萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第78話 灯僥act.1-another,side story「陽はまた昇る」

2014-09-01 22:30:00 | 陽はまた昇るanother,side story
daybreak 黎明の光



第78話 灯僥act.1-another,side story「陽はまた昇る」

なんて君はずるいんだろう、こんなに傷だらけなんて?

肩あわい擦過傷はザイル痕、警察学校の山岳訓練で滑落した自分を背負ったザイルが食いこんだ。
濡れた髪かきあげた額の生え際は小さな刺し傷、巡回していた鋸尾根の雪崩まきこまれ転落したときヘルメット割れた痕。
左腕の皮膚かすかな引き攣れは火傷、訓練の奥多摩山中に落雷した樹の発火元に濡れたウィンドブレーカーごと腕突っこんだ。
そして上気した時だけ現れる頬の傷、積雪期富士の救助中に雪崩から飛んだ氷塊が切りつけた。

『最高峰の竜の爪痕だな、俺の御守だよ?』

そう君は笑ってくれた、そんな全ては自分の為でもある。
だって君が山岳救助隊になったのは肩のザイル痕、自分を救けてくれたことだ。

『山の警察官っているのかな?』

そう訊いてくれた君に答えてしまったのは自分だ、そして君は山を選んだ。
この選択は山への憧憬だろう、けれど山に山岳救助隊に努力する根っこは自分が植えたのだと本当は自負している。
だから本当はずっと知っていた、君が誇りごと命も山に駈けるのは自分を救いたい願いがある、だから今も君を止めたいのに?

―だって英二、山は僕の為を超えて好きになったでしょう?だから山に生きて、

山に生きる君の笑顔が好きだ、そうテレビに見つめてしまった。
画面のなか雪深い山に救助活動する姿は眩しかった、だから今日、君の秘密を止めたかった。
雪けぶる青い登山ウェアの笑顔はどこまでも明るく綺麗だった、その変わらない笑顔に宝物だと思い知らされた。
だからこそ穢れてほしくない、そのために自分は孤独で構わない、だって唯ひとつの想いを自分こそ綺麗なまま抱いていたい。

だからどうか全てを話して?

そんな願いに見つめるソファ狭くて、傷痕まばゆい白皙の肌が近い。
まだ濡れた髪はランプに雫きらめかす、林檎ひとつと向き合う上半身裸の肌から石鹸が香る。
ビジネスホテル小さな一室に向きあった相手は自分の唯ひとり、この変わらない想いに周太は微笑んだ。

「英二、なぜ金曜日は本庁でボルダリングしてたの?」




今日、君に逢える?

そんな期待に目覚めた天井すこし明るみだす。
もう夜は明けてゆく、いま12月の遅い夜明でも太陽ゆっくり昇るだろう。
そうして迎えた今日はずっと待っていた、その刻限に覚悟そっと呼吸して周太は起きあがった。

「ん…発作だいじょうぶだね、」

ゆっくり呼吸して、けれど喉の噎せ返りは無い。
これなら今日一日も大丈夫だろう、その願いごとベッド降りてカーテン開いた。

「ん、きれい…」

微笑んだ窓は鉄格子に遮られて、けれど街の暁は輝きだす。
摩天楼はざま陽は昇る、まだ残る4日前の雪は街路樹の根元から朱色まばゆい。
光ゆるやかな薄紅から雲の薄墨は金色を輝かす、そうして今日になる空に不安の織られた吐息こぼれた。

「…ほんとのこと話してくれるかな、英二…」

なぜ金曜日、警視庁の外壁にスーツ姿はいたのだろう?

あれは自分の幻かもしれない、けれど現実の姿だとしたら一人だけいる。
それは誰より信じたい相手でいちばんの嘘吐き、それでも、嘘の真中が真実だとしたら?

『俺が帰りたいのは周太の隣だよ?周太、俺を信じて待っいて、』

帰りたい、その変わらない言葉が嬉しかった。
信じて待っていてと言われて泣きたかった、それでも「どうして?」は廻ってしまう。

どうして父の日記を隠すの、どうして父の友人に父の貌を見せたの?どうして自分と出逢ったの、なぜ自分に告白してくれたの、あなたは何が欲しい?

こんな問いかけたち廻って止まないまま。
あの秋が愛しくて信じたくて還れるのだと信じていたくて、信じたいほど唯ひとり逢いたい。
だからこそ14年追いかけてきた父の真実に解らなくなる、なぜ先回りして日記すら隠されるのか解らない。
解らなくて、それでも告げてくれた「帰りたい」の電話の声に4日前この大雪の夜、自分から今日を約束した。

『じゃあ水曜日にあのベンチで、』

あのベンチ、記憶が多すぎる。

あのベンチから全ては始まった、そんな記憶の夏から今は遠い。
けれど本当は近づいているのかもしれない?そう信じたい願いと窓離れてリモコンのスイッチ押した。

ぴっ、

微かな電子音にテレビ点いてニュース流れだす。
映されるのは今現在の風景、そこに見おぼえた町並も映される。

「奥多摩からの中継です、まだ残雪が多く道路状況も…晴れときどき曇りの予報、」

天気予報の町並は懐かしい、そして雪化粧に視線が止められる。
起きぬけのパジャマにカーディガン羽織りながら見つめて、その一瞬に止まった。

「先週末の大雪では警視庁と消防による除雪活動も行われ…遭難事故の救助活動も、」

今、映ったのは誰?

「…えいじ?」

青い登山ウェアにヘルメットたち吹雪を佇む、その背中ひとつ惹きつける。
あの長身あの肩、そしてヘルメットのぞく白皙の横顔は遠目も雪煙も間違えない。
だけど今この部屋の窓は雪止んでいる、それなのに吹雪くテレビに瞳ひとつ瞬き微笑んだ。

「ん…VTRだね、そうだよね…」

独りごと一人で納得しながら自分で可笑しい。
こんなふう結局はいつも追いかけてしまう、そんな本音に薬携え洗面所に行った。

『シムビコートタービュヘイラー』

そうラベル記されたプラスチック容器の蓋を外す。
底のダイヤル回転してセットすると息吐いて吸入口くわえこみ、思い切り吸い込んだ。

「っ、」

かすかな粉気に息ゆっくり吐きコップに水汲んで口濯ぐ。
うがいもして顔も洗うと薬の吸入口も軽く拭き、部屋に戻ると着替えた。

「…昨夜のごはんでお味噌汁と玉子焼き、かな?」

ひとりごとに献立を決めながらカットソーにカーディガン羽織りエプロン掛ける。
この朝食を済ませたら家すぐ出るつもり、今日せっかくの代休だから待ち合せ前まで時間きちんと使いたい。

「ん…大学で書籍部よって、図書館も出来れば少し…11時半だから10時半に出て、」

今日の予定を声にしながら鼓動そっと聞えだす。
いま6時半、あと5時間すれば再会してしまう、そのとき自分はどんな貌するのだろう?

「泣くとかだめ、だよ僕、」

声にして頬ひとつ軽く敲いてみる。
ぱちん、ちいさな音に微笑んで手を動かし玉子焼きしあげてゆく。
味噌汁も火を止め盛りつけながら今日この先に考えもう一度まとめる。

―まず警視庁の外壁のこと訊かないと、あんな危ないことしたなら止めなくちゃ、

金曜日、業務中なにげなく見た窓の外のスーツ姿をまず解きたい。
あんなふうに庁舎の外壁を登るなんて普通は考えないだろう、けれど英二なら可能性ゼロとも言えない。
それでも「庁舎の外壁をスーツ姿で登るないし降りる」理由は何だろう?これが解らないと質問すら危ぶまれる。

―普通に訊いたって答えないよね、核心から質問しないと…英二が外壁から移動する動機、

庁舎の外壁をスーツ姿で登るないし降りる、

その目的は「移動」それは移動した事実を隠す目的だろう。
それなら「移動したことを隠したい」その出発点と到達点には何がある?
あの場所で英二が行く必要ある場所はなんだろう、そんな思案ずっと廻らせた答え呟いた。

「…蒔田地域部長、の執務室だよね、」

たとえば、あの外壁移動は往路か復路だけの片道かもしれない?
それを復路だと仮定するなら出発点は「英二が出入りする可能性の部屋」そう考えると限定しやすい。
英二の所属は第七機動隊山岳レンジャー第2小隊、その前は青梅警察署山岳救助隊で御岳駐在所勤務、この経歴に答えすぐ解かる。

―警視庁山岳会での関係だもの、だったら蒔田さんだけど、

地域部長の蒔田徹警視長、もし彼の執務室が出発点だとしたら?
外壁を使い隠したかった「移動」ならばなぜ移動を「隠したい」のか。
それは出発点である場所への「目的」に理由がある、なにをするため蒔田の部屋に行ったのだろう?

だから蒔田の執務室で行う「目的」そこに「移動」を隠したい理由がある。

「…だけど何したのかなんて解らない、ね、」

ため息こぼれてしまう、それでも盆に食膳を整えテーブルに運ぶ。
根菜の味噌汁、雑穀入りご飯、漬物、納豆、玉子焼きは黄色あざやかに香も甘い。
どこにでもある朝食の膳、けれど自分には大切な記憶と俤たちに周太は微笑んだ。

「お父さんお母さん、いただきます…食べさせてあげたいね、英二、」



(to be continued)

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文学閑話:謎×猫、Paul Gallico

2014-09-01 22:00:00 | 文学閑話散文系
That on a wild secluded scene impress



文学閑話:謎×猫、Paul Gallico

『トマシーナ』

っていう小説があるんですけど、ネコの物語です。
この猫は普通のネコとは違う、古代エジプトの女神バステトの化身です。
そんなトマシーナが殺される事から始まる物語はリアルと幻を行き交います、その涯にあるのは「温もり」です。

作者はネコを描いたことで有名な米文学のポール・ギャリコ、
代表作に『ジェニィ』『ネコ語の教科書』『ネコ語のノート』などがあります。

で、『トマシーナ』は小学校低学年のころに知った本なんですけど、
なかなか本屋で見つけられなくて、注文するって手段もあったけれど書店で見つけるってことがしたくて、
それで大学に入ってから或る日ようやく見つけて、やっとあったなーって発見うれしく買ったんですけど、

なぜか消えました、笑

文庫とはいえ分厚くて失くすようなサイズでもなく、
捨てるワケ当然ない、けれど家のどこ探しても見つからないんですよね。

トマシーナ=猫頭人身のバステト神の化身、猫は隅っこ好きだから本も隠れるのか?

なんてファンタジーみたいなコト考えてみたり、
でも結局それ以降は書店でも見つけられないままなんですけど、
そんなわけでイイカゲンWEBで買おうかなとか考えている今日この頃です、笑

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚199

2014-09-01 00:10:00 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚199

1月上旬の火曜日、仕事帰り花サンといつもの店で呑んで帰宅して、
で、寝ようか思ってベッド転がって携帯電話なんとなく開いたら着信があった、
その着信番号は案の定ってカンジだけど御曹司クンだったから、ちょっと考えた、

今日は複数回メールくれて、それに返信1通しかしていない、
そこらへん寂しいとかアレコレ御曹司クンはあるんだろう、
でも本音のトコ今なにを話して良いか解らない、

電話折り返すのも期待させるだろうか?

でも無視しっぱなしで気まずくなるのも困る、同僚だから。
今は同じ所属じゃない、デスクも別室になっている、だけど職場内であることは変わらない。
そして何より困ることは御曹司クンがメンタル=仕事に響きやすいタイプ、で、ソレ上司にも言われてる事だった、

きっとホッタラかしっぱなしだと部長にまた言われるんだろな?

そんな予想に正直なトコ困って、それ以上に花サンのこと想うと電話が正解か迷う。
どうしよっかなーなんて考えて、ソンナことしてたらベッド転がってるのに目が冴えてきて、
結局またPC開いて続き=調べたり書いたり翻訳したり写真編集したりして、そしたら傍らの携帯が着信ランプ光った、

で、案の定だけど発信人は御曹司クンが表示されて、コール5つ迷ってから通話を繋いだ、

「あ、出てくれた…」

ちょっと泣いていた?

そんな声に哀しくなった、だって別に泣かせたいワケじゃない、
ホントは笑っていてほしい、そんな自分の想いまた気がつかされながら笑った、

「やたら今日はメールやら電話してくれるじゃん、今泣いてるのってソレ関連?笑」

泣いてる理由なんてホントは解ってる、
でも知らんふりした電話ごし御曹司クンは拗ねながら泣き笑った、

「なんだよー…泣いてる理由なんて解ってるクセに、ほんとおまえってSイジワル、拗×泣笑」
「イジワルだって最初から言ってるだろ、文句あるんなら架けんなよ、笑」

いつもなら「じゃあ切るよ、笑」って言うだろう、でもソレを今回は言えない、
そんな本音はホントの意味で切るかドウか迷っている所為だった、

もし今このまま終わりだよって言ったらどうなるんだろう?

そんなこと考えながらも切れない電話に御曹司クンが言った、

「イジワルSなとこも好きなんだよ、そういうの嘘吐いてないじゃん?正直なまま接してくれんのってマジ嬉しいから、」

正直なまま接する、そんなこと嬉しいクセに御曹司クン自身は出来ない、
それが花サンを結局のところ追い詰めた、そんな現実のまま言った、

「正直なのが嬉しいんならオマエも正直になりな、花サンのこと踏みにじるようなコトやめてくんない?」

言いながら、ラシクナイなって自分で思ってた、笑
こんなふうに誰かの恋愛沙汰にデシャバルなんて自分には無い、
だけど今回はほっとけなかった、それは見てしまった聴いてしまった傷だからそれを言った、

「花サンのこと本気で一番に愛せるんならちゃんとツキアイな、でも自分と関わる踏み台にするならオマエをぶっつぶすよ?」

こんな言い方したら泣くか逆ギレするだろう、
それでも曖昧にすることは誰のためにもならない、そんな現実に御曹司クンは言った、

「ぶっつぶすって、そんなことオマエが言うって…そんなに俺より田中さんの方が大事かよ?」
「少なくとも今はそうだね、たぶんこの先も、」

即答した電話ごし嗚咽の気配が聴こえた、
そのまま泣いている、そんな無言を聴きながらPCの作業に戻った、
その夜たぶん御曹司クンは朝まで泣いていた、で、朝起きたら繋ぎっぱなしの電話ごし寝息が聴こえていた、

ほんと、御曹司クンは子供みたいなやつだった、色んな意味で。

第53回 どなたでも参加できるブログトーナメント

オリジナル連載Aesculapius「Chiron11」もう一回読み直したら校了です。
陽はまた昇る続篇side story第78話「冬暁12」もうすこし加筆します+オリジナルFavonius「少年時譚36」加筆4倍ほどします。

お好み焼き食べ放題の店があるんですけど、誘われて昼に行ったらイマダ腹いっぱい、笑
通称「おこほん」お好み焼き本舗@伊勢原店→宮ヶ瀬湖ってカンジのドライブコースでした、
で、加筆ほか遅れましたが、昨日もバナー押してもらえたのでこの雑談ぽいのも書こうかなと。

にほんブログ村登録カテゴリー「心象写真」→「登山」に変更しました、登山ばなし&写真が増えた+小説も山が舞台なコト多いので。
また「BL小説」→「恋愛小説(純愛)」から「二次小説」に変更です、恋愛メインでも無い+ドラマ陽はまた昇る続篇を連載中だからなと。
そんなカンジで現在の登録割当「小説/純文学小説」80%+「小説/二次小説」10%+「アウトドア/登山」10%となっています。
また・バナーどれ押してもヘンテコな課金とか全くありません、コメント&バナーから反応見たくて無料閲覧にて掲載もしています。

で、この雑談or小説ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続けるかバロメーターにしてるので、笑

取り急ぎ、



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