映画「くちづけ」は、宅間孝行氏率いる劇団「東京セレソンデラックス」の三年前の舞台作品を映画化した作品だ。
お芝居の脚本は、知的障害者たちのグループホームで起こった実際の事件をもとに、宅間氏が書いた。
何人かの役者さんは当然、知的障害者を演じなければならない。
観る側でありながら、だいじょうぶなのかな、どう演じても、そんなのは違うとか、当事者の気持ちをわかってないとか批判をうける危険性があるのではないか、なぜにあえてそんな脚本を書くのかと思った記憶がある。
しかしファンクラブの会報からは、宅間氏が実際の施設をまわり、現場の人といろいろと話を重ねて脚本を直し、役作りをしていることが伝わってきた。
幕が上がると(いやサンモールスタジオは幕はなかったかな)、スクリーンにニュース風の映像が映る。
さらにニュースを読みあげる宮根誠司氏の顔が映し出されると、おおっと客席がどよめく。宮根氏が全国的にメジャーになりつつある頃だったかな。
灯りがつくと、舞台はグループホーム「ひまわり荘」の一室となり、宅間氏演じる「うーやん」のまわりで起こる(起こす)事件が、ほのぼのと描かれ始める。
ただ、世間と彼らとの関わりにおいては、笑ってはいられない問題が徐々に顕在化し、うーやんたちの「純粋さ」は、やはり世間では受け入れられないものであることが明らかになっていく。
ホームに入居してきたマコという女の子とうーやんとの間にほのかな恋心がめばえるのと同時に、マコの父親が末期がんをわずらい、マコ一人残して旅立つわけにはいかないと苦悩する様子が描かれ始める。
いったい、どんな結末を迎えるのか。
悲しい結末のシーン、それからうーやんの妹が婚約破棄された後のうーやんの台詞らへんでは、シアターサンモールの客席を埋めた300人ぐらいのお客さんほとんどみんなグスグスいっていた。
ほんと、あの時みんな泣いてたなあ、と映画を見ながら思い出した。
映画は、おどろくほど舞台の雰囲気そのままを出そうと作られていたように思う。
残念ながら、映画館はセレソンの客席のように満席ではなかった。すきすきだった。
もったいない。もったいなさすぎる。
うーやんは宅間氏自身が演じる。マコには貫地谷しほり、その父親に竹中直人というスウィングガールズコンビが配置され、ホームを経営するのが平田満、麻生祐未夫妻で、娘が橋下愛、うーやんの妹が田畑智子。
あの脚本に、これだけの芸達者をそろえたら、グレードの低いものになるはずがない。
もったいない。人権教育の映画にもそのままつかえる。こういうのこそ高校生に見てほしいなあと思う。