映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

許されざる者

2010年06月12日 | クリント・イーストウッド
単純には割り切れない西部劇

許されざる者 [DVD]
クリント・イーストウッド,ジーン・ハックマン,モーガン・フリーマン,リチャード・ハリス
ワーナー・ホーム・ビデオ


            * * * * * * * *

1992年、アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した西部劇ですね。
あ、今気がついたけど、この間の「ザ・シークレット・サービス」とこの作品、順序が逆だね。
そうかあ。一応、ずっと制作順を追ってきたつもりなんだけどね。
まあ、さして態勢に影響はないでしょう・・・。皆様、ご勘弁を。一年違いで入れ替わっちゃっただけです・・・。

さて、気を取り直して、クリント・イーストウッドで西部劇といえば、やはり、荒野の用心棒とか夕陽のガンマンのイメージが強い。
けれど、30年を経てその単純なマカロニウエスタン風のかっこよさは払拭され、複雑で重厚な作品となってますね。


若い頃無法を冒し悪名を馳せたビル・マニー(クリント・イーストウッド)。
しかし彼は若い妻と知り合い改心し、銃も捨てていた。
その妻は病死し、残された二人の子供を貧しい農場で育てていたのですが・・・。
そんなとき、スコフィールド・キッドという若い男が訪ねてきて、
ある町で賞金稼ぎをしないかと誘います。
その町の女性の顔を切り刻んだという二人の男を殺せば大金が手に入る。
人殺しはもう止めた彼でしたが、子供たちのためにお金は必要。
昔組んでいたネッド・ローガン(モーガン・フリーマン)も誘い、3人でその町へ向かった。


さてところが、その町はリトル・ビル・ダゲットという保安官が牛耳っているんだね。
顔を切り刻まれた女性というのは実はその町の娼婦。
保安官は思いの外軽い扱いで犯人の男たちを放免してしまうんだね。
気持ちが収まらないのは娼婦たち。彼女たちはコツコツとためたお金を出し合って、その男たちに賞金を懸けた訳です。
これが保安官には気に入らない。
町に銃は持ち込み禁止にして、やってきた賞金稼ぎをボコボコにリンチしてしまう。

相当独善的なヤツだね。俺が正義、みたいな。
でも、銃の所持を禁止している日本の国民とすれば、そう悪くないことのようにも思えるんだな、これが・・・。
顔を切られた女性は命は助かったし、男2人は普段はそう悪いヤツにも見えない。
本当にそれが死に値することなのかどうか・・・。
でも娼婦を人間扱いしていない、というところはあって・・・。
様相は複雑だよね。
単純に何が正義なのかって、決めつけられない。
善悪のボーダーラインがないんだよ。それは見る人の心の中にある。
そう、この複雑さが、まさにアメリカの銃社会の苦悩でもあると思うよ。
これまでの西部劇は人殺しは日常茶飯時で、いとも簡単に人がばたばたと撃ち殺されてたよね。
けれどこの作品では、賞金稼ぎとはいえ、なかなか撃てないんですよ。躊躇してしまう。
特に、このキッドという若者、口ばかりで実は人を殺したことはない。
銃で人を撃つ痛み。こういうことをきちんと描いた点に、この作品の意義があるのです。
もはやこれは娯楽作品ではないと言うことなんですね。
結局は、この映画の時点ではまだ武器は捨てられない、ということになるよね。
かなり苦いですけれど。
「グラン・トリノ」の非武装まではまだしばし間がある。
う~ん、でもこういうこと、クリント・イーストウッド作品をずっと追ってきたから見えるんだよね。
そうだね。ちょっとは続けてきた意義もあったかな・・・と。
自己満足、自己満足。

1992年/アメリカ/131分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、ジェームス・ウールヴェット


マイ・ブラザー

2010年06月10日 | 映画(ま行)
トビー・マグワイアのリアルな異様さが怖い



          * * * * * * * *

非常に苦い作品です。
誰が悪いというわけでもないのに、一つ歯車が狂うと、すべてが崩壊してゆく。
その引き金は、やはり戦争なのですが・・・。

サム(トビー・マグワイア)は家族の中心であり、まじめで精力的。
何事も粘り強くあきらめない。
周りからの信頼も厚い。

そんな彼がアフガンの戦場へ旅立った。
美しい妻と2人の娘を残して。
そして、ある日妻の元へサムの戦死の知らせが届く。
悲嘆に暮れる家族。
そんな家族を支えようと手をさしのべたのはサムの弟トミー(ジェイク・ギレンホール)。


しかし、この兄弟はちょっと複雑。
兄弟間の相剋はよくある話ではありますが・・・。
あまりにもできのいい兄といつも比較され、劣等感を刺激されていたトミー。
兄には頭が上がらないし、実際尊敬もしているけれど・・・。
何をしても認められないその満たされなさから、
道を踏み外し、余計家族からは遠ざけられていたわけです。
特に、父親から。



サムの戦死は、このぎくしゃくしていた家族を変える。
トミーは兄の代わりに自分ががんばらなくては、という気持ちが芽生えてゆく。
子供たちも、兄嫁グレースも、次第に彼に馴染んでゆく。
あれほど毛嫌いしていた父親すらも、態度が柔らかくなってきた。
トミーとグレースの気持ちも次第に接近してゆく。
この家族は大きな悲劇を一つ乗り越えて、いい関係を築き始めたわけですが・・・。



実はサムは生きていて、アフガニスタンで捕虜となっていた。
しかも、彼の人格がゆがむほどの過酷な体験を受けて・・・。

サムは肉体は生きて帰ってきたけれど、既に心は死んでいたも同然。
彼の性格が裏目に出たという感じですね。
彼にとっては、自分が幸せになることは許されないこと・・・というような
無意識の強迫観念のようなものがあったのではないでしょうか。
結局、せっかく生きて帰ってきながら、彼には居場所がない。
そして彼の存在自体が家族にとって毒になってしまうと言う・・・。


この辺のトビー・マグワイアが非常に怖いです。
あのヘアスタイルのせいばかりではないですね。
やせて目ばかりがギョロギョロ。
神経質に家族を見るあの目つき。
子供たちがおびえるのも無理はない。
トビーって、こんな人だったっけ???と思ってしまう、そのリアルな異様さ・・・、
いやー、参りました。
この皮肉で苦い運命にただただ圧倒されっぱなしの作品でした。
でも、そうなってしまった理由というのがすごく納得できてしまうのです。
そんな体験をして普通でいられるわけがない。
元凶は“戦争”ではありますが
この作品は、特に戦争の悲惨さをを訴えるものではなくて、
家族のバランスというものの危うさを訴えているような気がします。
そして結局、そのバランスを保つために必要なのはやはり“愛”なのでしょうね・・・。


さて、この作品、実はデンマークの「ある愛の風景」という作品のリメイクなんですね。
何でもよいものはパクってしまえ、というアメリカのバイタリティはすごいですね。
そちらの方も是非見てみたくなりました。

2009年/アメリカ/105分
監督:ジム・シェリダン
出演:トビー・マグワイア、ジェイク・ギレンホール、ナタリー・ポートマン、サム・シェパード

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」

2010年06月09日 | 本(解説)
マネジメントで最も必要なのは真摯であること 

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎 夏海
ダイヤモンド社


              * * * * * * * *

表紙にかわいい女の子のコミック調イラスト。
でも、マンガじゃないですよ。
いま、ベストセラーとなっているれっきとしたビジネス書。
私には大変珍しい分野ですが、
「マネジメント」にはちょっと興味があって、私でも読みやすそうだったので・・・。


高校野球部のマネージャーみなみが、
ピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』を読んで、甲子園を目指そうとする。
という物語形式で語られる、組織経営学の入門書です。
しかし、このみなみちゃんは、名前から想像する以上に頭の切れる子ですよね。
普通、こんな本を読んでも訳がわからず、
ハナから野球部とはカンケイナイと、投げだしますよね・・・。
まあ、それでは話が進まないというわけで・・・。

野球部であろうとも"組織"で、その目的と定義を決定する出発点となるのは顧客である。
顧客を満足させることが企業・組織の使命であり目的である、といいます。
ふむふむ、そこまでは何となくわかりますね。
ではこの場合の顧客とは??? 
みなみが悩みながらも見つけた答え。
野球部の顧客とは―――
親・先生・学校・都民・高校野球連盟・高校野球ファン・そして当の野球部員。
そうして、これらの顧客が求めているものは「感動!」。

このように一つ一つ具体的にかみ砕きながら話が進むので、確かにわかりやすいのです。
同様に、自分の勤務先・仕事についても、
『マネジメント』を応用できそうな気がしてきます・・・。
まあ、本当にできるかどうかはさておいて・・・。


この考え方でいいのは、顧客側だけではなくて、
組織側の一員としても、やりがいと満足を得られるということなんですね。
そういう風に感じられる組織は、うまくいっているということです。

・・・ということで気をよくして、
一段階上の「エッセンシャル版マネジメント」を読み継ぐべきや否や。
それが問題だ・・・。

満足度★★★★☆

大脱走

2010年06月08日 | 映画(た行)
“腐った卵”たちの反乱
<何度見てもすごい50本より>

大脱走 [DVD]
スティーブ・マックィーン,ジェームズ・ガーナー,チャールズ・ブロンソン,リチャード・アッテンボロー,ジェームズ・コバーン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


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これは第二次世界大戦末期、史実を元にした作品です。
舞台となったこのドイツの捕虜収容所には、
特に脱走を何度も繰り返した札付きの連合軍捕虜が送り込まれてきました。
ドイツ軍曰く、腐った卵は一緒のかごに入れた方がいい


連合軍の彼らは、脱走してドイツ軍の後方を攪乱させるのが
自分たちの義務と心得ているようで・・・。
送られた初日から脱走を試みるもこれはさすがに失敗。
さてそしていよいよ本格的な脱走計画が図られる。
なんとこの計画は1人2人ではなく250人を脱走させようとする大がかりなものなのです。
穴を掘りトンネルを作って鉄条網の下をくぐり、裏地の森に抜けだそうというもの。
ドイツ兵に見つからないように、
ベッドや建築材から木材を調達し、歌で音をごまかす。
大変なのは掘り出した土の処理ですね。
花壇を作ってそこに紛れ込ましたり・・・。
これはもう収容所全体、協力しあわなければできません。
連合軍なのでいろいろな国の人が居ます。
イギリス・スコットランド・オーストラリア・ポーランド、そしてアメリカ。

計画を練るもの、情報を集めるもの、
トンネルを掘るもの、パスポートを偽装するもの、
服を仕立てるもの・・・。
それぞれの得意分野で分担。
このあたりのチームワークが心地いいですね。
実際には計画を始めてから脱走まで、ほとんど一年を費やしたようです。
さて、しかし、実は脱走した後のほうが大変だったのですね。
76名脱走したうち、50名は捕まり射殺されてしまった。
連れ戻されたのは12名。
無事帰国できたのはたった3名・・・。
かっこよく痛快なアクション作品ではありながら、
次第に事実が重くのしかかっても来るのでした。


スティーブ・マックイーンは、
1人脱走して捕まっては懲罰のため独房に入れられるので
「独房王」と呼ばれるヒルツ役。
独房にグローブと野球ボールを持ち込んでは、1人ボール投げをする姿がすごく印象的です。
彼はいつもは単独行動なのですが、
ある事件のために、皆の脱走計画に協力することになります。


さて、とても懐かしく思ったのは、土処理屋の役をしていたデヴィッド・マッカラム。
むか~しのTV番組「0011ナポレオン・ソロ」のイリヤ・クリヤキンですね。
私、子供心に何てカッコイイ人なんだろう・・・と、あこがれていました。
う~ん、確かに、この作品中でもピカイチだなっ! 
他にも映画出演はあったかと思うのですが、
あまりパッとしなかったようですね。
まだご存命のようですが・・・現在のお姿は見ない方がよさそうだ。

3時間近い大作ですが、スリルに富んでいて、
これもやはり今でも十分に楽しめる作品。
ちっとも長さを感じません。

1963年/アメリカ/172分
制作・監督:ジョン・スタージェス
出演:スティーブ・マックイーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、チャールズ・ブロンソン、デヴィッド・マッカラム

「6時間後に君は死ぬ」 高野和明

2010年06月07日 | 本(ミステリ)
運命は変えられるのか

6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)
高野 和明
講談社


             * * * * * * * *

この本は短編集ですが、連作となっています。
キーパーソンは、江戸川圭史。
彼は人の非日常的な未来のビジョンが見えるという特殊な能力を持っています。


表題作「6時間後に君は死ぬ」では、
美緒という女性がいきなり見知らぬ青年圭史から
「6時間後に君は死ぬ」と言い渡されてしまう。
6時間後、路上で胸を刺されている彼女の姿が見えたというのです。
半信半疑ながら、彼女はその殺人者を捜し出し、
事件を避けようとするのですが・・・。
う~ん、どうなんでしょう、
私なら家に閉じこもって一歩も外に出ないようにしますけれどね・・・。

この冒頭の一作は、こんなことを言うこの青年こそ犯人・・・?
と思わせておいて実は・・・、という、
ミステリの醍醐味が味わえる作品ではあります。
WOWOWの二時間ドラマともなったそうで。
けれど、どうも私にはあまりピンとこなかったですね。
なんだか人物に魅力がない。
もう少し会話文などにユーモアを持たせて、おしゃれな雰囲気にならないかな・・・、
などとちょっと惜しい気がしました。

しかし、この本はなかなか侮れません。
その後、読み進むうちにだんだんよくなっていく気がします。
主人公が一作ごとに入れ替わり、
この圭史に未来を予言されるというストーリー運びになります。

そしてなんと最後の「3時間後に僕は死ぬ」では、冒頭作の美緒と圭史が再会。
こちらは3時間という短く限られた時間の中で、
大惨事を何とか防ぐことはできないか、
圭史の見たビジョンは絶対的な運命なのか、
変えることは不可能なのか、
最後の最後まであきらめない美緒の奮闘がスリリングに描かれています。
この2作が対になってドラマ化となっていたのですね。
それなら、納得です。

私が好きだったのは、「ドールハウスのダンサー」。
これは番外編と言っていいかもしれません。
圭史は直接的には登場しません。
ダンサーを目指す一人の女性の生き様がファンタジックに語られていきます。
夢は必ずしも叶わない。
それでも、きちんと別の生き甲斐は見つかるものだし、
そういう人生もアリだよ・・・と、
やさしく語りかけてくれるような一篇。
いいですね。

満足度★★★☆☆

アイガー北壁

2010年06月05日 | 映画(あ行)
人間の命は小さくはかないけれど、何かを成し遂げようとする心は偉大



               * * * * * * * *

1936年、ナチス政権下のドイツ。
国家の優越性を世界に誇示するために、
アルプスのアイガー北壁初登頂に、
ドイツ人のトニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーが挑んだ実話の映画化です。
その前にも多くのチームがこの北壁に挑んだのですが、いずれも失敗に終わっていました。
まさに直立する、とてつもなく高い壁です。
どこの国のチームが一番乗りとなるか。
マスコミでも大きく取り上げ、登山がイデオロギーに利用された、そんな時期なのです。

このドイツ青年2人とちょうど時を同じくして、オーストリアの2名も登り始めます。
結局この2組が競うことになってしまったのが、
失敗の原因のように思えるのですが・・・。


映画の色調に何となくレトロっぽさがアリ、当時の時代を思わせます。
しかし、カメラは、私たちも一緒に岩をのぼっているかのような
臨場感と迫力を描き出しています。
なんだかこちらまで寒くて固まってしまいそうでした・・・。



このアイガー北壁のすぐふもとに、シャイデックホテルというリゾートホテルがあり、
そこのテラスから望遠鏡で北壁を登る者の姿を一望できてしまうのです。
また、そこを通るユングフラウ鉄道は、
トンネルを抜けてアイガーヴァント駅では
なんと北壁の中腹にぽっかり空いた穴から、はるか眼下を見下ろすことができる。
高所恐怖症気味の私は想像しただけで足がすくみます。

いやはや、しかし、すごい観光に懸ける熱意ですね。
でも、やはり行ってみたくなります。
そしてぜひ、この鉄道に乗ってみたい!!

実はこの光景、そっくりそのまま、少し前に他の作品で見たのです。
1975年、クリント・イーストウッド監督・主演作品の「アイガー・サンクション」。
ストーリー自体は何じゃこりゃ、というものですが、
何しろ絶壁を登るのがクリント・イーストウッドなので、これはやはり見応えがある。
こちらも最後はイーストウッドがアイガーヴァント駅に近い坑道の穴を利用するのです。
考えてみたら、その「アイガー・サンクション」が、
この1936年の実話を参考にした、ということなのでしょうね。



当時の登山の装備が、何とも心許なく、いかにも寒そうで、まさに極限状態の極み。
それでも挑戦者が後を絶たず、そして成功した人が居る、というのには感動してしまいますね。
この二人は、アイゼンを自分たちで成形してましたし、
お金がないのでこの山までは自転車で300キロ漕いできていたんですよ・・・。
今は、装備は軽く、保温もかなりいいのですよね。
だから楽だとは言いませんが・・・。

巨大な壁、大自然の猛威。
そんな中で人間はいかにもちっぽけなのですが、
何かを成し遂げようとする“心”は、偉大です。
ただ、それでもなおかつ、自然の力が勝ってしまうことも多々あるということなのでしょう。
こんな荒々しい雰囲気の作中で、
トニーとルイーゼの心の絆が、また、光っています。
印象に深く残る作品となりそうです。



2008年/ドイツ・オーストリア・スイス/127分
監督:フィリップ・シュテルツェル
出演:ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ボカレク、フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール

ザ・シークレット・サービス

2010年06月04日 | クリント・イーストウッド
暗殺者と護衛官の心理戦

             * * * * * * * *

このシークレット・サービスというのは、まあ、護衛の用務なんですね。
そう。ここでのクリント・イーストウッドは、もう定年間近のシークレット・サービスのエージェントという役どころ。
彼、ホリガンは若い駆け出しの頃にケネディ大統領の護衛にあたっていたんだね。
しかし、ご存じの通り、大統領は凶弾に撃たれて亡くなってしまった。
護衛についていながら、何もできなかったことが彼のトラウマとなっている。
そんな過去を抱えた男に、かかってきた電話。
これが現在の大統領の暗殺予告、ということだね。
うん。これがね、電話を逆探知するために、関係者一同がみな、話の内容を聞いているんです。
逆探知に時間がかかるので、うんと話を引き延ばさなきゃならない。
犯人にもそれはわかっていて、わざとホリガンの傷をえぐるようなことを言うわけ。
おまえは護衛なのに何もできなかった。
一発目の銃声の後、大統領の前に出て二発目を自分が受けて
大統領をかばうこともできたはずだ・・とか。
大勢の前で、心の奥底を言い当てられてしまうホリガンは、しかし、淡々と受け止めている・・・。
なかなか渋くていいですよね、この辺。
そう、大勢が聞いていることを前提とした2人の会話
・・・というシチュエーションはなんと、ラストの最も重要なシーンにも使われるのです。
よく出来た脚本ですよね。


それから、特異なのがこの犯人像。
これは・・・単に血に飢えた殺人鬼問いかサイコキラーというのではなくて・・・。
そうだね。暗殺オタクとでもいうのでしょうか・・・。
自分の変装術の巧みさとか頭の良さに酔ってる感じ。
これ、ジョン・マルコビッチなんだよね。いや、はや、さすがの怪演というか・・・。
存在感ありましたねー。これは犯人役が別人だったら、もっと平凡な作品になっていただろうね。
ダーティーハリーほどアクション性があるわけではないけれど、同様に彼には若い相棒がついていて。
やっぱり、悲惨な目にあってしまうのですね・・・。
ほとんどお約束だ。
それはともかく、全体にトーンは靜かで、渋め。だけど暗すぎない。
暗殺者と護衛官の心理戦。
なかなかの良作だと思います。

ザ・シークレット・サービス [DVD]
クリント・イーストウッド,ジョン・マルコビッチ,レネ・ルッソ,ディラン・マクダーモット
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


1993年/アメリカ/128分
監督:ウォホルフガング・ペーターゼン
出演:クリント・イーストウッド、ジョン・マルコビッチ、レネ・ルッソ、ディラン・マクダーモット

「オー!ファーザー」 伊坂幸太郎

2010年06月03日 | 本(その他)
最後のワンピースで完成するパズル

オー!ファーザー
伊坂 幸太郎
新潮社


            * * * * * * * *

高校生由紀夫の家は、母一人子一人に、父親が4人!?!
そう、四人の父親が同居しているのです。
どうも同時に母が四人と付き合っていて由紀夫を妊娠。
話し合いの末、4人が全員「父親」になることとして、「結婚」したのだとか・・・。
驚いてしまう設定ですが、
これがまたそれぞれに個性的で魅力的な男性方でして・・・。
どれも捨てがたかった、お母さんの気持ちはわからなくもないですね・・・。


その四人とは・・・
鷹 賭け事大好き、裏社会のことも訳知り
葵 女好き。 女性に声をかけるのが礼儀だと思っている
悟 知的冷静な頭脳派
勲 体育会系熱血教師

この4人がせっせと由紀夫を育て、教育したものだから、
由紀夫はそれぞれの分野に秀でるカッコイイ男子に成長している!
このストーリー中は、母親は出張でほとんどいなくて、
由紀夫と4人の父親中心に話が進みます。

由紀夫と中学時代の友人鱒二。
不登校の小宮山。
押しかけ友人多恵子。
県知事の選挙。
裏社会のドン、富田林。
級友の殿様。
テレビのクイズ番組。
手旗信号。

いろいろなピースがちりばめられながら、ストーリーが進んでいき、
ついには予想もつかない事件が!!
でも、それも、最後にはすべてぴたっと収まるところに収まっていく。
伏線の妙。
まるでジグソーパズルの最後の一枚で、絵が完成したような爽快感。
これぞ、伊坂ワールドですね。
堪能しました。


こんな一節があります。

コドモは、実は大人社会から守られている。
しかしそれをわからずに、教師に逆らって、
大人になったような気になっているコドモは愚かである。


由紀夫は何をやっても人より秀でているので、若干こんな気持ちもあったのですね。
けれどある事件があって、この言葉をつくづく思い知ることになる。
そうなんですよね。
大人社会を批判し、逆らうのがカッコイイと思っている若者。
実は大人社会そのものに守られていることも知らずにそれをするのは、
コドモであることの証明みたいなもんですね。
身にしみます。

満足度★★★★☆

スティング

2010年06月02日 | 映画(さ行)
これぞ映画の楽しみ
<何度見てもすごい50本より>



             * * * * * * * *

「明日に向かって撃て」のジョージ・ヒル・ロイと
お馴染みの主演二人が再び組んだ大ヒット作。
これは以前に見ていまして、さすがに最後の大逆転シーンは覚えていたのですが、
それでも十分に楽しめました。


1930年代シカゴ。
詐欺師のフッカー(ロバート・レッドフォード)は
いつものように相棒とちょっとした詐欺で、思いもよらない大金を手にしました。
ところがそれはニューヨークの大物ギャング、ロネガンのものだったため、
報復として相棒が殺されてしまい、彼も追われる身となってしまいました。
フッカーは、こちらもその世界では名高い詐欺師ゴンドーフの助けを借りて、
一世一代の大ばくちを打ち、ロネガンから大金をせしめてやろうと画策します。
さてその守備は・・・。



二転三転するストーリー展開。
小気味のいいテンポ。
軽やかなお馴染みのピアノ曲。
いやさすがに名作です。
最後は失敗して大悲劇・・・という風に見せかけて、大逆転。
結局観客の私たちもだまされるのですが、この小気味良さがなんともいえません。


これくらいの時代のアメリカは好きですね。
適度に近代的で、しかしまだどこか鄙びている。
まだコンピュータのない時代。
コンピュータとケータイで、私たちはますます忙しく
人とのつながりが希薄になっていく気がします。
なんだか変ですね。
そうならないためのもののはずなのに・・・。
だから、こういう時代がなんだか懐かしく、好ましく見えてしまうのでしょうか。



このストーリーの競馬のトリックは、
この当時を舞台としたからこそ成り立つんですね。
実況中継はラジオです。
でも、今でもあのように大がかりなニセの場を作ることができれば、
やれないことはないでしょうか。
そこまでする見返りがあるかどうか、というのが問題ですね。

考えてみるとあのラストはああでないと、
ただ大金をだまし取られただけ、というのではまたロネガンの報復があるだけです。
あの終わり方でないとだめなんですね。

実によく出来たストーリーです。

スティング [DVD]
ポール・ニューマン,ロバート・レッドフォード,ロバート・ショウ
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン


1973年/アメリカ/129分
監督;ジョージ・ロイ・ヒル
出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショウ、チャールズ・ダーニング、レイ・ウォルストン