arrived on 臨場へ
第78話 灯僥act.3-another,side story「陽はまた昇る」
もう、待っている。
ロータリー近く樹影は深い、そこに一台停まっている。
いま12月に冬枯れて、けれど交わす枝は明滅あざやかに黒が濃い。
まだ午前中の空は明るくて、この明るい分だけ闇は濃く昏く隠しこむ扉を周太は開けた。
「すみません伊達さん、」
声かけ助手席にシートベルトすぐ締める。
その隣もうハンドル捌きだす声はすこしだけ微笑んだ。
「勉強中にすまんな湯原、」
この人は謝らなくて良いのに?
そんな想い振向いた先、運転席の横顔は穏やかに口開いた。
「湯原、携帯電話の電源を切れ、」
「え、」
言われて瞬間すぐ傷む、まだ連絡していない。
けれど言われること理解できる、それが自分の今いる場所だ。
守秘義務、そして機密保持、それが自分の立場と解かる、でも今待つ人に哀しい。
“ 水曜日11時半、あのベンチで ”
そう約束したのは自分、それなのに連絡もせず行かなかったら何思わせるだろう?
あと1時間すこしで約束の時間は来る、いま任務に就けば当り前だけれど間に合わない。
「切らないと隊舎に入れない、なぜか解かるな?」
低く響く声また促す、その声にポケットから取出す。
掌ひとつ小さな機械はただの道具、だけど今は大切な人に繋がる唯一の手段でいる。
それでも従わないわけにいかない、だって今ここで電源を切らなかったら自分はもう、父の居た場所に着けない。
「すぐ切ります、」
頷きながら見つめた待受け画面、その画像に泣きたくなる。
小さな機械の小さな画面、そこに蒼い空はるか高峰は白銀まばゆい。
この姿はあの人にどこか似ている、そう想うから写メール贈られてずっと待ち受け画面にしてきた。
「…ごめんね、」
そっと小さく告げてボタンに指を置く。
すこしだけ力入れて待って、空も山も真っ暗に消えた。
―ごめんね英二、連絡も出来なくて…さよならも待っててもなにも、
消えてしまった画面ただ見つめてしまう、だって約束を消してしまった。
あと1時間で約束の時間がくる、けれど今はいつ逢えるか解らないまま一言も告げられない。
―ずっと待つかもしれない英二は、あのベンチで…雪もまだ残ってるのに、
車窓の街は雪まだ残る、あの公園はもっと雪が残っているだろう。
あのベンチも雪に埋もれるだろうか、それとも樹影に守られて雪も少ない?
どちらにしてもきっと寒いだろう、そこで待ち続けてしまう人想いながら電話をポケットにしまった。
がたん、開かれた倉庫に踏みこんでも吐息が白い。
コンクリートの床から冷気が靴底を透かす、日蔭な分だけ戸外より寒い。
壁めぐらす棚は機材ケースが並ぶ、その一角を整然と大型の旅行バッグたち収められてある。
かつんかつん、速い足音の響く沈黙を各自バッグ取出し担ぐ、自分もすぐ担いでアサルトスーツの肩ずしり重くなる。
―本当に現場へ行くんだ、僕も、
担いだ重量に現実だと認識させられる、いま本当に自分は特殊部隊員として現場へ向かう。
15分前までダッフルコート着ていた、でも今は濃紺のアサルトスーツ姿で装備品のカバン担いでいる。
この落差に心すこしついて行けない、もう異動から3ヵ月近く毎日ずっと訓練してきたのに途惑ってしまう。
屋外訓練場、屋内訓練場、演習場、さまざまな場所で訓練してきた、それでも突然の連絡で不意打ち緊張感は蝕ます。
これが入隊まだ3ヶ月の未熟なのかもしれない、そんな実感に肩ひとつ敲かれ低い声が呼んだ。
「湯原、行くぞ、」
「はい、」
呼ばれて自分がぼんやりしかけたと気づかされる。
元から癖のよう考えこむ、それが緊張感から出てしまった。
―現場に行くのにダメだ、こんなだから適性が無いって言われるのに、
性格の適性が無い、
それを断言した人は今も隣を歩く。
かつりかつり速足は澱まず横顔の端然は日常と変わらない。
いつもどおり沈毅な先輩の隣で自分は今どんな顔しているだろう、そんな思案とバス乗りこみバッグ開いた。
中には特殊部隊用活動服、防弾ベスト、弾帯、拳銃ホルダー、ヘルメットにヘルメットカバー、自衛隊作業服、皮手袋、それから出動携行品。
出動携行品は一週間分の下着や靴下類、洗面具、携行食料品、防寒具など長期の任務遂行に必要とされる日常的な品目になる。
こうした準備は任務の突発性と無期限から常備を欠かさない、けれど現場で使う最初を見つめて防弾ベスト手にとって呼ばれた。
「湯原、腹に貼っておけ、」
「え、」
何をだろう?
解らなくて振りむいて、ぽん、腹にカイロひとつ貼られた。
「コンクリに伏せると冷える、」
教えてくれる低い声が少し笑っている。
その顔は沈毅だけれど眼差し温かい、この温かな先輩に周太は微笑んだ。
「ありがとうございます、伊達さん、」
「ああ、速く着けろ、」
すこしだけ微笑んだ顔はもう防弾ベスト着ている。
その素早さに倣いすぐ手を動かしながら三十数年を見つめてしまう、父の最初はどんなだった?
どんなひとが父のパートナーだったのだろう、こんな優しい人が父の隣にも居てくれたろうか?
父が初めて出動した日は今もう遠い過去、それでも重ねずにはいられない想い呼びかける。
―お父さん僕も行くよ、お父さんの時間を僕も見たいんだ…お父さんのこと知りたい、
声なく呼びかけながら装着していく鼓動とくり打つ。
すこしずつ速まらす鼓動が肺から迫りあげる、この緊張に発作が不安を起こす。
それでも腹から深く呼吸させ宥めながら革手袋はめて一ヶ所、第二関節まで素肌のひとさし指に息そっと吹きかけた。
この指はトリガー弾くためにグローブ嵌められない、それは就く任務を象徴して父の時間をなぞらせる。
―きっとお父さんも寒かったよね、たぶん今よりずっと、
昔は防寒着も今より劣る、それは装備どれもに同じだった。
その実感ようやく少し解かることが嬉しい、そして三十数年前に父の欠片また拾う。
(to be continued)
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第78話 灯僥act.3-another,side story「陽はまた昇る」
もう、待っている。
ロータリー近く樹影は深い、そこに一台停まっている。
いま12月に冬枯れて、けれど交わす枝は明滅あざやかに黒が濃い。
まだ午前中の空は明るくて、この明るい分だけ闇は濃く昏く隠しこむ扉を周太は開けた。
「すみません伊達さん、」
声かけ助手席にシートベルトすぐ締める。
その隣もうハンドル捌きだす声はすこしだけ微笑んだ。
「勉強中にすまんな湯原、」
この人は謝らなくて良いのに?
そんな想い振向いた先、運転席の横顔は穏やかに口開いた。
「湯原、携帯電話の電源を切れ、」
「え、」
言われて瞬間すぐ傷む、まだ連絡していない。
けれど言われること理解できる、それが自分の今いる場所だ。
守秘義務、そして機密保持、それが自分の立場と解かる、でも今待つ人に哀しい。
“ 水曜日11時半、あのベンチで ”
そう約束したのは自分、それなのに連絡もせず行かなかったら何思わせるだろう?
あと1時間すこしで約束の時間は来る、いま任務に就けば当り前だけれど間に合わない。
「切らないと隊舎に入れない、なぜか解かるな?」
低く響く声また促す、その声にポケットから取出す。
掌ひとつ小さな機械はただの道具、だけど今は大切な人に繋がる唯一の手段でいる。
それでも従わないわけにいかない、だって今ここで電源を切らなかったら自分はもう、父の居た場所に着けない。
「すぐ切ります、」
頷きながら見つめた待受け画面、その画像に泣きたくなる。
小さな機械の小さな画面、そこに蒼い空はるか高峰は白銀まばゆい。
この姿はあの人にどこか似ている、そう想うから写メール贈られてずっと待ち受け画面にしてきた。
「…ごめんね、」
そっと小さく告げてボタンに指を置く。
すこしだけ力入れて待って、空も山も真っ暗に消えた。
―ごめんね英二、連絡も出来なくて…さよならも待っててもなにも、
消えてしまった画面ただ見つめてしまう、だって約束を消してしまった。
あと1時間で約束の時間がくる、けれど今はいつ逢えるか解らないまま一言も告げられない。
―ずっと待つかもしれない英二は、あのベンチで…雪もまだ残ってるのに、
車窓の街は雪まだ残る、あの公園はもっと雪が残っているだろう。
あのベンチも雪に埋もれるだろうか、それとも樹影に守られて雪も少ない?
どちらにしてもきっと寒いだろう、そこで待ち続けてしまう人想いながら電話をポケットにしまった。
がたん、開かれた倉庫に踏みこんでも吐息が白い。
コンクリートの床から冷気が靴底を透かす、日蔭な分だけ戸外より寒い。
壁めぐらす棚は機材ケースが並ぶ、その一角を整然と大型の旅行バッグたち収められてある。
かつんかつん、速い足音の響く沈黙を各自バッグ取出し担ぐ、自分もすぐ担いでアサルトスーツの肩ずしり重くなる。
―本当に現場へ行くんだ、僕も、
担いだ重量に現実だと認識させられる、いま本当に自分は特殊部隊員として現場へ向かう。
15分前までダッフルコート着ていた、でも今は濃紺のアサルトスーツ姿で装備品のカバン担いでいる。
この落差に心すこしついて行けない、もう異動から3ヵ月近く毎日ずっと訓練してきたのに途惑ってしまう。
屋外訓練場、屋内訓練場、演習場、さまざまな場所で訓練してきた、それでも突然の連絡で不意打ち緊張感は蝕ます。
これが入隊まだ3ヶ月の未熟なのかもしれない、そんな実感に肩ひとつ敲かれ低い声が呼んだ。
「湯原、行くぞ、」
「はい、」
呼ばれて自分がぼんやりしかけたと気づかされる。
元から癖のよう考えこむ、それが緊張感から出てしまった。
―現場に行くのにダメだ、こんなだから適性が無いって言われるのに、
性格の適性が無い、
それを断言した人は今も隣を歩く。
かつりかつり速足は澱まず横顔の端然は日常と変わらない。
いつもどおり沈毅な先輩の隣で自分は今どんな顔しているだろう、そんな思案とバス乗りこみバッグ開いた。
中には特殊部隊用活動服、防弾ベスト、弾帯、拳銃ホルダー、ヘルメットにヘルメットカバー、自衛隊作業服、皮手袋、それから出動携行品。
出動携行品は一週間分の下着や靴下類、洗面具、携行食料品、防寒具など長期の任務遂行に必要とされる日常的な品目になる。
こうした準備は任務の突発性と無期限から常備を欠かさない、けれど現場で使う最初を見つめて防弾ベスト手にとって呼ばれた。
「湯原、腹に貼っておけ、」
「え、」
何をだろう?
解らなくて振りむいて、ぽん、腹にカイロひとつ貼られた。
「コンクリに伏せると冷える、」
教えてくれる低い声が少し笑っている。
その顔は沈毅だけれど眼差し温かい、この温かな先輩に周太は微笑んだ。
「ありがとうございます、伊達さん、」
「ああ、速く着けろ、」
すこしだけ微笑んだ顔はもう防弾ベスト着ている。
その素早さに倣いすぐ手を動かしながら三十数年を見つめてしまう、父の最初はどんなだった?
どんなひとが父のパートナーだったのだろう、こんな優しい人が父の隣にも居てくれたろうか?
父が初めて出動した日は今もう遠い過去、それでも重ねずにはいられない想い呼びかける。
―お父さん僕も行くよ、お父さんの時間を僕も見たいんだ…お父さんのこと知りたい、
声なく呼びかけながら装着していく鼓動とくり打つ。
すこしずつ速まらす鼓動が肺から迫りあげる、この緊張に発作が不安を起こす。
それでも腹から深く呼吸させ宥めながら革手袋はめて一ヶ所、第二関節まで素肌のひとさし指に息そっと吹きかけた。
この指はトリガー弾くためにグローブ嵌められない、それは就く任務を象徴して父の時間をなぞらせる。
―きっとお父さんも寒かったよね、たぶん今よりずっと、
昔は防寒着も今より劣る、それは装備どれもに同じだった。
その実感ようやく少し解かることが嬉しい、そして三十数年前に父の欠片また拾う。
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