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時の娘 ジャック・フィニ 中村融編 

時間旅行を主要テーマにしたどちらかというとロマンス系、叙情系のSFを集めたアンソロジーである。時間旅行ものSFには、メカニックや思索的なハードタイプと、ほのぼのとした恋愛や友情が描かれたソフト・タイプの2種類があり、欧米では前者、日本では後者に人気が集まるという。確かに日本でのSFベスト10の常連であるハインラインの「夏の扉」、広瀬の「タイムマシン」等は明らかに後者のタイプに属する。そうした日本人の趣向を考慮して刊行されたのが本書だという。そのねらいは当たったようで、本書に高い評価をした書評に既に2つほど出会っている。内容的には、びっくりするような作品はないが、粒ぞろいで面白い。特に「かえりみれば」という作品は、「もう一度人生をやり直せたら」という願いが叶って女子高生に逆戻りした主婦が、学校の勉強に悪戦苦闘したり、ちゃんと旦那さんと結婚できるように、歴史を変えないようにはらはらしたりとするいうドタバタぶりが大変面白かった。
 ここに収められた9つの短編を読んで思ったのだが、こうした「時間ものSF」の醍醐味は、時間を行ったりきたりすることを巧みに使ったカラクリの面白さにある。そのカラクリが巧妙なほど面白いので、どうしてもカラクリは複雑なものになる。そうした複雑なカラクリを理解するうえで、言葉の問題、つまり翻訳で読むということはかなりの障害になる。日本人がソフト・タイプの「時間ものSF」を好むというのは、もちろん日本人の心情的な嗜好という面も大きいだろうが、言葉の壁で海外の複雑なカラクリの作品に十分馴染めないという事情も多少影響しているように思う。(「時の娘」ジャック・フィニ他/中村融編、創元社)
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