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あの歌がきこえる 重松清

 作者の本を読むようになってまだ日が浅いからだろうが、本屋に行くと、読んだことのない作者の本で、面白そうな題名のものがまだまだたくさんある。作者の本を読破しようという感じで読んではいないので、そうした本がいっこうに減らない。こちらが読むペースよりも、作者が新しい本を出すスピードの方が早いのではないかと思う程だ。
 本書は、人格形成期の少年たちの情景が作者らしい人間味あふれる文章で綴られた短編集だ。それぞれの短編の題名が有名な楽曲と同じ題名になっており、その歌を知っていると何となくその曲のニュアンスとかそれを聞いていた時のシチュエーションが思い起こされて、読んでいる時の味わいが増すという趣向だ。こうしたジーンとくる小説、泣かせる小説は、あまり続けて読んでいるとだんだん感覚が鈍ってきて飽きてくるものだが、作者の作品は何か新しいものが常に用意されているので飽きがこず、ついまた読んでしまう。本書の中では、「父親が友人にだまされる話」が、一番嘘くさいにもかかわらず、一番ジーンと来てしまった。著者の作品は「嘘くさい」ことがあまり話の良し悪しに影響しないようだ。
 手玉に取られているようで何となく悔しい気がするが、しばらくするとまた作者の本を手に取ってしまう。それが作者の力量なんだろうなぁと思う。(「あの歌がきこえる」重松清、新潮文庫)
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