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派遣ちゃん 宮崎誉子

 派遣社員として働く若者を描いた中篇が2つ収められた本書だが、派遣という労働形態に身をおく若者の特殊な話というよりも、現代の若者のありふれた日常を描いた作品という色彩の方が強いように感じた。特に、今の若者の考え方、両親・兄弟姉妹・友人・職場の同僚などとのつながり方が、短い会話と若者言葉の地の文で生々しく描写されているのが素晴らしい。
 本書のような本は、私のような中高年には、なかなかうかがいしれない若者の心象風景を知るための恰好の素材になってくれる。通常、若者が自分の心境を語る文章を読んでいて、やっかいなのは、同じ1つの言葉でも、私と語り手にとってその意味する内容や込められた感情が同じでない可能性があることだ。同じ「うらやましい」でも語り手と私では使い方が微妙に違うのではないか、そう考えてしまうといつまでたっても堂々巡りになる。これは、主観的な内容の「文章を読む」時にはいつも言えることかも知れないが、そうした文章を読むには、作者と自分が言葉に対して同じ基盤を持っているという信頼感がなければならないだろう。但し、逆に両者に全くズレがないと、読んでいて得るものが少ないように思われる。時々引っかかる部分はあるが全体として良く理解できるというその加減が大切なのだろう。本書は、そのバランスが大変よくできていて、突き放された感じもなく、確かに得るものがあったと思わせてくれた。(「派遣ちゃん」宮崎誉子、新潮社)
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