映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブリッジ・オブ・スパイ

2016年01月13日 | 映画(は行)
さすがの底力を見せつける、監督・脚本・俳優たち



* * * * * * * * * *

1950~60年代、米ソ冷戦下に起こった実話を元にしています。
弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)に、
ソ連のスパイとして逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護の依頼が来ます。
裁判をしようがしまいが、実は始めから答えが出ているも同然の裁判でした。
敵国のスパイなど死刑が当然、と。
ただ、形だけでもアメリカの民主主義を見せようと、裁判を行い、
誰も引き受けたがらない弁護士もつけよう、ということだったのですね。
だから弁護士として負けても誰も気にしない裁判ではあったのです。



他に引き受けるものもなくやむなく引き受けることとしたドノバンでしたが、
しかし彼は、仕事となればどんなことでも真摯に努めなければ気が済まない男だったのです。
彼は周囲の非難を浴びながら、全力でアベルの弁護に当たります。



ここに描かれるルドルフ・アベル像がまたいいのです。
いわゆる「スパイ」像には当てはまりません。
不敵な面構え? 
いかにも頭がキレそう? 
意志が強く不屈? 
母国愛に燃えている? 
いえいえ、どれも違います。
趣味の絵を続けながら、淡々と役割はこなしているのですが、
何か途方に暮れているかのように寂れている。
冒頭に自画像を描く彼のシーンが、まさに彼の心を表しているかのようです。
もうほとんど熱い情熱も何も燃え尽きているようでいながら、
でも、自分の役割、すべきことだけは胸の中にしっかりある。
ドノバンとアベルは、次第に双方に共感を得、親しみを感じるようになっていきます。


物語は、裁判でついには死刑ではなく、懲役30年を勝ち取るところまでが前半。
でも、いよいよスリリングな展開となるのは後半からです。



結審から5年後、ソ連上空を偵察していたアメリカ人パイロット、パワーズが
ソ連に捕らえられてしまいます。
両国はアベルとパワーズの交換を画策し、ドノバンを交渉役に指名しました。
そこで、ドノバンは家族にも本当の行き先を告げないままベルリンへ・・・。



ベルリンの壁の建設中のシーンなど、興味も付きないことながら、
実際ハラハラさせられます。
ついでにと言ってはなんですが、アメリカ人の学生が東ベルリンで拘束されてしまっていて、
ドノバンはぜひ彼も解放して欲しいと要求するのです。
しかし、アメリカ側からはソ連も東ドイツも同じだろう、などと思ってしまうのですが、
両国にはそれぞれの思惑があり、なかなか話はスムーズに行きません。
下手をすればドノバン自身の命も危ない。
ひりひりするやり取りを続けながら、
ラストに来る感動が、やはりさすがスピルバーグ。
脚本がジョエル・&・イーサン・コーエン、というので、また納得。
吐く息が白い、ベルリンの光景もいかにも寒々しく、
またそれが緊張感を増していました。
風邪を引いていつもハナをグズグズさせているドノバンがご愛嬌。
でも本当に、最後の最後までドキドキしますよ。
解放されたアベルをソ連側はどのように迎えるのか。



事実に基づくストーリーにはやっぱり力があります。

「ブリッジ・オブ・スパイ」
2015年/アメリカ/142分
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ジョエル・&・イーサン・コーエン
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ

歴史発掘度★★★★★
人物造形度★★★★★
満足度★★★★★