学年だより「チャレンジ(2)」
ステージ袖から登場した神村をみて、がっかりしたような拍手がパラパラとおこった。
「小太りで丸顔、髪の毛が額から撤退気味の、絵に描いたようなオヤジの風貌」だった。
ステージの真ん中に進みマイクを持った手の小指がカラオケのように立っている。
平然とした顔で体育館を見渡すと、満足そうにうなづきながら、やけに若々しい声でこう言った。
「帰ってきたぞ、オレは、青春のふるさとに」
体育館が、しんと静まりかえる。
「高校時代と同じようにジンとよんでほしい、ジン先生だ」と続けるが、みんな唖然としたままだ。「この学校ももうしばらくで終わりだ。今までずっと、終わりだ、最後だとみんなは言われ続けてきたはずだ。でも、『最後で』『終わり』だからこそ、何かオレたち、始めてみようじゃないか!」と続ける。
「レッツ・ビギン!」と叫びながら拳を振り上げたジン先生を、生徒達は呆然と見つめた。
そんなジン先生のエネルギーが、しかしウイルスのように学校にひろがっていった。
なんでもいいからやってみようぜというあまりにストレートな言葉、生徒からどう見られようとかまわない、自分の信じたことはやり通そうとする姿勢 … 。
かえって自分たちの方が若くないんじゃないかと、生徒達は感じはじめたのだった。
ある日、ジン先生は、そんな生徒達を引き連れて、トンタマ生いきつけの店ピース軒を20年ぶりに訪れた。そして爆食いする … 。
失敗の経験は何よりメンタルを鍛える。
予想外なことに出会った時、「そんなこともあり得る」と腹をくくれるようになるのだ。
それがないと、ちょっとしたことで平静さを失い、実力を発揮できなくなる。
とはいえ、一人でありとあらゆる失敗体験を重ねるわけにはいかない。
自己とは別種の人生を仮想体験するという意味で、映画を観たり本を読んだりすることも、メンタルを鍛えるのに役立つ。
いま紹介した、重松清『空より高く』のように高校生が泣いたり笑ったりする小説もいいだろう。
3年生になる今だからこそ、みなさんに薦めてみたい小説をいくつか載せておく。
高野和明『ジェノサイド』角川文庫
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』新潮文庫
室積光『都立水商』小学館文庫
誉田哲也『武士道シックスティーン』文春文庫
本多孝好『at HOME』角川文庫
窪美澄『ふがいない僕は空を見た』新潮文庫
百田尚樹『影法師』講談社文庫
有川浩『フリーター、家を買う。』幻冬舎文庫
奥田英朗『純平、考え直せ』光文社文庫
ハインライン『(新訳)夏への扉』早川書房
チャレンジの一年にしようではないか「(すでに3年は始まっている気持ちで!)