萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚200

2014-09-03 18:08:02 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚200

1月上旬から中旬になる週末、地元の友達と久しぶりに会った。

From:小林
本文:おつかれー新年会しよ、今週末どう?
   メンバーはいつもので先生も声かけてあるよ、金曜夜と土曜夜ならどっちが良い?

なんて誘いをもらったから土曜日、地元で集まって。
高校時代からの友達+先生と呑みはじめたら訊かれた、

「おまえさ、例のバイってやつと相変わらず仲良いの?」

やっぱりソレ訊くんだな?
そんな感想可笑しくて笑って応えた、

「おまえ、ズイブン興味あるね?笑」
「あ、その訊き方ってナンカ含みあるなー興味あっちゃ悪いかよ?」

ちょっと開き直って言ってくる、
それもまた可笑しくて笑って訊いた、

「ふうん、おまえアッチの世界に興味あるってこと?笑」

興味が皆無ってワケじゃない、かといって踏みこむ気もゼロだろう?
単純に未知なるものへの興味好奇心、そういう反応は普通で珍しくもない。
だけど当事者になりたいヤツは今の日本じゃ稀有、そんな現実どおり友達はきょどった。

「いや、興味っていうかキスされかけたとか言ってたし、なあ?」

なあ?
なんて話振った先、他の友達が笑った、

「なあ?ってコッチに話振るなよな、でもキスされかけたってなに?」
「友達にキスされそうになったダケ、笑」

正直に笑って言った先、不思議そうに首傾げられて、
そんな教え子たちに先生が言った、

「バイセクシャルな男の友達にキスされかけたっていうのは、確かに続きを聴きたくなるかもな?笑」

先生ちょっと面白がってるよね?
そんな空気に事情知らなかった友達は驚いた、

「はー、確かに続きを聴きたくなるかも?」
「ははっ、川本も聴いてみたいのか、沢田はどうだ?」
「こいつの恋愛話ってダケで興味ありますね、おまえちょっと話してみろよ、」

友達二人も乗っかってくる、
で、とりあえずの顛末だけ言った、

「そいつに恋愛ゴッコしかけられた友達が今ちょっとマズくてさ、だから今そいつのコトちょっと嫌いになったとこ、笑」

そのまんま言って、で、友達が訊いてきた、

「その友達も男とか?」
「女だよ、だから問題も多いワケ、笑」

笑いながら答えて、だけど本音笑いごとじゃない、
それはあの手首の傷にある、そして男女だからある万が一に先生が言った、

「余計なこと言うがな、子供の事は問題があるんじゃないか?ゲイやバイの子供として生まれることが幸せかって、難しいだろ?」

ホント、その通りだ。

今の日本でそんな生まれだってコトは「なんでもない」とは言えない、
それは綺麗ゴトなんかじゃ済まない現実で、そういう現実の欠片を口にした、

「本人ですら難しそうです、子供の立場だったらなお辛いでしょうね?逃げられないから、」

本人は「自分」の問題だ、だから「止めよう」と想えば止めることもできる。
もう二度と男に恋愛しなければ良い、過去も消して忘れてしまえば良い、そういう手段もある。
だけど子供は逃げられない問題がある、それを先生も言った、

「そうだな、子供にとって親は自分の血とルーツの問題だからな?ゲイが嫌でもバイが嫌でも自分の意志と関係ない、どうにもならんことになる、」

たとえば、自分の親が同性愛者で母親以外の誰かを愛していたら?

そんな問題は理屈だけじゃ片付かない、
それはゲイで男女の結婚をしないなら良いのだろう、けれどバイセクシャルなら可能性はある。
その可能性は花サンにとって他人事じゃない、そして万が一その覚悟も無く結婚したら手首を切った以上の苦しみがあるかもしれない。

だから帰宅後、メールした、

なんでんかんでん3ブログトーナメント

第78話「灯僥2」読み直したら校了です、陽はまた昇る続篇・湯原サイド『another,side story』東大キャンパスのシーンです。
リクエスト小説「P.S 雪郷山籠」読み直したら校了+続きまたUPします、第78話「冬暁2」のアナザーストーリーです。
オリジナルAesculapius「Chiron12」もう一回読み直したら校了します、

この雑談or小説ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続けるかのバロメーターにもしてるので、笑

帰宅時間に取り急ぎ、笑



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第78話 灯僥act.2-another,side story「陽はまた昇る」

2014-09-03 10:30:12 | 陽はまた昇るanother,side story
gleam 一燈の希望



第78話 灯僥act.2-another,side story「陽はまた昇る」

とさり、

雪音やわらかに視線を惹く、その梢が陽光まぶしい。
仰いだ木々は4日前の雪まだ名残る、それが午前の陽ゆるく温め落とす。
とさん、また雪音ひとつ白銀を降らす、その音と光やさしくて周太は微笑んだ。

「ん…良い天気、」

黒い梢の影むこう冬空は晴れている。
キャンパスの森あちこち残る雪が陽にまばゆい、道も隅は雪掻きの跡が凍る。
その頭上は空が薄蒼くて今もう12月なのだと知らされて、だから2ヶ月半経った。

―SATに来て2ヶ月半なのに僕はひとつしか掴めていない、まだ確かじゃないけど…でも伊達さんなら、

『狙撃班が使ってた教材ビデオだが湯原が配属してから使われていない。その狙撃手と湯原のフォームはそっくりだ、顔はマスクで解からないが』

金曜の夜に伊達が教えてくれた事は、あの場所に父がいた証拠だ。
まだ自分で視たわけじゃない、けれどあの伊達が言うことなら信用度は高い。

『使われなくなったビデオとフォームがそっくりだから気になってな、同じ名前の隊員が在籍していたか調べたが人事ファイルは無かった。
それで新聞を図書館で閲覧したら新宿署管内で殉職した同じ苗字の警官が見つかってな、その警官は射撃のオリンピック選手だと書かれていた。
代表選手に選ばれる腕前なら教材ビデオにもなる、年齢も湯原の親につりあう。あのビデオは湯原にとって肉親の遺影だから使い難いってことだ、』

伊達は頭も腕も天才と言われている、それは箭野も言っていた。
箭野は人当り良くて優しい、けれど嘘やおためごかしは絶対に言わない強直がある。
そんな箭野が評価する伊達ならば証言の信用度は高い、そう思案しながら雪を踏む道に箭野の声が響く。

『上から幹部候補とも言われてるよ、それで俺達のテストも立合ったらしいんだがな、決まった湯原の配属先に適性と違うって上に進言したらしい、
人を放りだせないヤツは相手に同化する能力がある、リスクを超えて手当てする勇気もある、この同化も勇気も交渉チームの適性だと進言したらしい、』

伊達は狙撃チームから自分を外そうとしてくれた、その言動は「あの男」に反している。
だから信じて良いのかもしれないと想えて、それが単純に嬉しいまま石段昇り小さな建物に入った。

「ん、」

ダッフルコート軽く払ってエントランス通り書架ならんだ中に入る。
平積みも多い店内は先客もいるけど話し声ほとんどない、この静けさにほっとする。
大学生協書籍部は読みたい本あふれて、だから静かに選べる嬉しさと本の間を歩きだした。

―賢弥が教えてくれた本あるかな、今日が発売日って言ってたけど。あ、これ面白そう、

ならんだ背表紙に手を伸ばし目次を確かめる。
これも買って行こうかな?この楽しい自問の視界端に現実が映った。

『国家I種専門試験 過去問 法律区分』

国家I種試験、その言葉すぐ連想させる「なぜ英二は蒔田の部屋に行ったのか」この解はなに?

―蒔田さんはノンキャリアから警視長に昇進したキャリアだ、そこにヒントってあるかな、

地域部長の蒔田徹警視長、彼の執務室に金曜日の英二が行くなら用事は何だろう?
そこには表向きの用件と本当の目的がある、そう仮定したら「外壁の移動」も理由が見えるだろうか。
あのとき警視庁本部の外壁にいたスーツ姿、あれは「蒔田の執務室にある何か」に目的と理由がある、それは「国家I種」だろうか?

「…幹部の部屋にだけあるものだ、でも、」

思案ひとりごと零れて問題集ひとつ見つめてしまう。
この「国家I種」から入ると警察内部ではキャリア組と呼ばれ幹部になる、けれど入口はひとつじゃない。
いわゆるノンキャリア、地方公務員である各都道府県警採用者でも警視正の階級に就けば自動的に国家公務員となる。
この警視正がノンキャリアの大半に最終ポストで、けれど国家I種採用試験から入ったキャリアは警部補から始まり警視正が本当のスタートになる。
それでも蒔田は警視正より上の警視長に就いた、こうした叩上げの男と国家I種採用組が「全てに」同等と扱われるのかは解らない。

―蒔田さんがキャリア組から平等に見られるか解らないけど、でも観碕さんは?

あの男、観碕征治は蒔田をどう評価しているだろう?

それは「蒔田の執務室にある何か」と「外壁を移動した目的」に繋がる、そして英二の目的が解かるだろう。
その思案と立止った聴覚のかたすみ足音が近づいて、ぽん、軽やかにダッフルコートの肩敲かれ闊達な声が笑った。

「おはよ周太、これ買いに来た?」

明朗なトーンほっとする、この笑顔に今逢えることは嬉しい。
見慣れた眼鏡の笑顔と見せてくれる本が嬉しくて周太は笑いかけた。

「おはよう賢弥、それ買いに来たよ…今日も講義あるんでしょ?」
「あるよ、講義前にこれ買いに来たんだ、」

朗らかに笑って教えてくれる言葉に本にただ嬉しい。
こうした日常も今の自分にはある、だからこそ日々の訓練も父のことも耐え抜ける。

―賢弥と大学が無かったら僕きっと辛い、美代さんのメールと電話もいつも嬉しくて、

美代からの定期便は大学受験のこと、新品種や試作品のこと、それから奥多摩の近況。
ありふれて他愛ない話たち、けれど今の自分に「ありふれて」は現実の温もりくれる宝物、だから願うのに?

―英二、どうして自分から危ないことばかりするの、僕の為なら今すぐ止めて?

警視庁外壁にいたスーツ姿、あれが現実の英二なら怖い。
あんなことまで英二にさせているのが自分なら嫌だ、たとえ父の為でも止めてほしい。
だって現実は温かい幸せありふれている、ありふれた世界で幸せに笑っていてほしい、綺麗な笑顔を穢さないで?

だから今日は逢いに行く、そんな想い微笑んで周太は友達に言った。

「賢弥、それどこに置いてあった?」
「こっちだよ、」

笑って本の許へ連れて行ってくれる。
一緒に本をとりレジに並んで、ふたり会計すませるとカウンターでブックカバー選んだ。

「周太、このサイズでいけるよな?」
「ん、ちょうど良いと思う…賢弥いつも上手だね、」

笑いかけた手元、見慣れたベージュ色の紙が本くるんでいく。
ここでは自分でブックカバーつける、そんな習慣に友達も笑ってくれた。

「そっちこそ綺麗に出来てるよ、周太は器用だよな、美代さんも上手だけどさ、」
「美代さんってなんでも上手なんだよ?梅干しも味噌もすごく美味しいの、ゆず味噌とか、」
「へえ、それ食ってみたいな?俺の地元も味噌とか梅干しが土産物で売れるんだ、参考意見とか訊いてみたいな、」
「メールしてみたら?きっと喜ぶよ…聴講の時に持ってきてくれるかも、」
「そうするよ。そういえばさ、このカバーに書いてある言語どれだけ読める?」

ふたり本にカバーしながら会話する、その言葉どれも他愛ない。
ただ笑って話す、そんな時間と一緒に書籍部から出たキャンパスは空が蒼い。

―木が切り絵みたい、逆光で…きれい、

話しながら仰いだ空、冬枯れた木々は陰影あざやかに黒い。
どこか幻想的にも想える道を歩きながら友達は訊いてくれた。

「周太、俺んちに来るって約束あったろ?あれ予定がついたらすぐ教えてくれな、3月より後だっけ?」
「ん、美代さんの受験が終わってからが良いと思って…あ、」

話しているダッフルコートの中ポケットが振動する。
もしかして英二からだろうか?予想してすぐ熱い首すじに賢弥が笑った。

「なんか赤くなってるけど周太、この着信バイブって周太の好きな人?」

賢弥って心が読めるんだろうか、それとも自分が解かりやすいだけ?
そんな自問また恥ずかしくなる、それでも隠せない正直に口開いた。

「わからない、バイブは個別設定してないから…でも待ち合わせしてるんだ、」
「平日に休んでもデートなんてホント好きなんだな、早く電話出なよ、待合せの事かもしらんし、」

促してくれる笑顔に頷いてポケットに手を入れながら少し痛い。
だって「平日に休んでも」って笑ってくれるのは「普通の公務員」だと信じさせている所為だ。

―前に美代さんが英二とか光一のこと少し話してたけど警察官って気づいてなくて、でも知らない方がきっと、

父が警察官だったことは田嶋教授との会話で賢弥も知っている、だって祖父の遺作もらうとき賢弥も傍に居てくれた。
けれど自分も警察官だと今まだはっきり言えない、警察官としられて警戒されることが怖くて不安がらせることも嫌だ。
そう改めて「警察官」であることの重荷を見つめながらも携帯すぐ開いた画面、発信人の名前に止まった。

『伊達東吾』

なぜ伊達から電話が着たのだろう?
その思案すぐ思い当った緊張に心配なトーンが訊いた。

「周太、どうした?」
「あ、」

訊かれて瞳ひとつ瞬いた真中、眼鏡から見つめてくれる。
どうした?そう尋ねてくれる心配な眼差しに微笑んだ。

「先輩からなんだ、ちょっと出るね?」
「うん、」

すぐ頷いてくれた顔は心配すこし晴らしてくれる。
そんな友達に鼓動そっと軋みながら繋いだ電話、低い声が告げた。

「湯原、出動命令だ、今どこにいる?」

ほら、運命が動く。

やっぱりそうだった、きっとそうだと名前見た瞬間もう気づいてる。
いま初めて召集され現場に立つ、その報せが祖父と父が生きた場所であることが運命かもしれない。
祖父も父も愛した学問の場所、そして「あの男」に獲られる原点にもなった場所、そんな想いに周太は応えた。

「大学にいます、」
「車で迎えに行く、キャンパス内のバス停にいろ、5分あれば着く、」

告げられる低い声の向こうノイズ微かに聞える。
今日は車で外出すると言っていた、そんな予定データに微笑んだ。

「はい、お願いします、」
「ああ、」

頷いてくれる声どこか硬い、けれど落着いている。
その電話も切れた静寂に友達が訊いてくれた。

「先輩って、仕事の?」
「うん、」

頷きながら並んで歩きだす脳裡が覚めてゆく。
もう始まった死線への緊張が背すじ伸ばす、その影に別れが傷む。
それでも今この用件が何か言えない、そして心配もさせたくない願いに尋ねた。

「賢弥、上野まで行くならバスも速い?」
「この時間なら遅れは少ないと思うけど、」

答えてくれる貌すこし不思議そうになる。
それでも不安は少ない、そんな友達に安心しながら笑いかけた。

「じゃあ僕、やっぱりバスで行ってみるよ、ここから乗ったことないから、」
「お、初めてのバスか?」

楽しそうに笑ってくれる眼鏡の眼差しは明朗が温かい。
この笑顔と逢えるのも今もしかして最後かもしれない、そう覚悟ひとつ見つめた真中で友達は微笑んだ。

「気をつけていけよ、また土曜の聴講のあとでTOEFLの質問させてくれな、あと、周太の好きな人によろしくな?」

ちょっと賢弥、最後かもしれないのに照れさせないでよ?

そう言いたいけど言えない、けれど笑うことは出来る。
こんな台詞もいつもと変わらない、そして「ありふれて」いる温度は温かい。
この温もりに信じられる、きっと明日もその先も自分はありふれた日常に帰って来られる。

必ず自分は帰ってくる、だって約束まだ沢山ある、だから信じる祈りに周太は綺麗に笑った。

「うん、よろしく言っておく…土曜はこの本の話もしようね、賢弥?」

本当によろしく言いたい、今このまま逢いに行けたらいい。
本当にバスに乗って約束のベンチに約束の時間どおり座りたい、あの夏の終わりに帰りたい。

けれど英二?もう逢えるか解らない、それでも必ず帰るから信じて。



(to be continued)

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P.S 雪郷山籠―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

2014-09-03 01:15:05 | 陽はまた昇るP.S
雪の記憶に
side story第78話「冬暁act.2」黒木サイド



P.S 雪郷山籠―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

雪、白い空から降ってくる。

真白おおらかな空から雪ふってくる、これは空の欠片だ。
ひらひら雪舞うごと背中じわり冷えてゆく、もう凍えてしまうかもしれない。
それでも見あげる白銀から視線が離れない、そんな視界すぐ気がつかされて要は寝返りうった。

―まずい俺すぐ起きろ、起き上がれ夢だ、

すぐ起きろ起きあがれ、そう自分に命じても目覚めない。
こんなこと困ってしまう、だってこの夢は次の展開がマズイと知っている。

―お願いだから俺起きろってば、ぜっ、たいにマズイダメだ、

ひたすら念じても目覚めない雪空は白銀まばゆい。
この空になればもうじき現れてしまう、ほら、子供の自分が雪の河原に起きあがる。

―…落っこちたんだ俺、

子供の自分が思案して雪の河原から尾根を見あげる。
こうなったらもう次のシーン出てしまう、それは4ヶ月前まで幸せだった。
けれど今は困る、だって次に出てくる貌は今もう毎日見ていて、だから止めたい願いに呼ばれた。

「黒木さん?」

ほら、自分を呼んでいる。

「宮田です、有休の申請書を持ってきたので開けて下さい、」

ノック2回、そして綺麗な低い声が呼びかける。
この音と声に睫ゆっくり上げられて視界は披く、そして見あげた天井に要は笑った。

「は…ぇーぅ、」

セーフ、って言ったつもりが声やっぱり出ない。

こんなに酷い風邪は久しぶりだ、あのとき以来だろう?
あの雪から今ちょうど23年が経つ、けれど雪山に見あげた笑顔は忘れられない。

『あ、泣いてないね?泣かないのカッコいいわ、』

やわらかに澄んだ声で笑って白い手さしのべてくれた。
長い黒髪ゆれて雪風に舞う、あの雪白まばゆい笑顔は人だった、たぶん。

―人間にしては神々しかったよな、雪女っていうより女神で、

遠い雪山の記憶なぞりながらベッドから立ち上がる。
くらり、体傾きかけて熱の度合い自覚させられる、たぶん38度を下がらない。
こんな高熱も23年ぶりで懐かしいと思ってしまう、そんな意識何だか可笑しいまま扉開いた。

かちり、かたん、

開かれた廊下に白皙の笑顔がこちら見る。
この笑顔に今も救われてしまった、そう納得するから素直に言った。

「…ぅぁん、」

すまん、すら今は言えないんだ?

こんな自分の声帯が物珍しい、だって23年ぶりだ。
そんな思案の真中で端正な笑顔が書類封筒とコンビニ袋を示し笑いかけた。

「ほんと声が出ませんね?申請書の提出も俺が行きます、引継ぎも伺いたいのでお邪魔して良いですか?」

言われた言葉に首傾げさせられる、だって今日この男は休みだろう?
いつも憶える同僚たちの予定表たどり訊いてみた。

「ん…ぃぁた、ぁぅぃぁぉ?」

宮田、休みだろ?
そう尋ねたつもりが声やはり言葉にならない。
それでも同僚で後輩はレポート用紙を見せ応えてくれた。

「休みですけど、国村さんに引継ぎのメモ入れてから出ます。そんな顔と声じゃ黒木さんも小隊長の前に行けないでしょう?うつしたら大変だし、」

だから今その名前を言うなって?

「ぃぁたっ、んぁぉとぅぅぁぇぁぃぁぉっ…ぅごほっ、ごほほんっ!」

宮田、そんなことするわけないだろう?

そう言ったのにやっぱり言葉にならず咳だけ音になる、こんな不自由は困ってしまう。
これでは誤解おかしなことになる、もう誤解されているかもしれない?ただ困惑と高熱の混乱に端正な笑顔は言った。

「そんなことするわけ無くても風邪はうつりますよ?インフルエンザかもしれないですしね、とりあえず部屋に入りますよ?」

綺麗な笑顔が部屋に踏みこんでくる、その空気どこか貫禄が厚い。
まだ24歳で自分より6歳下、それなのに老練だと想わせる男が微笑んだ。

「黒木さん本が好きなんですね、似合います、」

なんで似合うんだろう?
そう訊きたい相手は端正な切長の瞳を書棚へなぞらせる。
穏やかな眼差しは本が好きそうで、また少し親近感を見つめた前に有給休暇の申請書とレポート用紙さし出してくれた。

「欠勤ではなく有休でと国村さんから伝言です、差入はスポーツドリンクが国村さんからで食糧は浦部さんと高田さんからです、岡田さんも昼に来ます。
あと診察室は行かれましたか?インフルエンザなら5日間は自室待機ですから届を出します、解熱しても2日はダメです、ウィルスの排出期間はNGですよ?」

説明しながらペットボトル窓際に並べてくれる。
こうすればガラスを透かす外気に冷たさを保ちやすい、そんな気遣いに渡されたレポート用紙へペン走らせた。

“ 急性扁桃腺炎だ、薬もらって来た、今日明日寝れば治る、 ”

朝一で診察室に行ったきた、だから心配はいらない。
そう伝えたメモに綺麗な低い声は笑って釘刺してくれた。

「扁桃腺炎なら2日で大体治るでしょうね、でも薬や治療を途中で辞めると慢性化しますよ?無理せず体を休めて下さいね、」

今やっぱり見透かされたろうか?
そんなお見通しは多分「同類」だからだろう、そんな堅物は止め言ってくれた。

「今日は俺も休みで不在です、もし無理して業務に就けば部屋に運びこんで看病するのは国村さんでしょうね?小隊長の責任とか言って、」

だからその名前だされると熱高くなるのに?
こんな繰り返しに気づかされる、この男は結構Sだ。

―こいつ俺が「あのひと」に意識してんの解かって言ってんだよな、でも半分は誤解だってば、

ほんと誤解されている、そう訊くことも誤解また生みそうだ?
まず説明して解ってもらえる自信が無い、だから口噤んだまま引継ぎ事項にペン走らせる。

だって女神に逢った、なんてこの優秀堅物な実務男には笑われるだけだ?



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