人々と、怪異の共存
* * * * * * * * * *
楽しみにしていた杉浦日向子さん作品を入手。
舞台はやはり江戸時代、
あるご隠居さんが、訪れる人から一つずつ奇妙な話を99話聞くという趣向です。
恐ろしいというよりも、奇妙で不思議という感覚に近いでしょうか。
例えば、早々の第2話。
ある人の子供の頃の話。
家の障子の決まった場所に人の顔のようなものがいつも現れるというのです。
それが見えるのは夜だけ。
障子を張り替えてもいつも同じマスのところにそれは現れる。
本人はそれを怖いと思ったことはないそうなのですが、
ある時ふといたずら心で、その顔を墨でなぞってみた。
すると翌日、すぐにそのマス目は切り取られて
そこだけ新しい紙が貼られたのですが、その日以来、顔は二度と現れなかった・・・と。
ただこれだけのことで、別に怖くはない。
が、それにしても、一体何のためにそれは現れたのか。
どうして。
何者の意志で・・・?
と考えると薄ら寒い気がしてきます。
理屈では言い表せない、全く人の思考の外にそれらはあるらしい。
全くわからない、未知のものだから「怖い」のでしょうね。
恨みつらみで現れる幽霊なら、まだ理解の範疇ではありますが・・・、
それはこの本に語られるような多くの「奇妙なもの」の
ごくごくまれな一現象であるような気がします。
考えてみると、電気のない江戸の夜は真っ暗闇。
月明かりと、家の中では僅かなろうそくや行灯の明かりがあるだけ。
このような中では、人々と怪異は常に同居していたのかもしれません。
ある話をした客は、
「まあ、いつもではありません。たまにですよ。」
とあっけらかんとして言う。
夜の闇の中に、何かわからないものが潜んでいて、
それは人の理屈では考えられないいたずらや悪さをする。
わけがわからないけれども、それは「ある」。
人々は身を持ってそれを感じていたのかもしれません。
ところが現代、夜の闇がどんどん追いやられてしまっています。
それとともに、この奇妙なものたちも、住むところをなくしてしまっているのかもしれません。
まさに、絶滅危惧種ですね。
本作の魅力はまた、登場する市井の人々の日常が描かれているところ。
お侍さん、女将さん、お女中さんに遊女。
ご隠居さんにお坊さん。
何者かに取り憑かれたり見たりすることに
何の差別もきっかけもありはしません。
因果応報もなし。
誰のところへもある日不意に、それはやってくる。
だからこそ、ちょと怖いのですけれど・・・。
こういうのを見ると、普段読んでいる時代小説も一段とイメージが膨らみやすい気がします。
「百物語 上の巻・下の巻」杉浦日向子 小池書院
満足度★★★★★
百物語 上之巻 | |
杉浦 日向子 | |
小池書院 |
百物語 下之巻 | |
杉浦 日向子 | |
小池書院 |
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楽しみにしていた杉浦日向子さん作品を入手。
舞台はやはり江戸時代、
あるご隠居さんが、訪れる人から一つずつ奇妙な話を99話聞くという趣向です。
恐ろしいというよりも、奇妙で不思議という感覚に近いでしょうか。
例えば、早々の第2話。
ある人の子供の頃の話。
家の障子の決まった場所に人の顔のようなものがいつも現れるというのです。
それが見えるのは夜だけ。
障子を張り替えてもいつも同じマスのところにそれは現れる。
本人はそれを怖いと思ったことはないそうなのですが、
ある時ふといたずら心で、その顔を墨でなぞってみた。
すると翌日、すぐにそのマス目は切り取られて
そこだけ新しい紙が貼られたのですが、その日以来、顔は二度と現れなかった・・・と。
ただこれだけのことで、別に怖くはない。
が、それにしても、一体何のためにそれは現れたのか。
どうして。
何者の意志で・・・?
と考えると薄ら寒い気がしてきます。
理屈では言い表せない、全く人の思考の外にそれらはあるらしい。
全くわからない、未知のものだから「怖い」のでしょうね。
恨みつらみで現れる幽霊なら、まだ理解の範疇ではありますが・・・、
それはこの本に語られるような多くの「奇妙なもの」の
ごくごくまれな一現象であるような気がします。
考えてみると、電気のない江戸の夜は真っ暗闇。
月明かりと、家の中では僅かなろうそくや行灯の明かりがあるだけ。
このような中では、人々と怪異は常に同居していたのかもしれません。
ある話をした客は、
「まあ、いつもではありません。たまにですよ。」
とあっけらかんとして言う。
夜の闇の中に、何かわからないものが潜んでいて、
それは人の理屈では考えられないいたずらや悪さをする。
わけがわからないけれども、それは「ある」。
人々は身を持ってそれを感じていたのかもしれません。
ところが現代、夜の闇がどんどん追いやられてしまっています。
それとともに、この奇妙なものたちも、住むところをなくしてしまっているのかもしれません。
まさに、絶滅危惧種ですね。
本作の魅力はまた、登場する市井の人々の日常が描かれているところ。
お侍さん、女将さん、お女中さんに遊女。
ご隠居さんにお坊さん。
何者かに取り憑かれたり見たりすることに
何の差別もきっかけもありはしません。
因果応報もなし。
誰のところへもある日不意に、それはやってくる。
だからこそ、ちょと怖いのですけれど・・・。
こういうのを見ると、普段読んでいる時代小説も一段とイメージが膨らみやすい気がします。
「百物語 上の巻・下の巻」杉浦日向子 小池書院
満足度★★★★★