心臓病といわれるいろいろな病の精神的影響 2020・8/02
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狭心症という病気がある。
胸中央のやや下位置から、心臓よりに
胸が締め付けられるような痛みを
感じることが多い。
調べれば、心電図には、その病気特有
の変化があるのでわかりやすい。
この狭心症に近い症状に、
心臓ノイローゼというものがある。
心との相関性を示す事実だ。
精神的な要素、特に不安がその
原因が多く、激しい運動を
しているわけではないのに、
動機や息切れなどが起こる。
安静状態にもかかわらず、動機や
息切れ、加えて狭心症のように
胸痛がある場合も多い。
狭心症と違うところは、その痛み
の継続時間が比較的長くて、
数十分から一時間近くと、
幅があるのが特徴だ。
一般に、狭心症の原因は心臓の筋肉
に栄養を送る冠状動脈という血管
の老化現象といわれている。
そして、この動脈の硬化現象の要因
の一つが、コレストロ―ㇽである
ことは良く知られている。
コレストロ―ルとは何か?
動物性脂肪の代謝産物だ。
このコレストロ―ル値が、一概に
摂取する食べ物だけに関係がある
わけではなく、
精神的要素も影響することが、
心療内科創設者の池見酉次郎博士の
実験でわかった。
著書から、引用する。(*1)
“コレストロ―ルは感情の影響を強く
うけることが知られています。
私どもの実験によりますと、試験前で
緊張した時の血液のコレストロ―ルの
濃度は試験後に比べ、殆どの人が
高い濃度を示していました。
また、別の実験では精神的に緊張して
いるときの血管の緊張度は、のんびり
しているときと比べて、高くなって
いることも認められています。
このように、狭心症の大きな原因で
ある動脈硬化に対しても、心の状態
が影響を与える可能性が考えられます。”
(引用終わり)
さらに、池見博士は、狭心症にかかり
やすい人の性格的特徴を次のように
指摘している。
“攻撃的、活動的、野心的で時間の
切迫感を持っている~といってもの
で、このような性格傾向は社会に
あっては、常にトップを目指すような
人によく見受けられます。
事実このような性格特徴を持って
いる人はそうでない人にくらべて、
急性の心臓死を起こす率が7倍も
高いという報告があります。“
(引用終わり)
こうしたことを裏付けるエビデンス
として、博士は自分の治療した患者
の例をあげている。引用する。
“4年ほどまえに、当時54歳になる
患者さんが、私どものところに
紹介されてきました。
紹介状によりますと、狭心症と
糖尿病があり、一年あまり、
いろいろな薬を使ってみても、
狭心症発作は良く起こるし、
糖尿病もなかなかコントロール
できない状態にあり、どうも性格
や日常生活に問題があるようなので、
診て欲しいということでした。
早速、まず、身体の方を詳しく
調べますと、階段を上り下りする
運動をさせた後には、
心電図で狭心症発作特有の変化が
認められて、血液中の糖は普通の
人の倍以上にも増えていました。
その他、コレステロールも高く、
血圧も最高が170で最低が95という
値であり、狭心症の発作が起こって
もよい結果でした。
次に臨床心理士が性格や環境面の
調査をしましたところ、次のような
ことがわかりました。
親代々からの、織物業の織本で
裕福で甘やかされて育ちましたが、
彼の代になった、一層手広く商う
ようになり、毎日が非常に多忙で
あり、心身ともに過労の状態が
慢性的に続いていました。
彼はワンマン的な社長で家族や
従業員にも専制的であり、怒りっぽくて、
ささいなことで一日中怒鳴り続けて
いるような状態であることが
わかりました。
性格のほうも短気で感情を抑える力
が弱い事、外見に比べて内心は小心で
あること、困難な場面にあうと逃避
しようとする気持ちが強く働くこと
などの特徴も認められました。
このように心身両面で調べたうえで
治療に入りました。
狭心症の薬を使ったことはいうまで
もありませんが、これだけでは
よくならないことはそれまでの
治療経過からみても
はっきりしていました。
そこで、狭心症の発作は心の
変化が引き金になって、起こりうる
ことを理解させ、心の動揺を少なく
するためには、仕事によるストレス
を少なくし、対人関係でおこる怒り
の感情も勝負ごとや遊びなどに
よって、うまく発散するよう指導
することに努めました。
さらに積極的に心の安定をえさる
ために、心理療法を併用しました。“
(引用終わり)
と池見博士はその治療法に関して
精神面の安定をはかるという
ことに、十分重きを置きながら
経過をみていたのだが、当初から、
患者が自分の内面に踏み込まれる
ことに抵抗を示していたので、
なかなか成果がみられなかった
ようである。
引用すると、
"しかし、その人は自分の生き方
や精神生活にまで立ち入られる
ことに強い抵抗を示しました。
そのため、初めは薬だけで様子を
みることにしました。
しかし、それだけでは、発作がなく
なりませんし、たまたま、ある日、
バスに乗っていて運転手と口論に
なり、その最中に発作が起こると
いうエピソードがあったりして、
結局、心の影響を自分でも
納得するようになりました。
それからは、投薬、生活指導、
心理療法といった、広い角度から
の治療が始まりました。
これによって、約二か月後には
発作は全く消えてしまい、
心電図の検査のときに、
前と同じ運動をさせても、狭心症
に特有な心電図の変化は現れなく
なりました。“
(引用終わり)
そして、それから4年の経過を
観察していたが、狭心症の発作は
一度も起こらなかった。
糖尿病のほうはどうなったかと
いうと、食餌療養や日常生活を
規則化することで血圧や糖尿病
のコントロールが可能となって、
良い結果をもたらしていると言う。
こうした心臓に関する病は、
低血圧症、不整脈、血流障害、
など広い範囲で見られるのだが、
池見博士はいずれも、心身一如
(体と心が一体である)という
考えに基づいた、治療が大切だと
著書で述べている。
*引用箇所: ”ストレス健康法”
池見酉次郎著 昭和50年発行
潮文社