映画と本の『たんぽぽ館』

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完全なるチェックメイト

2016年01月09日 | 映画(か行)
天才であるがゆえの数奇な一生なのか



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1970年代、米ソ冷戦時代、
アメリカとソ連がそれぞれの威信をかけて行われたチェス世界選手権、頂上決戦の実話です。


アメリカのボビー・フィッシャー(トビー・マグワイア)は、
IQ187という天才にして、稀有の変人。
・・・変わり者というよりも、脳の回路が人と違うという感じでしょうか。
人並み外れた天才には、時々あるようですね。
「ビューティフル・マインド」で見たた数学者ジョン・ナッシュのように。



チェスは4手先には3千億通りの可能性があるという。
その中からたったひとつの正解を探そうとする、ものすごい集中力を必要とするものなのですね。
それができる頭脳が、人と同じであるほうがむしろおかしいような気さえしてきました。


さて、このチェスの世界選手権。
その時フィッシャーは、
タイトルを24年保持し続けているというソ連のボリス・スパスキー(リーブ・シュレイバー)と決勝戦を行うこととなる。
非常に神経質になったフィッシャーは、一局目でつまらぬミスでボロ負け。
そこで試合会場の変更や非公開など、わがままな要求をつきつける。
そうでなければ試合には出ないと、いわばストライキのように2局目は欠席し不戦敗。
こんな高慢な要求が通ってしまったというのはつまり、
冷戦下のこのチェス対戦が両国の代理戦争のようになってしまっていたからに他なりません。
こんな時でなければ、単なるわがままとして一笑に付されていたかもしれません。



この扱いにくいフィッシャーを支えていたのが弁護士のポール・マーシャルと
神父で先輩のチェス名手ビル・ロンバーデイ。
二人はもちろんフィッシャーを勝たせて愛国心を盛り上げたいという気持ちがあったのですが、
最後の方は、この天才が一体どんな戦いをするのか、
ただただその行末を見届けたいと、そういう気持ちになっていたように見受けられます。
そして彼らと私たちは見ることになる。
フィッシャーの神の一手を。



チェスのルールを詳しくは知らない私でも、特に問題はありませんでした。
それなのに、スリリングで緊迫感満載というのは、
やはりこの映画作りの素晴らしさ、ということになるでしょう。
トビー・マグワイアのあの常軌を逸した目。
この迫力がすごい。
対するスパスキーも、やや普通ではなかったというところがまた、
「天才」ゆえに・・・なのでしょうね。
似た者同士・・・。



フィッシャーはその後、やはり人と相容れない思考のためいろいろと問題を起こし、
平安な人生を送ったとは言い難いようです。
一時期日本に住んでいたこともあったとか。
正常と異常の境とは、人の運命とは・・・と、
ちょっと感慨に浸ってしまいます。


「完全なるチェックメイト」
2015年/アメリカ/115分
監督:エドワード・ズウィック
出演:トビー・マグワイア、リーブ・シュレイバー、ピーター・サースガード、マイケル・スタールバーグ、リリー・レーブ
歴史発掘度★★★★☆
緊迫度★★★★★
満足度★★★★☆