映画と本の『たんぽぽ館』

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白鯨との闘い

2016年01月23日 | 映画(は行)
何かの偉大な意志によって・・・



* * * * * * * * * *

19世紀捕鯨船エセックス号での実話の映画化です。
小説「白鯨」のヒントになったものとのこと。
そのため本作は、作家ハーマン・メルビル(ベン・ウィショー)が
エセックス号の最後の生き残りトーマス・ニカーソン(ブレンダン・グリーソン)の元を訪ね、
当時の体験を聞こうとするシーンから始まります。

しかし彼は口が重く、なかなか語ろうとはしないのです。
それは、あまりにもつらい体験だったから・・・。


1819年。
当時、捕鯨が大変盛んに行われていたのですね。
というのも鯨の油を燃料とするため。
まだ石油などの有効性が認められる以前のことです。
昨今欧米人は捕鯨を目の敵にしますが、
かつては自分たちも鯨を絶滅に追い込みそうなほどに、鯨を獲っていたのですよね。
しかも本作でも分かるように、使うのは油だけ。
肉などはその場で海に捨てて、サメの餌にしていました。
いや、確か鯨のヒゲを当時の女性のスカートの骨に使っていた
という話も聞いたことがあるのですが・・・。
まあどちらにしても随分無駄が多い。
しかるに日本の古来の捕鯨は、鯨を何から何まですっかりあますところなく利用していた
というのも以前何かで見たことがあります。
いきものの大切さは、日本人のほうが心得ている、と私は思う次第。



話がそれました。
このエセックス号の一等航海士がオーウェン・チェイス(クリス・ヘムズワース)。
実は彼が船長になるはずだったのですが、
家柄の良いジョージ・ポラード(ベンジャミン・ウォーカー)が船長の座を横取りしてしまうのです。
無鉄砲で自信家、そして捕鯨については超ベテランのチェイスと、
経験は浅いが名家の出でプライドの高いポラード。
この二人が仲良くやっていけるわけがない。
・・・がしかし、だからといってこの2人のいがみ合いのために事件が起こるわけでもありません。
が、日常的に若干の緊張を孕んでいる、と。
冒頭で体験を語っていたトーマス・ニカーソンは、
新米の乗組員でまだ少年(トム・ホランド)です。

船は基地であるナンタケット島を出港し、大西洋ではじめの一頭を捕らえるのですが、
その後鯨はパッタリと姿を見せなくなります。
やむなく遠く太平洋へ乗り出した彼らは、ある日巨大な白い鯨と遭遇。
しかし、鯨はエセックス号を打ち壊し、沈めてしまう。
乗組員たちは僅かな水と食料を持つのみで、3艘のボートで大海原を漂うことに・・・。



本当に怖いのは鯨ではなく、
このいつ果てるとも知れない漂流生活なのでした。
それとも鯨は、彼らをこのような目に合わせようとして襲ったのか。
欲望のために鯨を絶滅寸前まで追い込もうとする人間の身勝手さを、
何か偉大なものが、戒めている・・・というようにも思えるのでした。
鯨はサメと違って、人間を食べるために襲ったりはしない。
だからこそ、その鯨が怒った時というのが、いかにも怖い感じがします。



鯨が暴れまくるスペクタクル作品かと思ったのですが、
意外とその後の漂流こそが人間の弱さや強さ両面を覗かせる
見応えのある作品となっていました。

「白鯨との闘い」
2015年/アメリカ/122分
監督:ロン・ハワード、
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィ、ベン・ウィショー、トム・ホランド、ブレンダン・グリーソン

スケールの大きさ★★★★☆
自然への畏敬度★★★★☆
満足度★★★★☆