女性好みのロマンチックとも言える一作となっています。
ラストは私も思わずもらい泣き。


お文さんの出産に伊三次が立ち会ったり、
直次郎が花束を抱えてお佐和に会いに行ったり(花屋さんなので・・・)。
多分時代小説としては、あるべきでない情景なのだろうと思うのですが、
でもそういうところがすごく好きです!
宇江佐真理さんの心意気が伝わります。


「黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★