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一歩を超える勇気 栗城史多

1週間くらい前にNHKの「7ピークス」という番組を見て感銘を受けた。20歳そこそこの若いアルピニスト「栗城史多」が「エベレスト単独無酸素登頂」を目指すという内容の番組だった。「エベレスト単独無酸素」といえば、あのラインホルト・メスナーが最初に成功したということは知っていた。ある時期、登山家の本や山の本をよく読んでいた時があり、その頃は、世界にある8000m以上の14座の名前を全て言えたくらい好きだったからだ。番組の中で、彼が登頂に成功すれば「世界で2人目」と言っていたので、メスナー以来誰も成功していないことになる。これだけで驚くべき若者ということになるが、彼のすごさはそればかりではない。もう既に彼は世界7大陸の最高峰のうちエベレスト以外の6座の単独無酸素登頂に成功しているというのだ。しかももっと驚くべきなのは、彼は登山中にハンディカメラで登山の模様をリアルタイムでネットに動画配信しているという。カメラを片手に持ったまま登攀することもあれば、ある地点までいってカメラを置いてまた少し下に降り、自分の上る姿を撮るのだという。さらに、彼の場合、スキーを持っていって山の頂上から滑降することもあるという。
 単独・無酸素・カメラ片手の動画配信・スキーでの滑降、ここまで厳しい条件を自らに課すのは何故なのか、これが彼のことを知って最初に沸いてくる疑問だ。その答えは、NHKの番組では伝わってこなかった。幸い彼が書いた本があるというので読んでみたのが本書である。本書を読むと、疑問の答えは単純だった。
 本書を読んで印象的だったのは、まず彼の何事にも「執着しない」というスタンスだ。彼がどうしてそこまで厳しい試練に耐えられるのか、その唯一の答えのようなものがこの「執着しない」という一言にあるようだ。彼自身の自己分析では、次々と偉業を達成していく秘訣は、プラス思考でもマイナス思考でもなく、真ん中の状態を良しとする、両方OKと考える精神状態にあるという。ヒマラヤ登山前には、現地の習慣に則って「プジャ」という祈りの儀式を行なうが、その際も「成功するように」「無事帰れるように」とは祈らず、「登ることができてありがとう」と念じるのだそうだ。登山に向かう自分を肯定する究極の考え方のように思われる。本書を読むと、こうしたエピソード以外にも、彼の身体能力の検査で判った彼の特殊能力のこと、彼の両親のことなど、引き込まれる話の連続で、私も彼の夢実現のために何か出来ないだろうか、本気で考えたいと思った。(「一歩を超える勇気」栗城史多、サンマーク出版)
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