坂の向こうには、海。
坂道、晩夏の追憶
息って、こんなに熱かっただろうか。
太陽焦がす道をただペダルを踏む。
じっとりと背に張り付くシャツが熱を透して尚更熱い。
握りしめるハンドルから照り返した陽光が、ぎらり目を射った。
眩しい、
一瞬目を閉じ、顔を挙げる。
坂の中盤に広がる緑陰に自転車に跨る影が1つ、ぽつんと見えた。
その影が口を開く。
「もう少し、」
口をぐっと引き結びペダルを思い切り踏み込む。
自転車は木下闇に入り、さっと風がシャツに吹き込んだ。
「暑いな、」
笑った頬の紅潮が欅の葉影を映しながら光る。
その額に指の甲で触れて、瑞々しい水気が皮膚に伝わたす。
「汗、目に入る」
指の下、見返す瞳にも葉影が映った。
「お前も汗、すごい」
頬を手の甲で拭った滴が、きらり陽光に光る。
「走れるか」
「ああ、」
ペダルを踏みしめ木陰を抜ける。
視界は光あざやかに染まり、熱気が肌を射す。
「雲。何も、ないな」
坂の上、抜ける青が白い道に眩しい。
この坂の向こう側も雲は無いのだろうか。
息がまた熱を帯びる、ペダル踏む足の重みが鈍く響く。思わず息ひとつ大きく吐かれた。
でも、
隣行く顔を見ると瞳が黒々と輝いている。
ぐいと顔を揚げ、また踏み込んで、頂上がまたじりり近づく。
ハンドル握る腕が赤黒くなり始めていた、風呂では浸み痛むだろう。
もう少し、
思い切りの一漕ぎm車輪は坂の頂きを踏んだ。
「着いたな、」
海が広がる。
空と海の境界に入道雲が大きく蹲っていた。
遥かな水平線、その高みに雲から翳射す波の青が濃い。
「海にも、雲の影が映るんだな」
ざあっ、
海風が坂を昇りだす。
シャツに吹き込む風は汗濡れた肌を冷やして行く。
遮るもの無い頂は名残の熱が直射する、じりっと灼かれる熱が腕を足を照らす。
隣の腕にも陽光が照り輝いて、その艶めき惹かれるまま手を伸ばし、ふと触れた。
「ん、なに?」
振り返った声は怪訝を含んで、けれど瞳は笑ってくれる。
その声に眼差しに気が付いて、だけど掌そのままに笑った。
「いや、何でも無いんだけど、」
触れた腕から、じわりと熱が掌に入ってくる。
「腕、熱くなってる」
そう?と覗き込むように見上げて笑ってくれる。
その瞳に陽光のかけらが光った。
「日焼け、痛むかもな」
肌の発熱は掌を伝うまま、心に、ことり落ちた。
息って、こんなに熱かっただろうか。
太陽焦がす道をただペダルを踏む。
じっとりと背に張り付くシャツが熱を透して尚更熱い。
握りしめるハンドルから照り返した陽光が、ぎらり目を射った。
眩しい、
一瞬目を閉じ、顔を挙げる。
坂の中盤に広がる緑陰に自転車に跨る影が1つ、ぽつんと見えた。
その影が口を開く。
「もう少し、」
口をぐっと引き結びペダルを思い切り踏み込む。
自転車は木下闇に入り、さっと風がシャツに吹き込んだ。
「暑いな、」
笑った頬の紅潮が欅の葉影を映しながら光る。
その額に指の甲で触れて、瑞々しい水気が皮膚に伝わたす。
「汗、目に入る」
指の下、見返す瞳にも葉影が映った。
「お前も汗、すごい」
頬を手の甲で拭った滴が、きらり陽光に光る。
「走れるか」
「ああ、」
ペダルを踏みしめ木陰を抜ける。
視界は光あざやかに染まり、熱気が肌を射す。
「雲。何も、ないな」
坂の上、抜ける青が白い道に眩しい。
この坂の向こう側も雲は無いのだろうか。
息がまた熱を帯びる、ペダル踏む足の重みが鈍く響く。思わず息ひとつ大きく吐かれた。
でも、
隣行く顔を見ると瞳が黒々と輝いている。
ぐいと顔を揚げ、また踏み込んで、頂上がまたじりり近づく。
ハンドル握る腕が赤黒くなり始めていた、風呂では浸み痛むだろう。
もう少し、
思い切りの一漕ぎm車輪は坂の頂きを踏んだ。
「着いたな、」
海が広がる。
空と海の境界に入道雲が大きく蹲っていた。
遥かな水平線、その高みに雲から翳射す波の青が濃い。
「海にも、雲の影が映るんだな」
ざあっ、
海風が坂を昇りだす。
シャツに吹き込む風は汗濡れた肌を冷やして行く。
遮るもの無い頂は名残の熱が直射する、じりっと灼かれる熱が腕を足を照らす。
隣の腕にも陽光が照り輝いて、その艶めき惹かれるまま手を伸ばし、ふと触れた。
「ん、なに?」
振り返った声は怪訝を含んで、けれど瞳は笑ってくれる。
その声に眼差しに気が付いて、だけど掌そのままに笑った。
「いや、何でも無いんだけど、」
触れた腕から、じわりと熱が掌に入ってくる。
「腕、熱くなってる」
そう?と覗き込むように見上げて笑ってくれる。
その瞳に陽光のかけらが光った。
「日焼け、痛むかもな」
肌の発熱は掌を伝うまま、心に、ことり落ちた。