東海道新幹線の東京—名古屋間の車窓から見える山々のうち、山に関心のない人にとっては、認定できるのは富士山くらいだろうか。
実は冬の晴天日に二人掛けの窓側の席で車窓から目を凝らして遠方を見ていると、富士に次ぐ日本第二位の高峰である南アルプスの北岳(3193m)、そして今や北アルプスの奥穂高岳と並んで第三位ともいえる間(あい)ノ岳(3190m)※も見えるのだ(富士のように存在感はないのでボーっとしていると見えない)。
※:南アルプスは隆起している最中なので、期間をおいた再計測で標高が上がる。
東京から名古屋への下り列車の場合(進行方向右側)、まずは多摩川を渡る鉄橋から、北岳・間ノ岳・農鳥岳(3026m)の"白峰三山"が多摩川上流方向に見える。
多摩川は東京都と神奈川県の境を画す川だが、東京側の六郷土手上からも見えるので、一応「東京から南アルプスが見える」ということになる(尤もこれを発見したのは、明治時代の登山家木暮理太郎なので、都内の山ヤの間では周知の話)。
新幹線が三島から愛鷹山の裾を通過して新富士に向かう間、富士山(3776m)が裾野から全貌を表す。
世界的に有名な日本一の富士が裾野から山頂まで全部見える東海道中最高の見所で、新幹線の車内でも富士が右車窓からよく見えることを日本語と英語で紹介される。
乗客は一様に富士にカメラを向けるが、私は富士からずっと左側に離れて連なる、富士と同じく雪を頂いた白い峰々を見つめる。
それらは南アルプス南部の聖(ひじり)岳(3013m)・赤石岳(3121m)・荒川岳(3083m)・悪沢岳(3141m)で(遠望の微かな姿なので、意識集中した視野では明確に見えるがカメラのレンズ経由だと確認しづらい。なのでアプリ「スーパー地形」の展望地図を右に示す。上記山名は付け直した)、さらに列車が進むと南アルプスの中央部の塩見岳(3052m)が独立峰のような姿を現わし、富士川の鉄橋を渡る手前で、さらに北にある(多摩川鉄橋でも見えた)白峰三山がつかぬまの姿を現わす(特に北岳は一瞬)。
すなわち、新富士—富士川鉄橋の間に南アルプスの3000m峰が、唯一仙丈岳(3033m)を除いて全て拝めるのだ。
私にとっては、富士よりこちらの眺めの方が嬉しい。
静岡駅付近でも、悪沢・赤石の両雄が望める。
ここから先は、前山に隠れてしまうが、愛知県に入って豊橋駅付近では、北の谷奥に白い三角錐の山が見える。
聖岳だ。
新富士以降の静岡県で見る聖岳は、南面のテーブル状の山陵だが、豊橋からの西面の聖岳はヒマラヤのような天に向かって尖った姿になっている。
濃尾平野に入ると下りでの車窓では、白い壁のような中央アルプス(最高峰が木曽駒ヶ岳2956m)と煙を出している木曽御岳(3067m)が主役となるが、
実は上り(名古屋→東京)での同方面の車窓では、名古屋駅から出て程なく天白川を渡る付近の車窓のやや行く手側に赤石と聖が見えることに最近気づいた※(右図:やはり聖は尖っている)。
※:名古屋—東京間を30年以上も往復しているのに、最近になってやっと気づいたのは、今までボーっとしていたから。
すなわち、名古屋は、木曽御岳と日本アルプスのうち中央アルプスと南アルプスの2つが見える山岳展望の200万都市だった(さらに鈴鹿山脈・伊吹山・白山も見える)。
ついでに、上りで豊橋駅にさしかかる手前で、上述の聖から右に離れた前山の上に白い山頂が見えた。
これは富士の山頂部だ。
愛知県の平野から富士山の頂が見えるのだ。
結局富士は豊橋—東京の間、断続的に見え続ける。