萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第78話 灯僥act.9-another,side story「陽はまた昇る」

2014-09-20 22:30:00 | 陽はまた昇るanother,side story
purification 隠した告解



第78話 灯僥act.9-another,side story「陽はまた昇る」

ほら、やっぱり腫れ始めた。

「…どうしよう、」

鏡の顔は頬うす赤い、そして左側かすかに青み現れる。
ユニットバスの蛍光灯はルームライトより明るい、だから肌色の違いも解かる。
だから部屋ではこんなに見えないだろう、それでも痣になりそうな口もとに周太はため息吐いた。

―これだと朝外に出たら殴られたのばれるよね、そしたら英二きっと、

この傷痕を気づかれたら?

そう考えると怖くなる、だって英二は警視庁の外壁すらクライミングした。
たぶんフリーハンドだったろう、スーツ姿に革靴であんな場所を登攀するなんて考えられない。
それでも目的あるなら迷わない、そんな男がこの頬の傷痕を知ったら一体こんどは何をしでかすだろう?

「ん…冷やさないと、」

そっと呟いて服を脱ぎ畳んで棚に置く。
そのままバスタブに入りカーテン引いて、シャワー冷水に降らせた。

「っ、」

冷たい、そう言いかけて身がすくむ。
それでも肌すぐ慣れてくる、髪から肌から硝煙と血の香また流され消えてゆく。
寮でもシャワー浴びてきた、それでも気になっていた残滓が消える安堵と冷えてゆく左頬に微笑んだ

「…怒ってくれるって想える、ね、」

きっと英二は怒ってくれる、殴られた痣に気づいたら。

そう信じているから冬の夜でも冷水を傷痕から浴びている。
こんなふうに結局は愛されていると想っていて、だから今日も待っていると信じて駈けてきた。
それでも逢えば嬉しい分だけ哀しくもなる、そんな本音がひと時は冷やして抑えた腫れごと疼きだす。

―やっぱり本当は信じてるんだ、英二が僕を本気だから壁も登るんだって…僕のためだって信じてる、

なぜ英二が危険を冒してまで父を追ってくれるのか?

その目的ほんとうは何か解らなくなっていた、だって偶然にしては廻りすぎている。
英二と父の血縁も、祖父の小説が贈られた先も、そして英二と出逢った場所も全て必然すぎて怖い。
これでは自分ではなく英二が父のパズル解くため呼ばれたみたいだ?

「そう…僕より英二のほうがふさわしいみたいで、だから悔しいんだ…」

ほら本音こぼれて瞳深く熱あふれだす。
だって父の息子は自分だけ、父が最期に呼んだのは自分、それくらい父は自分を想ってくれる。
だから父のこと追いかけてきた、真実も現実も自分に見つけてほしいのだと信じて14年を懸けてきた。
そうして今やっと父の居た場所までたどり着いて、それなのに2年も懸けていない英二がいつも先んじてしまう。

どうして英二の方が僕より先に掴んでしまう?

そう想うたび本当は悔しい、だって同じ齢で同じ男で同じ警察官だ。
条件そんなに変わらなくて、それでも認めざるを得ない優秀な全てが羨ましくて哀しくなる。
大きな美しい体も腕力も自分には無い、射撃能力すら本当は負けている、そして健康まで今もう危うい。

「っ、ぅこほっ、」

ほら噎せあげてしまう、この気管支は喘息を病んでいる。
もう幼い日からずっと抱えていた罹患は再発してしまった、こんなハンディキャップに差はまた開く。
だけど自分は14年懸けてきた、この14年を2年も懸けず超えてしまう才能も運も全ての差が悔しくて、愛してしまう分だけ哀しい。

「…っ、ぅ…っ、」

ほらもう嗚咽こぼれてしまう、こんなに自分は弱くて泣虫だ。
泣いている体も顔も鏡に映る、その華奢な骨格が筋肉も透かして泣いてしまう。
シャワーのなか涙こぼす目も顔も子供じみて情けなくなる、こんな自分だから追い越されてしまった。

―警察学校に入った頃どこか僕は馬鹿にしていたんだ、英二のことも同期の誰も皆を、

父が亡くなった10歳になる春、あれから自分は警察官になる努力を積んできた。
それだけの実績も才能もあるのだと自負していた、けれど本当は違うのだとずっと自覚させられている。
もし父が亡くならなかったら自分は別の道を選んでいた、その道こそ本当は自分の居場所だと解っている、だから無理にも努力した。
これだけ無理の努力をしたんだから自分は一番になって当り前、そんな傲慢の想いが周り誰に対してもあった、けれど一番なんかじゃない。

―英二には僕は敵わない、伊達さんのことも足引っ張るばかりなんだ僕は…ほんとうは同期の誰にも敵わない、だから悔しいんだ、

ずっと自分は無理をした、好きでもないことに努力してしまった。
それは義務感も責任も重たく自分を縛っている、だからこそ今こんなに悔しがって涙が哀しい。
そして想ってしまう、こんなにも悔しくて泣いている自分を見て父は何を想うだろう、何を願うだろう?

「…っ、ぅ…ごめんなさいおとうさ…」

ごめんなさい、

そう父に今告げたい、だって今きっと哀しませている。
こんなふうに泣くほど自分は警察官に向いていない、それくらい父なら解っていた、母も解かっている。
だから二人とも冬の日あの新聞記事で願った将来の夢を喜んでくれた、だから母は任官を反対して泣いてくれた。
そんな両親の想い今更に気づけて涙あふれてしまう、それでも今ようやく見えてきた父の真実と現実に後悔なんか出来ない。
だって自分も父を呼んでいる、愛している、すべて知っても愛していると父に解ってほしくて追いかけたい。

「周太?」

呼ばれて意識ひきもどされた聴覚、扉かすかな気配とらえる。
今すぐ開けようとしている、そんな気配にシャワー温水に変えた瞬間すぐ扉ひらきカーテン引かれた。

「どうした、」

低い綺麗な声かけられて涙またあふれてしまう。
この声ずっと好きだった、そして今も好きだから涙ほどかれて泣いてしまう。
この声のひとが羨ましくて妬ましくて、嫉妬する分だけ好きで求めて、だから自分の先を越されたくない。

だって父の跡たどる危険を今もう知っている、だからこそ越されて悔しくて泣きたい恋慕ごと抱きしめられた。

「周太、泣いていいよ?」

ほら、優しい言葉ごと抱きしめてくれる。
こんなタイミングで気づいて抱きしめてくれる、その気配にまた父を探してしまう。
このひとは自分よりずっと父と似ている、正反対の貌も多いくせによく似た空気はシャワー透かして温かい。

「周太、今夜は周太を思いきり泣かせたくて俺は来たんだ、独りで泣くより俺の傍で泣くほうがマシだろ?あのときの俺みたいに、」

あのとき、それはどの夜を告げてくれている?

警察学校の寮の夜、御岳の田中老人が亡くなった夜、高峰から帰った夜。
あなたを抱きしめて自分の懐に泣いてもらった、あの夜たち全ては今も慕わしい。
けれど今なぜ自分が泣いていると想ってくれているだろう、その現実に今日をみじろいだ。

「えいじ…僕が何を泣いてるとおもうの?」

今なぜ泣いていると想うのだろう?
その答え聴かないでも解かる、そして綺麗な声が微笑んだ。

「俺との約束の時間に来れなかった理由だろ、周太?」

その「理由」自分が人を殺したと想っているでしょう?

そんなトーン抱きしめる体温に声に透けてしまう、そんな全てまた泣きたくなる。
今すこし放っておいてほしかった、独り泣きたかった、そう想いながら体温そっと離れて声こぼれた。

「…ぁ、」

抱きしめる腕が離れてしまった、でも本当は抱きしめてほしいのに?
そう本音あふれた吐息に哀しくなる、そして気づかされる本音また泣いてしまう。
抱きしめてほしいのに放されたくないのに腕ほどかれた、その涙こぼれた頬にシャワーまで止められる。

―放っておいてなんて嘘、このまま離れてしまうことが怖くて僕は逢いにきたんだ、

あのベンチ待ってくれている、だから謹慎処分を破っても行かないと?

だって雪のベンチ独り待たせていたら泣かせてしまう、そんな待ちぼうけの涙どれだけ辛いか自分は知っている。
そう想ったから処罰されると解っていても待機寮を抜け出した、伊達を裏切るのだと解っているのに命令違反また重ねた。
けれど本当は自分が今どうしても逢いたかった、この腕を放されたくなくて駈けこんだ願い涙こぼれて、ふわりバスタオル抱きくるまれた。

「周太が出たら俺がシャワーするからさ、部屋でゆっくり着替えなよ?それとも俺が周太のこと、着替えさせていい?」

ほら、やっぱり自分が求めること言ってくれる。
いま放してほしくない抱きしめていてほしい、そんな願い知ってるみたいに抱きしめる。
こんな人だから想い募らされて嘘ごと信じていたい、その本音ごと気恥ずかしいまま睨んだ。

「けっこうです自分でします、さっさとおふろのしたくしたら?あっちいってて、」

ああ僕また棒読みな言い方になっている?

こんな自分また恥ずかしくて首すじ熱い、それでも口もとの痣は疼いて現実を知らす。
この傷痕だけは気づかせたくない、そんな想いそっぽ向いてタオル包まり隠しこんだ背から気配そっと離れてくれる。
そして扉ぱたり閉まって独り、ほっと溜息こぼれ微笑んだ。

「…気づかないでね英二、」

願いごと素肌の雫ぬぐって脱いだ服また着ていく、その顔を鏡に確認する。
すこし青痣あわくなったろうか、左側は見せないよう気を付ければ誤魔化せるかもしれない。
そんな願い見つめながらも今夜すべきことがある、金曜日なぜ英二は本庁の外壁を登っていたのだろう?
その理由を聴いて止めてしまいたい、あの笑顔を護りたいから危険を止めたい、そして願えるのなら今夜を隣にいてほしい。

どうか明日の先に気づかないで、この傷ひとつ何も見ないで傍にいて?



(to be continued)

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山岳点景:街角茜空

2014-09-20 21:00:00 | 写真:山岳点景
一瞬の空



山岳点景:街角茜空

今日、通りがかりの街角にて。

黄昏のブログトーナメント

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚216

2014-09-20 00:30:00 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚216

歯医者と呑んだ翌日かつ午後半休した金曜日、
花サンと車で一軒家@某山村の気楽な店で夕飯して、

「ね、私にとって御曹司サンって幸運のキッカケくれた人ってことだよね?それなら本気になっちゃうのも仕方ないのかな、」
「キッカケくれた恩人だと思うよ?それよりさ、本気になっちゃう理由を探してるアタリが本気になりたがってる程度に好きってコトだろが?笑」
「そっか、私も恋に恋したがってるのかな?」
「いいんじゃない?女のひとは恋愛で綺麗になるって言うしさ、ぞんぶん恋して楽しみなよ、笑」

なんて会話しながら花サンの貌やっぱりスッキリしてて、
恋愛で綺麗になるってコウイウのかなとか見ながらも御曹司クン電話を思い出した、

『明日、何時でも気が向いたら連絡してよ、どこでも迎えに行くから…待っていさせて、』

とか言われたけど恋愛※暫定対象=御曹司クンで綺麗になってく花サンがいて、
それなのに言われた通り明日連絡ナンカしていいもんだか考えさせられる、

ホント二人本気でまとまっちゃえたら良いんだけどね?

なんて考えて、でも難しいなって正直思った、
だって花サンは「一番」になりたい、でも御曹司クンが女性を一番にすることはあるんだろうか?

『男との恋愛は一期一会、女とは星の数ほどある』

なんて言い放っちゃうような御曹司クンは大分ゲイよりのバイセクシャルで、
だから当然のように「男と浮気=本気」になってしまう可能性が高いっていうのが現実でいる、
それどころか今すでにソウイウ相手が複数いる可能性もゼロとは言えない、だって御曹司クンは惚れやすい、笑

とか考えながらゴハンして、
富士山が見えるとこへ車走らせて、24時間ファミレスでコーヒー飲んで、
花サンと他愛ないこと話しながら家に戻って、夜ほとんど寝ないで喋って朝が来て、

「トモさんのごはんホント相変わらず美味しいねー、」

なんて褒めてもらって、
近所すこし散歩したまま花サンは元気に帰って行った、
で、一昨日から昨夜と2連続寝不足はさすが眠くってしんどかったから、

とりあえず寝よ、笑

ってワケでシャワーさっと浴びてベッドに転がって、
文庫本1ページも読み終わらないまま眠りこんで起きたら夕方だった、

すごい寝坊だな?

なんて自分で感心しながら見た時計は16時前で、
真冬2月だからヤヤ暗くなってきていた窓にカーテン閉めてコーヒー淹れて、
とりあえずボンヤリ飲みながら携帯電話を見たらメール3件着ていた、

From:歯医者
本文:昨日はありがとう、半分くらい読んだけど面白いよ。
   ほんと外さないの教えてくれるなって驚いています。

From:花サン
本文:ちゃんと家に着いたよ、今から寝ます。
   お蔭で色々すっきりしたからよく寝れそう(顔文字笑顔)

どちらも定期便的な文面で、なんかほっとした。
それぞれに返信短いけどして、で、3通め案の定だった、

From:御曹司クン
本文:今日30分でも会えないかな、何時でも良いから連絡してほしい。

さて、昨日の今日でどうしてもんだろう?



眠いので短いですがUPします、バナー押して頂いたので、笑

Aesculapius「Chiron智者の杜19」読み直したら校了です、雅樹と光一@夕食。
第78話「灯僥8」もみ直したら校了です、周太と英二@ビジネスホテルの対話シーン。
校正ほか終わったら第78話の続きor短編連載を予定しています、

この雑談or小説ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続けるかのバロメーターにもしてるので、笑

取り急ぎ、



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