学年だより「未来計算機」
結婚を決めた二人が、将来像を聞いてみようと「未来計算機」の店を訪れた。該当者のDNA解析、携帯電話を所持して以来の位置情報、買い物の記録、学歴、職歴、趣味、習慣など、ありとあらゆるデータが集積され、全国民のデータとの比較で計算された未来像を知ることができるという。
~ 「おふたりは7年後に離婚します」「えっ?」「違うパートナーを探し、結婚した方が賢明です」 ~
離婚予想があたる確率は96%だと計算機は言う。不安になる青山ヒトミと、「ふざけんな、こんな機械のいうことは当たらない」と怒る山口タケルは、自分たちの意志を貫いて結婚した。
そして7年の月日が流れた。一人息子のワタルを前にして、二人は離婚届に名前を書いていた。
~ 「あのコンピュータが言ったとおりになったな、未来計算機とかいってたやつ」
「あんなへんなもののせいにしないでよ。あなたが悪いんじゃない」
「はいはいはい、なんでも俺が悪いんです。もうどうでもいいよ」
「そうやってすぐ、投げやりになる。だから次の仕事も見つからないのよ!」
「ママ~~、ケンカしないでェ」 … 。 ~
「出してくる!」と離婚届けを手にしたヒトミは、自宅を出ると未来計算機のもとに立ち寄った。
「7年ぶりですね、旧姓青山ヒトミさま。離婚後の将来予想をお聞きになりたいのですか?」
「さすがね、あなたの計算はよくあたるのね」
ヒトミが知りたかったのは、別の人生だった。7年前、別の男と、つまりデータ上の最適の男性と結婚した場合、自分の人生はどう変わっていたのかを見てみたかった。別料金を支払い、映しだされた映像には、今の夫よりもイケメンの男が登場する。恋に落ち、結婚し、幸せそうな家庭を築いている自分の姿。かわいい女の子もいる。でも、何かちがう気がする。
離婚届けを出す予定の役所には向かわず、自宅に帰る。
「ママ~っ!」駆け寄る息子を抱きしめ、「あなた、ごめんなさい」とヒトミは謝っていた。
「どうした?」とたずねる夫に、理想の人と結婚した場合の映像を見てきたと告げた。
「楽しくて、とっても幸せだったのよ、その人との人生は」
「それを言うために、もどってきたのか!」
「でも、いなかった。ワタルがいなかった。あなたもいなかった。あんなの私の人生じゃない!」
実は、タケルも同じだった。未来計算機の店で理想の相手との結婚生活を仮想体験し、何かちがう、もう一度ヒトミとやり直したいと考えていたのだった。
その頃、未来計算機は別の客に、将来予想のデータを示している。
「おふたりの離婚確率は96%です。」「えっ?」驚く二人にこう言う。
~ 「私の計算はあたります。でも多くのお客様が、残りの4%の可能性に懸けるようです。
ホントウに困ったことです」 (業田良家『機械仕掛けの愛4』小学館) ~