いよいよ立ち稽古だ。本番まで1か月切ったからね、うかうかしちゃいられない。ばんばん動きつけて、何度でも繰り返して、練り上げて行かなくっちゃ。て、思っているんだが、なかなか演出のアイディアが浮かばない。理由は、全国大会だ。福岡で上演となると、装置や道具はとことん切り詰めざるを得ない。ものを送るって、人間以上に費用も手間もかかるんだ。まさかトラック引っ張って日本縦断とはいかんものね。
最小限の装置・道具で済まそう、ってことで、吊ものに肖像写真、道具としては椅子数客、とsimple is bestを心がけた。そうなると演出がずばりもの言うわけで、この単調な装置で舞台全体を生き生きと使い切るにゃどうしたらいいか、悩むわけだよ。道具屋さんにもずいぶん我がまま言った。形が悪いとか、髙さが低すぎるとか、単調だ、もっと型破りなものをとかね。そんじゃ自分で作れ!って投げ出されたってしかたないくらい、曖昧なイメージで作り替えを指示し続けた。
その椅子が、ついに完成した!これが凄い!
どうだいこのシュールな作りは! 微妙に歪んでいたり、ほとんど椅子として用途を果たさなかったりしてるのは、演出からの注文だ。芝居の内容に相応しく一筋縄でない椅子たちを作ってもらった。汚しの技もお見事!これら7脚の椅子をこう並べる。
一気に不思議な非現実の世界が現出するじゃないか。そう、これが欲しかったんだよ。俄然アイディア湧き上がってきたねぇぇぇ。奇抜な設定、ナンセンスなセリフのやり取り、この奇妙な椅子たちのお陰で、動きも仕草もどうしたらいいのか、すっかり浮かんでしまった。思い切った動きややり取りがどかどか湧き出してきて、一気に半分過ぎまで動きがついてしまった。
すぐれた装置、道具は演出を触発する!まさにコラボレーションだ。さらに、衣装とか照明とか音楽とかとも響き合って質の高い舞台が立ち上がってくる、そんな芝居作りの一歩を踏み出せたかな。おっと、一番に高め合うのは役者とだよな。